アキ・カウリスマキ 『スルー・ザ・ワイヤー』 やってることは昔も今も同じ?!

 この作品は、レニングラード・カウボーイズのオリジナル曲“Thru The Wire”のPVで、元々の歌詞では、孤児院からの脱走となっているのを、刑務所からの脱獄に置き換えて、映像化しています。



 【物語】 アラバマとユタの間にある刑務所から囚人が脱獄する。
 思いは愛する女に会うことだったが、警察が彼を追う。
 銃を手にした警察を逃れて、外に出る、愛する女が車で待っている。
 逃走に成功した2人は、仲良くペットボトルのコカコーラをあおる。

 アキ・カウリスマキ自身は、自分がやりたくて本気で挑んだ作品ではなく、やろうと思えば、こんなものくらい簡単に作れるんだというような発言をしていて、それが照れ隠しなのかどうかはわかりませんが、ラストで2人が簡単に逃げおおせてコカコーラをあおるという冗談とも本気ともつかないラスト以外は、いかにもアキ・カウリスマキらしい作品――ささやかな幸せを願う主人公がいて、それを邪魔する者が登場し(あるいは、主人公が大いなる挫折を味わう状況となり)、やがて主人公は障害を克服して、当初の目標とは少し違うものの、小さな幸せに到達する――に仕上がっています。

 この作品は、アキ・カウリスマキ日本初紹介(1990年)となった『マッチ工場の少女』の併映作品で、当時は彼がどんな作家性を持った映画作家なのかもわからず、この作品もとりたてて印象に残るということもなかったのですが、今、改めて観てみると、彼のやってきたことはこのPVのバリエーションを作ってきただけなのでしゃないかとさえ思えてきます。

 今だったら、単純なハッピーエンドではなく、主人公に、とても生きてはいられないような重症を負わせた後で、それ以降は死んでしまった主人公の夢なんじゃないかと思わせるような、現実なのかどうなのかわからないようなファンタジックなハッピーエンドを持ってきて、それで「終わり」にするような気もするのですが、どうでしょうか。

画像

 ◆作品データ
 1987年/フィンランド/5分31秒
 台詞なし(歌詞はフィンランド語)/字幕なし
 実写作品

 *この作品は、1990年に『マッチ工場の少女』が劇場公開された際、『ロッキーⅥ』とともに併映されました。

 *この作品は、DVD『トータル カウリスマキ DVD-BOX』(アップリンク)に収録されています(現在廃盤)。

 ◆監督について
 アキ・カウリスマキ

 1957年 フィンランドのオリマッティラ村で4人兄妹の次男として生まれる。兄は映画監督のミカ・カウリスマキ。フィンランドを代表する映画監督&プロデューサーで、自らの配給会社や映画館も持つ。フィンランドの映画産業の5分の1はカウリスマキ兄弟によって牛耳られているとも言われる(アキの現在の活動拠点はブラジルだが)。

 16歳の時に、シネマクラブで上映されていた、ブニュエルの『黄金時代』とフラハティの『極北の怪異』を観て、「映画」に目覚める。シネマクラブなどで手当たり次第に映画を観るようになり、映画雑誌にも多くの映画批評を投稿する。
 1977年に兄に伴われてロンドンで観た小津安二郎の『東京物語』に触発されて、映画を撮る決心をする。
 兄ミカはミュンヘンの映画大学に進んだが、アキは大学で映画を学ぶことはかなわず、タンペレ大学で、文学とコミュニケーション論を専攻。しかし、中退。
 様々な職を転々とするなかで、“Valehtelija(The Liar)”の脚本を書き、それがのちにミカの卒業制作の脚本となる。“Valehtelija(The Liar)”がきっかけとなって、アキも映画界することになる。監督として最初にクレジットされているのは、兄との共同監督作品で、音楽ドキュメンタリー“Saimaa-ilmiö(The Saimaa Gesture)”(1981年)。

 兄弟で、映画製作会社ヴィッレ・アルファを設立(1981年)。センソ・フィルムズという配給会社も立ち上げ、ヘルシンキにはシネマ・アンドラという映画館(http://www.andorra.fi/en/index.html)も作った。

 単独での最初の監督作品はドストエフスキーの同名小説を原作とする『罪と罰』。この作品が国内で評価されたことで、映画制作を続けていくことが可能になった。

 1986年より ソダンキュラでミッドナイトサン・フィルムフェスティバル(http://www.msfilmfestival.fi/fpage.php?lang=1)を開催。

 1987年 自身の製作会社スプートニクを設立。

 1988年の『真夜中の虹』、1990年の『マッチ工場の少女』あたりから、国際的にも注目が高まり、1990年の『コントラクト・キラー』以降、国際的なプロジェクトが多くなる。

 日本でアキ・カウリスマキ作品が初紹介されたのは、1990年で、『マッチ工場の少女』がシネマスクエアとうきゅうで、『コントラクト・キラー』がシャンテ シネで、『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』がパルコ SPACE PART3で、『真夜中の虹』が銀座テアトル西友で、それぞれ公開され、一躍注目の映画作家となった。それ以降、新作はコンスタントに劇場公開され、ほとんどの旧作も公開された。

 初期には、『罪と罰』、『ハムレット・ゴーズ・ビジネス』といった古典文学の翻案作品もあったが、アキ・カウリスマキらしい作品として、一般にイメージされるのは、「幸福とは縁遠い人々を主人公とした、時に物悲しく、時にしみじみとさせる一連の作品」と、レニングラード・カウボーイズを主人公としたコメディー・タッチの作品。ロード・ムービーも多い。

 1998年に発表した『白い花びら』はモノクロのサイレント映画だったが、元々どの作品も台詞は少なめで、サイレント映画を思わせる作品が多い。

 上映時間の短い作品が多く、最も長い作品で『ラヴィ・ド・ボエーム』の100分。70分台の作品が多い。

 マッティ・ペロンパー、カティ・オウティネン、カリ・ヴァーネン、サカリ・クオスマネン、オウティ・マエンパーら、常連の俳優を使うことが多い。

 Aki Kaurismäki という表記が、Akira Kurosawaと似ていることが自慢、らしい。

 大の酒好きで、マスコミの取材も飲みながらということがしばしばで、あげくに急性アルコール中毒でつぶれてしまったこともある(笑)。

 ・1981年 “Valehtelija(The Liar)”[共同脚本](監督:ミカ・カウリスマキ)
 ・1981年 “Saimaa-ilmiö(The Saimaa Gesture)”
 ・1982年 “Jackpot 2” [共同脚本](監督:ミカ・カウリスマキ)
 ・1982年 “Arvottomat(The Worthless)” [共同脚本](監督:ミカ・カウリスマキ)
 ・1983年 『罪と罰』
 ・1984年 “Klaani - tarina Sammakoitten suvusta(The Clan Tale of the Frogs)” [脚本](監督:ミカ・カウリスマキ)
 ・1985年 『カラマリ・ユニオン』
 ・1985年 “Rosso” [共同脚本](監督:ミカ・カウリスマキ)
 ・1986年 『ロッキーⅥ』 [短編]
 ・1986年 『パラダイスの夕暮れ』
 ・1987年 『ハムレット・ゴーズ・ビジネス』
 ・1987年 『スルー・ザ・ワイヤー(ワイヤーを通して)』
 ・1987年 “L.A.Woman” [短編] ・1987年 “Rich Little Bitch” [短編]
 ・1988年 『真夜中の虹』 *モスクワ国際映画祭 国際批評家連盟賞受賞
 ・1989年 『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』
 ・1989年 “Likaiset kädet” [TV作品]
 ・1990年 『マッチ工場の少女』 *ベルリン国際映画祭Forum of New Cinema部門で、Interfilm AwardとOCIC Award - Honorable Mentionを受賞
 ・1990年 『コントラクト・キラー』
 ・1991年 『悲しき天使』 [短編]
 ・1991年 “Aki Kaurismäki” [ドキュメンタリー/出演](監督:Andy Harries)
 ・1992年 『ラヴィ・ド・ボエーム』 *ベルリン国際映画祭Forum of New Cinema部門で国際批評家連盟賞受賞
 ・1992年 『俺(おい)らのペンギン・ブーツ』 [短編]
 ・1992年 「株式会社日本触媒 吸油性樹脂 写真篇」 [CM]
 ・1993年 『小津と語る Talking With OZU』 [出演/ドキュメンタリー](監督:田中康義)
 ・1994年 『アイアン・カウボーイズ ミーツ・ゴーストライダー』[製作・出演](監督:ジル・シャーマント)
 ・1994年 『レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う』
 ・1994年 『トータル・バラライカ・ショー』
 ・1994年 『愛しのタチアナ』
 ・1996年 “Välittäjä(Employment Agent)” [短編]
 ・1996年 『浮き雲』 *カンヌ国際映画祭エキュメニカル特別賞受賞
 ・1998年 『白い花びら』 *ベルリン国際映画祭 C.I.C.A.E. Award - Honorable Mention受賞
 ・2001年 “Cinéma, de notre temps” [ドキュメンタリー/出演](監督:ギー・ジラール)
 *フランスのTVシリーズ「現代の映画」の1編
 ・2002年 「野郎どもに地獄はない」“Dogs Have No Hell”(『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』) [オムニバス映画]
 ・2002年 『過去のない男』 *カンヌ国際映画祭グランプリ&エキュメニカル賞受賞、セザール賞ベストEU作品賞ノミネート、ヨーロッパ映画賞 作品賞・監督賞・脚本賞ノミネート、フランドル国際映画祭グランプリ受賞
 ・2004年 “Visions of Europe” [オムニバス映画]
 *EU加盟国25カ国から選出された監督が、それぞれの国の今(もしくは未来)を伝える短篇を作り、1本の映画にまとめたもの。参加している監督は、ファティ・アキン、バーバラ・アルベルティ、トニー・ガトリフ、ピーター・グリーナウェイら。
 ・2006年 『街のあかり』 *カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品
 ・2007年 『鋳造所』(『それぞれのシネマ』) [オムニバス映画]

 *そのほかに多数のプロデュース作品があります。
 *監督作品以外は、[ ]で特記しました。

 *参考書籍
 『アキ・カウリスマキ』(エスクァイア マガジン ジャパン)

 *参考サイト
 ・Wikipedia(英語):http://de.wikipedia.org/wiki/Aki_Kaurism%C3%A4ki
 ・ファン・サイト Siunattu teknologia!:http://www.sci.fi/~solaris/kauris/

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