フランソワ・オゾンの原点 『家族写真』“Photo de famille”

 公式に発表されているフランソワ・オゾンの作品の中で、最初期の作品が1988年の“Photo de famille”『家族写真』になります。この時、オゾンは21歳。
 台詞なしのサイレント作品です。
 日本ではビデオ化もされておらず、どこでも上映されてもいないはずなので、日本人でこの作品を観たという人はまだあまりいないと思いますね。




 【物語】
 長男が作ったらしい(?)映画を家族で鑑賞した後、みんなで夕食を囲む。
 各自が思い思いの時間を過ごす中で、長男は、感情を表に出すことなく、淡々と母を毒殺し、妹を刺殺し、父を窒息死させる。
 そして3人の死体をソファーに並べて座らせると、自分はその真ん中に座り、にっこりと笑顔を浮かべてセルフタイマーで家族写真を撮るのだった……。

 これって『ホームドラマ』の原点じゃないか、なるほどねえ、こんな作品があったんだ!と思いながら観ていると、エンドロールで2度びっくり。
 家族を演じていたのは、本物のフランソワ・オゾンの家族だったんですねえ(父:ルネ、母:アン=マリー、弟:ギローム、妹:ジュリー)。しかも、こんな役で!
 学生時代の自主映画に自分の家族を使うなんて、普通は気恥ずかしくてできないし、ましてやそれを他人に見せたりもできないんじゃないかと思うんですが、オゾンとその家族はやっちゃうんですね。

 この作品を観て思うことは―
 ① 上にも書いたようにこの作品は『ホームドラマ』の原点だと思われることで、(下でも引用した)オゾンの発言「ぼくにとって映画づくりはカタルシス(浄化)であって、エクソシズム(悪魔払い)でもあるんだ。もし映画を撮っていなかったら、父親を殺して、母親と寝るような人間になっていたかもしれないな」をまさに裏付けるような作品だったということです。

 ② 初監督作品には、その監督の持っているすべてのエッセンスやその後の作品を連想させる様々な予兆が見受けられたりするものですが、(この作品が1つのまとまった作品としてオゾンの初監督作品となるものかどうかはともかく)この作品を観ると、オゾンが、映画で表現できる様々な事柄の中で、「自分の頭の中で生まれたオリジナルのストーリーを語ること」を最優先に考えていることが窺われます。
  この時期、オゾンはパリ第一大学映画コースで修士課程にあり、それこそ世界中のあらゆる映画を見まくっているはずですが、それにしては映画の見せ方があまりにも素直すぎます(撮影もオゾンですが、ただストレートに対象にカメラを向けているだけです)。
 ヒッチコックっぽい作品にしてみたり、サイコ・サスペンス風の作品にしてみたり、凝ったカメラワークや編集にも挑戦できるはずですが、そういうことはしないんですね。だから、「あんなやり方では人は死なないんじゃないか」とはとりあえずは気にならないのでしょう(笑)。
 オゾンは、ストーリーテリングを大切にする監督で、そして実際に優れたストーリーテラーであるということができると思います。

 ③ 大学の映画コースの修士課程にいて映画を撮るということは、どうみてもどこかで発表することを前提として撮っていると考えられますが、そうした作品で家族をモチーフとするというのは、この年頃の若者にしてはやはり珍しいことだと思われます。これは、おそらく、父親のホームムービーをマネることからオゾンの映画作りが始まったことと関係しているのでしょうが、ひょっとすると同世代の若者を描いた作品にするとどうしても自分のゲイのメンタリティーが作品に紛れ込んでしまうので、それを公にするのを、この時期はまだ恐れていた、ということなのかもしれません。

 ④ 身近な人の死、もしくは殺人衝動(あるいは何気ない日常の中に潜む狂気)は、この作品以降も、『小さな死』『ホームドラマ』『クリミナル・ラヴァーズ』『まぼろし』『8人の女たち』『スイミング・プール』と多くの作品の中で形を変えて登場し、オゾン作品を特徴づける1つのキーワードのようになっています。そういう意味でもこの作品はオゾンの「原点」なんですね。

 ちなみに、弟と妹は兄の映画にはこれっきり出演していませんが、両親は1990年の“Mes parents un jour d'été”「ある夏の日の両親」にも出演しています。

 ◆作品データ
 1988年/仏/6分12秒
 台詞なし(サイレント)/字幕なし
 実写作品

 追記:DVD『まぼろし』には、“Les Doigts dans le ventre”と“Mes parents un jour d'été”が収められていることになっていますが、“Les Doigts dans le ventre”にくっつけられる形でこの作品も収められているようです。DVD『まぼろし』の収録短編は2編ということになっているんですが、実際は3編なんですね。

画像

 ◆監督について
 フランソワ・オゾン
 1967年パリ生まれ。
 子役としてモデルをしていたこともあり、そのお金で映画館に通っていた。
 父親がスーパー8で家族を撮っているのを見て、自分でも撮るようになる。
 1989年にパリ第一大学映画コースで修士号を取得。1993年に国立の映画学校フェミスの監督コースを卒業。大学卒業後に発表し始めた短編は評判になり、OZON OSER(大胆なことをやるオゾン)と呼ばれるようになる。
 1995年にはフランス大統領選をリオネル・ジョスパン(のちにフランス首相)の側から撮った『ジョスパンの光』というドキュメンタリーを発表(ジョスパンは友人の父親だった)。
 1998年『ホームドラマ』で長編監督デビュー。
 いつしかフランスの女優がこぞって出演を希望する監督となり、今やフランス映画界のエースと言っていい存在となっている。
 1999年の初来日時の言葉:「ぼくにとって映画づくりはカタルシス(浄化)であって、エクソシズム(悪魔払い)でもあるんだ。もし映画を撮っていなかったら、父親を殺して、母親と寝るような人間になっていたかもしれないな」

 ・1988年 “Photo de famille”「家族写真」
 ・1988年 “Les Doigts dans le ventre” 「腹に指」 DVD『まぼろし』に収録
 ・1990年 “Mes parents un jour d'été”「ある夏の日の両親」  DVD『まぼろし』に収録
 ・1991年 “Une goutte de sang”「血の一滴」
 ・1991年 “Le Trou madame” *短編ドキュメンタリー
 ・1991年 “Peau contre peau” *短編ドキュメンタリー
 ・1991年 “Deux plus un”
 ・1992年 “Thomas reconstitué”
 ・1993年 “Victor”
 ・1994年 『僕らの間にあるバラ』 “Une rose entre nous”
 ・1994年 『アクション、ヴェリテ』 DVD『クリミナル・ラヴァーズ』に収録
 ・1995年 『小さな死』 DVD『ホームドラマ』に収録
 ・1995年 “Jospin s'éclaire”(ジョスパンの光)
 ・1996年 『サマードレス』 DVD『海をみる』に収録
 ・1997年 『海をみる』
 ・1997年 『ベッドタイム・ストーリーズ』 DVD『海をみる』に収録
 ・1998年 『X2000』 DVD『焼け石に水』に収録
 ・1998年 『ホームドラマ』
 ・1999年 『クリミナル・ラヴァーズ』
 ・2000年 『焼け石に水』 ベルリン国際映画祭コンペ部門出品 テディ賞受賞
 ・2001年 『まぼろし』
 ・2002年 『8人の女たち』 ベルリン国際映画祭コンペ部門出品 Reader Jury of the "Berliner Morgenpost"受賞
 ・2003年 『スイミング・プール』 カンヌ国際映画祭コンペ部門出品
 ・2004年 『ふたりの5つの分かれ路』 ベネチア国際映画祭コンペ部門出品
 ・2005年 『ぼくを葬る』
 ・2006年 “Un lever de rideau” *久々の短編
 ・2007年 “Angel”(The Real Life of Angel Deverell) ベルリン国際映画祭コンペ部門出品 *現代ものではない初めての作品

 *このほか、1988年のソフィー・マルソー主演の『スチューデント』には学生役で出演もしています(ノン・クレジット)。

 *フランソワ・オゾンのことを「短編王」と呼ばれたと紹介してある記事がありますが、これは最初にオゾンの作品を配給したユーロスペースが紹介文の中に織り込んだもので、実際にはオゾンが「短編王」と呼ばれたことはありません(直接本人に確認しました)。上にも書いたように、フランスでは短編時代のオゾンをOZON OSER(大胆なことをやるオゾン)と呼んでいたそうです。
 オゾン作品の配給が、ユーロスペースからギャガに変わるに及び、オゾンのプロフィール紹介文の中から「短編王」の称号は消えていきました。

 *参考サイト
 オゾンの公式サイト:http://www.francois-ozon.com/

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この記事へのコメント

2007年02月10日 10:16
こんにちわ!
前日の2作品もよかったですね。>映画づくりはカタルシス(浄化)であって、エクソシズム(悪魔払い)でもあるんだ。大江健三郎さんも同じ事をいってらした。文を書くことは悪魔払いと。この短編明るいよね。何だか観ていて可笑しい。内容は殺人なのに。
umikarahajimaru
2007年02月10日 11:17
huneさま
『マーメイド』は大丈夫だと思ったんですが、フランソワ・オゾンに関しては、huneさんはどうかなあと思ってました(笑)。
オゾン作品はここでもあといくつか取り上げられるかと思うんですが、『サマードレス』を面白いと感じられたようでしたら、オゾンの長編も観てみてくださいね。お近くのレンタル・ショップにもいくつかは置かれていると思うので。

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