小さな物語、小さな奇跡 『ミスター・パスカル』

 クリスマスを目前として、こんなお話はいかがでしょうか。



 【物語】
 ミスター・パスカルが、教会の前のベンチに座っている。
 彼は、長年靴屋を営んでいたが、愛する妻に先立たれて、すっかり途方にくれてしまったのだ。
 長い間ぼーっとベンチに腰掛けていたが、ふと自分が座っているとなりの壁を見上げて、そこにキリストが磔にされているのに気づく。
 彼は、家に帰ると、工具を持って戻り、磔にされたキリストを壁から下ろす。そして、キリストの手足の傷を手当てし、茨の冠もはずして燃やす。
 2人で暖をとりながら、酒を飲み交わしていると、ひとりでに人々が集まってきて、歌や踊りが始まり、ささやかなパーティーになる。キリストも小さな奇跡を起こしたり……。
 知らぬ間に眠ってしまったパスカルにキリストが毛布をかけてやる。
 やがて朝。教会の職員がやってきて、ベンチで眠るパスカルのまわりをきれいに掃除し、そのとなりに木の鉢植えを置く。すると鉢植えは一気に花満開となる。
 教会の扉から2人の天使が飛び立っていく。

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 【コメント】
 この作品で描かれるのは、心やさしきミスター・パスカルが起こした小さな奇跡というところでしょうか。
 奥さんと過ごした幸せな日々、彼女を失ってからの失意の日々、そして束の間に催された宴の楽しさ、……。一切台詞がないのに、そうしたものがこの7分弱の中にムリなく表現されていて、素晴らしいですね。
 失意の深さを示すために対照的に描かれる、奥さんとの幸福な思い出、充実した生活は、かなり抽象的な描き方がされているのですが、伝えようとしていることは十分伝わってきて、涙すら出そうになります。

 気になるのは、最後に出てくる2人組の天使ですが、これはやはりミスター・パスカルが天に召されたということを意味するのでしょうか。

 “宴”の部分は、息を引き取る前に見たミスター・パスカルの今際の夢である可能性もあります。『マッチ売りの少女』や『フランダースの犬』のように。

 パスカルが靴屋なのも、今はもう失われつつある職人(ちょっとした修理を行なえば、一生使える靴を生み出すことができる、古きよき伝統的職人)として、パスカルの生き方を象徴しているようです。

 ◆作品データ
 1979年/英/6分48秒
 台詞なし/字幕なし
 アニメーション

 *この作品は、1979年 アヌシー国際アニメーションフェスティバルで短編部門グランプリを受賞しています。

 『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと)で463位。

 *この作品は、DVD『世界のベスト・アニメーション Vol.1 雪深い山国』に収録されています。

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 ◆監督について
 アリソン・デ・ヴェア
 イギリスのインディペンデント系のアニメーター、デザイナー。
 1927年 パキスタン ペシャワール生まれ。2001年 イギリスのコンウォールで没。

 ロイヤル・アカデミーでアートを学び、アニメーション業界に入る。
 50年代にイギリスのアニメーション・スタジオHalas and Batchelorで5年間働き、デザイナーとして認められるようになる。
 その後、フリーランスで、CMや特殊効果等を手がけるようになり、『イエロー・サブマリン』(1968)のジョージ・ダニング監督に見出されて、『イエロー・サブマリン』の背景の監修(background superviser)を担当する。
 デザインの仕事では、ドイツ人デザイナーHeinz Edelmanと組んだ仕事が有名。
 70年代~80年代は、Wyatt Cattaneo ProductionsのCMを手がけ、そこで、2本の短編“Café Bar”(1974)、“Mr. Pascal”(1979)を制作。この2作品は国際的にも高い評価を受ける。
 その後、“The Black Dog”(1987)、“Psyche and Eros”(1994)を発表。

 ・1974年 “Café Bar”
 ・1979年 “Mr. Pascal”
 ・1987年 “The Black Dog”
 ・1994年 “Psyche and Eros”

 *参考サイト
 ・Answers.com:http://www.answers.com/topic/alison-de-vere?cat=entertainment

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