LOVEの行き着く果てに…… 『語るべきか、あるいは語らざるべきか』 ラウル・セルヴェ

 “WHAT’S YOUR OPINION ABOUT THE ACTUAL POLITICAL SITUATION ?”(現在の政治状況についてどう思いますか?)



 【物語】 テレビのレポーターの街頭インタビューで“WHAT’S YOUR OPINION ABOUT THE ACTUAL POLITICAL SITUATION ?”(現在の政治状況についてどう思いますか?)という質問がなされている。インタビューは半ば強引で、バスに乗り込もうとしている人やマンホールで作業している人にも向けられる。
 その中の1人(ヒッピー)が答えた言葉“MAKE LOVE”は、上層部(?)の気に入るところとなり、“LOVE”という標語(?)がお金で売り買いされることになる。
 男は、命じられるままに“LOVE”を吐き出していく。
 美術館の絵もレコードもお店のショーウィンドウもバスもベンチも赤ん坊の子守唄も町中が“LOVE”一色に染まる。
 しかし、言葉は“LOVE”から“LOVE THIS”“LOVE THAT”にずれていき、さらに“BUY THIS”“BUY THAT”にすり替えられてしまう。
 変化に気づいた当局の関係者が間違いを正そうとするが、発信者の方はなぜやめさせるのかと問うてくる。当局関係者は発信者に勲章をやるからというが、彼は聞かないので、今度は暴力で言うことを聞かそうとする。
 すると、男は“PROPATRIA”(お国のため!(?))という言葉を次々発信していくようになる。
 その結果、戦争が起こり、人々は普通の質問にも答えられなくなる。
 事態が“PROPATRIA”と発信している男のせいだと気づいた当局はやめさせようとするが、男は言葉を“PROPATRIA MORTUUS”(お国のために死すべし(?))に変えるだけ。当局は“I LOVE ART”に変えさせようとするが男は言うことを聞かない。
 戦争が激しくなり、名誉の戦死と勲章ばかりが増えていく。
 男の発言が虚しく響くようになって、男はやっと自分が独りぼっちになってしまったことに気づく。昔のように“MAKE LOVE”と口にしてみるが、今度は管理化され、巨大化した権力が“WORK”といい、“THINK”と言って、男の発言を検閲していく。
 ついに誰も自由に発言できなくなり、すべてのことに対して“BRAVO”と肯定することになる。
 男は、間違った方向に来てしまったと思ってももう元に戻すことはできない。THE END。

 『語るべきか、あるいは語らざるべきか』は、ラウル・セルヴェとしては、『クロノフォビア』と同じテーマを扱った作品、つまり、社会における芸術家の意味を問うてみた作品です。
 『クロノフォビア』では、軍によって世界が支配されても、芸術家や子どもたちによって救われるという結末になっていましたが、『語るべきか、あるいは語らざるべきか』はよりシビアになって、芸術家の発言が商売に利用され、政治に利用されていく様が描かれています。こちらでは結末に何の希望も残されていません。

 この作品が作られた時期を考えてみれば、ちょうどベトナム戦争が泥沼化し、反戦運動も盛んになってきていた頃で、ヒッピー文化やカウンター・カルチャーが華開いていた時期でもあります。
 この時期は、だから、たとえ戦争反対の立場であっても、芸術家たちが否応なしに政治に関わらざるを得なくなっている状況にあって、ラウル・セルヴェ自身も、「芸術家が世界を救う」などと楽観的なことを言っていられなくなり、この作品を通して、芸術家たちに対しても警告を発しなければならなくなった、ということを示していると思われます。

 これまでのセルヴェ作品では、たとえファンタジックなものであれ、ラストには希望があったものですが、この作品にはそれがありません。ただ警告を発するのみです。それは、この作品が現実に対する危機感から作られたものであり、セルヴェとしても現実問題としてこの物語に楽観的なエンディングを思いつけなかったし、また、楽観的なエンディングをつける意義も見出せなかったからだと思われます。

 この作品がモノトーンに近いのは、『クロノフォビア』と同じで現実社会に色(=自由さ)が失われつつあることの象徴としてであり、意図的にそうしているようです。

 なお、作品に出てくる“PROPATRIA”と“MORTUUS”にどんな意味があるのかはよくわからなかったので、“PROPATRIA”は国名もしくは“愛国心”のようなものと解釈し、“MORTUUS”は“MORTAL”(死すべき)からの連想で上のように解釈しました。ラテン語か何かなのか、あるいは実際にはこういう単語はないのかは、辞書を引いた限りではよくわかりませんでした。大筋では私の解釈で間違っていないと思いますが、どうでしょうか。劇場公開時には……日本語字幕はついていなかったような気がします。

 ちなみに、この作品で話されている台詞は、ラウル・セルヴェ自身がアテレコしているそうです。

画像

 ◆作品データ
 1970年/ベルギー/10分22秒
 台詞あり/字幕なし
 アニメーション

 1971年 アヌシー国際アニメーションフェスティバル特別賞受賞。

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 ◆監督について

 ラウル・セルヴェ
 セルヴェは、絵画や壁画も描くが、特に短編アニメーションの作り手として有名で、ベルギーではアニメーションの父として慕われています。

 1928年 ベルギーのオーステンデ生まれ。
 父親は中国服の商店主だったが、新し物好きで、パテの映写機を購入して、日曜の午後などにチャップリンやフェリックス・ザ・キャット等の短編映画の上映会を催したりしていた。
 12歳でドイツの攻撃で家が焼かれ、父が収監される。
 16歳の頃、第2次世界大戦で戦火が激しくなると、ドイツでの強制労働を逃れるためもあって、装飾のアシスタントに就く。
 戦後、そのまま仕事を続けることもできたが、セルヴェは本格的な勉強がしたくて、ゲント(ヘント)にある王立アカデミーRoyal Academy of Fine Artsに進み、装飾美術(Decorative Arts)を学ぶ。そこでAlbert Vermeirenからアニメーションを教わる。
 兵役の後、自らのアニメーション制作への道を切り開くために、イギリスのランク・スタジオやパリのジェモー・スタジオに赴くが、望みを果たせず、帰国。8mmでドキュメンタリー映画を撮影したりする。
 ルネ・マグリットとカジノの室内装飾の仕事をしたりした後、1957年、ゲントの王立アカデミーの装飾美術の教師となり、そこでアニメーションの制作に着手する。3年かけて16ミリで“Havenlichten”「港の灯」を完成させる。この作品は、アントワープ・ナショナル・フィルム・フェスティバルに出品されて、アニメーションとして初めての賞を受賞する。
 次に35mmで制作したアニメーション作品が“The False Note”で、2年の歳月をかけて1963年に完成(これに先立って1962年に“Omleiding november”という実写作品も制作している)。“The False Note”はアントワープ・ナショナル・フィルム・フェスティバルでグランプリを受賞。この作品で、セルヴェはアニメーションとしての技法を確立したとされる。
 同年(1963年)に、セルヴェによって王立アカデミーにアニメーション映画学部が設立される。これはヨーロッパで最初に設立されたアニメーション映画に関する学部・学科となる。

 1976年には、the Centre Belge du Film d'Animation(アニメーション映画ベルギー・センター)をゲントに設立。

 1984~94年には、ASIFA (international association of film animators).の会長を務める。

 ラウル・セルヴェ・ファウンデーションを作り、初等・中等教育でのアニメーション・コースの組織化にも尽力している。

 ・1960年 『港の灯』“Havenlichten”(“Harbour Lights”)
 ・1962年 “Omleiding november”(“November Diversion”)
 ・1963年 『調子外れの音』 “De Valse noot”(“The False Note”)
 ・1965年 『クロノフォビア』 “Chromophobia”
 ・1968年 『人魚(シレーヌ)』“Sirene”
 ・1969年 『ゴールドフレーム』“Goldframe”
 ・1970年 『語るべきか、あるいは語らざるべきか』“To Speak or Not to Speak”
 ・1971年 『オペレーションX-70』“Operation X-70”
 ・1973年 『ペガサス』 “Pegasus”
 ・1976年 “Het Lied van Halewijn (Halewyn's Song)”
 ・1979年 『ハーピア』 “Harpya”
 ・1982年 “Die Schöne Gefangene”
 ・1994年 『タクサンドリア』“Taxandria”
 ・1998年 『夜の蝶』 “Papillons de nuit”
 ・2001年 “Atraksion”
 ・2003年 『冬の日』のうち「わが庵は鷺に宿貸すあたりにて 髪はやす間をしのぶ身のほど」(芭蕉)のパートを担当

 『クロモフォビア』『人魚』『語るべきか、あるいは語らざるべきか』『ハーピア』『夜の蝶』は、2000年に<夜の蝶 ラウル・セルヴェの世界>としてユーロスペースにてレイトショー公開。
 “Goldframe” “Operation X-70” “Pegasus”は上記作品とともに、DVD「「夜の蝶」他 ラウル・セルヴェ作品集」に収録されています。

 ユーロスペースで上映した5作品は、吉本興業による配給作品で、これらは、これまで様々な形で映画に関わってきた吉本興業が初めて手がける外国映画となりました。
 吉本興業がこれらの作品を買い付けることになった発端は、吉本興業のスタッフ(当時)が広島国際アニメーションフェスティバルでセルヴェの作品を観て感激したことで、彼女が、吉本興業が経営していた劇場(当時)のレイトショー枠でならこれらの作品を上映することができるのではないかと考え、上司の許可を取って買い付けた、と聞いた記憶があります。

 *参考サイト:http://www.raoulservais.be/index.htm

 *参考書籍
 ・『アートアニメーションの素晴らしき世界』(エスクァイア マガジン ジャパン)p81
 ・『ユーロ・アニメーション』(フィルムアート社)p44~49

 *関連DVD
 ・a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/B000FHVV5Q%3ftag=kattenieigade-22%26link_code=xm2%26camp=2025%26dev-t=D31ZR0ROP0WVXQ" target="_blank">DVD「「夜の蝶」他 ラウル・セルヴェ作品集」
 ・『冬の日』

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