少女の冒険? 『ジャバウォッキー』 ヤン・シュヴァンクマイエル

 本作は、元々、ルイス・キャロルや『不思議の国のアリス』の世界に魅せられていたシュヴァンクマイエルが初めて自らの作品の中にルイスの世界(『鏡の国のアリス』の中詩の「ジャバウォッキー」)を取り込んだ作品『ジャバウォッキー』です。

 「ジャバウォッキー」はテリー・ギリアムも映画化していますが、詩自体は、本作の中でも朗読されている部分だけで、意外と短く、本作も、シュヴァンクマイエルによってかなり脚色され、膨らまされています。

 本作で台詞があるのは、その詩の部分だけ(下記にDVDから日本語字幕を書き出してあります)なので、その部分の意味がわからなくても、あまり気にしないで先に進むことができれば、あとは台詞のない短編映画と同じように楽しむことができます。

 なお、[ ]で示したパートの構成は、私が便宜上つけたもので、映画本編にはありません。



 【物語】
 「たたかれる尻」と「鍵の穴型の迷路(?)の中の小石」の映像が交互に現れる。
 最後に小石が迷路を伝って降りていく。
 ここで詩「ジャバウォッキー」の朗読が始まる。(朗読の内容は下記参照)

 [プロローグ]
 洋服ダンス
 テレビ塔
 テレビ塔の下にある林の中を洋服ダンスがやってくる。
 いつのまにか洋服ダンスは部屋の中に収まっている。
 壁には肖像写真。
 洋服ダンスの上には4つのびんがあり、その中の1つは豆が煮立っている。
 洗面器と赤ん坊。
 衝立が動き回る。
 煮立つガラスびん。
 肖像画。
 少女を追いかける年長の娘。
 沸騰する試験管(?)
 肖像画。
 動くテーブル。
 煮立つガラスびん。
 肖像画。
 少女を探しているらしい娘の姿が小さくなって消える。
 煮立つガラスびん。
 びんの中で動いていた豆が動きを止める。
 肖像画。
 洋服ダンスが開く。
 中には水の入った洗面器があり、中からセーラー服と帽子が飛び出す。

 [1]
 ゆりかごの中に女の子が現れる。
 手から手袋が抜け落ちる。
 まぶたが下がってくる。
 女の子の乗っているゆりかごが後ろ向きに動く。
 “セーラー服”が動き出し、帽子を取って、テーブルのところへ向かう。
 帽子を使って、踊ったり、テーブルのまわりを歩いたり、宙に浮かんだり。
 部屋の中に木が生えてくる。
 部屋の中は木だらけになり、葉も繁り、花も咲き、実もなる。
 実は落ちて、次々腐る。
 次の瞬間に部屋を埋め尽くしていた木は消え、“セーラー服”は木馬に乗って洋服ダンスの中へ。
 窓が開いて、5人の騎士が現れる。
 絵が描かれたボックスが落ちてきて積み重なる。
 ボックスは1つの景色を形作り、別の景色に入れ替わる。
 迷路。その中を線が進んでいくが、行き止まりになる。
 黒猫が迷路を破壊する。

 [2]
 女の子(の人形)の体が裂けて、中から小さな女の子(の人形)がいくつも出てくる。
 鐘が鳴ると、小さな女の子は屋敷を飛び出して、コーヒー・ミルの中でつぶされていく。
 どうやらこの“世界”を牛耳っているのは、“セーラー服”らしい。
 女の子たちは次々と穴から落ちて、コーヒー・ミルにつぶされていく。
 テーブルの上では、女の子たちがアイロンに伸されていく。
 鳥かごの中では着せ替え人形にされる。
 コンロで調理されたり、オーブンで焼かれたりもする。
 すぐそばでは、4人家族(母親らしい人物と赤ん坊と2人の娘)がテーブルについている。
 家族は、調理された女の子たちを食べていく。
 絵が描かれたボックスが落ちてきて積み重なる。
 迷路。その中を線が進んでいくが、行き止まりになる。
 黒猫が迷路を破壊する。

 [3]
 セーラー服の中からたくさんの兵隊が出てくる。
 兵隊の行進。
 テーブルの引き出しが開いて、積み木の城が現れる。引き出しが開くたびにどんどん城が大きくなっていく。
 布にくるまれた乳児が兵隊を蹴散らしていく。
 兵隊がいなくなったところで、テーブルの上には乳児だけが残される。
 乳児が割れて、中からおしゃぶりが現れる。
 絵が描かれたボックスが落ちてきて積み重なる。
 ボックスは1つの景色を形作り、別の景色に入れ替わる。女の子の絵→船の絵→インディアンの絵。
 迷路。その中を線が進んでいくが、行き止まりになる。
 黒猫が迷路を破壊する。

 [4]
 テーブルの上に帽子があり、テーブルクロスが広がる。
 婦人の柄のついた折りたたみ式ナイフがテーブルの上で踊る。
 踊り終えた後、テーブルクロスの上に血が広がる。
 絵が描かれたボックスが落ちてきて積み重なる。
 ボックスは1つの景色を形作り、別の景色に入れ替わる。途中で女の子が姿を現して消える。
 迷路。その中を線が進んでいくが、行き止まりになる。
 黒猫が迷路を破壊する。

 [5]
 衝立が踊る。
 紙が広がって、次々と折り紙が折られて、飛行機や船が作られていく。
 肖像画の口の中からカードが飛び出してくる。
 カードが舞い、椅子の上でからくり人形が踊る。
 折り紙の飛行機が窓から外へと飛び出していく。
 洗面器には船が浮かんでいる。
 絵が描かれたボックスが落ちてきて積み重なる。
 迷路。線がゴールに達して、迷路を飛び出して肖像画を塗りつぶしていく。
 洋服ダンスの中には大人の服が下がっている。
 黒猫は鳥かごに閉じ込められている。
 セーラー服は、洋服ダンスの中でしわくちゃになっている。

画像

 【台詞部分(日本語字幕)】
 「ジャバウォッキー」
 ゆうやきどき
 トーヴらは
 バタキリリせし
 かよわれなボロゴオヴ
 みどぶしくるじゃきに
 “息子よ ジャバウォッキーに気をつけろ”
 “ジャブジャブ鳥とバンダスチッチにも!”
 息子はまきれなぎ剣をとり
 万の敵を探しいくとせぞ
 タムタムの木陰で休み
 しばし考え込む
 思い沈んでいるところへ
 ジャバウォッキーは
 目を燃やし
 くらりの森へ抜け
 ざわざわがしくやって来た
 1 2!1 2! えいや!えいや!
 まきれなぎ剣で
 しっかり突き通す
 屍置いて勝ちぼこりあげ
 首抱え帰りくる
 “ジャバウォッキーを退治とな?”
 “でかした おいで なんとたくましき英雄ちゃん!”
 “天晴れ 好日! めでたい めでたい”
 父は哄笑 喜びむせぶ

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 【解説】
 すっきりわかりやすい形で、本作を解読してしまうと――

 主人公は、人形遊びをやるような女の子(“セーラー服”で表される)で、彼女がやっている人形ごっこが「ジャバウォッキー」ということになります。

 彼女が、人形ごっこの中で悪者として設定するのが、黒猫と肖像画の人物で、黒猫がジェバウォッキーで、肖像画の人物がその黒幕であり、肖像画の人物は彼女がいたずらなどをするといつも体罰を加える父親なのではないかと想像されます。タイトルバックで出てくる「たたかれる尻」は父親から娘への体罰を象徴的に示しているのでしょう。

 で、テレビ塔の下の林を抜けて少女が帰ってきて、人形遊びをするところから物語が始まることになります。

 様々な試練を経て、「ジャバウォッキー」の主人公は、怪物ジャバウォッキーを退治する、という風に物語は進みますが、そこへ父親が帰ってきて(洋服ダンスにかけられた大人の服が父親を象徴)、それまで元気に遊んでいた少女はシュンとしてしまいます(洋服ダンスの隅のセーラー服)。

 本作に出てくるモチーフと詩「ジャバウォッキー」とを対応させると、
 セーラー服:正義の主人公
 黒猫:ジャバウォッキー
 [2]の木:くらりの森(タルジイの森)
 コーヒー・ミル:バンダスナッチ
 アイロン:ジャブジャブ鳥?
 婦人の柄のついた折りたたみナイフ:ヴォーバルの剣

 各パートにタイトルをつけると、
 [1]:森
 [2]:魔女の館
 [3]:総攻撃
 [4]:1対1の対決
 [5]:凱旋
 ということになるでしょうか。

 「ジャバウォッキー」の物語では、正義の主人公として勝利したはずの少女も、家に帰ってきた父親には全くかなわない、という皮肉な結末になっていますが、シュヴァンクマイエル作品にハッピーエンドはなく、物語がループするか、それまでの物語を否定するような終わり方をするかのどちらかなので、これもシュヴァンクマイエルらしい結末と言えばシュヴァンクマイエルらしい結末と言えるかもしれません。

 本作は、「ジャバウォッキー」の物語を借りて、少女の夢見る悪夢と冒険の旅を描いているわけですが、食べたり食べられたりということや体罰、抑圧から解き放たれて閉ざされた世界から脱出すること、などシュヴァンクマイエル作品によく見られるモチーフ(強迫観念や願望)を見てとることができます。

 ただし、オリジナルに沿っているとはいえ、こういう設定であるのならなぜ主人公は少年ではないかという疑問は残ります。おそらく、シュヴァンクマイエルは、マチズモの象徴や通過儀礼として描かれる男性の冒険譚には興味がなく、少女を主人公としたファンタジーにより惹かれるということなのでしょうか。

 本作には、いくつか人形が出てきますが、それが人間を人形で表したのか、それともただの人形なのかわかりにくいところがあり、そうした反省を踏まえて、『アリス』(1987)ではアリス役に本物の少女を起用したのかもしれません。

 参考:ジャバウォッキーの詩に関するWikipedia:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%90%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%AE%E8%A9%A9

 ◆作品データ
 1971年/チェコスロバキア/13分52秒
 英語台詞あり/日本語字幕なし
 ストップモーション・アニメーション

 *この作品は、オーバーハウゼン映画祭最優秀アニメーション賞(1974)、アトランタ映画祭銀の不死鳥賞(1974)を受賞しています。

 *この作品は、DVD『『ジャバウォッキー』 その他の短編』に収録されています。

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 ◆監督について
 ヤン・シュヴァンクマイエル
 1934年 プラハ生まれ。
 1942年 クリスマス・プレゼントとして人形劇のセットもらい、以後、人形に魅せられるようになる。
 1954年 プラハの芸術アカデミー演劇学部人形学科に入学する。
 1960年 セマフォル劇場で仮面劇を上演。
 1962-64年 視覚芸術ラテルナ・マギカに演出家として加わる。ここで初めて映画と出会う。
1964年 ラテルナ・マギカを離れ、以降は、フリーの立場で活動。
 1964年 最初の短編『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』を制作
 1970年 シュルレアリスト・グループのメンバーとなる。

 当局による改変要求を受け付けず、上映禁止や国内で映画が撮れないという状況を度々経験しながらも、映画制作を続け、今ではチェコ・アニメを代表する映画作家の1人となっています。

 国際的な評価としては―
 カンヌ国際映画祭には、これまで 『J・Sバッハ G線上の幻想』(1965)、 『レオナルドの日記』(1972)、 『男のゲーム』(1988)と3度短編部門のコンペに出品し、 『J・Sバッハ G線上の幻想』でグランプリを受賞。
 ベルリン国際映画祭には、 『対話の可能性』(1982)を短編部門のコンペに出品し、金熊賞(グランプリ)を受賞。 『闇・光・闇』(1989)では名誉賞を受賞。
 そのほか、 『棺の家』(1966)でマンハイム国際映画祭ジョゼフ・フォン・スタンバーグ賞受賞、 『陥し穴と振り子』(1983)でモントリオール国際映画祭短編部門作品賞を受賞しています。

 日本でのチェコ・アニメやアート・アニメーションが続々と公開されるようになったのは、ヤン・シュヴァンクマイエル作品が契機になったと言ってもいいほどで、現在でもシュヴァンクマイエルは監督名だけである程度のお客さんが見込めるほとんど唯一のアニメーション作家だと言っていいと思われます。

 ・1964年 『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』 11分43秒
 ・1965年 『J・Sバッハ G線上の幻想』 9分49秒
 ・1965年 『石のゲーム』 9分
 ・1966年 『棺の家』 10分19秒
 ・1966年 『エトセトラ』 7分15秒
 ・1967年 『自然の歴史(組曲)』 8分55秒
 ・1968年 『庭園』 16分50秒
 ・1968年 『部屋』 13分05秒
 ・1969年 『ヴァイスマンとのピクニック』 11分05秒
 ・1969年 『家での静かな一週間』 20分14秒
 ・1970年 『ドン・ファン』 32分45秒
 ・1970年 『コストニツェ』 10分29秒
 ・1971年 『ジャバウォキー』 13分52秒
 ・1972年 『レオナルドの日記』 11分44秒
 ・1973-79年 『オトラントの城』 17分57秒
 ・1980年 『アッシャー家の崩壊』 15分40秒
 ・1982年 『対話の可能性』 11分45秒
 ・1982年 『地下室の怪』 15分20秒
 ・1983年 『陥し穴と振り子』 14分55秒
 ・1987年 『アリス』 84分30秒
 ・1988年 『男のゲーム』 14分35秒
 ・1988年 『アナザー・カインド・オブ・ラヴ』 3分33秒
 ・1989年 『肉片の恋』 1分05秒
 ・1989年 『闇・光・闇』 7分30秒
 ・1989年 『フローラ』 30秒
 ・1990年 『スターリン主義の死』 9分45秒
 ・1992年 『フード』 17分
 ・1994年 『ファウスト』 96分
 ・1996年 『悦楽共犯者』 82分40秒
 ・2000年 『オテサーネク』 127分
 ・2006年 『ルナシー』 123分

 当ブログでは、ヤン・シュヴァンクマイエルについて、かなり突っ込んで書いているので、詳しくは以下の記事を参考にしてください。

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 本と作品

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 日本公開史

 ・もっとシュヴァンクマイエル スタッフ&カンパニー篇

 ・もっとシュヴァンクマイエル テーマ&モチーフ篇

 ・造形と映像の魔術師 シュヴァンクマイエル展

 ・チェコ映画祭2006、または、エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 2007年 夏! 

この記事へのコメント

2010年06月07日 04:09
初めまして。
非常に参考になる解説でした!
ブログではないのですがこちらの記事にリンクさせて頂いたので、もしご都合が悪い場合はご連絡下さい。
umikarahajimaru
2010年06月07日 20:06
るるさま
リンクはもちろんOKです。
サイト、拝見させていただきました。
充実したサイトですね。ただ、何がどこにあるのかが、ちょっとわかりにくいかも?と思ったりもしましたね。

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