チェコ・アニメ史上に残る イジー・トルンカ 『手』

 チェコ・アニメの巨匠イジー・トルンカの遺作『手』。





 強大な力に押しつぶされて、自分の作りたいものが作れなくなる植木鉢職人の物語。

 イジー・トルンカには、笑ったり、ほのぼのしたり、しみじみと感動したりする作品が多いのですが、そのキャリアの最後に、こうした作品を作ったことは、驚きで、私が、最初に観たいくつかのトルンカの短編の中でも、『手』はやはり異彩を放っていて、強く印象に残りました。

 作品自体の評価としては、トルンカ自身も自由に作品が作れなくなってきたことを示す作品として、また、チェコの来るべき時代(「プラハの春」以降の暗黒の時代)を予言した作品として、高い評価を受けているようです。 

 表情も変えず、ものも言わない人形ですが、孤独や不安、苦悩、やりきれなさなどの心情がじんわりと伝わってきて、心が動かされます。そして、そうした作品を作り、人形に命を吹き込んだトルンカにも心が打たれますね。

 ◆作品データ
 1965年/チェコ/17分50秒
 台詞なし/字幕なし
 アニメーション
 1965年 アヌシー国際アニメーションフェスティバル 審査員特別賞受賞、ほか受賞歴多数あり。
「アニメーションの一世紀ベスト100」の25位
  『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと)で22位。

 DVD『イジー・トルンカの世界1』に収録されています。

画像

 ◆監督について
 イジー・トルンカ
 1912年 チェコのピルゼン(プルゼニュ)で鉛管工の父と婦人服の仕立てを行なう母の間に生まれる。
 1923年 中学時代に人形作家であるヨゼフ・スクーパに出会い、人形劇に興味を持つようになる。
 1929-35年 プラハ美術工芸学校(現UMPRUM)応用グラフィック学科で学ぶ。
 1936-37年 スクーパの助手をしながら、人形劇団「木の劇場」を立ち上げ、プラハのロココ劇場で芝居を打つが、挫折。新聞にマンガや挿絵、児童文学を書くようになる。
 1939年 プラハの国民劇場で舞台美術を担当。大手出版社メラントリフにイラストレーターとして勤務。
 1945年 戦後、AFIT(アトリエ・フィルム・トリク)の仕事を任されたことをきっかけとして、映画に関わるようになる。AFITは国営化(クラートキー・フィルム・プラハ)され、トリック・ブラザーズ・スタジオとなる。トリック・ブラザーズ・スタジオは、セル・アニメを中心に制作するスタジオとなり、トルンカを中心とした人形アニメーションを制作するスタジオは別に設けられる(トルンカ・スタジオ)。
 最初は、お手本にする作品がディズニーくらいしかなく、見よう見まねでセル・アニメからスタートしたが、のちに自分の好みや才能と合った人形アニメと出会い(1947年『チェコの四季』)、以後、人形アニメを中心に続々と作品を発表。
 幼児向けの作品や民話、正直すぎる兵士が活躍するコメディー「善良な兵士シュベイク」シリーズ、『駅馬車』のパロディーである『草原の歌』、アンデルセンを原作とする『皇帝の鶯』やチェーホフ原作の『コントラバス物語』、シェークスピア原作の『真夏の夜の夢』、ボッカチオ原作の『天使ガブリエルと鵞鳥夫人』など、様々なタイプの作品を作って、チェコ・アニメに一時代を築き、今なおスタジオにその名を残す。
 1955年 芸術功労賞
1963年 人民芸術功労賞
1968年 プラハ工芸美術大学(現UMPRUM)教授となる。国際アンデルセン大賞画家賞受賞。
 1969年 プラハにて没
 2004年 日本で<チェコ・アニメの巨匠 イジー・トゥルンカ展 子どもの本に向けたまなざし>開催

 1946年に『動物と山賊たち』でベネチア国際映画祭国際批評家連盟賞受賞、1950年に『バヤヤ』でロカルノ国際映画祭優秀賞受賞、1959年に『真夏の夜の夢』でカンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。ほか受賞歴多数あり。

 ルネ・ラルーや川本喜八郎も弟子の1人。

 『ほたるの子ミオ』『わんぱくビーテック』『ふしぎな庭』『花むすめのうた』などの絵本に挿絵を描いていて、絵本作家としてアンデルセン大賞も受賞している。

 ・1945年 『おじいさんの砂糖大根』
 ・1946年 『動物たちと山賊』
 ・1946年 『贈り物』
 ・1946年 『バネ男とSS』
 ・1947年 『チェコの四季』
 ・1948年 『皇帝の鶯』
 ・1949年 『悪魔の水車小屋』
 ・1949年 『コントラバス物語』
 ・1949年 『草原の歌』
 ・1950年 『バヤヤ』
 ・1951年 『金の魚』
 ・1951年 『楽しいサーカス』
 ・1952年 『チェコの古代伝説』
 ・1953年 『おじいさんの物々交換』
 ・1954年 『二つの霜』
 ・1954年 『クティチャーセクとクティルカ』
 ・1954年 『善良な兵士シュヴェイク~コニャックの巻』
 ・1954年 『善良な兵士シュヴェイク~列車騒動の巻』
 ・1954年 『善良な兵士シュヴェイク~堂々めぐりの巻』
 ・1955年 『フルヴィーネクのサーカス』
 ・1958年 『ユネスコの話』
 ・1959年 『真夏の夜の夢』
 ・1961年 『情熱』
 ・1962年 『電子頭脳おばあちゃん』
 ・1964年 『天使ガブリエルと鵞鳥夫人』
 ・1965年 『手』

 *参考書籍
 ・「イジィ・トルンカ・アニメフェアー」パンフ(1989年川崎市市民ミュージアム発行)
 ・『夜想34 パペット・アニメーション』(ペヨトル工房)
 ・『夜想35 チェコの魔術的芸術』(ペヨトル工房)
 ・『チェコアニメの巨匠たち』(エスクァイア マガジン ジャパン)
 ・「チェコ・アニメの巨匠 イジー・トゥルンカ展 子どもの本に向けたまなざし」図録

 *参考サイト
 ・ユトレヒト:http://www.utrecht.jp/person/?p=248
 *トルンカの絵本について、とても詳しく書かれています。
 ・クリチカ:http://kulicka.ocnk.net/product/153
 *チェコの絵本やアート本を扱う古書専門のネットショップ。
 ・Ciatrogatos:http://www.cuatrogatos.org/galeriatrnka.html
 トルンカの絵のいくつかを見ることができます。

 (注) トルンカのプロフィールはいくつかの資料などを参考にしましたが、資料により、固有名詞やデータにかなり食い違いがあります。

 *当ブログ関連記事
 ・短編アニメーション ベスト100!

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この記事へのコメント

hitomiko
2007年12月30日 17:12
私の好みを分かっている知人から「最近評判になっている漫画」ということで、(チェコでなく)フランスのコミックを紹介されました。ダビッド・べー作「大発作」。トルンカやシュヴァンクマイエルを彷彿とさせる、不思議な絵の数々に魅了されました。てんかんを患う兄と自分のことを描いた成長物語ですが、それによると、この人は少年時代、ドイツの幻想文学を愛読していたようで、それがこのユニークな絵柄に表れているのでしょう。チェコのアニメが好きな人は、きっと気に入ると思います。

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