『破滅への歩み』  ジョルジュ・シュヴィツゲベル

 予備知識があって観るのと、予備知識なしで観るのとでは……。



 【物語】
 馬を並べて走らせる2人の男。
 鏡に向かって髪を梳かす女性。
 馬を並べて走らせる2人の男。
 併行して列車が走っている。
 水辺にゴンドラ。
 歌を唄う天使たち。
 花火。
 木陰のカップル。
 馬を並べて走らせる2人の男。
 合唱団にメタモルフォーズ。
 そのとなりでケンカする2頭の犬。
 馬を並べて走らせる2人の男にメタモルフォーズする。
 走る2頭の馬を俯瞰でとらえていき、水面に映った姿から実体の方にするりと入れ替わる。
 通りで遊ぶ子ども。
 馬を並べて走らせる2人の男にメタモルフォーズする。
 景色の方にカメラが先回りして、いくつかの建物のあとで、回転木馬が現れる。
 回転木馬から馬を並べて走らせる2人の男にメタモルフォーズする。
 空を舞う鳥。
 その空に戦火が割り込んでくる。
 街にやってくる騎乗の2人。
 それが、半裸で踊る2人にメタモルフォーズする。
 踊る2人はオーケストラの前へ。
 踊る人が輪になってオーケストラを囲み始める。
 背後に空を舞うカラスや戦火が現れ、輪になって踊る人とオーケストラのまわりに、これまでに登場したシーンが取り巻いていく。

画像

 【コメント】
 英題が“The Ride to the Abyss”で、邦題が『破滅への歩み』(もしくは『深遠(深淵)への歩み』)。
 何だかとても大げさな題のわりには、物語にオチがない。何なんだろう、この作品はと思って、何度も見返すと、音楽と映像が見事にシンクロしていることに気づきます。馬が走るシーンはそれらしい弦楽の演奏が流れるし、天使が歌うシーンでは「サンタ・マリア」と歌う少年少女の歌声が聞こえる。
 もしやと思ってしらべたら、この作品は、ベルリオーズ「ファウストの劫罰」の中の「地獄への騎行」を映像化したものだったんですね(冒頭のクレジットでちゃんと示されてはいたんですが)。“The Ride to the Abyss”は「地獄への騎行」の英題で、仏題は“La Course aL'abime”です。
 しかしながら、ベルリオーズの「ファウストの劫罰」も、「地獄への騎行」も、私は知らなかったので、ちょっと調べてみました。

 ネット上で「ファウストの劫罰」について調べたところ、どうやら本作で2頭の馬に乗っているのは、ファウストとメフィストフェレスらしい、ということがわかってきました。で、どういうストーリーかというと――

 メフィストフェレスは、ファウストが夢の中で出逢った女性マルグリート(マルガリータ)のところに彼を案内する。出会った2人はともに相手を夢に見たと言い、恋が成就する。しかし、ファウストはその場を去らなければならなくなる。
 マルグリートは、ファウストに会えない間に大きな罪を犯し、絞首刑を宣告される。ファウストはそれをメフィストフェレスから聞かされるが、メフィストフェレスは彼女を救う手立てがあるが、そのためには自分の魂を売らなければならないとファウストに言う。
 ファウストは、メフィストフェレスに魂を売り、マルグリートを救うために馬を走らせる(この部分が「地獄への騎行」)。
 しかし、ファウストは、まわりの風景がどんどんグロテスクなものになっていくことに対し恐怖心を募らせていく……。

 物語を知ってから観るのと、知らないで観るのでは、印象が全然違いますね。
 確かにこの部分だけでは物語的なオチはなかったんですが、物語を知ったあとでは、本作で描かれていた各パートがすべて意味を持っていた、ということがわかってきます。

 これ以前のジョルジュ・シュヴィツゲベルの作品には、特に物語性はなかったのですが、『絵画の主題』までで「視覚とアニメーションの実験」の時期を終えたということでしょうか、本作以降、彼も物語にそうしたテクニックをどう生かすかということを試す方向に向かいます。

 ◆作品データ
 1992年/スイス/4分20秒
 台詞なし/字幕なし
 アニメーション

 *この作品は、広島国際アニメーションフェスティバルで、5分以内の作品部門2位となりました。

 *この作品は、アヌシー国際アニメーションフェスティバルで選ばれた短編アニメーション ベスト100の42位にランクインしています。

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 ◆監督について
 ジョルジュ・シュヴィッツゲベル
 スイスを代表するアニメーション作家&グラフィック・デザイナー。キャリアは30年以上ですが、この10年間で特に評価が高まっているようです。
 1944年 スイスのベルン生まれ。1951年にジュネーブに移る。
 1961年 ジュネーブのArt School and College of Decorative Artsに入学(~1965年)
 1966年 ジュネーブの広告代理店に入社(~1970年)
 1970年 独立して、Claude Luyet 、Daniel Suter とともにGDS Studio を設立し、テレビ番組のタイトルやポスター、広告イラスト、短編アニメーション等を手がける。
 1983-1984年 中国語を学ぶために1年間、上海の復旦大学で学ぶ。
 1986年 スイスのビュルにあるGruyerien美術館で GDS Studioの展覧会開催。
 1987年 Nürenbergで回顧展開催。
 1992年 ジュネーブで舞台“Children's King”のためのセットを手がける。
 ジュネーブの Building-House のためにフレスコ画を手がける。
 1994年 シュツットガルトで展覧会&回顧展開催。
 1995年 東京と大阪とパリで回顧展開催。
 ジュネーブのギャラリーPapiers Grasで展覧会開催。
 1996年 ジュネーブのJardin BotaniqueとギャラリーPapiers Grasで展覧会開催。

 ・1971年“Patchwork ” *カンヌ国際映画祭 短編部門ノミネート
 ・1974年 『イカロスの飛翔』 “Le Vol d'lcare”
 ・1975年 『遠近法』 “Perspectives”
 ・1977年 『オフサイド』 “Hors-jeu”
 ・1982年 『フランケンシュタインの恍惚』 “Le Ravissement de Frank N. Stein” *ベルリン国際映画祭C.I.D.A.L.C. Award名誉賞受賞
 ・1985年 『78回転』 “78 Tours”
 ・1986年 『ナクーニン』 “Nakounine”
 ・1987年“Academy Leader Variations” *カンヌ国際映画祭審査員賞受賞
 ・1989年 『絵画の主題』 “Le Sujet du tableau”
 ・1992年 『破滅への歩み』(『深遠への旅』) “La Course à l'abîme” *広島国際アニメーションフェスティバル 5分以内の作品部門2位
 ・1995年 『鹿の一年』 L' Année du daim(The Year of the Deer)” *ザグレブ国際アニメーションフェスティバルCategory A - 30 Sec. to 5 Min First Prize受賞
 ・1996年 『ジグザグ』 “Zig Zag”
 ・1998年 『フーガ』 “Fugue” *オタワ国際アニメーションフェスティバルBest Use of Colour Craft Prizes受賞、スイス映画賞最優秀短編賞ノミネート、ザグレブ国際アニメーションフェスティバルSpecial Recognition受賞
 ・2001年 『少女と雲』 “La Jeune fille et les nuages(The Young Girl and the Clouds)” *スイス映画賞短編映画部門受賞、ザグレブ国際アニメーションフェスティバルSpecial Recognition受賞、広島国際アニメーションフェスティバル優秀賞受賞
 ・ 2004年 『影のない男』 “L' Homme sans ombre(The Man with No Shadow)” *カンヌ国際映画祭 短編部門Prix Regards Jeune受賞、ジニー賞短編アニメーション部門ノミネート、スイス映画賞最優秀短編賞ノミネート、ザグレブ国際アニメーションフェスティバル審査員特別賞&Jury Award of the Partner Festival Krok 受賞、広島国際アニメーションフェスティバル国際審査員特別賞受賞
 ・2006年 『技』 “Jeu” *スイス映画賞最優秀短編アニメーション賞ノミネート、広島国際アニメーションフェスティバル国際審査員特別賞受賞

 *1995年にイメージフォーラムの<Magical View!>というプログラムで、イギリスの映像作家トニー・ヒルの6作品とともに、8作品(『イカロスの飛翔』『遠近法』『オフサイド』『フランケンシュタインの恍惚』『78回転』『絵画の主題』『破滅への歩み』『鹿の一年』)が劇場公開されました。

 *第7回ラピュタアニメーションフェスティバル2006で『イカロスの飛翔』『遠近法』『オフサイド』『フランケンシュタインの恍惚』『78回転』『ナクーニン』『絵画の主題』『破滅への歩み』『鹿の一年』『ジグザグ』『フーガ』『少女と雲』『影のない男』『技』という主だった14作品が<ジョルジュ・シュヴィッツゲベル作品集>として上映されました。
 これに先立って、『技』以外の13作品が『ジョルジュ・シュヴィツゲベル作品集』として2005年に日本でもDVDリリースされています。

 *参考サイト:THE GALLARY:http://www.awn.com/gallery/schwizgebel/index.html

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