シュヴァンクマイエル vs ヒュー・コーンウェル 『アナザー・カインド・オブ・ラヴ』

 シュヴァンクマイエル来日とシュヴァンクマイエル作品が多数リリースされたのに合わせて、久しぶりに、シュヴァンクマイエル作品について書いてみることにしました。
 当ブログでまだ取り上げていないシュヴァンクマイエルの短編は、あと10作品くらいありますが、今回は、シュヴァンクマイエルにとって唯一のミュージック・ビデオである『アナザー・カインド・オブ・ラヴ』です。



 【物語】
 2脚の椅子が置かれた殺風景な部屋。
 右の椅子の上で赤い帽子が上下する。
 左の椅子には男物の衣服があり、足元には靴がある。曲に合わせて服と靴がリズムを刻む。
 赤い帽子の下から頭が現れ、目・鼻・口がくっきりと浮き出して女性であることがわかる。
 一方、左側では、ズボンから足が出て、靴に収まり、袖からも腕が伸びる。
 壁に、ヒュー・コーンウェルの写真が浮き出し、部屋の中の成り行きをうかがうように、腕を組む。
 着衣のネックから頭が出て、コーンウェルの顔になり、歌を唄い始める。
 壁に貼られていたポスターが突然破れる。
 女の肩から腕が生えたと思うと、次の瞬間には椅子から突き上げるようにして上半身が現れる。
 唄っているコーンウェルの頭がぐちゃっと変形する。
 壁からポスターがはがれ落ちる(?)。
 女の眉が描かれる。
 左の椅子の上からコーンウェルの頭が隆起する。
 女は口紅を引く。
 ポスターの中のコーンウェルがストップモーションでぐるっとまわる。
 女は何か言いたそうな表情をし、ポスターの中のコーンウェルは右を向いたり、左を向いたりする。
 男の靴のつま先が開いて、鋭い歯と舌が現れ、欲望を剥き出しにする。
 女の頭部が破裂して、中身が飛び出す。
 部屋の隅にうずくまるコーンウェル。
 再び、女の頭の上に赤い帽子が乗っかる。
 再び、女の頭が破裂。
 再び、部屋の隅にうずくまるコーンウェル。
 再び、女の頭の上に赤い帽子が乗っかる。
 女の頭の中から飛び出した中身がぞろぞろと椅子の間を這い回る。
 またまた、女の頭が破裂。
 部屋の隅にうずくまるコーンウェル。
 女の頭の上に赤い帽子が乗っかる。
 女の顔の表情が失われていって、消え、椅子の上には赤い帽子だけが残される。
 女がいた椅子のまわりをぐるぐるまわるコーンウェル。
 続いて、コーンウェルは床の上を仰向けに這い回ったりする。
 椅子の上のコーンウェルの姿もぐちゃっと変形する。
 再び、椅子の上に女の頭が現れる。
 女(の頭部が乗った椅子)を男(の頭部が乗った椅子)が追い回す。
 2人がキスすると、2つの頭が交じり合って1つになる。その中から目と口が現れる。
 白い胴体に目・鼻・口が現れては消える。
 くっついた頭が2つに離れる。
 女は再び椅子の上に赤い帽子だけを残して消える。
 とまどって部屋の中をうろうろするコーンウェル。
 コーンウェルは壁に女の輪郭を描く。
 椅子の上のコーンウェルの姿もぐちゃっと変形する。
 男の靴のつま先が開いて、鋭い歯と舌が現れ、欲望を剥き出しにする。
 コーンウェルが描いた女の輪郭から女の顔と腕と胸が現れる。
 床を這い回るコーンウェル。
 コーンウェルの着衣から手足が出たり引っ込んだりする。
 壁に貼られた2つの肖像写真の鼻の部分からバナナ状のものがベロンと垂れ下がる。
 壁に貼られたポスターの中のコーンウェルを壁の中から女が抱きしめる。
 2脚の椅子とともに部屋の中をぐるぐる回るコーンウェル。
 壁に貼られたポスターの中のコーンウェルを壁の中から女が抱きしめる。
 女の頭の中から飛び出した頭の中身が椅子の間を這いずり回る。
 壁に貼られたポスターの中のコーンウェルを壁の中から飛び出した女の足が羽交い絞めにする。
 コーンウェルが壁の中に吸い込まれるようにして、壁の中に姿を消した後で、ポスターの中のコーンウェルが曲の最後のフレーズ“just another kind of love”と口ずさむ。

画像

 【解説】
 この作品は、シュヴァンクマイエルの作品を観たヒュー・コーンウェルが自分の曲のためにミュージック・ビデオを作ってくれとシュヴァンクマイエルに依頼してできたもの、ですが、シュヴァンクマイエルは、こうした楽曲や楽曲が象徴するものを好まず、<好きでもないもののために作品を作ることはできない、もし作っても曲にとってプラスになるとは限らない>といったんは断ったにも拘わらず、コーンウェルは頑として譲ろうとせず、結果としてシュヴァンクマイエルはあくまで自分のやりたいようにするということで依頼を引き受け、この作品を作った、ということです。

 曲の歌詞(下記参照)は、“another kind of love”(もう1つの愛の形がある)、“drive me wild”(私をワイルドな気分にしてくれ)と繰り返すばかりで、物語らしい物語もなく、積極的に解しても「つまらない迷いを振り切って、もう1歩足を前に踏み出し、ぼくと愛を交わし合おう」というくらいにしか受け取れません。
 どう考えてもこの内容(のなさ)を動画で表現するのは難しいので、シュヴァンクマイエルは、あまり歌詞を気にせずにこの作品に挑んだと考えられます。

 ヒュー・コーンウェルは、アードマンとブラザーズ・クエイらが手がけたストップモーション・アニメーションのよるPV、ピーター・ガブリエルの「スレッジハンマー」(1986)がMTVアワードを獲るなどして評判がよかったので、自分は、ブラザーズ・クエイが敬愛するヤン・シュヴァンクマイエルにPVを依頼してみようと思ったのかもしれません。

 本作の意味を理解しようとする場合、わかりにくくしているのは、唄っているコーンウェルと、椅子の上のコーンウェル、床を這い回ったりするコーンウェル、壁のポスターのコーンウェルと、複数のコーンウェルが登場して、それぞれがどういう関係にあるか、はっきりとは描かれていないことです。一応、「椅子の上のコーンウェル」と「床を這い回ったりするコーンウェル」は同じもので、「壁のポスターのコーンウェル」はそんな自分を客観的に見つめるもう1つの自分(理性)、「唄っているコーンウェル」はそれらの物語からは独立した存在、と考えることができるでしょうか。

 作品を全体を通して考えてみると、「1組の男女の恋の駆け引き」というストーリーが浮かび上がってきます。
 すなわち――
 男が恋する女がいて、アプローチするが、男が欲望(つま先から歯と舌をのぞかせる靴)を露にすると、女は厳しい拒絶(女の頭の破裂)を示して去る。
 一度はキスまで進むが、女はそこでまたブレーキをかける。
 男がどうしていいかわからなくなると今度は逆に女の方からアプローチしてきて、ようやく2人は結ばれる――
 と、まあ、こんなところでしょうか。結ばれるのは、男の空想の中で、という解釈もありますが。

 「1組の男女の恋の駆け引き」というのは、あまりシュヴァンクマイエルらしくないテーマですが、表現方法としては、これまでのシュヴァンクマイエル作品におなじみのものが多数見られます。

 「男女の関係と、その変化」を扱っているという意味では、『対話の可能性』(1982)の「情熱的な対話」に似ていると言えるでしょうか。

 作り手の願望や妄想(=壁に描いた絵)が実体化するというのは、シュヴァンクマイエルの作品群のそこここに見え隠れしながら、『オテサーネク』(2000)に至って、長編に結実することになります。

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 ヒュー・コーンウェル “Another kind of love”(1988)

 (Ahhhhhhhhhhhhhhhhh)
 (Ahhhhhhhhhhhhhhhhh)

 Baby, baby welcome to my world
 It ainA’t, baby like no other world (ahh)
 Kick your shoes off, give a little smile
 Kick your troubles in my head
 And start to drive me wild

 Come on drive me wild
 ThatA’s another kind of love
 (Ahhhhhhhhhhhhhhhhh)
 Just another kind of love
 (Ahhhhhhhhhhhhhhhhh)
 ThatA’s another kind of love

 Baby, baby, doinA’ pretty well (ahh)
 Show you, baby, only time will tell
 Once IA’ve started, takes a little time
 Show you, baby, when you arrive
 You start to drive me wild

 ThatA’s another kind of love
 (Ahhhhhhhhhhhhhhhhh)
 Just another kind of love
 ThatA’s another kind of love

 (Come on come on, come on come on)
 (Come on come on, come on come on)
 (Come on come on, come on come on)
 (Come on come on, come on come on)
 Just another kind of love
 (Ahhhhhhhhhhhhhhhhh)

 Baby, baby, now weA’re doinA’ fine
 WonA’t you, baby, now is that a crime?
 Baby, big receivers lifted as you dial
 When you, baby, talk to me
 It starts to drive me wild

 (Ahhhhhhhhhhhhhhhhh)
 YouA’re another kind of love
 ThatA’s another kind of love
 (Ahhhhhhhhhhhhhhhhh)
 Mmm, just another kind of love
 ThatA’s another kind
 ThatA’s another kind of love
 (Ahhhhhhhhhhhhhhhhh)
 ThatA’s another kind of love
 YouA’re another kind
 Just another kind of love
 (Ahhhhhhhhhhhhhhhhh)
 Ooh, another kind of love
 Drive me wild, yeah, drive me wild
 (Ahhhhhhhhhhhhhhhhh)
 Come on come on, come on come on
 Come on, come on, just another kind of love

 ※参考サイト
 ChizMax:http://www.chizmax.com/show-artist-Hugh+Cornwell-title-Love+Autopsy.html

 no fat clips!:http://nofatclips.com/02007/08/21/cornwell/Essay/love.html

 ・ヒュー・コーンウェルに関するWikipedia:http://en.wikipedia.org/wiki/Hugh_Cornwell

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 ◆作品データ
 1988年/英・西独/3分33秒
 英語歌詞あり/日本語字幕なし(日本版DVDにも字幕はありません)
 クレイ・アニメーション

 *この作品は『シュヴァンクマイエル 短篇集』に収録されています。

 
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 ◆監督について
 ヤン・シュヴァンクマイエル
 1934年 プラハ生まれ。
 1942年 クリスマス・プレゼントとして人形劇のセットもらい、以後、人形に魅せられるようになる。
 1954年 プラハの芸術アカデミー演劇学部人形学科に入学する。
 1960年 セマフォル劇場で仮面劇を上演。
 1962-64年 視覚芸術ラテルナ・マギカに演出家として加わる。ここで初めて映画と出会う。
1964年 ラテルナ・マギカを離れ、以降は、フリーの立場で活動。
 1964年 最初の短編『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』を制作
 1970年 シュルレアリスト・グループのメンバーとなる。

 当局による改変要求を受け付けず、上映禁止や国内で映画が撮れないという状況を度々経験しながらも、映画制作を続け、今ではチェコ・アニメを代表する映画作家の1人となっています。

 国際的な評価としては―
 カンヌ国際映画祭には、これまで 『J・Sバッハ G線上の幻想』(1965)、 『レオナルドの日記』(1972)、 『男のゲーム』(1988)と3度短編部門のコンペに出品し、 『J・Sバッハ G線上の幻想』でグランプリを受賞。
 ベルリン国際映画祭には、 『対話の可能性』(1982)を短編部門のコンペに出品し、金熊賞(グランプリ)を受賞。 『闇・光・闇』(1989)では名誉賞を受賞。
 そのほか、 『棺の家』(1966)でマンハイム国際映画祭ジョゼフ・フォン・スタンバーグ賞受賞、 『陥し穴と振り子』(1983)でモントリオール国際映画祭短編部門作品賞を受賞しています。

 日本でのチェコ・アニメやアート・アニメーションが続々と公開されるようになったのは、ヤン・シュヴァンクマイエル作品が契機になったと言ってもいいほどで、現在でもシュヴァンクマイエルは監督名だけである程度のお客さんが見込めるほとんど唯一のアニメーション作家だと言っていいと思われます。

 ・1964年 『シュヴァルツェヴァルト氏とエドガル氏の最後のトリック』 11分43秒
 ・1965年 『J・Sバッハ G線上の幻想』 9分49秒
 ・1965年 『石のゲーム』 9分
 ・1966年 『棺の家』 10分19秒
 ・1966年 『エトセトラ』 7分15秒
 ・1967年 『自然の歴史(組曲)』 8分55秒
 ・1968年 『庭園』 16分50秒
 ・1968年 『部屋』 13分05秒
 ・1969年 『ヴァイスマンとのピクニック』 11分05秒
 ・1969年 『家での静かな一週間』 20分14秒
 ・1970年 『ドン・ファン』 32分45秒
 ・1970年 『コストニツェ』 10分29秒
 ・1971年 『ジャバウォキー』 13分52秒
 ・1972年 『レオナルドの日記』 11分44秒
 ・1973-79年 『オトラントの城』 17分57秒
 ・1980年 『アッシャー家の崩壊』 15分40秒
 ・1982年 『対話の可能性』 11分45秒
 ・1982年 『地下室の怪』 15分20秒
 ・1983年 『陥し穴と振り子』 14分55秒
 ・1987年 『アリス』 84分30秒
 ・1988年 『男のゲーム』 14分35秒
 ・1988年 『アナザー・カインド・オブ・ラヴ』 3分33秒
 ・1989年 『肉片の恋』 1分05秒
 ・1989年 『闇・光・闇』 7分30秒
 ・1989年 『フローラ』 30秒
 ・1990年 『スターリン主義の死』 9分45秒
 ・1992年 『フード』 17分
 ・1994年 『ファウスト』 96分
 ・1996年 『悦楽共犯者』 82分40秒
 ・2000年 『オテサーネク』 127分
 ・2006年 『ルナシー』 123分

 当ブログでは、ヤン・シュヴァンクマイエルについて、かなり突っ込んで書いているので、詳しくは以下の記事を参考にしてください。

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 本と作品

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 日本公開史

 ・もっとシュヴァンクマイエル スタッフ&カンパニー篇

 ・もっとシュヴァンクマイエル テーマ&モチーフ篇

 ・造形と映像の魔術師 シュヴァンクマイエル展

 ・チェコ映画祭2006、または、エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー 

 ・ヤン・シュヴァンクマイエル 2007年 夏!

この記事へのコメント

2007年08月31日 01:09
シュヴァンクマイケルの事を知りたければここに来れば良いという事で拝見しています。
持っている短編集ビデオの中でも軽快なPVという事もあってこの作品はかなりお気に入りですが、シュヴァンクマイケルが乗り気でなく作ったとは・・・
まったく、こちらはためになる情報で、ありがたいです。

umikarahajimaru
2007年08月31日 07:32
imaponさま
お褒めの言葉をいただき、どうもありがとうございました。
シュヴァンクマイエルについては自分でもけっこう頑張って書いているつもりなんですが、リアクセスもアクションも乏しく、映画祭なりDVDなりで大多数の方に既におなじみであるからなのかなあなどと思っておりました。
「シュヴァンクマイケルの事を知りたければここに来れば良い」というほどのものになっているかどうかはわかりませんが、そう言っていただけるととても励みになります。
今後ともよろしくお願いします。

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