子を失った悲しみ 『雌牛』 アレクサンドル・ペトロフ

 DVD「アレクサンドル・ペトロフ作品集」で、ようやくアレクサンドル・ペトロフのデビュー作『雌牛』を観ることができました。
 この作品は、日本では、おそらく広島国際アニメーションフェスティバルで上映されただけであり、しかもその時は日本語字幕なしでの上映だったはずなので、日本語字幕つきでは今回が初めてだと思われます。

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 【物語】
 線路沿いに農夫の家があって、農夫とその妻と息子の3人が住み、母子2頭の牛を飼っている。早く乳離れさせるためか、子牛には、母牛から直接ではなく、別の器からミルクを飲ませている。
 ある日、子牛が売られ、街に連れて行かれることになる。農夫の妻は、せめてもう一度ミルクを飲ませてからと言うが、商人は、そんな未練を断ち切るかのように、さっさと子牛を連れて行ってしまう。
 母牛は、その日から子を失った悲しみで全く動かなくなる。
 農夫の息子は、そんな母牛の悲しみを知って、ぼくが子牛の代わりになってあげるよというが、その気持ちは母牛には通じない。
 母牛は、ついに悲しみに耐え切れなくなったのか、鋤につけられたロープを引きちぎるようにして逃げてしまう。
 農夫もその妻も息子も声を限りに、母牛の名を呼ぶが、母牛は帰らない。
 農夫の息子は、その夜、自分が母牛の子となって母牛の乳にむしゃぶりついている夢を見る。母牛がゆっくりと線路の上を歩いていると、その向こうから轟音を立てて列車が向かってくる。こちらに迫ってくるはずの列車は大きな鋤に変わり、線路を大きく掘り返しながらこちらへと向かってくる。
 大きな衝撃の後、夢と現実が入り乱れたかのように、家の外で騒ぎが聞かれる。
 どうやら夢が現実になったらしく、母牛は列車に轢かれて死んだとわかる。
 農夫の息子は、日記に綴る。お母さん牛は、ぼくとお父さんとお母さんにミルクを飲ませてくれ、列車に轢かれて死んだ後も、ぼくたちに皮や肉を遺してくれました……。

 【コメント】
 既に、これ以降の作品を観ている身としては、油絵が動くということにさほど驚きは感じませんが、これが大学の卒業制作作品だったと知ると、最初から何と言う完成度の高さだったとのかと彼の技術の確かさに改めて驚異を感じますね。まして何の予備知識なしにこの作品とアレクサンドル・ペトロフに出会った広島の観客の方々の衝撃はいかばかりだったでしょうか。

 油絵を動かしてみせることのダイナミズムはまだこの作品ではほとんど窺い知れませんが、そういった技法によりマッチした題材を探していく行為が、彼のその後のフィルモグラフィーと重なっていくということになるのでしょう。

 本作では、子を失った母牛の悲しみを、母牛に共感を寄せる少年の目線から描いているわけですが、世間ずれしていない、素朴でストレートな感情を描こうとしているという点では、アレクサンドル・ペトロフはずっと一貫しているということになるのかもしれません。

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 You Tubeを覗いてみたら、動画がありました。英語字幕ですが、台詞は少な目ですし、台詞がわからなくてもほとんど支障はありません。



 ◆作品データ
 1989年/ソ連/10分
 ロシア語台詞あり/英語字幕あり
 アニメーション

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 ◆監督について
 アレクサンドル・ペトロフ
 1957年ヤロスラヴリ州プリスタチャ村生まれ。

 美術専門学校で絵画を学ぶ。卒業後、モスクワのゼンソ映画大学アニメ画学部に入学し、イワン・イワノフ=ワ—ノの講座をとる。3年の時にユーリ・ノルシュテインの『話の話』を観て衝撃を受ける。81年、卒業と同時にウラルのスベルドロク(現エカテリンブルグ)の映画スタジオで、アニメーション美術を担当する。
 その後、改めて映画大学の“アニメーションの監督とシナリオライターのための特別コース”に入学し、ユーリ・ノルシュテインに教わる。

 卒業制作作品『雌牛』で広島国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞。

 ガラス板に油絵の具で絵を描くという手法(ガラス・ペインティング)を得意とし、文芸色の強い作品を発表し続けている。

 日本・カナダ・ロシアで共同製作した『老人と海』でアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞。
 『マイラブ 初恋』は、広島国際アニメーションフェスティバルで観客賞&国際審査員特別賞を受賞。タイトルを『春のめざめ』と変えて、三鷹の森ジブリ美術館の配給で2007年3月17日より、東京・渋谷シネマアンジェリカにて劇場公開(同時上映『岸辺のふたり』)。「『春のめざめ』原画展」が2007年1月27日より三鷹の森ジブリ美術館ギャラリーで開催。

 アレクサンドル・ペトロフ選出によるベスト・アニメーション(『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと))は―
 『クラック!』『木を植えた男』『話の話』『霧につつまれたハリネズミ』『あおさぎと鶴』『岸辺のふたり』『禿山の一夜』『手』『灰色のめんどり』『草上の朝食』『タンゴ』『ボニファティウスの休暇』『犬が住んでいました』『ストリート』『がちょうと結婚したふくろう』『丘の農家』『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』『作家』『柔和な女』『ストリート・オブ・クロコダイル』。

 ・1981年 “Khalif-aist”<TV>[脚本]

 ・1984年 “Poteryalsya slon”[プロダクション・デザイナー]

 ・1986年 “Dobro pozhalovat”(Welcome)[アート・ディレクター]

 ・1988年 “Marathon”[アニメーター]

 ・1989年 『雌牛』 “Korova”(Cow)[監督]

 ・1991年 “I vozvrashchaetsya veter...”(And the Wind Returneth)[プロダクション・デザイナー]

 ・1991年 “Tsareubiytsa”[セット・デザイナー]

 ・1992年 『おかしな人間の夢』 “Son smeshnogo cheloveka”(Сон смешного человека、The Dream of a Ridiculous Man)[監督]

 ・1997年 『マーメイド(水の精)』 “ Rusalka”(Mermaid)[監督]

 ・1999年 『老人と海』 “The Old Man and the Sea” [監督]

 ・2003年 『冬の日』の「影法の暁寒く火を焼きて あるじは貧にたえし虚家」(杜国)を担当[アニメーション制作]

 ・2006年 『春のめざめ(マイラブ 初恋)』 “My Love” [監督] 
 *当ブログ関連記事 「見直してみたら、凄かった! 『春のめざめ』」

 ・2006年 ニューファンドランド・ラブラドール州 プロモーション用アニメーション “Pitch Plant” [監督]

 ・2007年? “Pacific Life” [監督]

 *当ブログ関連記事
 ・アカデミー賞短編アニメーション賞 リスト!

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