女と男の距離 『カフェ・バー』 アリソン・デ・ヴェア

 1本の映画との関わりが1人の人生を変えるということはあるもので、映画『イエロー・サブマリン』が、ポール・ドリエセンをアニメーションの世界に導いたということは前回の記事に書きましたが、同じ『イエロー・サブマリン』が、もう1人のアニメーション作家誕生にも大きく寄与しています。
 そのアニメーション作家とは、パキスタン出身で、イギリスでデザイナーとして活躍していたアリソン・デ・ヴェアです。今回、紹介するのは彼女の監督デビュー作に当たる短編『カフェ・バー』です。




 【物語】
 雨の日のカフェ・バー。
 女が独りで座っていると、遅れて男がやってくる。
 女は、待ってましたとばかりに、男が聞いている聞いていないに拘わらず、自分が話したいことを勝手にまくし立てる。
 いいかげん、女の態度にうんざりした男は、真っ赤なプロペラ機になって上空高く舞い上がり、女のいるテーブルを攻撃する。
 が、この程度の攻撃は平気とばかりに、女は、あっさりとプロペラ機を自分の頭の上のジャングルにぶつけて撃墜させてしまう。
 男は、墜落機から這い出して、ジャングルをかき分けて進む。恐竜や怪鳥を逃れ、ジャングルを抜けると、スキーを使って、女の体を滑り降り、テーブルに着地する。
 気づくと、2人は元のテーブル席に向かい合って座っている。
 しかし、2人には会話もなく、女は、男との距離をどんどん遠くに感じてしまい、砂漠に行き着いてしまう。
 行けども行けども砂漠には終わりがなく、女は、同じところをぐるぐる回っていたことに気づき、地団駄を踏む。
 すると、地面に穴が開いて、地底世界に落ちる。地底世界には牛魔王がいて、彼女を襲う。
 彼女の悲鳴を聞いた男は、騎士に変身して、彼女の救出に向かう。
 牛魔王に恐れをなして馬は逃げてしまうが、男は敵に敢然と立ち向かう。そして、剣で一刀両断のもとに敵を倒した彼は勝利のポーズを取る。2人で抱き合ってダンス。
 2人は、いつのまにかカフェに戻っているが、その距離は心なしかぐっと縮まっているように見える。

画像

 【コメント】
 女と男の決して埋められない距離についての物語だったらイヤだなと思って見ていたら、最後はあっさりハッピーエンドになって、2人の距離は簡単に縮まってしまいます。
 無理やりなハッピーエンド?と思って初めから見直してみると、最初、カフェに入ってきた男はヘンな変装をして入ってきていることがわかって、案外この2人はどちらもふざけあうことが大好きな、お似合いのカップルだったりするのかもしれない、と思ったりもします。
 ま、妄想に入り込んだまま、現実に戻れなくなってしまったら、気が触れてしまったということで、私はひょっとしたらそういう結末が待っているんじゃないかとも思ったのでちょっと不安だったのですが……。

 作品としては、現実世界から空想/妄想への移行がとても自然で、見事であり、一見なんてこともないようにも見えますが、これはアニメーションでしかできない(小説や実写映画ではできない)ことをさらっとやってのけたユニークな作品と言うことができるかもしれません。

 彼女の作品は、私はまだこの作品しか観れていませんが、この作品を観た限りでは、今後、①女性ならではの視点で女性の内面を丁寧に描いた作品、②それをさらに進めたフェミニズム系の作品、③『ナルニア国物語』から『トータル・リコール』の間のどこかに位置する、ファンタジー系の作品、④人間観察に優れた社会風刺的な作品、のいずれかに進みそうな気がします。
 とはいっても、彼女のフィルモグラフィーにはあと3本の短編しかなく、アニメーション作家としては必ずしも大成したとは言えないのですが……。まあ、この作品を発表した時、既に47歳だったろいうことも関係あるかもしれません。

 この作品では、70年代当時の(イギリスの)ファッションが見て取れることも特筆すべきかもしれません。

 この作品を観て、女体の上をスキーで滑り降りるところなど、ちょっとエロチックなものを感じるのは私だけでしょうか。そう思って反芻すると、性的な象徴に満ち満ちた作品だったような気もしますね。

 ◆作品データ
 1974年/英/5分8秒
 台詞なし/字幕なし
 アニメーション

 *この作品は、アヌシー国際アニメーションフェスティバルが選ぶ短編アニメーション ベスト100の67位にランクインしています。

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 ◆監督について
 アリソン・デ・ヴェア
 イギリスのインディペンデント系のアニメーター、デザイナー。
 1927年 パキスタン ペシャワール生まれ。2001年 イギリスのコンウォールで没。

 ロイヤル・アカデミーでアートを学び、アニメーション業界に入る。
 50年代にイギリスのアニメーション・スタジオHalas and Batchelorで5年間働き、デザイナーとして認められるようになる。
 その後、フリーランスで、CMや特殊効果等を手がけるようになり、『イエロー・サブマリン』(1968)のジョージ・ダニング監督に見出されて、『イエロー・サブマリン』の背景の監修(background superviser)を担当する。
 デザインの仕事では、ドイツ人デザイナーHeinz Edelmanと組んだ仕事が有名。
 70年代~80年代は、Wyatt Cattaneo ProductionsのCMを手がけ、そこで、2本の短編“Café Bar”(1974)、“Mr. Pascal”(1979)を制作。この2作品は国際的にも高い評価を受ける。
 その後、“The Black Dog”(1987)、“Psyche and Eros”(1994)を発表。

 ・1974年 “Café Bar”
 ・1979年 “Mr. Pascal”
 ・1987年 “The Black Dog”
 ・1994年 “Psyche and Eros”

 *参考サイト
 ・Answers.com:http://www.answers.com/topic/alison-de-vere?cat=entertainment

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