1986年のベストPV ブラザーズ・クエイ+アードマン・スタジオ 『スレッジハンマー』

 ピーター・ガブリエルのPV『スレッジハンマー』は、ブラザーズ・クエイが初めて関わったPVであり、アードマン・スタジオ(ニック・パーク、ピーター・ロード、リチャード・ゴルゾウスキー)がアニメーションを担当した最初期のPVでもあります。



 今、この作品を観ると、ピーター・ガブリエルがストップ・モーション・アニメーションと戯れているだけで、歌詞と映像との関係性がゆるいし、なんだか“はしゃいでる”感ばかりが感じられて、これってアート作品としてどうなの?と思ってしまうんですが、この作品は、当時大きな評判を呼んでいて、1987年のMTVミュージック・ビデオ・アワードのベスト・ビデオに選ばれています。当時はこの映像が(PVにストップ・モーション・アニメーションを使うことが)、一般的にも音楽業界的にも新鮮で、とても面白いと感じられたということなんでしょう。

 スレッジハンマーとは、「大槌」のことで、実際に映像としても「大槌」が出てきますが、「力」の比喩的表現だと思われます。

 なぜ精子の受精から始まって、ピーター・ガブルエルが登場するのか、そして、ラストはなぜ光の点を纏って部屋から出て行くところで終わるのか、意味不明なんですが、おそらく、そんなに深い意味なんてないのでしょう。
 全体的には、歌詞からイメージの一部を取り出して歌詞とは関係なくそれをどんどん展開させて、また歌詞に戻るという作業を繰り返している、という感じでしょうか。

 ブラザーズ・クエイは、この作品のアニメーション部分に協力したということになっているんですが、確か、クエイ自身は、シュヴァンクマイエルの影響が出すぎているので、この作品はあまり気に入っていないそうです(Wikipedia情報)。
 果物を使ってアルチンボルド風の顔を作ってみせている以外は、そんなにシュヴァンクマイエルぽくもないような気がするんですが……。

画像

 この作品は、日本では、1996年に『ウォレスとグルミット』が初紹介された時に同時公開されています。ちなみに、この年は、ブラザーズ・クエイの初長編『ベンヤメンタ学院』と短編集が日本公開された年であり、<ヤン・シュワンクマイエル 妄想の限りなき増殖>と題して、これまで日本未公開だったシュヴァンクマイエルのすべての作品が劇場公開された年でもあります。“パペット・アニメーション”元年というか、“アート・アニメーション”が大いに盛り上がりを見せた年だったんですね。

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 “Sledgehammer”

 you could have a steam train
 if you'd just lay down your tracks
 you could have an aeroplane flying
 if you bring your blue sky back

 all you do is call me
 I'll be anything you need

 you could have a big dipper
 going up and down, all around the bends
 you could have a bumper car, bumping
 this amusement never ends

 I want to be your sledgehammer
 why don't you call my name
 oh let me be your sledgehammer
 this will be my testimony
 show me round your fruitcage
 'cos I will be your honey bee
 open up your fruitcage
 where the fruit is as sweet as can be

 I want to be your sledgehammer
 why don't you call my name
 you'd better call the sledgehammer
 put your mind at rest
 I'm going to be the sledgehammer
 this can be my testimony
 I'm your sledgehammer
 let there be no doubt about it

 sledge sledge sledgehammer

 I've kicked the habit
 shed my skin
 this is the new stuff
 I go dancing in, we go dancing in
 oh won't you show for me
 and I will show for you
 show for me, I will show for you
 yea, yeah, yeah, yeah, yeah, yeah, I do mean you
 only you
 you've been coming through
 going to build that power
 build, build up that power, hey
 I've been feeding the rhythm
 I've been feeding the rhythm
 going to feel that power, build in you
 come on, come on, help me do
 yeah, yeah, yeah, yeah, yeah, yeah, yeah, yeah, you
 I've been feeding the rhythm
 I've been feeding the rhythm
 it's what we're doing, doing
 all day and night

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 [拙訳]

 君が線路を敷いたら ボクは蒸気機関車を用意するし
 君が青空を描いたら ボクは飛行機を調達するよ

 君はただボクを呼べばいい
 そしたら必要なものはみんなボクが用意するから

 君が遊園地のトロッコに乗りたいなら 思う存分乗せてあげるし
 君がバンピング・カーに乗りたいなら もういいというくらいまで乗せてあげるよ

 君の力(スレッジハンマー)になりたい
 ボクを呼んでくれよ
 そうすれば君の力になるからさ
 これがボクの生きる証なんだ
 君が果物かごを持ってきたら
 ボクはミツバチになるよ
 そしたらどのフルーツが一番甘いか教えてあげられるから

 君の力になりたい
 ボクを呼んでくれよ
 ボクを頼りにしてくれていいんだ
 落ち着いて聞いて欲しい
 ボクは君の力になりたい
 きっとこれがボクの生きる証なんだ
 ボクは君の力さ
 これは疑いようのないことなんだ

 スレッジ スレッジ スレッジハンマー

 ボクはこれまでの習慣を改めるし
 これまでの自分を脱ぎ捨てて
 新しい自分になるよ
 踊ろうか 一緒に踊ろうよ
 ボクのために踊って見せてくれよ
 ボクも踊るからさ
 踊ってよ ボクも踊るからさ
 そうさ 君だよ
 君だけさ
 君はなんでもできるようになるし
 パワーもアップできるんだ
 ボクがパワーアップさせてあげるよ そうさ
 リズムを漲らせて
 リズムを漲らせて
 パワーがわかるだろう 君を強くしてあげるよ
 さあ ボクを頼りにしてくれよ
 そうさ
 リズムを漲らせて
 リズムを漲らせて
 ボクらに必要なことはそれなんだ
 昼も夜も

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 ◆作品データ
 1986年/英/5分
 台詞なし(英語歌詞あり)/日本語字幕なし
 ストップ・モーション・アニメーション

 *この作品は、1987年のMTV ミュージック・ビデオ・アワードで以下の賞を受賞しています。全11部門のうち6部門独占です。
 ベスト・ビデオ・オブ・ザ・イヤー(Best Video of the Year): Peter Gabriel, "Sledgehammer"
 ベスト男性ビデオ(Best Male Video): Peter Gabriel, "Sledgehammer"
 ベスト・コンセプト・ビデオ(Best Concept Video): Peter Gabriel/Stephen Johnson, "Sledgehammer"
 ベスト特殊効果賞(Best Special Effects in a Video): Peter Gabriel, "Sledgehammer"
 最優秀監督賞(Best Direction in a Video): Peter Gabriel, "Sledgehammer"
 ビデオ・ヴァンガード賞(Video Vanguard Award): Julien Temple and Peter Gabriel

 *『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと)で149位。

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 ◆監督について
 ブラザーズ・クエイ (スティーヴン&ティモシー・クエイ)
 人形を使った幻想的なストップ・モーション・アニメーションで知られる映像作家。英国怪奇ロマンの異端、映像の錬金術師とも呼ばれる。

 1947年 アメリカ ペンシルベニア州ノリスタウン生まれ。
 1965-69年 フィラデルフィア芸術大学でイラストレーションを学んだ後、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(Royal College of Art/英国王立美術大学)で学ぶためにイギリスに移り(徴兵を逃れるため、という説もある)、以後、イギリスを主な活動拠点とする。
 ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで初期短編(“Der Loop Der Loop”、“II Duetto”、“Palais En Flammes”)を製作するが、現在は残っていない。
 70年代はオランダでブック・デザインなどをして過ごし、その後、イギリスに戻って、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで同窓であったキース・グリフィスと3人で、Koninck Studiosを設立した。
 1979年、BFIの出資で『人工の夜景』を製作。以降、人形を使ったストップ・モーション・アニメーションを次々と発表。1995年には、実写による初めての長編作品『ベンヤメンタ学院』を手がけた。

 特に東欧の芸術文化への関心が高く、そこから作品のモチーフを選ぶことも多い。
 彼らが好み、影響を受けたとされる芸術家は、ヤン・シュヴァンクマイエルを筆頭に、ポーランドのアニメーション作家であるヴァレリアン・ボロズィック(Walerian Borowczyk)やヤン・レニッツァ(Jan Lenica)、ポーランドの作家ブルーノ・シュルツ、フランツ・カフカ、スイスのドイツ語詩人・作家ロベルト・ヴァルザー(Robert Walser)、フランドルの劇作家ミシェル・ド・ゲルドロード(Michel De Ghelderode)、ロシア出身のアニメーション作家Ladislas Starevich、ボヘミアの人形師Richard Teschner、チェコの作曲家レオス・ヤナーチェク、シュヴァンクマイエル作品で知られるチェコの作曲家ズデニェク・リュシュカ、ポーランドの作曲家レゼック・ヤンコフスキ(Leszek Jankowski)など。

 映画の制作のほか、演劇やオペラの装飾、イラストレーション、ブック・デザイン、CM等も手がけている。

 受賞&ノミネート歴は、『ストリート・オブ・クロコダイル』がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品(22分の作品ながら長編部門にエントリー!)。
 シッチェス・カタロニア国際映画祭では『ストリート・オブ・クロコダイル』が短編部門Caixa de Catalunya受賞、『イン・アブセンティア』“In Absentia”が最優秀短編映画賞を受賞。
 ロカルノ国際映画祭では、コンペティション部門に長編2作品を出品し、『ピアノチューナー・オブ・アースクエイク』“The Piano Tuner of Earthquakes”が特別賞&ヤング審査員特別賞を受賞。
 クラクフ映画祭では、『イン・アブセンティア』“In Absentia”で特別賞受賞、2003年にドラゴン・オブ・ドラゴンズ名誉賞を受賞。

 日本では、1988年にイメージフォーラム フェスティバルで初紹介。
 翌1989年にシネ・ヴィヴァン・六本木で、『ストリート・オブ・クロコダイル』というタイトルで短編4作品(『レオス・ヤナーチェク』『ヤン・シュヴァンクマイヤーの部屋』『ギルガメッシュ/小さなほうき』『ストリート・オブ・クロコダイル』)がレイトショー公開され、約4ヶ月にも及ぶロングランを記録した。
 上記4作品に『失われた解剖模型のリハーサル』を加えた5作品がダゲレオ出版より『ストリート・オブ・クロコダイル』としてVHSで発売されたが、8000円近い価格にも拘らず、10000本を越えるセールスを記録。日本では未だにDVD化はされていない。その後、VHS『ブラザーズ・クエイ短編集vol.2』が、同じくダゲレオ出版から発売された(『人工の夜景』『櫛』『スティル・ナハト2』『スティル・ナハト3』『スティル・ナハト4』を収録)。
 1996年に『ベンヤメンタ学院』が劇場公開された時には、10作品の短編を2プログラムに分けて上映するプログラムも組まれた(Aプロ:『レオス・ヤナーチェク』『ヤン・シュヴァンクマイヤーの部屋』『ギルガメッシュ/小さなほうき』『ストリート・オブ・クロコダイル』 Bプロ:『失われた解剖模型のリハーサル』『人工の夜景』『櫛』『スティル・ナハト2』『スティル・ナハト3』『スティル・ナハト4』)。

 ピーター・グリーナウェイは彼らをモデルとして映画『ZOO』を作り、テリー・ギリアムはベスト・アニメーションの1本として『ストリート・オブ・クロコダイル』を選んでいる。

 2007年4月に、Zeitgeist FilmsよりDVD“Phantom Museums: The Short Films of the Quay Brothers”が発売された。これは、彼らの30年近い活動の集大成的な短編集で、13本の短編(全261分)に、インタビュー、オーディオ・コメンタリー、クエイ事典を含む24ページのブックレットつきで、34.99ドル。日本未発売。

 ・1979年 『人工の夜景』“Nocurna Artificiala”
 ・1980年 “Punch & Judy: Tragical Comedy or Comical Tragedy(Punch & Judy)”
 ・1980年 “The Falls” [出演/監督:ピーター・グリーナウェイ]
 ・1981年 “Ein Brudermord”
 ・1981年 “The Eternal Day Of Michel de Ghelderode”
 ・1983年 “Stravinsky - The Paris Years”
 ・1983年 『レオス・ヤナーチェク』“Leoš Janáček : Intinate Excursions”
 ・1984年 『ヤン・シュヴァンクマイヤーの部屋(ヤン・シュヴァンクマイエルの部屋)』“The Cabinet of Jan Svankmajer”
 ・1985年 『ギルガメッシュ/小さなほうき』“This Unnameable Little Broom(Epic of Gilgamesh/ Little Songs of the Chief Officer of Hunar Louse)”
 ・1986年 『ストリート・オブ・クロコダイル』“Street of Crocodiles”
 ・1986年 「ハニーウェル」 [CM]
 ・1986年 「スレッジハンマー」[協力][PV/監督:スティーヴン・ジョンソン]
 ・1987年 “The Films of the Brothers Quay(Tales of the Brothers Quay/ The Brothers Quay Collection)”
 ・1987年 「ウォーカー・チップス」 [CM]
 ・1987年 「デュラックス防水液」 [CM]
 ・1988年 “Stille Nacht I”
 ・1988年 『失われた解剖模型のリハーサル』“Rehearsals for Extinct Anatomies”
 ・1989年 “Ex-Voto/The Pond”
 ・1990年 『櫛』“The Comb(From The Museums Of Sleep)”
 ・1991年 『アナモルフォーシス』“De Artificiali Perspectiva(Anamorphosis)”
 ・1991年 “The Calligrapher”
 ・1991年 『スティル・ナハト2』“Stille Nacht II: Are We Still Married? ”
 ・1992年 “Long Way Down (Look What The Cat Drug In)”
 ・1992年 『スティル・ナハト3』“Tales from the Vienna Woods(Stille Nacht III)”
 ・1993年 『スティル・ナハト4』“Stille Nacht IV(Can't Go Wrong Without You)”
 ・1995年 “The Summit”
 ・1995年 『ベンヤメンタ学院』“Institute Benjamenta, or This Dream People Call Human Life(Institute Benjamenta/ Institute Benjamenta, or This Dream Which One Calls Human Life)”[長編]
 ・1996年 『悦楽共犯者』 [音楽(music co-operator)/監督:ヤン・シュヴァンクマイエル]
 ・2000年 『サンドマン』“The Sandman”[TV]
 ・2000年 『デュエット』“Duet”
 ・2000年 『イン・アブセンティア』“In Absentia”
 ・2000年 『フリーダ』 [アニメーション/監督:ジュリー・テイモア]
 ・2002年 “Celluloid Dreams” [出演/監督:James Dunnison]
 *ジャン=ピエール・ジュネ、デイヴィッド・リンチ、ガイ・マディンらについてのドキュメンタリー
 ・2003年 『ソングス・フォー・デッド・チルドレン』“Songs for Dead Children”
 ・2003年 『ファントム・ミュージアム』“The Phantom Museum: Random Forays Into the Vaults of Sir Henry Wellcome's Medical Collection” [TV]
 ・2005年 『ピアノチューナー・オブ・アースクエイク』“The Piano Tuner of Earthquakes” [長編]

 ※特記なしは、短編監督作品。

 ◆参考サイト

 ・ブラザーズ・クエイに関するWikipedeia:http://en.wikipedia.org/wiki/Brothers_Quay

 ・senses of cinema:http://www.sensesofcinema.com/contents/directors/04/quay_brothers.html

 以前は、公式サイトもあったのですが、閉鎖されてしまったようです。

 ◆参考書籍

 ・滝本誠『映画の乳首、絵画の腓』(ダゲレオ出版) p40-53

 ・『夜想34 パペット・アニメーション』(ペヨトル工房)

 ・ 『ユーロ・アニメーション』(フィルムアート社) p74-79

 ・ 『アートアニメーションの素晴らしき世界』(エスクァイア マガジン ジャパン) p130-135

この記事へのコメント

スレッジハンマー
2013年09月17日 23:18
スレッジハンマーは男性性器のことですよ。
いろいろ意味が繋がるのでは?
umikarahajimaru
2013年09月17日 23:29
スレッジハマーさま
なるほど。
「デカ××」を意味する俗語だったんですね。

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