私は黒マジック “Drawing Lesson #2” ビル・プリンプトン

 “Drawing Lesson #2”は、黒マジックが自分のダメ男っぷりを自嘲気味に、絵で描きながら語るというちょっと変わったスタイルの作品で、ビル・プリンプトンの最初期のアニメーションになります。



 【物語】
 私は黒マジック。
 今日は、描き方教室 その2を始めましょう。前回のレッスンでは、球、立方体、円錐、の描き方をやりましたね。
 今日は顔の描き方を……あ~、すいません、“筆”が滑りました。昨晩はつらい夜だったんです。
 顔は、卵形を上下に2等分して、目鼻口はこのような位置に描きます。
 あ~、ついつい、“筆”が滑ってしまう。
 これは愛しのヴェラです。彼女は私の絵のモデルでした。
 私は、ずっとヴェラとの幸せの日々が続くと思ってました。
 夢や野心だってありました。美術館で展覧会をやり、テレビのトークショーに出演し……。
 なのになのに、ある日、ヴェラは出て行ったまま、2度と戻らなかったんです。
 あ~、これも私の生活能力のなさが原因でしょうか。
 仕事を探さなくちゃ。でも私にどんな仕事ができるっていうんです?
 駐車場のライン? 殺人現場の死体のふちどり線?
 悲しくなって、昔のガールフレンドに電話してみましたが、彼女は全く相手にしてくれません。
 こうなったら酒に溺れるしかないじゃないですか。
 でも、心機一転、外に出て、女の子に声をかけてみようと決心しました。
 ところが……声をかけた女の子は気味悪がって、足で私を踏んづけるんです。
 絶望して、白インクの中に飛び込んで自殺しようかと思っていたところ……絵のレッスンを受けたいという若い女性がやってきてくれました(喜)。

 ビル・プリンプトンには、『タバコをやめるための25の方法』とか『女の攻略法』とか、“~する方法”をかなりの誇張と悪ふざけで教えてくれるタイプのギャグ・アニメーションが多々ありますが、“Drawing Lesson #2”は最初期の作品だけあって、絵の描き方を教えてくれるというスタイルを取りながらも、まだ作り込まれていないというか、後年の作品に見られるような余裕や落ち着きはほとんど感じられません。この時点では、アニメーションでできることに関して手探り状態で、とりあえず“描くこと”をそのまま作品にしたら、こんな映画ができてしまったというところでしょうか。

 「な、同じ男ならわかるだろ?」というスタンスで、観客に共感と同情を求めながら語りかけるというスタイルも例外的なら、後にプリンプトン作品のトレードマークともなるおなじみのキャラクターもこの時点ではまだ登場しません。あらかじめ知っていなければ、ビル・プリンプトンの作品だということもちょっとわかりませんね。

 この作品の後、2年のブランクがあって、彼の代表作の1つともなる『君の顔』が作られ、ここで、顔をいじり倒すという彼のスタイルとオリジナル・キャラが出来上がります。ということは、プリンプトンとしても“Drawing Lesson #2”は自分でもちょっとしっくりこない作品だったということでしょうか。

画像

 ◆作品データ
 1985年/米/6分8秒
 英語台詞あり/日本語字幕なし
 アニメーション+実写

 *この記事がなかなか興味深いと思ったら、人気ブログランキングにクリックをお願いします。
 ↓ ↓ ↓ ↓
 

 ◆監督について
 ピル・プリンプトン
 1946年 オレゴン州ポートランド生まれ。3男3女の6人兄弟の1人。父は銀行員。
 14歳の時にディズニーに自分の描いたマンガとアニメーターになりたいという手紙を送ったが、まだ早すぎると断りの返事をもらう。
 1964年 オレゴン市立高校を卒業し、ポートランド州立大学に入学。
 大学では、映画同好会に入り、年鑑の編纂委員も務めた。彼が最初に作ったアニメーションは、年鑑のためのプロモーション作品だという。
 1967-72年 ベトナム戦争への徴兵を逃れるために、国家警備隊に入隊。
 1968年 ニューヨークのビジュアル・アートの学校に入学。専攻はグラフィック・デザイン。
 ニューヨークでは長らくイラストレーターや漫画家として活躍し、“Cineaste”や “Filmmakers Newsletter”、“Film Society Review”といった雑誌のデザインを担当し、「ニューヨーク・タイムズ」や「ヴィレッジ・ヴォイス」「ローリング・ストーン」「ヴォーグ」「ヴァニティ・フェア」にもイラストを提供した。
 1975年に“The Soho Weekly News”紙で、“Plympton”という政治マンガを始め、1981年にはユニバーサル・プレスの配信により12紙以上の新聞に掲載されるようになった。
 アニメーションを作るようになったのは1983年になってからで、Jules Feifferの曲 “Boomtown”のための作品で、プロデューサーからの依頼で制作に取りかかった。
 以後、取り憑かれるようにしてアニメーション作品を制作し、現在にいたるまで世界中の映画祭を席捲している。
 数多くの短編アニメーション作品のほか、中編アニメーションを1本、長編アニメーションを4本、実写作品を3本(うち2本はドキュメンタリー)を制作している。
 1987年の『君の顔』、2004年の『ガード・ドッグ』でアカデミー賞短編アニメーション賞にノミネート、1997年の『スーパー変態ハネムーン 花婿はヘンな人(新郎は変な人)』と2001年の『ミュータント・エイリアン』ではアヌシー国際映画祭グランプリを受賞。2007年にはアニー賞でウィンザー・マッケイ賞(生涯貢献賞)を受賞。そのほか受賞した賞は数知れない。

 ネット上で観られる短編は基本的にはギャグ・コメディーですが、ギャグにはしても、対象を見下すことで笑いを取っているわけではないので、嫌な感じはしません。

 プリンプトンが作り出す笑いには2通りあって、人間の欲望や強迫観念、うかつさ、妄想などを笑うもの(人間観察による)と、連想や誇張、エスカレートなどによって笑わせるもの(自由な発想による)とがあるようです。

 1988年の“Self Portrait”は、川本喜八郎、手塚治虫、ヤン・シュヴァンクマイエルら世界中のアニメ作家が自分(自画像)を題材にして作った競作短編ですが、プリンプトンは、元々、顔(の変容)を題材にした作品の多いアニメ作家のようです。

 テックス・エイヴリーが好きらしく、本人もその影響を認めているらしいのですが、シュヴァンクマイエル作品に通じるものを感じる作品も多々あります。

 ・1985年 “Drawing Lesson #2”
 ・1985年 “Boomtown”
 ・1987年 『君の顔』“Your Face”  *1988年アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート
 ・1987年 “Love in the Fast Lane”
 ・1988年 “Self Portrait”
 ・1988年 “One of Those Days”
 ・1989年 “How to Kiss”
 ・1989年 『タバコをやめるための25の方法』“25 Ways to Quit Smoking”
 ・1990年 “Tango Schmango”
 ・1990年 “Dig My Do”
 ・1991年 “Push Comes to Shove”
 ・1991年 『プリンプトゥーンズ』“Plymptoons”
 ・1992年 “The Tune”[中編]
 ・1993年 “Draw”
 ・1994年 “Nose Hair”
 ・1994年 “J. Lyle”[長編][実写]
 ・1994年 “Faded Roads”
 ・1995年 『女の攻略法』“How to Make Love to a Woman”
 ・1995年 “Guns on the Clackamas: A Documentary” [長編] [実写]
 ・1996年 “Smell the Flowers”
 ・1996年 “Boney D”
 ・1997年 “Walt Curtis: The Peckerneck Poet”[中編] [実写]
 ・1997年 “Spike and Mike's Festival of Animation Sick & Twisted Volume 4”(V)
 ・1997年 “Sex and Violence”
 ・1997年 “Mondo Plympton” [長編]
 ・1997年 『スーパー変態ハネムーン 花婿はヘンな人(新郎は変な人)』“I Married a Strange Person!” [長編] *1998年 アヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞、アニー賞長編アニメーション部門ノミネート 日本版DVDリリースあり
 ・1998年 “More Sex and Violence”
 ・1998年 “General Chaos: Uncensored Animation”
 ・1999年 『サプライズ・シネマ』“Surprise Cinema”
 ・1999年  『ある木のエキサイティングな一生』“The Exciting Life of a Tree”
 ・2000年 “Can't Drag Race with Jesus”
 ・2001年 “Eat”
 ・2001年 “12 Tiny Christmas Tales”(V)
 ・2001年 『ミュータント・エイリアン』“Mutant Aliens” [長編] *2002年 アヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞
 ・2003年 『駐車場』“Parking”
 ・2004年 『ヘア・ハイ』“Hair High”[長編]
 ・2004年 『ガード・ドッグ』“Guard Dog” *2005年アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート DVD『広島国際アニメーション傑作選 vol.1』に収録
 ・2005年 『花と扇風機』“The Fan and the Flower”
 ・2006年 “Guide Dog”
 ・2006年 “Don't Download This Song”(“Straight Outta Lynwood )(V)
 ・2006年 “Don't Download This Song”(“Al TV”) (V)

 *参考サイト

 ・ビル・プリンプトンの公式サイト Bill Plympton On-Line!:http://www.awn.com/plympton/

 ・Acme Fimworks:http://www.acmefilmworks.com/dir_folders/dirPlympton/plympton.html#

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック