監督としても才能あり! セルジョ・カステリット 『私です』

 今年のイタリア映画祭は、ジョルジョ・カステリットの出演作品が3本(『結婚演出家』、『星なき夜に』、ドキュメンタリー『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』(ナレーションも担当))があり、監督を担当した短編『私です』も上映されて、なんだかセルジョ・カステリット色の濃い映画祭でもありました。

 セルジョ・カステリットは、いま、イタリア人俳優と言って思い浮かぶ人はまずこの人と言っていいくらいの、イタリア映画界を代表する俳優で(まあ、もうちょっと視野を広げればぞろぞろ出てきますが)、その演技は安心して見ていられるし、私も好きですね。

 今回の映画祭で上映された中では、『星なき夜に』が特によくて、主人公が旅する中国が、通り一遍ではないリアルな現代中国で、それがとても面白かったのですが、監督作『私です』もとても素晴らしかったですね。決して俳優業の片手間に作ったような作品ではなくて、確かな演出力が感じられる作品でした。
 これが初監督だっけ?と思ったら、既に2本の長編を監督していて、監督第2作の『赤いアモーレ』は日本でも劇場公開されていたのでした。

 ネットで、この作品について調べていたら、動画がみつかりました。
 台詞はイタリア語ですが、後に書き出した「物語」を参考にしてもらえれば、未見の方でも、おおむね作品を理解することができると思います。




 【物語】
 テーヴェレ川のそばのリストランテ。
 著名なイタリアの女性監督が打ち合わせをしている。しかし、彼女はアシスタントが提示するロケーションが全く気に入らない。
 そこへ、店の女性スタッフが遅れて入ってくる。店長に、「今度遅刻したらクビだぞ」と言われながらも、オーダーを取りにまわる彼女。そんな彼女エフィリアをひと目見た瞬間から、監督はなぜか彼女のことが気になって仕方がなくなる。
 監督は、エフィリアに新作映画の面接に来るようにと、アシスタントに言わせる。
 ウェイトレスのエフィリアは、映画出演などには全く興味がなかったが、一応面接にだけは顔を出す。
 「ご両親は何をしてるの?」
 「父親は死んでいて、母親は私が幼いころに家を出て行ったわ」
 「どうして?」
 「たぶん私を育てる自信がなかったんだと思う」
 「お母さんのことで覚えてることは?」
 「ピエロの赤い鼻をつけて笑わせてくれたわ」
 「楽しかった?」
 「……ええ」
 彼女が面接から出ると、ボーイ・フレンドが待っていて、「サインをください」などと言って彼女をからかう。
 エフィリアのことが気になって仕方がない監督は、密かに彼女を尾行してビデオで撮ってまわる。
 アシスタントは、エフィリアに映画の主役の候補に挙がっているから、オーディションに来てくれと台本を渡す。
 エフィリアは、オーディションにやってくるが、全く台本を憶えていなかったので、監督は何でもいいから言ってみてと言う。
 エフィリアは、詩のようなものを諳んじてみせる。
 監督は、それを聞いてハッとし、「どうしてそれを知ってるの?」と訊く。
 「何となく昔から知ってるの」とエフィリア。
 ウェイトレスの仕事をしている途中で、エフィリアは吐き気を催す。
 もしかしたら妊娠かもと思って、妊娠検査薬を試してみると、やっぱり妊娠で、それを知って、ボーイ・フレンドはちょっととまどいを見せるが、拒否反応というのでもない。
 オーディションからしばらく時間が経って、監督がエフィリアの仕事場に顔を出す。「是非、私の映画に出て欲しいのよ。……しばらく会わないうちにちょっと太ったかしら。……」
 エフィリアが曖昧な応えをしていると、監督は急にある詩の一節を口にし始める。
 それは、エフィリアがオーディションの時に諳んじてみせたものの一部。
 そのことに気づいて、エフィリアが顔を上げると、もうそこに監督の姿はない。しかし、監督が置いていったと思われるデジタル・カメラが残されている。それには、監督からエフィリアへのメッセージが録画されている。
 慌てて監督を追いかけようとするエフィリアに「どこに行くんだ。勝手なことをするとクビだぞ!」と店長。「こっちこそ願い下げだわ」とエフィリア。
 彼女の返事に驚く店長を置いて、エフィリアは外へ出て行く。(外の壁には、赤いペイントで“SONO IO”(私です)と落書きされている)。エプロンを脱ぎ捨てて監督を追う。
 そして監督を呼び止めて、どんなに逢いたかったか、これまで自分の胸にしまっていた想いを口にする。
 抱き合う2人を見て、ピエロの赤い鼻をつけた老人が振り向く。(画面には)エフィリアの「母は、ピエロの赤い鼻をつけて笑わせてくれたわ」という声が重なるのだった。

画像

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 この物語のキー・ポイントは、エフィリアが口にする“詩”で、この“詩”とそれに対する女性監督の反応を見て、女性監督とエフィリアにまつわる秘密に思い当たらなければ、この映画自体意味をなさなくなってしまうのですが、その点で、日本語字幕なしではやっぱり厳しいでしょうか。
 はっきりした描写や台詞は一切ないので、ピンと来ない人は日本語字幕がついていても全くピンと来ないかもしれないんですが、端的に書いてしまうと、“詩”を聞いて監督がハッとしたのは、エフィリアが自分が若い頃に棄てた娘らしい、と気づいたということです。監督が先にそのことに気づき、その後でエフィリアも気づいて、店を飛び出して“母”を追いかけた、というところで映画は終わっています。

 セルジョ・カステリットがうまいなあと思うのは、明確な描写や台詞なしで観客に“2人の秘密”をそれと知らしめていることと、ラストで物語に「ちょっとしたいたずら」をしていることで、見終わった後で、この映画を余韻が残るものにもしています。

 ラストに出てくる、「ピエロの赤い鼻をつけて犬の散歩をしている老人」は、いったい何なんだろうということになるかと思うのですが、実は、この老人はラスト・シーン以前に既に出てきているんですね~。1回観ただけでは普通見落としてしまうと思うのですが、おそらくラスト・シーンへの伏線なのでしょう。
 まあ、そうは言っても、そんなに大げさなものではないかもしれないのですが、あの老人は、『デカローグ』の各話に何気なく出てくる謎の男性と同じような存在、つまりは、運命を司る神のような存在で、エフィリアと監督の運命を見届けるために、そこに姿を現していた、ということなのではないでしょうか。そう考えて、彼の姿を思い返してみると、ルックスもちょっと神様っぽいですよね。

 エンドロールには、“彼”はL'angelo custodeとあって、これが彼の名前?と思って調べてみると、イタリア語で「守護天使」の意でした。神様ではありませんでしたが、そのものズバリでしたね。

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 セルジョ・カステリットが、この作品を撮ることになった経緯はわかりませんが、映画制作のバックステージものとしては、『明日を夢見て』や『結婚演出家』を連想させ、運命的な出会いや妊娠、親子の絆というモチーフでは、『赤いアモーレ』を思い出させます。

 『赤いアモーレ』は、おそらく妻の原作小説を映像化したいという思いから自らメガホンを取ったのだろうと思われますが、『赤いアモーレ』が高い評価を受けたことで、監督としてもやりやすくなり、自信もついたはずで、これからは何年かに1本は監督作品を発表していくのではないでしょうか。

 監督としては、クセがなく、演出も手堅くて、資質的には、ジュゼッペ・トルナトーレに近い感じ、でしょうか。

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 ◆作品データ
 2006年/伊/
 伊語台詞あり/日本語字幕なし
 実写作品

 製作はインティミッシミintimissimiというイタリアではとてもポピュラーなブランド下着メーカー(http://www.intimissimi.it/)。
 短編映画に関わったのはこの作品が初めてのようです。

 ◆キャスト

 モニカ・グェリトーレ(監督) 品と知性を感じさせる女優さんで、本作の要ですが、けっこうセクシー系の作品に多く出演されているようです。基本的にはテレビ中心に活動しているようで、日本での劇場公開作はあまり多くはありません。

 ケティ・サウンダース(エフィリア) デビュー作は、ミケーレ・プラチドの“Un Viaggio chiamato amore”。ローマでは英語学校に通っていたので、英語も得意。最新作は、『スカートの翼ひろげて』『あなたがいたら/少女リンダ』のデイヴィッド・リーランド監督作品“Virgin Territory”(ヘイデン・クリステンセン主演)。

 ブルーノ・アルマンド(リストランテのボス)
 レナート・マルケッティ(監督のアシスタント)
 パオロ・ポルト
 ロベルト・カラブレーゼ(エフィリアのボーイ・フレンド)

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 ◆監督について
 セルジョ・カステリット
 1953年ローマ生まれ。
 1978年にシルヴィオ・ダーコ国立演劇アカデミーを卒業。
 キャリアのスタートは舞台からで、映画デビューは80年代に入ってから。
 映画『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』では、「最初の映画“Il Generale dell'armata morte”で、マルチェロ・マストロヤンニやミシェル・ミコリと共演できて、学ぶことが多かった」、というような発言もしているが、フィルモグラフィーにはこれに先立つ作品として1981年の“Carcerato”がある。
 日本で認知されるようになったのは1995年末に劇場公開された『かぼちゃ大王』と1996年初めに劇場公開された『明日を夢見て』あたりから。
 主にイタリア映画とフランス映画で活躍。今やイタリア映画界を代表する俳優の1人となっている。

 やさしさや誠実さの中に、不安やとまどい、ためらい、苦悩、といったデリケートな感情を含ませるような、演技力を必要とされるような役が多い。

 妻は女優のマルガレート・マッツァンティーニ。4人の子どもがいる。

 1999年の“Libero Burro”で監督デビュー。監督第2作である『赤いアモーレ』は、妻の原作小説を映画化した作品で、自ら主演もして、高い評価を受けた。

 イタリアのアカデミー賞であるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞には4度ノミネートされて3度受賞している(1990年“Tre colonne in cronaca”で助演男優賞受賞、1993年『かぼちゃ大王』で主演男優賞受賞、2003年『母の微笑』で主演男優賞ノミネート、2004年『赤いアモーレ』で主演男優賞受賞&監督賞・脚本賞・作品賞ノミネート)。

 ・1981年 “Carcerato” [出演](監督=Alfonso Brescia)
 ・1983年 “Il Generale dell'armata morte” [出演](監督=ルチアーノ・トヴォリ)
 ・1984年 “Il Momento magico” [出演](監督=Luciano Odorisio)
 ・1985年 “Tu sei differente” [出演](監督=Alberto Taraglio)
 ・1986年 “Dolce assenza” [出演](監督=Claudio Sestieri)
 ・1986年 “Sembra morto... ma è solo svenuto” [出演](監督=Felice Farina)
 ・1986年 “Giovanni Senzapensieri” [出演](監督=Marco Colli)
 ・1987年 “Non tutto rosa” [出演](監督=Amanzio Todini)
 ・1987年 『ラ・ファミリア』 [出演](監督=エットレ・スコーラ)
 ・1988年 『三人姉妹』 [出演](監督=マルガレーテ・フォン・トロッタ)
 ・1988年 『グラン・ブルー/オリジナル・バージョン』 [出演](監督=リュック・ベッソン)
 ・1988年 『グレート・ブルー』 [出演] (監督=リュック・ベッソン)
 ・1988年 『グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版』 [出演] (監督=リュック・ベッソン)
 ・1989年 “Piccoli equivoci” [出演] (監督=Ricky Tognazzi)
 ・1990年 “Tre colonne in cronaca” [出演] (監督=カルロ・ヴァンツィーナ)
 ・1990年 “Alberto Express” [出演] (監督=Arthur Joffé)
 ・1990年 “Stasera a casa di Alice” [出演] (監督=カルロ・ヴェルドーネ)
 ・1991年 “La Carne” [出演] (監督=マルコ・フェレーリ)
 ・1991年 “Rossini! Rossini!” [出演] (監督=マリオ・モニチェリ)
 ・1992年 “Nero” [出演] (監督=Giancarlo Soldi)
 ・1992年 “Nessuno” [出演] (監督=Francesco Calogero)
 ・1993年 『かぼちゃ大王』 [出演] (監督=フランチェスカ・アルキブジ)
 ・1993年 『可愛いだけじゃダメかしら』 [出演] (監督=フィリメーヌ・エスポジト)
 ・1994年 “Con gli occhi chiusi” [出演] (監督=フランチェスカ・アルキブジ)
 ・1995年 『明日を夢見て』 [出演] (監督=ジュゼッペ・トルナトーレ)
 ・1996年 “Silenzio si nasce” [出演] (監督=ジョヴァンニ・ヴェロネージ)
 ・1996年 『恋人たちのポートレート』 [出演] (監督=マルティーヌ・デュゴウソン)
 ・1996年 『絹の叫び』 [出演] (監督=イヴォン・マルシアノ)
 ・1996年 “Hotel paura” [出演] (監督=Renato De Maria)
 ・1997年 『カドリーユ』 [出演] (監督=ヴァレリー・ルメルシュ)
 ・1998年 “Que la lumière soit” [出演] (監督=Arthur Joffé)
 ・1998年 “À vendre” [出演] (監督=レティシア・マッソン)
 ・1999年 “Libero Burro” [監督・出演]
 ・2001年 “L'Ultimo bacio” [出演] (監督=Gabriele Muccino)
 ・2001年 “Concorrenza sleale” [出演] (監督=エットレ・スコーラ)
 ・2001年 “Laguna” [出演] (監督=デニス・ベリー)
 ・2001年 『マーサの幸せレシピ』[出演] (監督=サンドラ・ネットルベック)
 ・2001年 『恋ごころ』 [出演] (監督=ジャック・リヴェット)
 ・2002年 『母の微笑』 [出演] (監督=マルコ・ベロッキオ) *<イタリア映画祭2003>にて上映
 ・2003年 『カテリーナ、都会へ行く』 [出演] (監督=パウロ・ヴィルツィ) *<イタリア映画祭2004>にて上映
 ・2004年 “Ne quittez pas!” [出演] (監督=Arthur Joffé)
 ・2004年 『赤いアモーレ』 [監督・出演]
 ・2006年 『マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶』 [出演・ナレーション] (監督=マリオ・カナーレ、アンナローザ・モッリ)
 ・2006年 『結婚演出家』 [出演] (監督=マルコ・ベロッキオ) *<イタリア映画祭2007>にて上映
 ・2006年 『パリ、ジュテーム』 [出演] (監督=イザベル・コイシュ「バスティーユ」編)
 ・2006年 『星なき夜に』[出演] (監督=ジャンニ・アメリオ)  *<イタリア映画祭2007>にて上映
 ・2006年 『私です』 [監督]
 ・2006年 “Arthur et les Minimoys” [声] (監督=リュック・ベッソン)
 ・2008年 “The Chronicles of Narnia: Prince Caspian” [出演] (監督=アンドリュー・アダムソン)

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この記事へのコメント

2007年05月08日 12:53
こんにちはー。
『星なき夜に』はよかったですよねー。
短編『私です』の印象はそれほどに強くはなかったんですけど、ペネロペちゃん主演の『赤いアモーレ』はとてもよかったですよー。
監督としてのセンスもすばらしいと思いました。
「セルジョ・カステッリット」って書いてあるものが多いんですけど、発音しにくいったらありゃしない。
カステリットっていいんですかね??
umikarahajimaru
2007年05月09日 02:23
かえるさま
コメントありがとうございました。
『赤いアモーレ』もラストをちょっと印象的なものにする工夫がありましたね。

人名の表記はいろいろ難しいですよね。エンニオ・モリコーネがなぜかエンリオ・モリコーネになっていたり、実際の発音と字幕の表記が違ってたり……。
2007年05月09日 11:11
いやいや、なんて詳細な内容なんでしょう、素晴らしいですね、勉強になりましたありがとうございます。
子ども4人もいるんですか!
反応するところが違うって(笑)
短編をみていて、イタリアには俳優にならなくてもそこらへんにとんでもない美男美女がいるんだろうなあって、カステリットの個人的な体験も少し反映しているのかなと思いました。
あと、突然下着を買いに行くシーンがちょっと浮いていたように思えたのだけど、それが本当は一番大切なシーンだったのですね(笑)
umikarahajimaru
2007年05月09日 21:40
マヤさま
コメントありがとうございました。
映画を観る限りでは、イタリアにはけっこう美男美女が多い感じもしますが、ラテン系はすぐ太っちゃいますからねえ~。
カステリットの子どもは、上からピエトロ、マリア、アンナ、チェザーレで、チェザーレは去年生まれたばかり。お父さん、頑張らなくちゃね!
マヤ
2007年05月13日 00:23
わー、パパすごーい! ガンバレー(*^。^*)

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