『貧乏な男と悪魔たち』 ハンガリアン・フォークテイルズ

 今回は、<ハンガリアン・フォークテイルズ>から『貧しい男と悪魔たち』をご紹介します。今回も、ハンガリー語で、日本語字幕なしですが、それはちょっとつらいということであれば、下記に書き出した物語だけでも読んでみてください。ちょっと面白いですから。

 

 【物語】
 貧しい暮らしを送っている男がおりました。
 彼には、4人の子どもがいましたが、いつも満足な食事を与えることができません。
 今日も少しずつ食器に取り分けましたが、それにもハエがたかってします。
 男は、大切な食事をハエにやってなるものかと、手ではたきましたが、すると一度で7匹のハエをつぶすことができました。
 「たった1度たたいただけで7匹ものハエが!」
 男は、「ひょっとして自分は勇者の素質があるのではないか」と思い、「1打7倒」の札を下げて、旅に出ることにします。
 その夜、男は井戸のそばで眠ることにしますが、そこに水を汲みにやってきた悪魔が、男の札を見て、「こんな男にそんな力があるのか」と思い、男の力を試してみることにしました。
 目が覚めた男は、悪魔の後について、彼らの住処へ。
 「この水袋に水を汲んで来い!」
 男は、何度も水を汲みに往復するのは大変だと思い、井戸ごと運んでしまおうと、井戸を掘り返し始めます。
 様子を見に来た悪魔は、「井戸なんて持って来られたら、うっかり落ちてしまうかもしれないじゃないか」と男に井戸掘りをやめさせます。
 次に悪魔は、森に男を連れて行き、薪集めをさせようとします。
 ところが、悪魔が男に持たせた木の枝がしなって、男は森を越えて遥か彼方まで飛んでいってしまいました。
 悪魔は、それを見て、「この男はひと飛びでこんなところまで来ることができるのか!」と勝手に驚愕します。
 仲間から男のことを聞いたもう1人の悪魔が、「それじゃあオレと鞭で腕比べをしようじゃないか」と男に話を持ちかけます。
 まずは悪魔が鞭を振ります。すると、鞭はとなりにいた男をたたいてしまいました。
 男はそういうゲームなのかと勝手に思い込み、悪魔が差し出した鞭は使わずに、悪魔から預かった金棒で悪魔を殴ってしまいます。
 「なんていう力なんだ!」
 悪魔は、男の力に驚いて、「これはかなわん」と思い、お金を持たせて家に帰らせることにしました。
 悪魔は男を担いで家に帰りますが、すると、それを見た男の子どもたちは父親が悪魔にいじめられていると思ったのか、ものすごい勢いで塀を突き破って、悪魔に襲いかかろうとします。
 驚いた悪魔は逃げ帰り、そのことを仲間に話しました。
 「ヤツの家に行くと、ヤツの子どもがオレを食おうと襲ってきたんだ」
 悪魔たちは恐ろしくなって、逃げ出してしまいました。
 おしまい。

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 【コメント】
 自分と相手、双方の勝手な思い込みで貧乏暮らしから免れる男の物語。終わってみれば、かなり無茶苦茶な話ですが、次はどうなるのか次はどうなのかとどんどん先を促したくなるような話でもあります。民話の持つ発想の豊かさと、展開の意外性ゆえ、でしょうか。

 ハンガリーの民話って変わってる!と思ったりもしますが、よくよく考えてみると、日本の民話である「きっちょむさん」もちょっとこれに似たタイプの話だったということに気づかされたりもします。案外、こういう話って万国共通なのかもしれません。

 物語の構成としては、「序・破・急」で展開することになりますが、「序」で物語を動かす「動因」を提示し、「破」で3つのエピソードを示し、「急」でストンと落とすといったところでしょうか。「動因」としては、『貧者と利口な馬』では「馬がもう1頭馬を手に入れるから自由にしてくれ」と言ったこと、『少年の見た夢』では「少年の見た夢」、本作では「1打7倒」、ということになります。
 物語としては、貧しい主人公がいて、最後に幸せをつかむ(お金持ちになる)というパターンをたどることが多いようです。なんといっても道徳的な教訓がないのがいいですよね~。

 なお、上の【物語】は、日本語字幕のついたものを劇場鑑賞後に思い出しながら書いたもので、若干思い違いや勘違いがあるかもしれません。一応、念のため。

 ◆作品データ
 2002年/ハンガリー/6分52秒
 ハンガリー台詞あり/日本語字幕なし
 アニメーション

 *この作品は、2007年12月に<ハンガリアン・フォークテイルズ>と題した特集でユーロスペースにて上映されました(Aプログラム)。

 
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 ◆監督について
 マリア・ホルヴァット(マリア・ホルヴァシュ) Horváth Maria
 アニメーション作家、イラストレーター。
 1952年西部のペーチェ生まれ。ペーチェの美術高校で彫金を学んだ後、1971年のカチカメート・アニメーション・スタジオの創立に参加する。「詩とアニメーションの融合」を目指した短編アート・アニメーション作品を発表。平行して民話をモチーフとした<ハンガリアン・フォークテイルズ>のシリーズの監督も務めている。
 <ハンガリアン・フォークテイルズ>は、カチカメート・アニメーション・スタジオが手がけるアニメーションの人気シリーズで、1977年から現在まで続いている。監督には、マリア・ホルバットのほか、Jankovics MarcellやNagy Lajosがいる。
 マリア・ホルバットには、2人の娘と1人の孫がいる。

 2003年に彼女が一連の<ハンガリアン・フォークテイルズ>を出品した飛騨国際メルヘンアニメ映像祭(http://www.hida-anime.jp/top.html)における、審査員・片渕須直(アニメーション監督)の講評は以下の通り。
 「マリア・ホロバット氏は今回一連の作品群を連ねて応募してきたが、その中の代表的な一作を取り上げて審査委員団から特別賞を進呈することとなった。
 アニメーションに「メルヘン」を冠しての作品募集は実は難しい。定義に幅があること以上に、アニメーションの若いつくり手たちはそこに多くの自負心を見つけることに熱中し、結果として例えばメルヘンの意味を逆手に取った「怪談」として仕上げるとか、民話的な題材に仮託して卑近な人生の機微を物語ろうなどとしがちになってしまう。
 ホロバット氏の今回の応募作は、すべて民話的なモチーフによって構成されたものだったが、それらはすべて屈託のない素朴な喜びを表現するためのものだった。必ず最後には王子さまとお姫さまが、男の子と女の子が、生き別れになっていた双子の兄弟が抱きいだきあい、「めでたし、めでたし」となる筋立てこそ、実は『メルヘンアニメ映像祭』と名打ったコンテストが、内心もっとも望んでいたものだったのではなかったか、という気にすらさせられてしまう。  この受賞作はひとつのレファランスとして今後のこのコンテストへの応募者たちに示されるだけの価値がある。」

 ◆フィルモグラフィー
 ・1982年 『夜の奇跡』“Az éjszaka csodál(Miracles of the Night)”
 オタワ国際アニメーションフェスティバル 第1回監督部門2位
 ・1983年 『ドアNo.8』“Atjó 8”
 1984年カンヌ国際映画祭短編部門コンペティション出品、クラクフ映画祭スペシャルメンション
 ・1983年 『ドアNo.9』“Atjó 9”
 ・1985年 “Filmszemle szignál”(カチカメート映画祭ロゴ1)
 ・1987年 『ドアNo.2』“Atjó 2”
 ・1987年 『ドアNo.3』“Atjó 3”
 ・1988年 “Filmszemle szignál”(カチカメート映画祭ロゴ2)
 ・1992年 『グリーンツリーストリート66番地』“Zõldfa u 66”
 1992年 Espinhoフェスティバル カテゴリー第1位、1993年カチカメート映画祭審査員特別賞受賞
 ・1993年 “Filmszemle szignál”(カチカメート映画祭ロゴ3)
 ・1996年 “Filmszemle szignál”(カチカメート映画祭ロゴ4)
 ・1997年 “Kis emberek dalai(Small Folks’ Songs)”
 1998年 ハンガリー レティナ国際映画祭(RETINA98’) 最優秀アニメーション賞受賞
 ・1997年 “Széles ember meséi”
 ・1998年 “Kecskemét Katona József Theater is 100 years old”
 ・1999年 “Filmszemle szignál”(カチカメート映画祭ロゴ5)
 ・2000年 『静寂(ある日の風景画)』“Allokepek “Rajzok egy élet tájairól”(Stills(Drawing about a Landscape of a life))”
 2000年(ハンガリー)国際フィルム&ビデオフェスティバル Sellye市賞受賞
 ・2004年 “Mesél a kõ(The Telling Stone)”
 2004年 CICDAF 審査員特別賞受賞

 <ハンガリアン・フォークテイルズ>“Magyar Népmesék Ⅳ sorozat”
 ・1980年“Egyszemű, kétszemű, háromszemű”(1つ目、2つ目、3つ目)(Jankovics Marcellと共同監督)
 ・2002年『魔法の南京錠』“A bűbájos lakat”
 ・2002年『妬みの報い』“A kerek kő”(丸い石)
 ・2002年『少年の見た夢』“A kékfestő inas”
 ・2002年『天使の羊』“Angyalbárányok”
 ・2002年『貧者と利口な馬』“A szegény ember meg a lova”
 ・2002年『金の毛の子羊』“Az aranyszőrű bárány”(Nagy Lajosと共同監督)
 ・2002年『ツェルセルーシュカ』“Cerceruska”
 ・2002年『貧乏な男と悪魔たち』“Hetet egy csapásra”(1打で7倒)
 ・2004年? 『双子の王子の冒険』“A kővé vált királyfi ( The Prince Who Turned into Stone)”
 2004年 飛騨国際メルヘンアニメ映像祭 第2回メルヘンアニメ・コンテスト審査員特別賞受賞
 ・2005年“Gyöngyvirág Palkó”(真珠の花 Palkó)

 *参考サイト
 ・アニドウのHP:http://www.anido.com/html-j/yurospace.html
 ・カチカメート・フィルム Kecskemétfilm:http://www.kecskemetfilm.hu/kfilm.html
 ・Pannonia film studio  History 50 Years in the Forefront of Animation:http://www.mediaguide.hu/pannoniafilm/story.html
 ・ハンガリアン・フォークテイルズに関するWikipedia(ハンガリー語):http://hu.wikipedia.org/wiki/Magyar_n%C3%A9pmes%C3%A9k_(sorozat)
 ・Directory of Hungarian Links:http://www.wideweb.hu/hungary/business-investments/entertainment-film-industry
 ・ハンガリー語翻訳サイト InterTran:http://www.tranexp.com:2000/Translate/result.shtml

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