ユーゴスラビアの古典的アニメーション 『代用品(エアザッツ)』

 米国アカデミー賞に短編アニメーション賞が創設されてから、初めて国外から受賞作品が出たのが、1962年で、作品名は『代用品』。監督は、ドゥシャン・ヴコティッチというユーゴスラビア(当時)の監督です。
 今観ると、へえ~、これがか~って感じもしますが、ちょっとした発想の面白さがウケて、受賞となったのでしょうか。ドゥシャン・ヴコティッチは、この後、40年あまりも短編映画の巨匠として活動を続け、ザグレブ・フィルムで数多くの短編映画を発表し続けることになります。



 【物語】
 (タイトルバックは、カラフルな風船が現れては、はじけるイメージ)
 海辺にやってきた男が、車から荷物をビーチに放り投げる。
 放り投げられたのは、色とりどりの破片だが、それらはふくらませると、ビーチ・パラソルやビーチ・マットになる。一方で、乗ってきた車は空気を抜いて木にひっかけておく。
 針に魚をつけて、釣りをし、引き上げた魚を調理して、食べる。
 お腹がふくらんだ後は、女性を用意する。
 ふくらませることに失敗した女性はあっさり捨て、また別の女性をふくらませる。
 お気に入りの女性がふくらむが、その女性は彼に冷たい。強引に迫る彼に対して、彼女は平手打ちをくわせて、海に飛び込んでいってしまう。
 彼は、サメをふくらませて、海に放つ。
 案の定、女性は逃げ回り、彼は釣竿で彼女を助けてあげる。
 そして自分が強いところをみせつけるために、海に飛び込む。
 彼は、サメをつかまえてもどるが、サメは「自分は風船だったんだよ」と正体を明かしてから果てる。
 これには、「なあ~んだ」と彼女もガッカリ。
 彼は、彼女の機嫌を取ろうとするが、彼女は海にいる水上スキーの男に目を奪われ、さっさとそちらに行ってしまう。
 彼は、2人がいちゃいちゃしている島に行って、彼女の“栓”を抜く。
 彼女がしぼんでしまったことにショックをうけた水上スキーの男は、悲嘆して自ら自分の“栓”を抜く。
 それを陰から見ていた彼は、彼女の抜け殻だけを持って、ビーチに戻る。
 日が暮れたので、車をふくらませ、“ 荷物”の空気を抜いて車に乗せる。
 海辺自体も空気を抜き、代わりに“帰路”をふくらませる。
 しかし、帰り道の途中で道に釘が出ていたため、車が破裂して彼は宙に放り出される。
 地面にたたきつけられた彼は、衝撃で“栓”が抜けてしぼんでしまう。

 【コメント】
 この作品を観て思ったのは、なんかこれに似たようなものを観たことあるなあということで、なんとか記憶の糸をたどってみたら、行き着いたところは、トリスウィスキーのキャラクターとなっていた「トリスおじさん」でした。この作品のキャラクター方が、トリスおじさんよりぐっと簡略化されているし、トリスおじさんの方がずっと紳士的なのですが、絵のセンスやモダンさに相通じるところがあるような気がしたんですね。

 それで、トリスおじさんについて調べてみたら、こんなサイト(http://www.suntory.co.jp/whisky/torys/profile.html)があって、トリスおじさんの誕生が1958年で、イラストは柳原良平(http://www.tokaikisen.co.jp/yanagihaland/index.html)だということがわかりました。

 現実的に考えて、どちらかがどちらかをマネしたということはありえないので、可能性としては、双方が模倣し、参考にするような世界的に知られたイラストもしくはイラストレーターがいたということでしょうか。まあ、少なくとも、国や言葉は違っても、同じ時代の同じ空気を吸っていたであろうということ(その結果、このような作品が生まれたということ)は言えそうです。

 オープニングのBGMも、当時のモダンさを象徴するような音楽で、なんだか「シャボン玉ホリデー」か何かでこういうものを聴いたことがあるなあと思ったのですが、調べてみると「シャボン玉ホリデー」がスタートしたのもこの作品が作られたのと同年の1961年なのでした。

 第二次世界大戦で、ともに戦禍にみまわれたユーゴスラビアと日本で、その15年後のほぼ同時期にこのような作品が生まれたというのはちょっと面白いですよね。どちらも、ようやく生活が落ち着いてきて、小市民的なモダンライフを謳歌してるわけですし……。

 ※トリスおじさんのCMはGoogle Videoを探せば見ることができます。

 ドゥシャン・ヴコティッチについては、アメリカで作品集がDVDとしてまとまっていたりますが、日本ではDVD『ザグレブ・フィルム作品集』に収められている作品くらいしか触れることができず、プロフィール等の情報も残念ながら下記にまとめたようなことぐらいしかわかっていません。

画像

 ◆作品データ
 1961年/ユーゴスラビア/9分7秒
 台詞なし/字幕なし
 アニメーション

 *1962年 米国アカデミー賞最優秀アニメーション賞受賞

 *この作品は、<ラピュタ アニメーションフェスティバル2006>の「ザグレブフィルムレトロスペクティヴ」で上映されました。

 *この作品は、DVD『ザグレブ・フィルム作品集』に収録されています。

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 ◆監督について
 ドゥシャン・ヴコティッチ(デュシャン・ブコチッチ) Dusan Vukotic
 1927年 モンテネグロのBileca生まれ(現ボスニア・ヘルツェゴビナ)、1998年 クロアチアのトラピンスケ・トプリチェにて没

 モンテネグロ&クロアチアのアニメーション界の巨匠で、1950年代から50年近くの長きにわたって数々の短編アニメーションを発表。
 米国アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネートを2度受け、『代用品』(1961)では、米国以外に初めてのアカデミー賞短編アニメーション賞をもたらした。

 ドゥシャン・ヴコティッチは、1953年に設立されたザグレブ・フィルム創立に関わった1人で、40年以上にわたって同スタジオを支えた。モンテネグロ科学芸術アカデミー(Montenegrin Academy of Sciences and Arts)の1人。
 1994年にザグレブ国際アニメーションフェスティバルから生涯功労賞を贈られた。

 2007年のオタワ国際アニメーションフェスティバルでは、ドゥシャン・ヴコティッチのレトロスペクティヴが開催されました。

 同映画祭では、ドゥシャン・ヴコティッチのことを、以下のように紹介しています。

 Standing in marked opposition to globally dominant Disney realism, the films of Dušan Vukotić were hugely influential. Beginning his animation career in Zagreb in the early 50’s, a lack of ease with Disney style drawing led him to stylistic and thematic innovations that helped spawn a movement. Using satire and parody in conjunction with denaturalized spaces and strange visuals approaching abstraction, his films moved beyond pure entertainment to explore the full potential of animation as an educational tool

 ざっと訳すと、「ドゥシャン・ヴコティッチは、ディズニー・アニメを模倣することなしに、スタイルと主題のある作品づくりをして、アニメーション界にムーブメントを巻き起こした。彼のアニメーションは、皮肉とパロディーを用い、非日常的な空間と抽象にも近い独特のビジュアルを結びつけることで、純粋な娯楽にとどまらず、教育的なツールにまでアニメーションを引き上げた」ということになるでしょうか。

 ◆フィルモグラフィー

 ・1951年 “Kako se rodio Kico(How Kico Was Born)”
 ・1952年 “Zacarani dvorac u Dudincima(The Haunted Castle at Dudinic)”
 ・1954年 “Varteks: velika trka”
 ・1954年 “Vajda: kroz cijeli svijet”
 ・1955年 “Parada”
 ・1955年 “Kod zubara”
 ・1955年 “Posjet iz svemira (A Visit from Space)”
 ・1955年 “Kucno vatrogastvo”
 ・1955年 “Na terasi”
 ・1955年 “Djecja radost”
 ・1955年 “Dimnjacar”
 ・1956年 “Nestasni robot(The Playful Robot)”
 ・1956年 “Zdravstvena stanica”
 ・1957年 “Carobni zvuci”
 ・1957年 “Cowboy Jimmy”
 ・1957年 “Ali Baba”
 ・1958年 “Veliki strah(The Great Fear/ Who's Scared)”
 ・1958年 “Osvetnik(The Avenger/Revenger)”
 ・1958年 『銀行ギャング(マシンガンのためのコンサート)』“Koncert za masinsku pusku(Concerto for Sub-machine Gun)”
 ・1959年 “Rep je ulaznica”(My Tail is My Ticket)
 ・1959年 『ピッコロ』“Piccolo”
 1961年 BAFTA 最優秀アニメーション賞ノミネート
 ・1959年 『月世界の牛』“Krava na mjesecu(Moon Monster)”
 ・1960年 “1001 crtez”
 ・1961年 『代用品(エアザッツ)』“Surogat(Ersatz/ The Substitute)”
 1962年 米国アカデミー賞最優秀アニメーション賞受賞
 ・1961年 “Prvi maj 1961 u Zagrebu”
 ・1962年 “Igra (The Game)”
 1964年 米国アカデミー賞最優秀アニメーション賞ノミネート
 ・1968年 “Sedmi continent(The Seventh Continent)”
 ・1968年 “Opera Cordis”
 ・1968年 “Mrlja na savjesti(Stain on His Conscience)”
 ・1969年 “Ars Gratia Artis”
 ・1969年 “Romeo”
 ・1969年 “Na krilima ljubavi”
 ・1969年 “Zasjeda”
 ・1969年 “Slike sa izlozbe”
 ・1969年 “Romansa”
 ・1969年 “Magicni ekran”
 ・1969年 “L.M. Beat”
 ・1969年 “Evin dodir”
 ・1969年 “Duel”
 ・1969年 “1:10”
 ・1971年 “Zastava 101”
 ・1972年 “Rani srednji vijek”
 ・1973年 “Man: The Polluter”
 ・1973年 “Dal capo al fine”
 ・1974年 “Toplana”
 ・1974年 “Gubecziana”
 ・1975年 “Skakavac(The Grasshopper)”
 クラクフ映画祭国際批評家連盟賞受賞
 ・1977年 “Akcija stadion(Operation Stadium)” [長編]
 ・1979年 “Karlovac”[中編]
 ・1981年 “Gosti iz galaksije(Visitors from the Galaxy)”[長編]
 1984年ファンタスポルト映画祭ファンタジー部門脚本賞受賞
 ・1983年 “Gavrilovic II”
 ・1993年 “Dobro dosli na planet Zemlju”
 ・1995年 “Posljednji Valcer U Starom Mlinu(Last Waltz in Old Mill)” 『水車小屋でラスト・ワルツを』

 ※作品の制作年代等については資料によりデータが異なる場合があります。
 詳細のわからない作品ばかりですが、おそらく特記した作品以外は短編です。

 *参考サイト
 ・40 years of Animation made by Zagreb Film:http://www.fh-wuerzburg.de/petzke/zagreb.html#Surogat
 ・Rembrantfilms:http://www.rembrandtfilms.com/zagreb.htm

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