軍隊の支配が強まると、世界は色彩を失ってしまう ラウル・セルヴェ 『クロノフォビア』

 軍隊の支配が強まると、世界は色彩を失ってしまう。



 軍隊が支配する社会は、芸術家にとっても一般市民にとっても息苦しい社会だけれど、軍隊がどんなに押さえつけても、世界から色彩(さまざまな創造行為や楽しみ、芸術等)を奪うことはできない、という主張がわかりやすく表現されている作品です。

 ラウル・セルヴェは、反戦争・反軍隊・反ファシズムというメッセージ性を含んだ作品をいくつか発表していますが、これはその中の1つ。ベルギーがナチスに支配された時の経験が、ラウル・セルヴェにこうした作品を作らせる契機になったと言われています。

 軍隊が支配する社会では、子どもや芸術家が希望を担うことになるという主張も見てとれますね。

 ◆作品データ
 1965年/ベルギー/9分27秒
 字幕なし/台詞なし
 アニメーション
 1966年ベネチア国際映画祭最優秀アニメーション賞(サンマルコ賞)受賞。

画像

 ◆監督について

 ラウル・セルヴェ
 セルヴェは、絵画や壁画も描くが、特に短編アニメーションの作り手として有名で、ベルギーではアニメーションの父として慕われています。

 1928年 ベルギーのオーステンデ生まれ。
 父親は中国服の商店主だったが、新し物好きで、パテの映写機を購入して、日曜の午後などにチャップリンやフェリックス・ザ・キャット等の短編映画の上映会を催したりしていた。
 12歳でドイツの攻撃で家が焼かれ、父が収監される。
 16歳の頃、第2次世界大戦で戦火が激しくなると、ドイツでの強制労働を逃れるためもあって、装飾のアシスタントに就く。
 戦後、そのまま仕事を続けることもできたが、セルヴェは本格的な勉強がしたくて、ゲント(ヘント)にある王立アカデミーRoyal Academy of Fine Artsに進み、装飾美術(Decorative Arts)を学ぶ。そこでAlbert Vermeirenからアニメーションを教わる。
 兵役の後、自らのアニメーション制作への道を切り開くために、イギリスのランク・スタジオやパリのジェモー・スタジオに赴くが、望みを果たせず、帰国。8mmでドキュメンタリー映画を撮影したりする。
 ルネ・マグリットとカジノの室内装飾の仕事をしたりした後、1957年、ゲントの王立アカデミーの装飾美術の教師となり、そこでアニメーションの制作に着手する。3年かけて16ミリで“Havenlichten”「港の灯」を完成させる。この作品は、アントワープ・ナショナル・フィルム・フェスティバルに出品されて、アニメーションとして初めての賞を受賞する。
 次に35mmで制作したアニメーション作品が“The False Note”で、2年の歳月をかけて1963年に完成(これに先立って1962年に“Omleiding november”という実写作品も制作している)。“The False Note”はアントワープ・ナショナル・フィルム・フェスティバルでグランプリを受賞。この作品で、セルヴェはアニメーションとしての技法を確立したとされる。
 同年(1963年)に、セルヴェによって王立アカデミーにアニメーション映画学部が設立される。これはヨーロッパで最初に設立されたアニメーション映画に関する学部・学科となる。

 1976年には、the Centre Belge du Film d'Animation(アニメーション映画ベルギー・センター)をゲントに設立。

 1984~94年には、ASIFA (international association of film animators).の会長を務める。

 ラウル・セルヴェ・ファウンデーションを作り、初等・中等教育でのアニメーション・コースの組織化にも尽力している。

 ・1960年 『港の灯』“Havenlichten”(“Harbour Lights”)
 ・1962年 “Omleiding november”(“November Diversion”)
 ・1963年 『調子外れの音』“De Valse noot”(“The False Note”)
 ・1965年 『クロノフォビア』 “Chromophobia”
 ・1968年 『人魚(シレーヌ)』 “Sirene”
 ・1969年 『ゴールドフレーム』“Goldframe”
 ・1970年 『語るべきか、あるいは語らざるべきか』“To Speak or Not to Speak”
 ・1971年 『オペレーションX-70』“Operation X-70”
 ・1973年 『ペガサス』“Pegasus”
 ・1976年 “Het Lied van Halewijn (Halewyn's Song)”
 ・1979年 『ハーピア』 “Harpya”
 ・1982年 “Die Schöne Gefangene”
 ・1994年 『タクサンドリア』“Taxandria”
 ・1998年 『夜の蝶』 “Papillons de nuit”
 ・2001年 “Atraksion”
 ・2003年 『冬の日』のうち「わが庵は鷺に宿貸すあたりにて 髪はやす間をしのぶ身のほど」(芭蕉)のパートを担当

 『クロモフォビア』『人魚』『語るべきか、あるいは語らざるべきか』『ハーピア』『夜の蝶』は、2000年に<夜の蝶 ラウル・セルヴェの世界>としてユーロスペースにてレイトショー公開。
 “Goldframe” “Operation X-70” “Pegasus”は上記作品とともに、DVD「「夜の蝶」他 ラウル・セルヴェ作品集」に収録されています。

 ユーロスペースで上映した5作品は、吉本興業による配給作品で、これらは、これまで様々な形で映画に関わってきた吉本興業が初めて手がける外国映画となりました。
 吉本興業がこれらの作品を買い付けることになった発端は、吉本興業のスタッフ(当時)が広島国際アニメーションフェスティバルでセルヴェの作品を観て感激したことで、彼女が、吉本興業が経営していた劇場(当時)のレイトショー枠でならこれらの作品を上映することができるのではないかと考え、上司の許可を取って買い付けた、と聞いた記憶があります。

 *参考サイト:http://www.raoulservais.be/index.htm

 *参考書籍
 ・『アートアニメーションの素晴らしき世界』(エスクァイア マガジン ジャパン)p81
 ・『ユーロ・アニメーション』(フィルムアート社)p44~49

 *関連DVD
 ・a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/B000FHVV5Q%3ftag=kattenieigade-22%26link_code=xm2%26camp=2025%26dev-t=D31ZR0ROP0WVXQ" target="_blank">DVD「「夜の蝶」他 ラウル・セルヴェ作品集」
 ・『冬の日』

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この記事へのコメント

2007年02月26日 11:04
>軍隊が支配する社会では、子どもや芸術家が希望を担うことになるという主張も見てとれますね。なるほど。って感心して。こんにちわ!大体、遅れても見ています。解説を読むのが楽しいです。このアニメ、一度見たら、何となく記憶していそう。おもしろかったです。
umikarahajimaru
2007年02月26日 17:26
huneさま
コメントありがとうございました。
『ハーピア』と同じ監督なんですが、印象は大分違うと思います。huneさんはこちらの方がお好みでしょうか。
これからもいろんなタイプの作品を紹介していきますので、「今日のはちょっとなあ~」と思っても、そのうち“当たり”に当たることもあると思うので、気長におつきあいください。

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