フランソワ・オゾン・ワールドへようこそ! 『サマードレス』

 今や、フランスを代表する映画監督ともなったフランソワ・オゾン。
 『サマードレス』は1999年にオゾンが日本初紹介となった時に、『海を見る』『X2000』『ホームドラマ』とともに上映された作品(ただし『ホームドラマ』のみ1本立てで上映)で、多くオゾンの短編の中でも特にファンが多い作品です。
 この作品をまだ観たことがないという方だと、フランス語で字幕なしということに抵抗があったりするかもしれませんが、台詞がわからなくても、案外楽しめます。下記の【物語】も参考に一度観てみてください。




 【物語】
 ミックがコテージで昼寝をしていると、リュックが出てきて、カセットでシェイラの「バン・バン」を流して、踊り始める。
 ミックは鬱陶しくて、曲を止める。
 「何するんだ」
 「その歌と隣のノゾキ野郎にはウンザリだ」
 「バカンスなんだ。隣のヤツなんか無視しろよ!」
 リュックは構わず、カセットを再生し、再び踊り始める。
 「もう勝手にしろ」
 こんなリュックには付き合ってられないと思ったミックはビーチに向かう。
 海パン1枚になって泳ごうとするが、まわりに誰もいないことに気づいて、海パンも脱ぎ捨てて、海に飛び込んでいく。
 全裸のまま、砂浜でうつ伏せになっていると、女性が通りかかって、タバコの火を貸してくれ、と言う。
 その女性ルシアは、ミックが全裸でいることが全く気にならないらしく、ずっとそのまま話しかけてくる。
 「ここにいていい?」
 「どうぞ」
 「きれいね」
 「静かだ」
 「年齢はいくつ?」「18。君は?」「私もよ」
 「家族でバカンス?」「うん」「キャンプ?」「そう」「楽しんでる?」「楽しいよ」
 ルシアは、ミックに林に行って愛し合わないかと誘う。
 「どうして?」
 「したいからよ」
 「イヤなの?」
 「どうかな」
 荷物のことも気にしつつ、まだ躊躇しているミックの手を引いてルシアは歩き出す。
 「ここがいいわ。来て!」
 「初めて?」「うん」「ステキなことよ」
 ルシアは大胆で、ミックが近くに人が来たと言っても全然気にしない。
 ことが済んで、「タバコを吸う?」とタバコを差し出すルシア。「火がないよ」
 ルシアは自分のライターを取り出す。
 「なんだ、持ってたんだ」「あなたを食べるためにウソをついたのよ」
 「ぼくもウソをついてたんだ。セックスは初めてじゃない。でも、女の子とは……」
 「ゲイなの?」
 「違うよ。でも一緒に来てる男友だちと時々……」
 「ゲイにしてはうまかったわよ」
 浜に戻るとミックの荷物が一切合財なくなってしまっている。
 ミックが困っていると、ルシアはこれを着ればいいと言って、自分のサマードレスを差し出す。 「明日の朝、港で返してね」
 仕方なく、サマードレスを着たまま自転車で帰ろうとすると、「キスもなし?」とルシア。「するさ」とミックはさよならのキスをする。
 自転車で帰るミックは、最初は恥ずかしかったが、だんだん楽しくなってくる。
 コテージに帰るとリュックが待っている。
 「どうした?」「おかしい? 女に見えないかな? 隣の男が覗くかもしれないし」「構わないさ」
 ミックの方からリュックにキスしていく。2人で「バン・バン」を口ずさみながら、なおもキス。
 興奮してきたリュックはドレスを乱暴に脱がせて、ミックを激しく抱く。
 翌朝、ミックは自分で破れを繕ったドレスを持って、ルシアの待つ港へ。
 ルシアは、「ドレスはあなたにあげる。また役に立つかもしれないから」と言い、ミックにキス。そして、ミックを残して、船で去っていくのだった。

 グロテスクな作品やトリッキーな作品が多いオゾンですが、『サマードレス』は、短い中に2つもセックス・シーンがあるわりには、どぎつさはなく、クスクス笑えて、清々しさすら感じさせる作品になっています。
 自分のセクシュアリティーに迷いのあった青年が、ひょんなことから着ることになったサマードレスのおかげで、迷いが吹っ切れた、そういう瞬間を描いた作品、ということになるでしょうか。

 リュックのダンス・シーンは、決して洗練されたものではありませんが、妙なおかしみがあって楽しく、『焼け石に水』のダンス・シーンに通じるものを感じさせます。と思って、調べてみたら、リュックを演じたSébastien Charles が、『焼け石に水』、そして『8人の女たち』の振り付けも担当していることがわかりました。

 初期短編では自分ひとりで何でも手がけていたオゾンですが、編集まで手がけたのは『サマードレス』が最後になります。

 ★「バン・バン」の歌詞(の一部)
 ♪あたしたちが10歳の頃
 いつも同じ遊びばかりしてた
 あなたが警官で、あたしは泥棒
 あたしはあなたに胸を撃たれたわ
 バン、バン
 あなたに殺され
 バン、バン
 あたしは倒れた
 バン、バン
 その銃声が
 バン、バン
 忘れられないの
 ♪一緒に育って愛し合ってたはずよ
 でもあなたは男の子の遊びに夢中だった
 バン、バン
 楽しんでいたあなたを
 バン、バン
 あたしは追いかけた
 バン、バン
 あの音が
 バン、バン
 忘れられないの
 ♪もう昔のこと あなたが二十歳になったあの日
 過去の友情が愛に負けたの
 女が現れたけど、誰のせいでもない
 あなたは正直な人
 でも彼女とよその町へ去った
 バン、バン
 あたしは捨てられ
 バン、バン
 ひとりきり
 バン、バン
 あの銃声が
 バン、バン
 忘れられないの

 ◆作品データ
 1996年/仏/15分8秒
 仏語台詞あり/字幕なし(台詞がわかった方がいいのですが、台詞がわからなくてもストーリーを理解することはできます)
 実写作品
 1996年 カンヌ国際映画祭批評家週間オープニング
 1996年 ロカルノ国際映画祭短編部門新人監督賞
 1996年 ブレスト・ヨーロピアン・ショート・フィルム・フェスティバル フレンチ・グランプリ受賞
 1997年 セザール賞最優秀短編映画フィクション部門ノミネート
 1997年 L.A.Outfest 短編フィクション部門観客賞受賞
 そのほかグルノーブル映画祭グランプリ、ジュネーブ映画祭グランプリなど受賞歴多数あり。


 日本では、1999年に『海をみる』『X2000』と3本立てで上映。

 DVDでは
『フランソワ・オゾン作品集1 海をみる』に『海を見る』『ベッドタイム・ストーリーズ』とともに収録されています。

画像

 ◆監督について
 フランソワ・オゾン
 1967年パリ生まれ。
 子役としてモデルをしていたこともあり、そのお金で映画館に通っていた。
 父親がスーパー8で家族を撮っているのを見て、自分でも撮るようになる。
 1989年にパリ第一大学映画コースで修士号を取得。1993年に国立の映画学校フェミスの監督コースを卒業。大学卒業後に発表し始めた短編は評判になり、OZON OSER(大胆なことをやるオゾン)と呼ばれるようになる。
 1995年にはフランス大統領選をリオネル・ジョスパン(のちにフランス首相)の側から撮った『ジョスパンの光』というドキュメンタリーを発表(ジョスパンは友人の父親だった)。
 1998年『ホームドラマ』で長編監督デビュー。
 いつしかフランスの女優がこぞって出演を希望する監督となり、今やフランス映画界のエースと言っていい存在となっている。
 1999年の初来日時の言葉:「ぼくにとって映画づくりはカタルシス(浄化)であって、エクソシズム(悪魔払い)でもあるんだ。もし映画を撮っていなかったら、父親を殺して、母親と寝るような人間になっていたかもしれないな」

 ・1988年 “Photo de famille”「家族写真」
 ・1988年 “Les Doigts dans le ventre” 「腹に指」 DVD『まぼろし』に収録
 ・1990年 “Mes parents un jour d'été” 「ある夏の日の両親」 DVD『まぼろし』に収録
 ・1991年 “Une goutte de sang”「血の一滴」
 ・1991年 “Le Trou madame” *短編ドキュメンタリー
 ・1991年 “Peau contre peau” *短編ドキュメンタリー
 ・1991年 “Deux plus un”
 ・1992年 “Thomas reconstitué”
 ・1993年 “Victor”
 ・1994年 『僕らの間にあるバラ』 “Une rose entre nous”
 ・1994年 『アクション、ヴェリテ』 DVD『クリミナル・ラヴァーズ』に収録
 ・1995年 『小さな死』 DVD『ホームドラマ』に収録
 ・1995年 “Jospin s'éclaire”(ジョスパンの光)
 ・1996年 『サマードレス』 DVD『海をみる』に収録
 ・1997年 『海をみる』
 ・1997年 『ベッドタイム・ストーリーズ』 DVD『海をみる』に収録
 ・1998年 『X2000』 DVD『焼け石に水』に収録
 ・1998年 『ホームドラマ』
 ・1999年 『クリミナル・ラヴァーズ』
 ・2000年 『焼け石に水』 ベルリン国際映画祭コンペ部門出品 テディ賞受賞
 ・2001年 『まぼろし』
 ・2002年 『8人の女たち』 ベルリン国際映画祭コンペ部門出品 Reader Jury of the "Berliner Morgenpost"受賞
 ・2003年 『スイミング・プール』 カンヌ国際映画祭コンペ部門出品
 ・2004年 『ふたりの5つの分かれ路』 ベネチア国際映画祭コンペ部門出品
 ・2005年 『ぼくを葬る』
 ・2006年 “Un lever de rideau” *久々の短編
 ・2007年 “Angel”(The Real Life of Angel Deverell) ベルリン国際映画祭コンペ部門出品 *現代ものではない初めての作品

 *このほか、1988年のソフィー・マルソー主演の『スチューデント』には学生役で出演もしています(ノン・クレジット)。

 *フランソワ・オゾンのことを「短編王」と呼ばれたと紹介してある記事がありますが、これは最初にオゾンの作品を配給したユーロスペースが紹介文の中に織り込んだもので、実際にはオゾンが「短編王」と呼ばれたことはありません(直接本人に確認しました)。上にも書いたように、フランスでは短編時代のオゾンをOZON OSER(大胆なことをやるオゾン)と呼んでいたそうです。
 オゾン作品の配給が、ユーロスペースからギャガに変わるに及び、オゾンのプロフィール紹介文の中から「短編王」の称号は消えていきました。

 *参考サイト
 オゾンの公式サイト:http://www.francois-ozon.com/

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この記事へのコメント

2007年02月09日 09:53
私のブログコメントありがとうございます。
このブログ、映画関連の情報量が半端じゃなくて素敵ですね。
オゾン監督のエピソードにも興味深いものがあります。
彼が「短編王」と言われていたのは聞いたことがありますが、それは間違いで、「大胆なことをやるオゾン」が正解だったのですね!
私は彼のエグ味の強い初期作品にはまってしまった者の一人なのですが、「自分の心を浄化するために映画を創っていた」という本人の談にはちょっと感激です。
umikarahajimaru
2007年02月09日 23:17
marikzioさま
こちらこそコメントありがとうございます。
>私は彼のエグ味の強い初期作品にはまってしまった者の一人なのです
私もそうなんですよ。オゾンが初めて日本に紹介された時、まさか彼がこんなメインストリームの監督になるとは思ってもみませんでしたね―。
といっても、ユーロスペースが日本に紹介した映画監督は、パーシー・アドロン、ラース・フォン・トリアー、ピーター・グリーナウェイ、レオス・カラックス、チャン・イーモウ、ウォン・カーウァイ、トッド・ヘインズ、アッバス・キアロスタミなどなど、その後み~んなメジャーになってるんですけどね。

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