あまりにも可憐で、繊細で、大切にしまっておきたい宝物ような作品 『水玉の幻想』

 踊り子に恋した綿毛の物語。

 前半
 


 後半
 


 【物語】
 窓ガラスを雨が滴っている。
 窓ガラスの向こうでは、ガラス細工職人が机に向かっているが、考えがまとまらないのか、手を休めて、思案気に窓を打つ雨を見つめる。

 雨上がりの戸外。
 木の葉の上に1つの水玉が乗っかっている。
 その中を覗くと、まるで海中のような世界が広がっていて、水草が生えているかと思えば、小魚も泳いでいる。
 貝が吐いた気泡が上昇していき、“水面”ではじける。
 水面では踊り子が華麗なスケートの妙技を見せていて、それをペンギンたちが見とれている。
 タンポポの綿毛が風に飛んで、その中の1つが水玉の中に入り込む。
 綿毛は、ピエロに姿を変える。
 ピエロは、一目で踊り子を好きになるが、彼女からは相手にされない。そればかりか、2人の間には氷の壁ができる。
 ピエロの思いは、氷の壁を砕く。ピエロは氷の破片に乗って流れていく。
 踊り子は、3頭立ての橇を走らせている。彼女は氷の壁をするりと抜け、ピエロはまたしても思いを遂げることができない。
 失意のピエロは綿毛の姿に戻る。
 物語の舞台となっていた水玉が、木の葉の上から滑り落ちる。

 窓を打つ雨を見つめるガラス細工職人。
 すべては彼の空想の産物だったのか……。
 彼は、夢から覚めて、再び作業にとりかかる。

画像

 【コメント】
 本作は、水玉の中で、踊り子に恋したピエロの失恋の物語で、カレル・ゼマンとしては唯一の叙情的作品になります。

 カレル・ゼマンと言えば、冒険ファンタジーが代名詞のようになっているわけですが、初期はメルヘンチックな作品が得意なヘルミーナ・ティールロヴァーの影響が濃く、自分が何を得意としているのかがまだ見えていなかったということでしょうか(だからといって、この作品が傑作であるということを否定しているわけではありませんが)。

 分不相応な相手に恋したピエロの物語というのは、古くからある恋愛ものの一パターンですが、成就されない悲恋に終わるものが多く、最近の作品ではパトリス・ルコントの『歓楽通り』なんかが思い出されます。
 ジョン・ラセターの『Knick Knack ニック・ナック』も、ある意味で、これのバリエーションの1つと言えるでしょうか。

 本作を特徴づけているのは、なんといっても、次の瞬間には砕けて消え去ってしまうかもしれない水玉の中の世界を、極度にデリケートな取り扱いを要するガラス細工の人形を使ってストップ・モーション・アニメーションで再現したことで、儚さと美しさが相俟った、唯一無二(カレル・ゼマンを含めて、二度と誰も同様のことを試みることがなかった)の作品にすることに成功しています。

 ストップ・モーション・アニメーションであるからには、少しずつ形の違ったガラス細工の人形を数多く作って、それをコマ撮りし、まるで動いているかのように見せているわけですが、1コマずつ撮影していかなければならないストップ・モーション・アニメーションの大変さのほかに、壊れやすいガラス細工を使っているということで、制作が二重に大変だったということは想像に難くありません。『アニメーターズ1 カレル・ゼマン』(日本出版社)によると、制作にあたって実際に何体ものガラス細工が破損してしまい、思い出すのも嫌なほど苦労した、と伝えられています。

 ◆作品データ
 1948年/チェコスロバキア/11分
 台詞なし/字幕なし
 ガラス細工によるストップ・モーション・アニメーション

 *『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと)で56位。

 *この作品は、DVD『カレル・ゼーマン作品集』に『盗まれた飛行船』とともに収録されています。

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 ◆監督について
 カレル・ゼマン
 1910年 オーストリア・ヘンガリー帝国(現・チェコ)のオストロムニェジェに生まれ、1989年 プラハで没。
 幻想の魔術師、映像の錬金術師、チェコアニメ3巨匠の1人などと称される。

 少年の心をくすぐる冒険ファンタジー、次々と襲い来る試練とロマンの物語、イマジネーションあふれる“未来の”マシーンやメカの創造(特に空を飛ぶ乗り物)、技術の不足をアイデアで補った特撮、……。子ども向けの作品ばかりでありながら、(今となってはレトロとも思える)その作品の魅力にとりつかれたファンは多い。

 父親は貝ボタン職人。
 幼い頃から人形劇が好きだった。
 フランスの広告美術の学校で学び、マルセイユのスタジオに就職。最初に手がけた仕事はスープの広告。
 帰国後も広告の仕事がしたいと考え、まずは、ショーウィンドウのディスプレイのデザインなどを担当した後、ズリーンのクゥドロフ・スタジオに広報担当として就職(1943年)。そこで、アニメーション作家ヘルミーナ・ティールロヴァーと出会い、アニメーションの制作に興味を持つ。
 1945年 ティールロヴァーと共同で『クリスマスの夢』を監督。正確には、撮影所の火事でフィルムが焼失してしまったことで失望して降板したティールロヴァーに代わって、カレル・ゼマンが再撮影を買って出る。実写部分をボジヴォイ・ゼマンが監督。この作品は、1946年のカンヌ国際映画祭で最優秀アニメーション賞を受賞。
 1947年 ゼマンとしての最初のプロジェクト「プロコウク氏」シリーズを手がける。
 1950年 最初の中編『王様の耳はロバの耳』を制作。この作品でアニメーションの監督として国内でも知られるようになる。
 1955年 俳優を使った、最初の実写作品『前世紀探検』を制作。
 続いて、ジュール・ヴェルヌ原作の『悪魔の発明』、『ほら男爵の冒険』、『彗星に乗って』など、子ども向けのSFや冒険ファンタジーを制作して、一躍人気監督となる。

 1987年には第2回国際アニメーションフェスティバルに国際名誉会長として来日している。

 娘のルドミラ・ゼマンは、1984年にカナダに移住し、父の『シンドバッドの冒険』のアニメーターだったEugene Spalenyと結婚(http://www.bookcentre.ca/gg/lzeman.htm)。Eugene Spalenyは、“Certík Fidibus”(1981)、“Lord of the Sky ”(1992)等の監督作品を発表している。

 【フィルモグラフィー】
 ・1945年 『クリスマスの夢』
 ・1946年 『ハムスター』
 ・1946年 『幸福の蹄鉄』
 ・1947年 『プロコウク氏 在役中の巻(靴屋はいやだの巻)』
 ・1947年 『プロコウク氏 試練を受けるの巻(家作りの巻)』
 ・1947年 『プロコウク氏 ボランティアの巻』
 ・1947年 『プロコウク氏 映画製作の巻』
 ・1947年 『生者の中の死者』
 ・1947年 『労働者』
 ・1948年 『水玉の幻想』
 ・1949年 『プロコウク氏 発明家の巻(発明の巻)』
 ・1950年 『王様の耳はロバの耳(ラーヴラ王)』
 ・1952年 『鳥の島の財宝』
 ・1955年 『前世紀探検』 1958年日本公開
 ・1955年 『プロコウク氏 動物の友の巻』
 ・1958年 『悪魔の発明』 1959年日本公開
 ・1958年 『プロコウク氏 探偵の巻』
 ・1959年 『プロコウク氏 アクロバットの巻』
 ・1961年 『ほら男爵の冒険』 2004年日本公開
 ・1964年 『狂気のクロニクル』 2003年日本公開
 ・1966年 『盗まれた飛行船』 1987年日本公開
 ・1970年 『彗星に乗って』 1987年日本公開
 ・1971年 『シンドバッドの冒険 第1話 はじめての冒険』
 ・1972年 『シンドバッドの冒険 第2話 ふたたびの海へ』
 ・1972年 『プロコウク氏 時計屋の巻』
 ・1973年 『シンドバッドの冒険 第3話 巨人の島(巨人の国)』
 ・1973年 『シンドバッドの冒険 第4話 磁石の山』
 ・1973年 『シンドバッドの冒険 第5話 空飛ぶじゅうたん』
 ・1974年 『シンドバッドの冒険 第6話 閉じ込められた魔神(かいならされた悪魔)』
 ・1974年 『シンドバッドの冒険 第7話 海のサルタン』
 ・1976年 『千一夜物語』
 ・1977年 『クラバート』 2003年日本公開←1981年 池袋西武スタジオ200にて上映
 ・1980年 『ホンジークとマジェンカ』 2003年日本公開
 ・1981年 『カレル・ゼマンと子供たち』

 *資料によりデータ(邦題、制作年、作品そのもの)が異なる場合があります。

 *2003年にシアター・イメージフォラムにて<カレル・ゼマン レトロスペクティブ>が開催され、長編8作品(『鳥の島の財宝』『前世紀探検』『悪魔の発明』『狂気のクロニクル』『盗まれた飛行船』『彗星に乗って』『シンドバッドの冒険』『クラバート』『ホンジークとマジェンカ』)、短編5作品(『クリスマスの夢』『プロコウク氏 映画製作の巻』『水玉の幻想』『王様の耳はロバの耳』『鳥の島の財宝』『カレル・ゼマンと子供たち』)が上映されました。2004年 同劇場で『前世紀探検』『ほら男爵の冒険』が上映されました。

 *参考書籍
 ・『アニメーターズ1 カレル・ゼマン』(日本出版社)
 ・『夜想35 チェコの魔術的芸術』(ペヨトル工房) p58-69
 ・『チェコアニメの巨匠たち』(エスクァイア マガジン ジャパン) p69-79

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