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zoom RSS 魅惑の影絵アニメーション 『小さな煙突屋さん』 ロッテ・ライニガー

<<   作成日時 : 2007/03/25 00:28   >>

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 サイレント映画で、しかも影絵アニメーション。そういった作品を家庭で観ることは少ないので、最初はとっつきにくいかもしれませんが、よく見ると実によくできていて味わいがあります。とりあえずは、まず1回観てみてください。



 【物語】 1709年のロンドン。
 煙突屋の少年は今日も親方と煙突掃除に出かける。
 独りでユニコーンの紋章のある家の煙突を掃除するが、あやまって煙突の中に落ちてしまう。でも、こういうことは慣れっこで、その家のご婦人に、得意の踊りを見せると、許してもらえる。婦人は、少年におこづかいと紋章の入ったハンカチをくれる。
 一方、婦人のことを恋慕う男性がいて、婦人を自分のものにするために彼女をさらってくる計画を立てている。婦人の家の女中を手なづけて、情報を送らせたりもしているのだが、その日、女中から婦人がでかけるという知らせが届く。
 男は外出した婦人を襲い、隠れ家に閉じ込める。男は婦人の気を引こうとするが、婦人は怯えるばかり。
 婦人は、窓から煙突掃除の少年を見つけ、男の隙をついて、少年にハンカチを投げて、助けを求める。
 少年は婦人の家にそれを伝えに行く。
 婦人の家でそれを伝えると女中が血相を変えてでていき、賊の一味だったことがばれてしまう。
 女中から緊急の知らせを受けた男は、婦人を別の場所に連れて行こうとするが、追っ手に見つかってしまい、万事休す。
 婦人救出に功のあった少年は、婦人からキスのプレゼントをもらう。

 婦人と女中、婦人を誘いに来る男性と女性、婦人をさらう男、その一味の3人組、煙突掃除の少年と親方、これだけの登場人物を輪郭(体型と服装)と小道具で表現しきっているのが凄いですね。婦人が女中を呼ぶためのベルとか、婦人の身の回りのところどころ(家の正面、風見鶏、ハンカチ)にユニコーンの紋章がちりばめてあったりすることとか、実に芸が細かい。

 ただやはりサイレントで字幕なしの本作を1回観ただけで、すんなりと理解する難しいので、公開当時は、この物語自体がとても有名だったんじゃないかと考えられます。
 ただ、今、調べてみても、ベンジャミン・ブリテンのオペラ版(1949)があることがわかるくらいで、オリジナルが何なのか、ネットではその詳細にたどりつくことはできませんでした。
 ロッテ・ライニガーにとっても、本作は、1935年版に続き、2度目の映画化になります。

 物語を吟味してみると、煙突掃除の少年が主人公の物語でありながら、トラブル解決に当たって、少年が煙突掃除で培った知識や技を使わないというのは、せっかくのキャラクター設定をムダにしているとも思えますから、オリジナルの物語(があるとして、それ)は、少年が煙突掃除で培った知識や技を生かすようなエピソードも含みつつ、もっと長いものであるか、シリーズものである可能性もあります。

 婦人を誘いに来た男女が誰で、婦人に何を伝えに来たのかがよくわからないのですが、彼らからの知らせを聞いて婦人が後ずさりするほど驚いているところを見ると、急な縁談か何かを持ってきたというところでしょうか(しかし女中は予めそれを知っていたということになりますが)。

画像

 ◆作品データ
 1954年/英/9分56秒
 台詞なし/字幕なし/サイレント
 影絵アニメーション

 日本では2005年11月に<ロッテ・ライニガーの世界>と題した特集上映が東京都写真美術館ホールで行なわれ、『アクメッド王子の冒険』『カルメン』『パパゲーノ』『ガラテア』『眠れる森の美女』『長靴をはいた猫』が上映されました。
 『アクメッド王子の冒険』は日本での上映のために、制作当時のスコアを元に新たに録音された音源を使用したサウンド付きのプリントで、全世界プレミア上映となりました。

 <ロッテ・ライニガーの世界>のパンフには、『映画のおしゃべり箱』(中公文庫)に書かれた淀川長治さんの文章が引用されていて、『アクメッド王子の冒険』が1929年に東和商事(現・東宝東和)の手により、その創立1年目に日本で紹介されたこと、『ベツレヘムの星』や『ジャックと豆の木』『トロイの美女』も劇場公開されていることが書かれています。

 *1929年に東和商事が日本に紹介した映画はドイツ映画ばかりで、その中にはフリッツ・ラングの『メトロポリス』もありました。

 2006年には、DVD『アクメッド王子の冒険 特別版』『ロッテ・ライニガー作品集 DVDコレクション』がリリースされ、後者には『アクメッド王子の冒険』をはじめ、33編+「アート・オブ・ロッレ・ライニガー」(ドキュメンタリー)が収録されています。

画像

 <ロッテ・ライニガーの世界>では、4プログラムが組まれたのですが、『アクメッド王子の冒険』と2編の短編を組み合わせたものばかりだったので、この時に上映されたすべての作品(6作品)を観るには少なくとも3プログラムを観なければなりませんでした。さすがにそこまでする人はいないと思うので、ほとんどの人は3作品観ておしまいというところだったのではないかと思われます。

 私が観たのも、『アクメッド王子の冒険』と『カルメン』と『パパゲーノ』という3本だけなので、『小さな煙突屋さん』がロッテ・ライニガー作品の中でどのような位置にあり、どういう特徴の作品であるのかということを言うことはできないのですが、本作を観ただけでも影絵アニメーションとロッテ・ライニガーの魅力は十分に伝わるように思います。

 ◆監督について
 ロッテ・ライニガー(1899-1981)

 1899年 ベルリン生まれ。
 幼い頃から切り絵細工が好きで、よく家族の前で切り絵細工による人形劇を演じていたという。
 10代になると、映画に夢中になり、ジョルジュ・メリエスやパウル・ヴェゲナーの作品を好んだ。
 15歳の時にパウル・ヴェゲナーの所属するマックス・ラインハルト劇団に参加。
 彼女が最初に携わった作品もヴェゲナーの“Rüezahlls Hochzeit”(1916)。
 その後、いくつかの作品の影絵パートを担当した後、1918年に初の短編影絵作品“Das Ornament des verliebten Herzens”(美しき魂の飾り)を完成させる。
 1926年には初長編『アクメッド王子の冒険』を3年がかりで完成。興行的にも批評的にも大成功を収める。
 1928年の『ドリトル博士の冒険』は、英語作品を原作とする初めての作品で、作曲にはクルト・ヴァイルも参加している。
 1929年の“Die Jagd nach dem Glück”は初の実写作品で、キャストにはジャン・ルノワールも参加している。
 ナチスの台頭によって、制作が制限されるようになると、国外を転々とするようになるが恒久的なビザを取得することができず、第二次世界大戦が始まった時点でもベルリンにいた。戦時中は制作を続けることができず、国外の移動を繰り返した。
 1948年にロンドンで活動を再開し、自身のプロダクションPrimrose Productionsを作った。その後、BBCのために児童向けの短編シリーズを制作。『ジャックと豆の木』(1955)は初のカラー作品となった。
 1972年にドイツ映画賞で名誉賞を受賞。
 1975年にカナダのNFBに招かれて、“Aucassin and Nicolette”を制作。
 1981年 ドイツのデテンハウゼンで没。

 夫であるカール・コッホ(1892-63)もアニメーター&監督で、『アクメッド王子の冒険』(1923-26)や“Die Jagd nach dem Glück”(1930)、『長靴をはいた猫』(1954)で共同監督を務めたほか、いくつかのロッテ作品ではアニメーター等で制作に協力した。2人の出会いはヴェゲナーの紹介による。

 影絵アニメーションというのが、ジャンルとして存在するのか、ある時期に流行ったものなのか、こういう作品を発表したのがロッテ・ライニガーだけではないとしたら、ロッテ・ライニガーは影絵アニメーションの中でどういうポジションを占めるのか、ということが当然、疑問となってでてくると思うのですが、IMDbのキーワード検索で“silhouette”を調べると、上がってくる作品は大半がロッテ・ライニガー作品でした。ということは、影絵アニメーションを手がけたのもほとんどロッテ・ライニガーだけということになりそうです。
 インドネシアには、ワヤン・クリという影絵芝居があり、また、007シリーズのタイトル・バックなどでも影絵が使われたりしますが、映画の中で影絵で物語を語らせようとし、それに人生を賭けたのは、ほとんどロッテ・ライニガー以外になく(空前絶後!)、作者も作品もとてもユニークなものだと言っていいようです。

 ・1916年 “Rüezahlls Hochzeit”(ポール・ヴェゲナー) [影絵]
 ・1916年 “Die schöne Prinzessin” [衣裳、セット、特殊効果]
 ・1918年 “Apokalypse” [影絵]
 ・1918年 “Der Rattenfänger von Hameln(The Pied Piper of Hamelin)”[影絵、アニメーション]
 ・1919年 “Das Ornament des verliebten Herzens”
 ・1920年 “Der verlorene Schatten” [アニメーション]
 ・1920年 “Amor und das standhafte Liebespaar”
 ・1921年 『空飛ぶカバン』 “Der fliegende Koffer(The Flying Trunk)”
 ・1921年 “Der Stern von Bethlehem”
 ・1921年 『マルケスの秘密』 “Das Geheimnis der Marquisin”
 ・1922年 “Dornröschen(Sleeping Beauty)”
 ・1922年 “Aschenputtel(Cinderella)”
 ・1923年 『ニーベルンゲン』(フリッツ・ラング) [影絵シーン原案]
 ・1923-26年 『アクメッド王子の冒険』 “Die Abenteuer des Prinzen Achmed”
 ・1926年 『人騒がせな中国人』 “Der Scheintote Chinese”
 ・1927年 “Heut’ tanzt Mariette”[影絵]
 ・1928年 『ドリトル博士の冒険』(『ドリトル先生アフリカ行き』『ドリトル先生とサルの橋』『ドリトル先生とライオンのねぐら』) “Dr. Dolittle und seine Tiere ”
 ・1929年 “Die Jagd nach dem Glück”
 ・1930年 『モーツァルトの幻想』『10ミニッツ・モーツァルト』 “Zehn Minuten Mozart ”
 ・1931年 『恋の猟人』 “Harlekin”
 ・1932年 “Sissi”
 ・1933年 “Don Quixote”(G・W・パブスト)[影絵]
 ・1933年 『カルメン』 “Carmen”
 ・1934年 『車輪の歴史』 “Das rollende Rad”
 ・1934年 “Der Graf von Carabas(Puss in Boots)”
 ・1934年 『盗まれた心』 “Das Gestohlene Herz”
 ・1935年 『小さな煙突屋さん』 “Der Kleine Schornsteinfeger(The Little Chimneysweep)”
 ・1935年 『ガラテア』 “Galathea: Das lebende Marmorbild”
 ・1935年 『パパゲーノ』 “Papageno”
 ・1936年 “The King’s Breakfast”
 ・1937年 “The Tocher”
 ・1937年 『ラ・マルセイエーズ』(ジャン・ルノワール)[影絵シーン原案]
 ・1939年 “Dream Circus”
 ・1939年 “L’Elisir”
 ・1944年 『金のガチョウ』 “Die Goldene Gans”
 ・1951年 “Mary's Birthday”
 ・1953年 『アラジンと魔法のランプ』 “Aladdin and the Magic Lamp”
 ・1953年 『魔法の馬』 “The Magic Horse”
 ・1953年 『白雪と赤バラ』 “Snow White and Rose Red”
 ・1954年 『三つの願い』“The Three Wishes”
 ・1954年 『アリとキリギリス』 “The Grasshopper and the Ant”
 ・1954年 『勇ましい仕立て屋さん』 “The Gallant Little Tailor”
 ・1954年 『眠れる森の美女』 “The Sleeping Beauty”
 ・1954年 『かえるの王子さま』 “The Frog Prince”
 ・1954年 『カリフの鶴』 “Caliph Storch”
 ・1954年 『シンデレラ』 “Cinderella”
 ・1954年 『長靴をはいた猫』“Puss in Boots”
 ・1954年 『小さな煙突屋さん』 “The Little Chimney Sweep”
 ・1955年 『親指姫』 “Thumbelina”
 ・1955年 『ヘンゼルとグレーテル』 “Hansel and Gretel”
 ・1955年 『ジャックと豆の木』 “Jack and the Beanstalk”
 ・1956年 『ベツレヘムの星』 “The Star of Bethlehem”
 ・1957年 『トロイの美女』 “Helen la belle”
 ・1958年 『ハレムの一夜』 “The Seraglio”
 ・1960年 “The Pied Piper of Hamelin”
 ・1961年 “The Frog Prince”
 ・1963年 “Cinderella”
 ・1974年 『放蕩息子』 “The Lost Son”
 ・1976年 “Aucassin and Nicolette”
 ・1979年 “The Rose and the Ring”
 ・1980年 “Dusselchen and the Seasons”

 *フィルモグラフィーは、資料によって作品や制作年に違いがありますが、ここでは下記William Moritzのサイトをベースとしました。このほかにも多数の広告作品があります。

 *監督作以外の作品は、[ ]で特記しました。

 *参考サイト
 ・<ロッテ・ライニガーの世界>公式サイト:http://www.reiniger-world.com/

 ・Lotte Reiniger by William Moritz:http://www.awn.com/mag/issue1.3/articles/moritz1.3.html

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
トラックバックありがとうございました!
承認制にしていましたので気づくのが遅くなりました。とても詳しい内容の記事ですね。圧倒されてしまいました。
本物の映画(ロッテ・ライニガー)を見たことは無いのですが、とても惹かれるものがあります。
けい
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2007/04/14 11:19
けいさま
コメントありがとうございました。
ロッテ・ライニガーの動画はネット上ではこれしか見つけることができなかったのですが、楽しんでいただければ幸いです。
他にもいろんなタイプのアニメーションをご紹介していますので、よかったら覗いてみてください。
umikarahajimaru
2007/04/14 13:38
トラックバックありがとうございます。
大変勉強になりました。
今後、参考にさせていただきます。
bee_0078
2007/06/23 10:51

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