ブコウスキーのアニメーション 『美しい目をした男』

 チャールズ・ブコウスキーの“The Man With The Beautiful Eyes”(美しい目をした男)。
 おそらくこの作品のことは、日本ではほとんど知られていないとは思うんですが、2000年のBAFTA award 最優秀アニメーションほか、多数の賞を受賞している作品です。



 【物語】
 それは、まだ私が子どもだった頃の話だ。
 近所に変わった家があって、私はよく友だちと遊びに行っていた。
 その家は、いつも日よけが下ろされていて、人の気配がなかった。
 庭には竹がうっそうと繁っていて、ターザンごっこをした。池には大きな金魚もいた。
 親たちは、私たちに、そこへは行くなと言ったが、私たちはもちろん行った。
 ある日、その家の中から声がして、男が出てきた。
 その男は、髪がぼさぼさで髭も生え、裸足で、手にはウィスキーのボトルを持ち、口にはタバコをくわえていた。30歳くらいだろうか。だが、とてもきれいな目をしていた。
 「小さな紳士たちよ、楽しくやってるかい?」
 そういうと男はまた家の中に戻っていった。
 家に帰って、私たちは彼について考えた。
 親たちは、彼みたいに、生まれたまんまで、きれいな目をした人とぼくたちが逢うのが嫌なんだ。彼みたいな人が嫌いだし、ぼくたちを彼から遠ざけておきたいんだ、と。
 そう考えながらも、私たちはその家に行って遊ぶのを止めなかった。もう2度と彼が出てくることはなかったけれど。
 ある日の放課後、私たちは、あの家が燃えてすっかりなくなっているのを知った。
 私たちは考えた。
 大人たちがやったんだ。なぜなら、大人はあんなに美しいものが存在することが許せないから。あんなにきれいな目をした人間がいることが恐いから。
 それよりももっと私たちが恐れたのは、これからもずっとこんなことが起こり続けるのだろうかということ。強くて美しいものが存在することが誰も許せないのだろうかということ。そして、このままみんな死ななければならないのだろうかということ。

 ※ この映画のモノローグは、ブコウスキーのオリジナルそのままで、この記事の一番最後に書き出してあります。

画像

 【解説】
 この映画の監督ジョナサン・ホジソン(Jonathan Hodgson)とデザイナーのジョニー・ハナ(Jonny Hanah)は、ブコウスキーのファンで、この詩を映像化しようと決めた時、ただ物語を伝えるのではなく、この詩にぴったり合うように、1篇の映像詩のように表現できないかと考えたそうです。
 紙に描いた絵とセル・アニメを使い、カメラ・ワークによって、わざとちらつきと揺れが生じるように工夫しています。

 絵は、ヘタウマ系というのでしょうか、あえて、“語り手”が少年時代にノートの片隅に描いたと思われるような落書きめいたタッチで表現されています。

 オリジナルが詩であるということを思い出させるように、“詩”の中で用いられるインパクトのある言葉が文字として映像で表現されています。

 映画の最後は、タイプライターから、それが置かれている“CHINASKI’S”という店の正面をとらえます。チナスキー(CHINASKI)とは、よく知られているように、ブコウスキーが自分になぞらえて書いた創作中の人物名で、この物語が、チナスキーもしくはブコウスキーがタイプライターで紡ぎだした物語であることを思い出させてくれます。
 これは、おそらく、冒頭の塀に貼られた張り紙があまり人の注目を浴びないというのと対応していて、人知れずひっそり書かれた物語だ(しかし、自分たちは見つけることができたし、オマージュを捧げている)ということを示しているようにも思われます。

 物語は、自分たちがコントロールできないものへの恐怖心から、合理的・理性的に理解できないもの、危害を及ぼす可能性のあるものを、なんでもかんでもつみとってしまおうとする風潮と、それによって一見安全になるかもしれないけれど、弱体化してしまうことになる社会への危惧感を表明しています。
 これを、単純に言ってしまうと、「社会の不寛容」への恐れであり、ひょっとすると、それを打ち破る可能性のあるのは子どもだけ、と言っているのかもしれません。

 “語り手”は、Peter Blegvadという人で、『マーサのしあわせレシピ』や『マンマ・ミーア』などに楽曲を提供しているミュージシャン&シンガーソング・ライターで、イギリスの新聞“The Independent”紙に“Liviathan”(http://www.leviathan.co.uk/menu.html)というマンガを連載していた漫画家でもあります。
 ブコウスキー自身も自分の作品を朗読したりしていますが、Peter Blegvadのモノローグもなかなか味わいがあっていいですよね。

 ◆作品データ
 1999年/英/5分39秒
 英語台詞あり/イタリア語字幕あり、日本語字幕なし
 セル・アニメ

 *2000年アミアン国際映画祭最優秀短編賞受賞、BAFTA 最優秀アニメーション賞受賞、ドレスデン映画祭最優秀アニメーション賞受賞、2001年トロント国際短編映画祭(Toronto Worldwide Short Film Festival) 最優秀アニメーション賞受賞

 *参考サイト
 ・BFI org.uk:http://www.bfi.org.uk/education/teaching/movingshorts/films/film1.html
 ・Bukowski tribute:http://wheelofdharma.tripod.com/poets/id4.html

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 ◆監督について

 ジョナサン・ホジソン(Jonathan Hodgson)
 1960年、イギリス オックスフォード生まれ。
 1981年 リバプール工科大学(Liverpool Polytechnic)卒業
 1983年 王立美術大学(the Royal College of Art)卒業
 ここでスーザン・ヤング(Susan Young)と出会い、プロダクションPractical Picturesを設立(このプロダクションは3年続いた)。
 ホジソンは、国連の武装解除に関するプロモーションに加わったり、数々のCMを手がけた。
 1996年には、プロデューサー ジョナサン・ベアストウ(Jonathan Bairstow)と組んでプロダクションSherbetを立ち上げ、Saab、Bell Atlantic、BBCなどのCMを手がけている。

 ・1981年 “Dogs”
 ・1983年 “Night Club”
 1983年 ミュンヘン国際映画学校映画祭(Munich International Festival of Film Schools)最優秀アニメーション賞受賞、1984年 ロンドン批評家サークル賞Mari Kuttna Prize for Animation受賞
 ・1997年 “Feeling My Way”
 ・1999年 “The Man With The Beautiful Eyes”
 2000年アミアン国際映画祭最優秀短編賞受賞、BAFTA 最優秀アニメーション賞受賞、ドレスデン映画祭最優秀アニメーション賞受賞、2001年トロント国際短編映画祭(Toronto Worldwide Short Film Festival) 最優秀アニメーション賞受賞
 ・2001年 “Camouflage”
 2001年 ライプチヒDOK映画祭 名誉賞受賞、ワールド・アニメーション・セレブレーションUNICEF Award受賞、2002年BAFTA 最優秀アニメーション賞ノミネート、ドレスデン映画祭最優秀アニメーション賞ノミネート、オーバーハウゼン国際短編映画祭Prize of the Ministry for Development, Culture and Sports受賞

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The Man With The Beautiful Eyes

When we were kids there was a strange house all the shades were always drawn and we never heard voices in there and the yard was full of bamboo and we liked to play in the bamboo pretend we were Tarzan ( although there was no Jane)
and there was a fish pond a large one full of the fattest goldfish you ever saw and they were tame.
They came to the surface of the water and took pieces of bread from our hands.

Our parents had told us: " never go near that house"
so, of course, we went.

We wondered if anybody lived there.
Weeks went by and we never saw anybody.

Then one day we heard a voice from the house
" YOU GOD DAMNED WHORE!"
It was a mans voice. Then the screen door of the house was flung open and the man walked out.
He was holding a fifth of whiskey in his right hand.
He was about 30.
He had a cigar in his mouth, needed a shave.
His hair was wild and uncombed and he was barefoot.
In undershirt and pants but his eyes were bright they BLAZED with brightness and he said, "hey, little gentleman, having a good time, I hope?"
Then he gave a little laugh and walked back into the house.

We left, went back to my parents yard and thought about it.
Our parents, we decided had wanted us to stay away from there because they never wanted us to see a man like that, a strong natural man with beautiful eyes.
Our parents were ashamed that they were not like that man, thats why they wanted us to stay away.

But we went back to that house and the bamboo and the tame goldfish.
We went back many times for many weeks but we never saw or heard the man again.
The shades were down as always and it was quiet.

Then one day as we came back from school we saw the house.
It had burned down,there was nothing left,just a smoldering twisted black foundation
and we went to the fish pond and there was no water in it and the fat orange goldfish were dead there, drying out.

We went back to my parents yard and talked about it
and decided that our parents had burned their house down, had killed them had killed the goldfish because it was all too beautiful, even the bamboo forest had burned.
They had been afraid of the man with the beautiful eyes.
And we were afraid than that all throughout our lives things like that would happen,
that nobody wanted anybody to be strong and beautiful like that, that others would never allow it, and that many people would have to die.

 *当ブログ関連記事
 ・チャールズ・ブコウスキー “The Aliens”

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