そこはかとなく漂う官能 ブラザーズ・クエイ 『スティル・ナハト2』

 現在、第5作まで発表されているブラザーズ・クエイの連作『スティル・ナハト』(静かな夜)。それぞれの作品に、特に関連性はないようで、『スティル・ナハト2』は、ヒズ・ネイム・イズ・アライヴの“Are we still married?”のPVとなっていて、“Are we still married?”がそのまま副題ともなっています。




 【物語】
 薄暗い部屋の中に横じまのソックスをはいた少女とウサギがいる。
 少女は、両面にそれぞれ大きなハートと両目が描かれたラケットを持ち、ゆっくりと上下に体を揺らしている。
 ウサギは、独りでピンポン玉を追いかけたり、部屋に入り込んできた蛾を追いかけたりしている。

 元々は、音楽プロデューサーのWarren Defeverがヒズ・ネーム・イズ・アライヴの曲のために『ストリート・オブ・クロコダイル』の映像を使わせてもらえないかと、ブラザーズ・クエイに交渉したのがきっかけで、その時にクエイは断ったものの、彼らの音楽に興味を持ち、“Are we still married?”が気に入って、この曲のために作ったのがこの作品、ということになります。

 ブラザーズ・クエイとしては、ピーター・ガブリエルの「スレッジハンマー」のPVのために協力したことはあるけれど、自分たちでPVを作るのはこの作品が初めて。

 クエイは、歌詞とは関係なく、曲調とボーカルのカリン・オリバーの声からイメージを膨らませて、この作品を作った、という。

 映像的には、無名の写真家の、ラケットを持ってドアの前にたたずむ少女の写真からインスパイアされた作品で、その写真に写っていた白いドアノブをピンポン玉に変えたのだそうです。

 作品的には、そうみても『不思議の国のアリス』を連想させる作品ですが、クエイ自身は、『不思議の国のアリス』は読んだこともないと語っています。しかし、クエイが敬愛するシュヴァンクマイエルが1987年に『アリス』を作っていますから、彼らがこの『アリス』を観ていないはずもなく、やはりこの作品を作る時に『不思議の国のアリス』を意識していたのではないかと考えるのが普通だと思われます。

 本作は、薄暗がりの中でゆれる(または、リズムを刻む)少女の足に、倒錯的なエロティシズムを感じさせる、として、ブラザーズ・クエイ作品の中でも隠れた人気作品になっています。

 参考:http://www.screenonline.org.uk/film/id/1222875/index.html

画像

 ◆作品データ
 1992年/英/3分17秒
 英語の歌詞あり/日本語字幕なし
 ストップ・モーション・アニメーション

 *この作品は、VHS『ブラザーズ・クエイ短編集 vol.2』に収録されています。

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 ◆監督について
 ブラザーズ・クエイ (スティーヴン&ティモシー・クエイ)
 人形を使った幻想的なストップ・モーション・アニメーションで知られる映像作家。英国怪奇ロマンの異端、映像の錬金術師とも呼ばれる。

 1947年 アメリカ ペンシルベニア州ノリスタウン生まれ。
 1965-69年 フィラデルフィア芸術大学でイラストレーションを学んだ後、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(Royal College of Art/英国王立美術大学)で学ぶためにイギリスに移り(徴兵を逃れるため、という説もある)、以後、イギリスを主な活動拠点とする。
 ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで初期短編(“Der Loop Der Loop”、“II Duetto”、“Palais En Flammes”)を製作するが、現在は残っていない。
 70年代はオランダでブック・デザインなどをして過ごし、その後、イギリスに戻って、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで同窓であったキース・グリフィスと3人で、Koninck Studiosを設立した。
 1979年、BFIの出資で『人工の夜景』を製作。以降、人形を使ったストップ・モーション・アニメーションを次々と発表。1995年には、実写による初めての長編作品『ベンヤメンタ学院』を手がけた。

 特に東欧の芸術文化への関心が高く、そこから作品のモチーフを選ぶことも多い。
 彼らが好み、影響を受けたとされる芸術家は、ヤン・シュヴァンクマイエルを筆頭に、ポーランドのアニメーション作家であるヴァレリアン・ボロズィック(Walerian Borowczyk)やヤン・レニッツァ(Jan Lenica)、ポーランドの作家ブルーノ・シュルツ、フランツ・カフカ、スイスのドイツ語詩人・作家ロベルト・ヴァルザー(Robert Walser)、フランドルの劇作家ミシェル・ド・ゲルドロード(Michel De Ghelderode)、ロシア出身のアニメーション作家Ladislas Starevich、ボヘミアの人形師Richard Teschner、チェコの作曲家レオス・ヤナーチェク、シュヴァンクマイエル作品で知られるチェコの作曲家ズデニェク・リュシュカ、ポーランドの作曲家レゼック・ヤンコフスキ(Leszek Jankowski)など。

 映画の制作のほか、演劇やオペラの装飾、イラストレーション、ブック・デザイン、CM等も手がけている。

 受賞&ノミネート歴は、『ストリート・オブ・クロコダイル』がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品(22分の作品ながら長編部門にエントリー!)。
 シッチェス・カタロニア国際映画祭では『ストリート・オブ・クロコダイル』が短編部門Caixa de Catalunya受賞、『イン・アブセンティア』“In Absentia”が最優秀短編映画賞を受賞。
 ロカルノ国際映画祭では、コンペティション部門に長編2作品を出品し、『ピアノチューナー・オブ・アースクエイク』“The Piano Tuner of Earthquakes”が特別賞&ヤング審査員特別賞を受賞。
 クラクフ映画祭では、『イン・アブセンティア』“In Absentia”で特別賞受賞、2003年にドラゴン・オブ・ドラゴンズ名誉賞を受賞。

 日本では、1988年にイメージフォーラム フェスティバルで初紹介。
 翌1989年にシネ・ヴィヴァン・六本木で、『ストリート・オブ・クロコダイル』というタイトルで短編4作品(『レオス・ヤナーチェク』『ヤン・シュヴァンクマイヤーの部屋』『ギルガメッシュ/小さなほうき』『ストリート・オブ・クロコダイル』)がレイトショー公開され、約4ヶ月にも及ぶロングランを記録した。
 上記4作品に『失われた解剖模型のリハーサル』を加えた5作品がダゲレオ出版より『ストリート・オブ・クロコダイル』としてVHSで発売されたが、8000円近い価格にも拘らず、10000本を越えるセールスを記録。日本では未だにDVD化はされていない。その後、VHS『ブラザーズ・クエイ短編集vol.2』が、同じくダゲレオ出版から発売された(『人工の夜景』『櫛』『スティル・ナハト2』『スティル・ナハト3』『スティル・ナハト4』を収録)。
 1996年に『ベンヤメンタ学院』が劇場公開された時には、10作品の短編を2プログラムに分けて上映するプログラムも組まれた(Aプロ:『レオス・ヤナーチェク』『ヤン・シュヴァンクマイヤーの部屋』『ギルガメッシュ/小さなほうき』『ストリート・オブ・クロコダイル』 Bプロ:『失われた解剖模型のリハーサル』『人工の夜景』『櫛』『スティル・ナハト2』『スティル・ナハト3』『スティル・ナハト4』)。

 ピーター・グリーナウェイは彼らをモデルとして映画『ZOO』を作り、テリー・ギリアムはベスト・アニメーションの1本として『ストリート・オブ・クロコダイル』を選んでいる。

 2007年4月に、Zeitgeist FilmsよりDVD“Phantom Museums: The Short Films of the Quay Brothers”が発売された。これは、彼らの30年近い活動の集大成的な短編集で、13本の短編(全261分)に、インタビュー、オーディオ・コメンタリー、クエイ事典を含む24ページのブックレットつきで、34.99ドル。日本未発売。

 ・1979年 『人工の夜景』“Nocurna Artificiala”
 ・1980年 “Punch & Judy: Tragical Comedy or Comical Tragedy(Punch & Judy)”
 ・1980年 “The Falls” [出演/監督:ピーター・グリーナウェイ]
 ・1981年 “Ein Brudermord”
 ・1981年 “The Eternal Day Of Michel de Ghelderode”
 ・1983年 “Stravinsky - The Paris Years”
 ・1983年 『レオス・ヤナーチェク』“Leoš Janáček : Intinate Excursions”
 ・1984年 『ヤン・シュヴァンクマイヤーの部屋(ヤン・シュヴァンクマイエルの部屋)』“The Cabinet of Jan Svankmajer”
 ・1985年 『ギルガメッシュ/小さなほうき』“This Unnameable Little Broom(Epic of Gilgamesh/ Little Songs of the Chief Officer of Hunar Louse)”
 ・1986年 『ストリート・オブ・クロコダイル』“Street of Crocodiles”
 ・1986年 「ハニーウェル」 [CM]
 ・1986年 「スレッジハンマー」[協力][PV/監督:スティーヴン・ジョンソン]
 ・1987年 “The Films of the Brothers Quay(Tales of the Brothers Quay/ The Brothers Quay Collection)”
 ・1987年 「ウォーカー・チップス」 [CM]
 ・1987年 「デュラックス防水液」 [CM]
 ・1988年 “Stille Nacht I”
 ・1988年 『失われた解剖模型のリハーサル』“Rehearsals for Extinct Anatomies”
 ・1989年 “Ex-Voto/The Pond”
 ・1990年 『櫛』“The Comb(From The Museums Of Sleep)”
 ・1991年 『アナモルフォーシス』“De Artificiali Perspectiva(Anamorphosis)”
 ・1991年 “The Calligrapher”
 ・1991年 『スティル・ナハト2』“Stille Nacht II: Are We Still Married? ”
 ・1992年 “Long Way Down (Look What The Cat Drug In)”
 ・1992年 『スティル・ナハト3』“Tales from the Vienna Woods(Stille Nacht III)”
 ・1993年 『スティル・ナハト4』“Stille Nacht IV(Can't Go Wrong Without You)”
 ・1995年 “The Summit”
 ・1995年 『ベンヤメンタ学院』“Institute Benjamenta, or This Dream People Call Human Life(Institute Benjamenta/ Institute Benjamenta, or This Dream Which One Calls Human Life)”[長編]
 ・1996年 『悦楽共犯者』 [音楽(music co-operator)/監督:ヤン・シュヴァンクマイエル]
 ・2000年 『サンドマン』“The Sandman”[TV]
 ・2000年 『デュエット』“Duet”
 ・2000年 『イン・アブセンティア』“In Absentia”
 ・2000年 『フリーダ』 [アニメーション/監督:ジュリー・テイモア]
 ・2002年 “Celluloid Dreams” [出演/監督:James Dunnison]
 *ジャン=ピエール・ジュネ、デイヴィッド・リンチ、ガイ・マディンらについてのドキュメンタリー
 ・2003年 『ソングス・フォー・デッド・チルドレン』“Songs for Dead Children”
 ・2003年 『ファントム・ミュージアム』“The Phantom Museum: Random Forays Into the Vaults of Sir Henry Wellcome's Medical Collection” [TV]
 ・2005年 『ピアノチューナー・オブ・アースクエイク』“The Piano Tuner of Earthquakes” [長編]

 ※特記なしは、短編監督作品。

 ◆参考サイト

 ・ブラザーズ・クエイに関するWikipedeia:http://en.wikipedia.org/wiki/Brothers_Quay

 ・senses of cinema:http://www.sensesofcinema.com/contents/directors/04/quay_brothers.html

 以前は、公式サイトもあったのですが、閉鎖されてしまったようです。

 ◆参考書籍

 ・滝本誠『映画の乳首、絵画の腓』(ダゲレオ出版) p40-53

 ・『夜想34 パペット・アニメーション』(ペヨトル工房)

 ・ 『ユーロ・アニメーション』(フィルムアート社) p74-79

 ・ 『アートアニメーションの素晴らしき世界』(エスクァイア マガジン ジャパン) p130-135

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