恋の予感 『ストリングス』 ウェンディ・ティルビー

 やっと観られました!

 当ブログで、[tantano 短編映画を楽しむ]を始めた時に、わりと早い時期に紹介した作品にウェンディ・ティルビー&アマンダ・フォービス『ある一日のはじまり』という作品がありましたが、そのウェンディ・ティルビーの1991年の作品が『ストリングス』です。この作品は、米国アカデミー賞にノミネートされているほか、カナダの映画賞、広島国際アニメーション フェスティバルでも高い評価を受けている作品です。



 【物語】
 3Bのアパートに住む女性は、船が好きなのか、パーツを買ってきて、客船の模型を組み立てている。
 その部屋の真下に住む男性は、バイオリニストで、今日も仲間を呼んで一緒に演奏する予定で、その時に軽くつまんで食べられるものとワインをテーブルに用意している。
 男性が、仲間と演奏を始めた頃、3Bの女性は入浴を始める。
 ところが、3階の床、すなわち2階の天井には亀裂があって、2階の天井からつるした電灯のコードを伝って、3階から2階へと水が漏れてくる。
 2階の男性は、工具を持って3階の女性の部屋を訪ねる。入浴中だった女性はガウンを着て、何事かといぶかしみながらも階下の男性を部屋に招じ入れる。
 男性が亀裂を修理してくれている間、女性は自分が裸足であることに気づいてモジモジしたりする。
 その間も2階の天井の亀裂は広がって、ついに電灯は落下してしまう……。
 ……しかし、大事に至ることはなかったのか、音楽家の仲間は車で引き上げていく。
 3階の女性が再び入浴しようとした時、床に2階の男性のカフス・ボタンが落ちているのに気づく。女はそれを拾って、自分の靴の中にことりを落とす。階下では男性が独りで演奏を始めたのか、かすかに演奏が聞こえてくる。

画像

 【コメント】
 本作は、ガラス板に描いて撮影しては消して、描きなおしてはまた撮影するという手法(ガラス・ペインティング)という気の遠くなる方法で作られた作品(アレクサンドル・ペトロフも同じ手法を使っています)で、パッと見て、まず、その“画”に心惹かれるます。エッチングを思わせる質感、美しいグラディエーションを見せる影や輪郭線、原色を抑え、茶褐色系統で淡く落ち着いた感じにまとめた色調、リアルさとデフォルメが見事に融合した絵のタッチも素晴らしい!

 物語としては、同じエレベーターに乗り合わせることはあっても、これまで全くつきあいがなかった独り暮らしの男女がある事件を通して出会うというもので、他人に無関心で孤独な都会生活と、その中から始まる小さな出会いを、描いています。

 つながりの希薄な都会人の不安と孤独を描くという意味では本作は『ある一日のはじまり』と同じですが、『ある一日のはじまり』が結局は不安と孤独の中で生きていかなくてはならないということを強調していたのに対して、こちらでは都会生活の中でも出会いはあり、豊かな人間関係が生まれ得るということを描いて、観る者にささやかな幸福感を与えてくれます。
 本作は、批判的に観てみれば、楽観的といえば楽観的な作品で (例えば、“亀裂”をきっかけに住人どうしのもめごとに発展するという可能性もなくはなかった)、リアルさと衝撃性という点では『ある一日のはじまり』に劣るのかもしれません。だから、ウェンディ・ティルビーも本作の後に『ある一日のはじまり』を作ることになったのでしょうが、好き嫌いで言うならこちらの方が好きだという人が多いのではないでしょうか。観た後も気持ちがいいし、ホッとさせてくれますもんね。

 3階の女性が入浴→2階の男性が3階の女性の部屋に亀裂の修理に来てくれるが、彼女は自分が裸足であることに気づいてモジモジする→彼女が裸足の足で2階の男性のカフス・ボタンを踏みつけてしまう……というようなディテールやつながりの描き込みもしっかりなされていて、見るごとに発見のある作品にもなっています(エレベーターのボタン→それぞれ2階と3階に住んでいることを示す、エレベーターの中で抱えている荷物→男は食材を、女は船の材料を買って帰ってきている、3階の女性は船の模型作りが趣味→入浴でバスタブにも船を浮かべる、等)。

 本作の原題は“Strings/Cordes”。Stringsは、「線」の意であると同時に、「弦楽器のセッション」という意味があり、“Cordes”はもちろん「ひも」で、どちらも人間関係を象徴的に表していると思われます。

 この作品を紹介した記事には、<同じアパートの住人である女と初老の男はお互いに何か心惹かれるものを感じていたが、エレベーターの中でも言葉を交わすことはなかった。女は船の模型をバスタブに浮かべ、階下の男はバイオリンを弾く。彼女は彼の音楽に合わせて入浴し、彼は上から聞こえてくる彼女の足音に親しんでいる。階を越えて伝わる音が二人は親密にしていく。>と書いているものがあって、ええっ、そうなの?と思い、もう一度見直してみましたが、2階の音が3階に聞こえたり、3階の音が2階に聞こえたりということははっきり描かれていないように思われました。
 それより、電灯のコードが抜けたことで(亀裂を修理したとしても)、2階の男性の弾くバイオリンの音色が微かに3階の彼女の部屋にも聞こえるようになった、という解釈もあっていいのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

 ちなみに、私も、アパートの上の住人が玄関に水を流したために、水が漏れてきて、寝具がびしょびしょになってしまったということがありました。その時は、間に不動産屋が入って、寝具を弁償してもらったのですが、つきあいはいい方にも悪い方にも発展しませんでした。まあ、こんなもんですよね。相手は同性だったので、いずれにしても恋になんかなりようはなかったのですが。

 ◆データ
 1991年/カナダ/9分59秒
 台詞なし/字幕なし
 アニメーション
 1992年 米国アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート。
 1992年 ジェニー賞最優秀短編アニメーション賞受賞、オタワ国際アニメーション フェスティバル 最優秀カナダ映画賞&Craft Prize(音楽に対して)受賞。
 1992年 広島国際アニメーションフェスティバル カテゴリーF(5分~15分以内の作品)1位。

 *本作は、2000年の<ラピュタ・アニメーション フェスティバル>で上映されています。

 *本作は、『やすらぎのテーブル』とともに、DVD 世界のベスト・アニメーションVol.1『雪深い山国』に収録されています。

 *『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと)で821位。

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 ◆監督について
 ウェンディ・ティルビー
 1960年 カナダ・エドモントン生まれ。
 ヴィクトリア大学で視覚芸術と文学を学んだ後、バンクーバーのEmily Carr Institute of Art and Designで映画とアニメーションを専攻する。学生時代に制作した『やすらぎのテーブル』“Tables of Content”が数々の賞を受賞。1987年に、NFB(National Film Board of Canada)に招かれる。

 ・1986年 『やすらぎのテーブル』“Tables of Content”:1986年 モントリオール国際映画祭短編部門グランプリ受賞、オタワ国際アニメーションフェスティバル 第1回作品賞受賞。
 ・1991年 『ストリングス』“Strings/Cordes”:1992年 アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート、ジェニー賞(カナダ・アカデミー賞)短編アニメーション賞受賞、オタワ国際アニメーションフェスティバル 最優秀カナダ映画賞受賞。
 ・1991年 “The National Film Board of Canada's Animation Festival”:NFBの8人の監督によるオムニバス作品
 ・1995年 “Inside Out”
 ・1999年 『ある一日のはじまり』
 現在は、モントリオールのConcordia大学でアニメーションを教えているほか、ハーバード大学でもアニメーションについて講義をしている。
 共同監督のアマンダ・フォービスと組むのは『ある一日のはじまり』が初めて。共同監督作品にはCMもあるようです。

 *関連サイト Acme Filmworks:http://www.acmefilmworks.com/dir_folders/dirTilby/tilby.html

 *関連サイト:http://www.onf.ca/trouverunfilm/fichefilm.php?id=33251&v=h#

 *関連サイト 知られざるアニメーション:http://yamamuraanimation.blog13.fc2.com/blog-entry-85.html

 *当ブログ関連記事
 ・アカデミー賞短編アニメーション賞 リスト!

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