『水車小屋でラスト・ワルツを』 ドゥシャン・ヴコティッチ

 『水車小屋でラスト・ワルツを』“Last Waltz in Old Mill”は、クロアチア・アニメーション界の巨匠ドゥシャン・ヴコティッチ(『代用品(エアザッツ)』)の作品として知られているものとしては、おそらく最後のもので、ひょっとしたらこれが遺作になるのかもしれません。



 物語は、水車小屋でトウモロコシの粒と麦の粒がそれぞれ王子と姫の姿に変身して一時ワルツを踊って楽しむが、まず“麦の姫”が粉引きの中に落ち、続いて、それをはかなんだのか、トウモロコシ王子の方も粉引きの中に落ちていく、という童話風の物語です。

 ドゥシャン・ヴコティッチの作品は、『代用品』とこの作品以外観ることができないので(DVD『ザグレブ・フィルム作品集』でいくつかの作品を観ることはできます)、この間にどんな作品を作っていたのかはわからないのですが、ちょっと悲しい物語であるにはしても、『代用品』に比べると、ずいぶんかわいい作品を作ったものだと思わされます。

 この作品が作られた時代背景を見ると、(旧)ユーゴスラビアでは、ちょうどクロアチア紛争からボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が起こっていた時期で(その後さらにコソボ紛争が起こる)、国内的には血で血を洗うような戦いの真っ只中にあるわけで、ヴコティッチは、そうした現実の中で、あえて古きよき牧歌的な生活をメルヘンチックに描いて、自分なりのやりかたで平和を訴えてみた、ということなのかもしれません。本作を、「異なる民族の恋する男女が、民族紛争に巻き込まれて命を散らす物語」の暗喩とまで見るとしたら、ちょっと考えすぎかもしれませんが。

画像

 ◆作品データ
 1995年/クロアチア/6分25秒
 字幕なし/台詞なし
 実写+アニメーション

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 ◆監督について
 ドゥシャン・ヴコティッチ(デュシャン・ブコチッチ) Dusan Vukotic
 1927年 モンテネグロのBileca生まれ(現ボスニア・ヘルツェゴビナ)、1998年 クロアチアのトラピンスケ・トプリチェにて没

 モンテネグロ&クロアチアのアニメーション界の巨匠で、1950年代から50年近くの長きにわたって数々の短編アニメーションを発表。
 米国アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネートを2度受け、『代用品』(1961)では、米国以外に初めてのアカデミー賞短編アニメーション賞をもたらした。

 ドゥシャン・ヴコティッチは、1953年に設立されたザグレブ・フィルム創立に関わった1人で、40年以上にわたって同スタジオを支えた。モンテネグロ科学芸術アカデミー(Montenegrin Academy of Sciences and Arts)の1人。
 1994年にザグレブ国際アニメーションフェスティバルから生涯功労賞を贈られた。

 2007年のオタワ国際アニメーションフェスティバルでは、ドゥシャン・ヴコティッチのレトロスペクティヴが開催されました。

 同映画祭では、ドゥシャン・ヴコティッチのことを、以下のように紹介しています。

 Standing in marked opposition to globally dominant Disney realism, the films of Dušan Vukotić were hugely influential. Beginning his animation career in Zagreb in the early 50’s, a lack of ease with Disney style drawing led him to stylistic and thematic innovations that helped spawn a movement. Using satire and parody in conjunction with denaturalized spaces and strange visuals approaching abstraction, his films moved beyond pure entertainment to explore the full potential of animation as an educational tool

 ざっと訳すと、「ドゥシャン・ヴコティッチは、ディズニー・アニメを模倣することなしに、スタイルと主題のある作品づくりをして、アニメーション界にムーブメントを巻き起こした。彼のアニメーションは、皮肉とパロディーを用い、非日常的な空間と抽象にも近い独特のビジュアルを結びつけることで、純粋な娯楽にとどまらず、教育的なツールにまでアニメーションを引き上げた」ということになるでしょうか。

 ◆フィルモグラフィー

 ・1951年 “Kako se rodio Kico(How Kico Was Born)”
 ・1952年 “Zacarani dvorac u Dudincima(The Haunted Castle at Dudinic)”
 ・1954年 “Varteks: velika trka”
 ・1954年 “Vajda: kroz cijeli svijet”
 ・1955年 “Parada”
 ・1955年 “Kod zubara”
 ・1955年 “Posjet iz svemira (A Visit from Space)”
 ・1955年 “Kucno vatrogastvo”
 ・1955年 “Na terasi”
 ・1955年 “Djecja radost”
 ・1955年 “Dimnjacar”
 ・1956年 “Nestasni robot(The Playful Robot)”
 ・1956年 “Zdravstvena stanica”
 ・1957年 “Carobni zvuci”
 ・1957年 “Cowboy Jimmy”
 ・1957年 “Ali Baba”
 ・1958年 “Veliki strah(The Great Fear/ Who's Scared)”
 ・1958年 “Osvetnik(The Avenger/Revenger)”
 ・1958年 『銀行ギャング(マシンガンのためのコンサート)』“Koncert za masinsku pusku(Concerto for Sub-machine Gun)”
 ・1959年 “Rep je ulaznica”(My Tail is My Ticket)
 ・1959年 『ピッコロ』“Piccolo”
 1961年 BAFTA 最優秀アニメーション賞ノミネート
 ・1959年 『月世界の牛』“Krava na mjesecu(Moon Monster)”
 ・1960年 “1001 crtez”
 ・1961年 『代用品(エアザッツ)』“Surogat(Ersatz/ The Substitute)”
 1962年 米国アカデミー賞最優秀アニメーション賞受賞
 ・1961年 “Prvi maj 1961 u Zagrebu”
 ・1962年 “Igra (The Game)”
 1964年 米国アカデミー賞最優秀アニメーション賞ノミネート
 ・1968年 “Sedmi continent(The Seventh Continent)”
 ・1968年 “Opera Cordis”
 ・1968年 “Mrlja na savjesti(Stain on His Conscience)”
 ・1969年 “Ars Gratia Artis”
 ・1969年 “Romeo”
 ・1969年 “Na krilima ljubavi”
 ・1969年 “Zasjeda”
 ・1969年 “Slike sa izlozbe”
 ・1969年 “Romansa”
 ・1969年 “Magicni ekran”
 ・1969年 “L.M. Beat”
 ・1969年 “Evin dodir”
 ・1969年 “Duel”
 ・1969年 “1:10”
 ・1971年 “Zastava 101”
 ・1972年 “Rani srednji vijek”
 ・1973年 “Man: The Polluter”
 ・1973年 “Dal capo al fine”
 ・1974年 “Toplana”
 ・1974年 “Gubecziana”
 ・1975年 “Skakavac(The Grasshopper)”
 クラクフ映画祭国際批評家連盟賞受賞
 ・1977年 “Akcija stadion(Operation Stadium)” [長編]
 ・1979年 “Karlovac”[中編]
 ・1981年 “Gosti iz galaksije(Visitors from the Galaxy)”[長編]
 1984年ファンタスポルト映画祭ファンタジー部門脚本賞受賞
 ・1983年 “Gavrilovic II”
 ・1993年 “Dobro dosli na planet Zemlju”
 ・1995年 “Posljednji Valcer U Starom Mlinu(Last Waltz in Old Mill)” 『水車小屋でラスト・ワルツを』

 ※作品の制作年代等については資料によりデータが異なる場合があります。
 詳細のわからない作品ばかりですが、おそらく特記した作品以外は短編です。

 *参考サイト
 ・40 years of Animation made by Zagreb Film:http://www.fh-wuerzburg.de/petzke/zagreb.html#Surogat
 ・Rembrantfilms:http://www.rembrandtfilms.com/zagreb.htm

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