散々なことがあったあの日 ビル・プリンプトン “One of Those Days”

 [注意書き:あなたがこれから観ようとしているのはただの映画です。現実に起こっていることではありません。どうか席を立たないで。繰り返しますが、これはただの映画です。]



 【物語】
 朝、目覚めて、ベッドから出て、洗面台へ。
 顔にシェービング・クリームを塗って、ひげを剃ろうとすると、鼻を削ぎ落としてしまう。
 朝食を取ろうとすると、トーストを床に落としてしまう。トーストには床に落ちていた毛やゴミがくっついてしまうが、もったいないのでそのまま食べてみると、それがけっこうイケたりする。
 タバコを吸おうとすると、マッチの火が手に燃え移ってしまう。その火を水道で消そうとするが、水道のコックが取れてしまって、水が出ない。驚いた愛犬が脚に噛み付いて離れなくなってしまう。
 掃除機をかけていると、脚に噛み付いた愛犬ごと吸い込んでしまう。
 塀の向こうから女の子が声をかけてきたので、自分に?と疑いながら近づいていくと、本当に自分に声をかけたらしく、キスまで求めてくる。キスに応じると、突然、彼女の親父らしい人物が出てきて殴られてしまう。
 遊んでいた子どもに銃を向けられる。おもちゃの銃だとばかり思っていたその銃は怪しい光線を放ち、体に穴が開いてしまう。
 脚を犬に噛まれ、体に穴が開いたままの状態で、フラフラと道路に出て、ローラー車に轢かれ、体がペシャンコになってしまう。
 豚の丸焼きをオーブンに入れるが、オーブンが作動しない。あれこれいじってみるが、直らないので一服しようとして、マッチを擦るとガス爆発が起きてしまう。いろんな物と一緒に体が空中高く舞い上げられたと思った瞬間に、また落下して、元の部屋へ。そんな目に遭いながらも、犬はまだ脚に噛み付いたままだった……。

 監督のビル・プリンプトンによると、本当に痛い目に遭うことなく、様々な痛い目に遭ったような疑似体験をできる映画をということで、この映画を企画したそうです。

 映画の中で起こっていることが本当に自分の身に起こっていることのように感じられるかどうかはともかく、本作は、そう感じられるように、全編1人の男性の“主観”で描かれています。

 1人の人物の主観で映画全編を撮ってみたいというのは、映画監督を志す者なら、誰でも一度は考えてみることですが、作品世界が視覚的にかなり制約されるのと、ちょっと息苦しい感じの作品になってしまうのとで、実際に実行に移して1本撮り上げるという人はなかなかいません。
 本作は、アニメーションで、8分程度のコメディー作品ではありますが、そういう意味では、野心的な作品であると言っていいかもしれません(ま、そうは言っても、ギャグ・アニメということもあり、あまりリアリティーを感じたりはしませんが)。
 同様の趣向の作品としては、1997年のフランス映画『視線のエロス』(監督:フィリップ・カレル)があります。この映画は、1人の女性との恋愛模様の移り変わりを男の主観のみで描いた作品で、全編を通してスクリーンには相手役の女性1人しか映らないというちょっと変わった作品です。擬似恋愛体験ができる作品というより――それはこういう方式を取らなくても普通の映画で体験できるものなのですが――相手役である彼女の表情を映すだけで、その時々の恋愛の状況や関係性を伝えるというのが面白かったですね。(ということは、この映画の出来は、女性役の演技にかかっているわけですが、実際に主演のイザベル・カレはセザール賞にノミネートされるこちになりました。)

 本作は、全編、色鉛筆で描かれたアニメーションです。

 本作は、“床に落としちゃったトーストを食べてしまう”シーンで有名な映画だそうです。

画像

 ◆作品データ
 1988年/米/7分35秒
 台詞なし/字幕なし
 アニメーション

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 ◆監督について
 ピル・プリンプトン
 1946年 オレゴン州ポートランド生まれ。3男3女の6人兄弟の1人。父は銀行員。
 14歳の時にディズニーに自分の描いたマンガとアニメーターになりたいという手紙を送ったが、まだ早すぎると断りの返事をもらう。
 1964年 オレゴン市立高校を卒業し、ポートランド州立大学に入学。
 大学では、映画同好会に入り、年鑑の編纂委員も務めた。彼が最初に作ったアニメーションは、年鑑のためのプロモーション作品だという。
 1967-72年 ベトナム戦争への徴兵を逃れるために、国家警備隊に入隊。
 1968年 ニューヨークのビジュアル・アートの学校に入学。専攻はグラフィック・デザイン。
 ニューヨークでは長らくイラストレーターや漫画家として活躍し、“Cineaste”や “Filmmakers Newsletter”、“Film Society Review”といった雑誌のデザインを担当し、「ニューヨーク・タイムズ」や「ヴィレッジ・ヴォイス」「ローリング・ストーン」「ヴォーグ」「ヴァニティ・フェア」にもイラストを提供した。
 1975年に“The Soho Weekly News”紙で、“Plympton”という政治マンガを始め、1981年にはユニバーサル・プレスの配信により12紙以上の新聞に掲載されるようになった。
 アニメーションを作るようになったのは1983年になってからで、Jules Feifferの曲 “Boomtown”のための作品で、プロデューサーからの依頼で制作に取りかかった。
 以後、取り憑かれるようにしてアニメーション作品を制作し、現在にいたるまで世界中の映画祭を席捲している。
 数多くの短編アニメーション作品のほか、中編アニメーションを1本、長編アニメーションを4本、実写作品を3本(うち2本はドキュメンタリー)を制作している。
 1987年の『君の顔』、2004年の『ガード・ドッグ』でアカデミー賞短編アニメーション賞にノミネート、1997年の『スーパー変態ハネムーン 花婿はヘンな人(新郎は変な人)』と2001年の『ミュータント・エイリアン』ではアヌシー国際映画祭グランプリを受賞。2007年にはアニー賞でウィンザー・マッケイ賞(生涯貢献賞)を受賞。そのほか受賞した賞は数知れない。

 ネット上で観られる短編は基本的にはギャグ・コメディーですが、ギャグにはしても、対象を見下すことで笑いを取っているわけではないので、嫌な感じはしません。

 プリンプトンが作り出す笑いには2通りあって、人間の欲望や強迫観念、うかつさ、妄想などを笑うもの(人間観察による)と、連想や誇張、エスカレートなどによって笑わせるもの(自由な発想による)とがあるようです。

 1988年の“Self Portrait”は、川本喜八郎、手塚治虫、ヤン・シュヴァンクマイエルら世界中のアニメ作家が自分(自画像)を題材にして作った競作短編ですが、プリンプトンは、元々、顔(の変容)を題材にした作品の多いアニメ作家のようです。

 テックス・エイヴリーが好きらしく、本人もその影響を認めているらしいのですが、シュヴァンクマイエル作品に通じるものを感じる作品も多々あります。

 ・1985年 “Drawing Lesson #2”
 ・1985年 “Boomtown”
 ・1987年 『君の顔』“Your Face”  *1988年アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート
 ・1987年 “Love in the Fast Lane”
 ・1988年 “Self Portrait”
 ・1988年 “One of Those Days”
 ・1989年 “How to Kiss”
 ・1989年 『タバコをやめるための25の方法』“25 Ways to Quit Smoking”
 ・1990年 “Tango Schmango”
 ・1990年 “Dig My Do”
 ・1991年 “Push Comes to Shove”
 ・1991年 “The Wiseman”
 ・1991年 『プリンプトゥーンズ』“Plymptoons”
 ・1992年 “The Tune”[中編]
 ・1993年 “Draw”
 ・1994年 “Nose Hair”
 ・1994年 “J. Lyle”[長編][実写]
 ・1994年 “Faded Roads”
 ・1995年 『女の攻略法』“How to Make Love to a Woman”
 ・1995年 “Guns on the Clackamas: A Documentary” [長編] [実写]
 ・1996年 “Smell the Flowers”
 ・1996年 “Boney D”
 ・1997年 “Walt Curtis: The Peckerneck Poet”[中編] [実写]
 ・1997年 “Spike and Mike's Festival of Animation Sick & Twisted Volume 4”(V)
 ・1997年 “Sex and Violence”
 ・1997年 “Mondo Plympton” [長編]
 ・1997年 『スーパー変態ハネムーン 花婿はヘンな人(新郎は変な人)』“I Married a Strange Person!” [長編] *1998年 アヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞、アニー賞長編アニメーション部門ノミネート 日本版DVDリリースあり
 ・1998年 “More Sex and Violence”
 ・1998年 “General Chaos: Uncensored Animation”
 ・1999年 『サプライズ・シネマ』“Surprise Cinema”
 ・1999年  『ある木のエキサイティングな一生』“The Exciting Life of a Tree”
 ・2000年 “Can't Drag Race with Jesus”
 ・2001年 “Eat”
 ・2001年 “12 Tiny Christmas Tales”(V)
 ・2001年 『ミュータント・エイリアン』“Mutant Aliens” [長編] *2002年 アヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞
 ・2003年 『駐車場』“Parking”
 ・2004年 『ヘア・ハイ』“Hair High”[長編]
 ・2004年 『ガード・ドッグ』“Guard Dog” *2005年アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート DVD『広島国際アニメーション傑作選 vol.1』に収録
 ・2005年 『花と扇風機』“The Fan and the Flower”
 ・2006年 “Guide Dog”
 ・2006年 “Don't Download This Song”(“Straight Outta Lynwood )(V)
 ・2006年 “Don't Download This Song”(“Al TV”) (V)

 *参考サイト

 ・ビル・プリンプトンの公式サイト Bill Plympton On-Line!:http://www.awn.com/plympton/

 ・Acme Fimworks:http://www.acmefilmworks.com/dir_folders/dirPlympton/plympton.html#

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