日本で上映されたマレーシア映画 1956~2007

 昨年のベネチア国際映画祭で、マレーシアの監督ホー・ユーハンの『Rain Dogs 太陽雨』がHorizon部門で上映されたのを機に、『Rain Dogs 太陽雨』について少し調べてみて、ホー・ユーハンがアジア圏でも注目の監督であると知り、さらに『Rain Dogs 太陽雨』が、ベネチアからトロント、そして東京国際映画祭で上映されるにおよび、ホー・ユーハンという監督は、私の中でも気になる監督の1人となりました。

 ホー・ユーハンが上映された東京国際映画祭では、<マレーシア映画新潮>と題して、『Rain Dogs 太陽雨』を含む9本ものマレーシア映画が上映されました。
 その時は、単に2006年はマレーシア映画の特集をやるんだと思ったくらいで、実際に会場に足を運ぶことはなかったんですが、いろいろ調べているうちに、ホー・ユーハン以外にも、マレーシアに新しい映画作家が登場しているらしいというのがわかってきました(気になっていた『Rain Dogs 太陽雨』は、アンディ・ラウ プロデュース作品ということもあり、そのうち劇場公開されるのではないかと思って、観に行きませんでした)。

 で、<マレーシア映画新潮>で上映された9作品のうち、『Rain Dogs 太陽雨』を同監督の前作『霧』と入れ替えて、<ヤスミン・アハマドとマレーシア映画新潮>(国際交流基金映画講座2007-1) (2007年7月31日~8月4日)と題して、アテネ・フランセ文化センターで上映されたので、この機会に「日本で上映されたマレーシア映画」について調べてみました。

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 【日本で上映されたマレーシア映画】+マレーシア ミニ映画史

 ・1947年 マレー・フィルム・プロダクション活動再開

 ・1952年 キャセイ・クリス・フィルム・プロダクション設立
 2大スタジオ時代始まる。

 ◆1956年 『ハン・トゥア』(パニ・マジュダムール *①にて上映

 ◆1958年 『ハッサン軍曹』(ランベルト・アヴェリャーナ) *1992年 <東南アジア映画祭 リノ・ブロッカの遺産と東南アジア・マスターピース>、<アジアフォーカス・福岡映画祭’92>にて上映

 ◆1961年 『アリババ』(P・ラムリー)  *①にて上映

 ・1973年 P・ラムリー死去 以後、マレーシア映画は停滞期に入る
 ※P・ラムリーは、63本の映画に出演し、約200曲の作曲をした俳優・監督・歌手・作曲家で、50~70年代のマレーシア映画の隆盛期を支えた大スター。享年44歳。

 ・1981年 映画制作統括機関「マレーシア映画振興公社FINAS」設立
 ※マレーシア映画はマレー語で作らなければならないと規定。この規定から外れた作品は外国映画とみなされ、外国映画専門の映画館でしか上映できない。

 ◆1982年 『ハンター』(ラヒム・ラザリ)  *①にて上映

 ◆1983年 『いばらのあぜ道』(ジャミル・スロン)  *①にて上映

 ◆1984年 『愛国者の死』(ラヒム・ラザリ)  *①にて上映

 ◆1985年 『ロック・ミュージシャン』(ナシール・ジャニ)  *①にて上映

 ◆1987年 『ベジャライ』(スティーヴン・テオ) *1990年 <アジア映画の新しい波’90>、<福岡アジア映画祭’90>、① にて上映

 ◆1988年 『サラワクの息子』(ラヒム・ラザリ)  *1990年 <福岡アジア映画祭’90>、① にて上映

 ◆1989年 『トゥア』(アンワーディ・ジャミル)  *①にて上映

 ◆1990年 『ビレッヂ・ボーイ』(アザド・カーン) *1991年 <第4回東京国際映画祭 アジア秀作映画週間>にて上映

 ◇1991年 『アジアン・ビート(マレーシア編) サンライズ・イン・カンポン』(アズィズ・M・オスマン) *ビデオ・リリースのみ

 ◆1992年 『ザ・クライズ・オブ・インディペンデント・チャイルド』(サイド・アジディ・サイド・アブドゥル・アジス) *1993年 <第3回国際学生映画祭>にて上映

 ◆1994年 『放火犯』(ウ・エイ・ビン・ハジサアリ)  *1996年 <アジアフォーカス福岡映画祭’96>にて上映

 ◆1997年 『闘牛士』(ウ・エイ・ビン・ハジサアリ) *1997年 <第2回NHKアジア・フィルム・フェスティバル’97>にて上映
 ※1999年マレーシア映画祭で作品賞・監督賞・男優賞を受賞。

 ◆1997年 『ラスト・マレー・ウーマン』(エルマ・ファティマ) *1999年 <アジアフォーカス・福岡映画祭’99>にて上映

 ◆1999年 『追いつ追われつ』(アズィス・M・オスマン) *2001年 <アジアフォーカス・福岡映画祭2001>にて上映

 ◆2000年 『アドナン中尉』(アズィス・M・オスマン) *2001年 <アジアフォーカス・福岡映画祭2001>にて上映
 ※2001年マレーシア映画祭で作品賞・監督賞を受賞。

 ◇2000年 “Lips to Lips”(アミール・モハマド)
 ※マレーシア初のデジタル作品。主演=ジェームス・リー。

 ◇2000年 “Bukak Api”(オスマン・アリ)

 ◇2001年 “Snipers”(ジェームス・リー)

 ◇2001年 “Ah Beng Returns”(ジェームス・リー)

 ◇2002年 “You fang chu zu(Room to let)”(ジェームス・リー)

 ◆2003年 『ビッグ・ドリアン』“The Big Durian”(アミール・ムハマド) *2003年 <山形国際ドキュメンタリー映画祭2003>、<アジアフォーカス・福岡映画祭2004>にて上映
 ※2003年山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞New Asian Currents - Special Mention 受賞、2004年バンクーバー国際映画でDragons and Tigers Award - Special Citation受賞。サンダンス映画祭に招待された初めてのマレーシア映画。

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 ◆2003年 『ラブン』“Rabun”(ヤスミン・アハマド)<TV> *②、③にて上映

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 ◇2003年 “Gedebe”(ナム・ロン)

 ◇2003年 “Min”(ホー・ユーハン)
 ※2003年 ナント三大陸映画祭 審査員特別賞受賞。

 ・2004年 ジェームス・リー、アミール・ムハマド、タン・チュイムイ、Liew Seng Tat.らがプロダクションDa Huang Picturesを立ち上げる。

 ◆2004年 『月下美人と吸血女』“Pontianak harum sundal malam”(シュハイミ・ババ Shuhaimi Baba) *第49回アジア太平洋映画祭にて上映
 ※第49回アジア太平洋映画祭でマヤ・カリンが主演女優賞を受賞

 ◆2004年 『星に願いを』“Reaching for the Stars” (ハデ・ハジ・アズミ) *第49回アジア太平洋映画祭にて上映
 ※第49回アジア太平洋映画祭で撮影賞(モハマド・アズラ・カマルディン)受賞。

 ◆2004年 『美しい洗濯機』“Mei li de xi yi ji(The Beautiful Washing Machine)”(ジェームス・リー) *第17回東京国際映画祭(2004)アジアの風>にて上映
 ※2005年バンコク国際映画祭にて国際批評家連盟賞&Golden Kinnaree Award(最優秀アジア映画)受賞。

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 ◆2004年 『四人夜話』“Visits: Hungry Ghost Anthology”(ロー・ガイユエン、ジェームス・リー、ウン・ティエンハン、ホー・ユーハン)  *第17回東京国際映画祭(2004)アジアの風>にて上映
 ※マレーシアの映画館で公開された初めてのデジタル作品。各作品のタイトルは――
 ロー・ガイユエン “1413”
 ジェームス・リー “Waiting For Them”
 ウン・ティエンハン “Nodding Scoop”
 ホー・ユーハン “Anybody Home?”

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 ◆2004年 『細い目』“Sepet”(ヤスミン・アハマド)  *第18回東京国際映画祭(2005)アジアの風 新作パノラマ>、<あいち国際女性映画祭2006>、②、③にて上映
 ※2005年マレーシア映画祭で作品賞・助演女優賞(Ida Nerina:オーキッドの母役)・新人男優賞(Choo Seong Ng:ジェイソン役)・新人女優賞(Sharifah Amani:オーキッド役)・脚本賞・ポスター賞受賞。東京国際映画祭でアジア映画賞受賞。

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 ◆2004年 『霧』“Sanctuary”(ホー・ユーハン) *③にて上映
 ※2004年釜山国際映画祭でNew Currents Award - Special Mention受賞、2005年ロッテルダム国際映画祭でNETPAC賞&Tiger Award - Special Mention受賞。

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 ◇“Puteri gunung ledang(The Princess of Mount Ledang/レダン山の王女)”(ソー・チョン・ヒン Teong Hin Saw)[マレーシア・伊?]
 ※マレーシア最大規模の制作費(500万ドル=5億5000万円)を投じて作られた大河叙事詩。マレーシア映画史上初めてベネチア国際映画祭で上映(ミッドナイト・スクリーニング部門)された。米国アカデミー賞外国語映画賞マレーシア代表。2005年 マレーシア映画祭監督賞受賞、アジア太平洋映画祭女優賞(Tiara Jacquelina)受賞。
 公式サイト:http://www.pglthemovie.com/

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 ◇2004年 “Buai laju-laju” (ウ・エイ・ビン・ハジアサリ)[マレーシア・アイルランド]

 ◆2005年 『砂利の道』“Chemman Chaalai”(ディーパク・クマーラン・メーナン)  *<アジアフォーカス・福岡映画祭2005>にて上映

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 ◆2005年 『ゴールと口紅』“Gol & Gincu”(バーナード・チョウリー) *第18回東京国際映画祭(2005)アジアの風 新作パノラマ>にて上映

 ◆2005年 『マンデー・モーニング・グローリー』“Lampu merah mati(Monday Morning Glory)”(ウー・ミンジン) *第18回東京国際映画祭(2005)アジアの風 新作パノラマ>にて上映。第10回釜山国際映画祭(2005年)でワールド・プレミア(A Window on Asia Cinema部門)。

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 ◆2005年 『グッバイ・ボーイズ』“Goodbye Boys”(バーナード・チョウリー)  *②、③にて上映

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 ◆2005年 『グブラ(ガブラ)』“Gubra”(ヤスミン・アハマド)   *②、③、④にて上映
 ※2006年マレーシア映画祭で作品賞・脚本賞・女優賞(オーキッド役のSharifah Amani)・ポスター賞を受賞。

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 ◇2005年 “Tokyo Magic Hour”(アミール・ムハマド)

 ◆2006年 『愛は一切に勝つ』“Love Conquers All”(タン・チュイムイ)[オランダ・マレーシア] *②、③、④にて上映
 ※第11回釜山国際映画祭(2006年)でNew Currents Award(最優秀アジア新人作家賞)&国際批評家連盟賞受賞、2007年ロッテルダム国際映画祭にてTiger Award(グランプリ)受賞。

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 ◆2006年 『鳥屋』“The Bird House”(クー・エンヨウ)  *②、③にて上映

 ◆2006年 『私たちがまた恋に落ちる前に』“Before we fall in Love Again”(ジェームス・リー) *②、③、④にて上映

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 ◆2006年 『ムクシン(マクシン)』“Mukhsin”(ヤスミン・アハマド)  *②、③にて上映
 ※2007年 ベルリン国際映画祭で、Deutsches Kinderhilfswerk Grand Prix、Glass Bear - Special Mention受賞

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 ◆2006年 『Rain Dogs 太陽雨』“Tai yang yue(Rain Dogs)”(ホー・ユーハン)  *②、④にて上映
 ※アンディー・ラウがアジアの若手監督を支援した6本の映画プロジェクトFOCUS:First Cutsのうちの1本。FOCUS:First Cutsの公式サイト:http://www.focusfirstcuts.com/
 2006年ベネチア国際映画祭Horizon部門、トロント国際映画祭CONTEMPORARY WORLD CINEMA部門で上映。

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 ◇“Lelaki komunis terakhir(The Last Communist)”(アミール・ムハマド)

 ◆2007年 『相撲ら!』“Let's Somo !”(アフドリン・シャウキ)[マレーシア・日] *<アジアフォーカス・福岡映画祭2007>にて上映
 ※アジアフォーカス・福岡映画祭の公式サイト:http://focus-on-asia.com/j/index.html

 ◇2007年 “Things We Do When We Fall in Love”(ジェームス・リー)
 ※ジェームス・リーの『私たちがまた恋に落ちる前に』に続く“愛の3部作”の第2部。

 ◇2007年 “Dancing Bells (Chalanggai)” (ディーパク・クマーラン・メーナン)
 ※④にて上映

 ◇2007年 “The Elephant and the Sea”(ウー・ミンジン)
 ※④にて上映

 ◇2007年 “Dukun”(Dain Said)

 ◇2007年 “Susuk”(アミール・ムハマド、Naeim Ghalili)

 ◇2007年 “Puaka tebing biru”(オスマン・アリ)

 ※
 ①:1990年 <マレーシア映画週間 -P・ラムリーから現在まで-) >

 ②:2006年 <第19回東京国際映画祭(2006) アジアの風 マレーシア映画新潮>

 ③:2007年 <ヤスミン・アハマドとマレーシア映画新潮>(国際交流基金映画講座2007-1)@アテネ・フランセ文化センター(2007年7月31日~8月4日)  http://www.jpf.go.jp/j/culture_j/topics/movie/jfsls7.html

 ④:2007年 ロッテルダム国際映画祭(1月24日4日~2月) 上記6作品のほか、5本の短編映画が上映されました。
 上映された短編は――
 Liew Seng Tat “Daughters”(2007/10分)
 Siew-wai Kok “In Solitude, a Camera-Eye”(2006/ 4分)
 Liew Seng Tat “Man in Love”(2007/4分)
 Liew Seng Tat “Matahari (The Sun)”(2007/7分)
 shanjhey kumar Perumal “Thaipoosam”(2006/4分)

 (註)◆印が日本で上映された作品、◇印はそれ以外の主だった作品です。
 ほとんどの作品は、マレーシアで製作されたものばかりですが、共同製作作品に限り、製作国を[ ]で示しました。

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 ◆マレーシア映画新潮について

 今回上映された<ヤスミン・アハマドとマレーシア映画新潮>は、会場がアテネ・フランセ文化センターということもあり、観られる日が平日か土曜に限られているため、全9作品のうち、私が観ることができたのは、ヤスミン・アハマド監督の4作品と『霧』『愛は一切に勝つ』『私たちがまた恋に落ちる前に』の計7作品のみでした。

 これらの作品を観た印象からすると、「マレーシア映画新潮」といっても、ヤスミン・アハマドとそのほかの監督とは、作品のスタイルにかなりの違いが感じられました。
 ヤスミン・アハマド監督の作品が、より広い観客が共感・感情移入できるような、初恋や家族愛、夫婦間の不和など普遍的なテーマを扱っているのに対して、それ以外の監督たちはより小さな人間関係を切り取ったプライベート映画のようにも見えました。
 映画のスタイルを見ても、ヤスミン・アハマド作品が『ラブン』を除けばそのほかの作品はすべて35mmで制作されているのに対して、『霧』『愛は一切に勝つ』『私たちがまた恋に落ちる前に』はデジタル・カメラによって撮影されたもので、後者は、BGMなし、説明描写もナレーションもなし、主観カットがなく感情移入も求めない、カットを割らず、アングルを変えて撮影するということもしない、ジャンル映画ではない、犯罪はあってもアクションはない、わかりやすいテーマやモチーフから出発した作品ではない、商業的ではなく娯楽性に乏しい、映画も出演者も観客に愛想をふりまかない、という「ないないづくし」の映画になっています。そういう意味では、ヤスミン・アハマドとそのほかの監督たちの映画はまさに対極にあると言っていいかもしれません。

 調べてみると、『霧』のホー・ユーハンが1971年生まれ、『グッバイ・ボーイズ』のバーナード・チョウリーと『私たちがまた恋に落ちる前に』のジェームス・リーが1973年生まれ、『鳥屋』のクー・エンヨウと『愛は一切に勝つ』のタン・チュイムイは1978年生まれなのに対し、ヤスミン・アハマドは1959年生まれで、(映画監督としてのデビューはほぼ同時期であると言っても)年齢的には一世代違っています。

 ヤスミン・アハマドがCM業界から映画に転身にした(ということは、ある程度の演出や撮影のノウハウを持っていた)のに対し、ホー・ユーハンが何年かテレビ業界にいたのを除けば、あとの監督たちは映画撮影のためのキャリアなしでいきなり映画監督デビューしているようです。
 ヤスミン・アハマドが映画業界のたたきあげではなくCM業界出身という意味で新しい映像感覚・物語感覚を持っていたのに対し、そのほかの監督はほぼ独学で映画にアプローチしたという意味でPFF出身の監督に通じるような若さやユニークさを持っていた、ということができるかもしれません。

 ※後述するように、後者の監督たちの作品は、みんなで役割を取り替えながら協力して作っているので、必然的に同じようなタッチの作品になってしまうということもあるかもしれません。

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 これらの映画が「マレー映画新潮(ニューウェイブ)」と呼ばれるには、映画業界の外部出身の若い監督が、デジタル・カメラで撮った、若い感覚の作品であるということ以外に、「マレー人によるマレー人のためのマレー語の映画、ではない」ということがありました。マレーシアでマレーシア映画として認められるには、マレー語で撮られた映画でなくてはならないという規定があるのですが、「マレー映画新潮」の監督たちの作品はこの規定から大きく逸脱しています。

 『霧』『Rain Dogs 太陽雨』:広東語・北京語
 『グッバイ・ボーイ』:広東語・英語・マレー語
 『愛は一切に勝つ』:マレー語・広東語・北京語
 『鳥屋』:英語・マレー語・福建語・北京語
 『私たちがまた恋に落ちる前に』:北京語
 ヤスミン・アハマドの作品:北京語・広東語・英語・福建語・マレー語

 これらの監督たちは、実生活でも(公用語であるマレー語ではなく)普通にこれらの言語を使って生活してきたようで、監督の出自も、明らかになっているもので、バーナード・チョウリーがパンジャブ系+中国系で、タン・チュイムイが台湾系だと言います。
 ヤスミン・アハマドの作品では、中国文化に親近感を持つマレー系・イスラム系の娘オーキッドと、中国系・非イスラム系の人々の暮らしの対比が物語の多くの部分を占めます。

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 「マレー映画新潮」の監督たちが、新しい波として意識されたのには、彼らが共に他の監督作品に協力し合って、共同で映画制作を行なったことがあって、それはフランスのヌーヴェルヴァーグの監督たちやFEMISの監督たち、一部のPFFの監督たちのつながりを思わせます。

 その中心にいるのが、ジェームス・リーで、彼は、
 撮影監督として、ナム・ロンの“Gebede”(2003)、ウー・ミンジンの『マンデー・モーニング・グローリー』(2005)、タン・チュイムイの『愛は一切に勝つ』(2006)等に携わり、
 プロデューサーとして、アミール・ムハマドの『ビッグ・ドリアン』(2003)、ホー・ユーハンの『霧』(2004)を製作していて、
 “Gebede”では編集も担当しています。

 タン・チュイムイは、
 『四人夜話』のジェームス・リーのエピソード“Waiting For Them”の脚本を担当しているほか、
 ディーパク・クマーラン・メーナンの『砂利の道』(2005)、ジェームス・リーの『私たちがまた恋に落ちる前に』(2006)ではプロデューサーを務め、
 ホー・ユーハンの『霧』(2004)では編集、アミール・ムハマドの『ビッグ・ドリアン』(2003)ではアシスタント・カメラ(撮影)を担当し、ウー・ミンジンの“The Elephant and the Sea”には出演もしています。

 ホー・ユーハンは、
 ヤスミン・アハマドの『ラブン』(2003)や『ムクシン』(2006)、ジェームス・リーの『美しい洗濯機』(2004)に出演しているほか、
 タン・チュイムイの『愛は一切に勝つ』(2006)では編集を担当しています。

 ヤスミン・アハマドは、ホー・ユーハンの“Min”(2003)と『Rain Dogs 太陽雨』(2006)に出演しています。

 アミール・ムハマドは、
 ナム・ロンの“Gebede”(2003)、タン・チュイムイの『愛は一切に勝つ』(2006)ではプロデューサー、ウー・ミンジンの『マンデー・モーニング・グローリー』(2005)では製作総指揮を担当しています。

 マレーシア・ニューウェーブには、経験も豊富で年齢的にも一世代上のヤスミン・アハマドと、製作面でのリーダーであるジェームス・リーと、理論的指導者であり、マレーシア映画を内外にわたって広めようとしているアジテーター バーナード・チョウリーという、3人のリーダーがいる、ということになるでしょうか。

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 ◆感想を少しだけ

 やはり突出して面白いと感じられるのは、ヤスミン・アハマドの作品でした。
 からかったり愚痴をこぼしたりしつつも、互いをかけがいのない存在として大切の思っている両親像(監督の両親がモデル?)には微笑が禁じ得ず、もう、好きにならずにいられない感じがしました。お手伝いさんをはじめとするキャラクターも秀逸!で、こうしたユーモラスな家庭像を描き出したアジア映画は本当に久しぶりという気がしました。
 作品世界としては、マレーシアにおけるマレー系と中国系という異民族間におけるコミュニケーションの齟齬というテーマを少しずつ掘り下げていっているのですが、その代わり初期の作品にあったユーモアが少しずつ削られていっているのがちょっと残念な気がします。『グブラ』『ムクシン』では、サブ・ストーリーとメイン・ストーリーがうまくシンクロしていないようでもあり、物語がわかりにくいとも感じられました。
 とはいえ、他民族社会マレーシアを、これだけ鮮やかに、ユーモアたっぷりと、わかりやすく描き出したという点では出色で、日本でもデビュー作から順に劇場公開されていれば、新作が期待される注目の監督になっていたような気がします。
 わかりやすく言うと、ヤスミン・アハマドは、台湾における侯孝賢に匹敵する映画作家になるといっていいかもしれません(侯孝賢も、台湾ニューウェーブの中心人物で、青春ものからスタートし、台湾における社会状況(本省人と外省人の対立)を物語の背後に描きこんでいました)。

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 タン・チュイムイは、ジェームス・リーやホー・ユーハンに比べると、物語を語ろうという志向性が強く、そういう意味でわかりやすい監督です。まだ『愛は一切に勝つ』しか観れていませんが、ダメになるとわかっていながら破滅に向かう物語(人間というものは本当に愚かであると思わせながら、そうした主人公に共感やシンパシーを感じざるを得ない)は、ケン・ローチや近松ものを思い出させるものでした。今後に期待ですね。

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 ジェームス・リーの『私たちがまた恋に落ちる前に』は、ある種の不条理劇で、主人公の2人が似たようなルックス・背格好で、ともにメガネをかけているということもあって、私としては非常にわかりにくい作品でした。しかし、そういう作品を発表しているという点では、このニューウェーブの監督たちの中でも異色であり、グループの牽引者でもあるという意味で注目株です。

 ホー・ユーハンは、『Rain Dogs 太陽雨』の方を先にタイトルだけ知っていたということもあって、注目していたのですが、『霧』はちょっとミニマルな作品で、アンディー・ラウはこの作品のどこを見て、次回作のプロデュースを買って出たのか、ちょっとわからない感じもしました(個人的にはもっとエモーショナルな作品を期待していました)。『Rain Dogs 太陽雨』以降の作品を観て、彼の資質を確認してみたいと思います。

 現時点で日本で劇場公開されたマレーシア映画はゼロ、DVDで入手できるマレーシア映画もゼロという状況で、『Rain Dogs 太陽雨』が劇場公開されれば、日本でのマレーシア映画公開史においてとても画期的な出来事ということになります。具体的にどの映画会社がこの映画を買ったとか、どこで公開されるとかいった情報はまだ伝わってきませんが、非常に楽しみに待ちたいと思います。

 (註)台湾の監督 ツァイ・ミンリャンはマレーシア出身で、『黒い眼のオペラ』はマレーシアを舞台としていますが、『黒い眼のオペラ』は台湾・フランス・オーストリア製作の映画で、ツァイ・ミンリャンにはいまのところマレーシア資本の作品はありません。

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 *当ブログ関連記事
 ・インタビュー with ヤスミン・アハマド
 ・ヤスミン・アハマド CM作品“スペシャル・シューズ”
 ・タン・チュイムイ 『愛は一切に勝つ』

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 ◆リンク集

 ・IMDbでヒットする“マレーシア映画”417タイトル:http://www.imdb.com/List?tv=on&&countries=Malaysia&&nav=/Sections/Countries/Malaysia/include-titles&&heading=8;All;Malaysia

 ・Filem Malysia:http://www.filemkita.com/
 マレーシア映画に関するデータベース(マレー語&英語)

 ・バーナード・チョーリー「マレーシア映画の現状」:http://www.jpf.go.jp/j/culture_j/news/0411/img/my.pdf
 2000年以降のマレーシア・インディーズ映画の動きについて、マレーシアの現役の映画評論家&映画監督であるバーナード・チョーリーが書いたレポート(日本語)。(国際交流基金のHP)

 ・ブログ「眺月幻想」:http://zhizhi.blog22.fc2.com/
 マレーシア映画に関する詳しい情報が書かれてあるしおんさんのブログ。

 ・マレーシアナウ(現在) 「マレーシア映画産業と『レダン山の王女』」(坪内隆彦):http://chinachips.fc2web.com/repoas/05030.html

 ・マレーシア映画とはずがたり:http://asu.web.infoseek.co.jp/Malaysia/various/movie/index.html
 まだ紹介してある作品は多くはありませんが、今後随時紹介されていく模様です。

 ・スージー・アラビアさんのブログ「笑うな危険!」:http://blog.livedoor.jp/susie_arabia/archives/cat_50031355.html
 世界のB級娯楽映画を紹介しているブログで、マレーシア映画に関してはポンティアナ(吸血鬼)映画が紹介してあります。

 ・「最近、マレーシア映画が元気です~演劇と映画の密接な関係~」(国際交流基金 滝口健):http://nichimapress.com/gekijyo/2005/295_22/gekijyo_295_22.html
 映画『細い目』に関する紹介記事。

 ・東京国際映画祭開催時に来日したヤスミン・アハマドへのインタビュー(英語) the seventh art ‘Tokyo Story: Yasmin Ahmad Interview’ :http://seventh-art.blogspot.com/2006/10/tokyo-story-yasmin-ahmad-interview.html

 ・ジェームス・リーのプロダクションDoghouse73 PicturesのHP:http://welcome.to/doghouse73

 ・Da Huang PicturesのHP:http://www.dahuangpictures.com/blogs/index.php/2007/01/06/james_lee

この記事へのコメント

2007年08月06日 23:52
こんばんはー。
とても勉強になりましたー。
マレーシア映画通になった気分です。
今年のTIFFでもアジアの秀作に注目しなくちゃと思いました。
2007年08月07日 00:16
かえるさんのブログから来ました。
これは情報をまとめてくれて有難うございます。貴重です。
しかし、こうしてみると単に自分が不勉強で見ていなかっただけでマレーシア映画、けっこう日本で公開していたんだなあ。
P・ラムリーやラヒム・ラザリやスティーヴン・テオといった監督は評判を聞いて見ようかと思った覚えはありますが、結局、見ずにきてしまい、ヤスミン・アハマド監督作品でマレーシア映画を発見することになってしまいました。なので、これまでのマレーシア映画の流れでアハマドがどのような位置にいるかはまったく分かりませんが・・。でも、アハマドのような、文句なしに大好きと言える映画作家からはいれたことはある意味で幸福だったのかもしれないけれども・・。
kusukusu
2007年08月07日 00:17
>わかりやすく言うと、ヤスミン・アハマドは、台湾における侯孝賢に匹敵する映画作家になるといっていいかもしれません

そうそう、その昔、80年代に、台湾映画なんて全然、知らなくて、初めて東京国際映画祭で侯孝賢の『風櫃から来た人』(『風櫃の少年』)を見、スタジオ200の特集上映でエドワード・ヤンの『恐怖分子』を見て、台湾映画を発見した時の興奮を思い出してしまいました。
umikarahajimaru
2007年08月07日 22:28
かえるさま
コメント&TBありがとうございました。
ヤスミン・アハマド監督へのインタビュー記事も訳してみましたので、よかったら、そちらも覗いてみてください。
umikarahajimaru
2007年08月07日 22:44
kusukusuさま
コメントありがとうございました。
kusukusuさんのブログも拝見させていただきましたが、社会意識の高さとシネフィルな部分が共存しているユニークなブログなんですね。
映画祭関係では、同じ場所で同じ映画を観ているということも多いようです(アルトマンとか)。知らずに隣合って観てたということもあったかもしれないし、これからもそういうことがあるかもしれませんね。
2007年09月20日 05:07
はじめまして。
マレーシアで映画などを製作しているものです。
すごい情報量のブログですね。
「相撲ら!」ですが、製作が「マレーシアと日本」になっていますが、100%資本はマレーシア企業でもありスタッフもほとんどがマレーシア人なので、ただしくは「マレーシア」のみになると思うんですが。。。福岡映画祭の表記から調べられたと思いますが、僕はあの表記はロケ地を意味しているのかと思っていました。
「相撲ら!」応援よろしくお願い致します。
umikarahajimaru
2007年09月20日 08:05
kubotaさま
はじめまして。
この記事を書いた時に、いろいろマレーシア映画について書かれてあるブログをチェックしたのですが、kubotaさんのブログにまではたどりつけませんでした。
マレーシアで映画製作をされたりしてるんですね。凄い!しかも今回は日本語字幕まで手がけられた!
『相撲ら!』については、アジアフォーカスの提供しているものしか資料がないので、一応このままにしておきますが、東京で上映されたら、クレジットをしっかりチェックしてみたいと思います。
今年の東京国際映画祭のラインナップが発表されましたが、『相撲ら!』もヤスミン・アハマド監督の新作の上映もなく、残念なことでした。ひょっとすると東京フィルメックスの方で上映されるのかもしれませんが。

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  • 「ヤスミン・アハマドとマレーシア映画新潮」 鑑賞メモ

    Excerpt: 注目のヤスミン・アハマド監督作品などマレーシア映画を観ました。去年の第19回東京国際映画祭で、特集上映されていた4本のうちの1本『グブラ』(ガブラ)を鑑賞し、エラく感銘を受けて、その名前を深く心に刻み.. Weblog: かえるぴょこぴょこ CINEMATIC ODYSSEY racked: 2007-08-06 23:50
  • 『グブラ Gubura』、『ムクシン Mukhsin』

    Excerpt: マレーシア映画2日目、昨日は『グブラ』 と『ムクシン』を観てきました。 『グブラ』はマレーシアの日常がよくわかるような 作品だったと思います。主人公オーキッドが元気で いろいろな愛の形が見.. Weblog: paris*je t'aime racked: 2007-08-13 23:30