ジブリも絶賛! アレクサンドル・ペトロフ 『マーメイド』

 スタジオジブリ(三鷹の森ジブリ美術館)が世界のアニメーションを紹介していくことになったというのがニュースで報じられましたが、そのプログラムの第一弾がアレクサンドル・ペトロフ監督の『春のめざめ』(2007年3月劇場公開)で、今回ここでご紹介するのがペトロフの1997年の作品『マーメイド』です。

 


 【物語】
 おじいさんと2人暮らしの少年は、流氷の間を流されてくる娘をみつけ、岸に助けあげる。彼は彼女に着せるための服を家に取りに帰るが、岸辺に戻るとネックスレスが残されているだけでもう娘の姿はない。
 ある日、少年が岸辺で自分の食べ残しを河に放り投げていると、いつかの彼女が水面からジャンプして、それを口でキャッチする。少年は驚くが、それ以来、彼は娘と遊ぶようになる。
 おじいさんは少年が見知らぬ娘とつきあっていることを知り、つきあいをやめるように戒めるが、その晩、彼は不思議な夢を見る。天国へと続くはしごを上っていくと、マリア様を思わせる女性がいて、彼に子羊をくれるが、ふと自分の手を見ると血がついているのだった。
 少年は、おじいさんの言いつけを聞かず、娘を探して、河にボートを浮かべる。娘は少年に再会できたことではしゃいで、ボートを揺らし、少年も水の中に落ちる。その時、急に天候が変わり、河も大荒れになる。
 気がつくと、少年は岸にたどりついている。娘が自分の命と引き換えに彼を助けてくれたのだった。

 1シーン、1シーン、油絵として取り出しても成立するくらいの、完成度の高さ、そして、それが動き出すことの驚き(どうすればこんな作品が作れるんだろう!)もあって、作品に見入ってしまいます。

 ロシアや東欧系の伝統的な油絵に見られるような原色を排した色彩構成やタッチ、民話を思わせるストーリーも素晴らしいですね。

 この作品の邦題には、『マーメイド』としているものと、『水の精』としているものがありますが、描写されている娘の姿を見る限りでは人魚ではないようです。と思って調べてみると、原題は「ルサールカ」で、この「ルサールカ」というのは、若くして溺れ死んだ娘の妖怪、のことだそうです。
 人魚と妖怪では大分イメージが違いますが、おじいさんが少年に娘とつきあうことを禁じた後、おじいさんは少年に十字架を贈るくだりがありますから、おじいさんは娘を魔物であると判断したということが窺われます。

 ラストシーンに2つの墓標が見受けられますが、これはおそらく少年の両親の墓で、水難事故か何かで少年が幼い時期に両親が死んだらしいことを推測させます。少年のちょっと寂しそうなたたずまいはここらへんにも関係ありそうで、少年がルサールカに魅入られてしまう遠因にもなっていそうです。

 もう1組の男女のくだりがちょっとわからなかったりもしますが、これは、もう1つのルサールカ物語(村の男性が死んだはずの女性とうりふたつの娘(すなわちルサールカ)にたぶらかされて結婚式を挙げようとしていた)があった、ということなのでしょうか。

 結局のところ、この物語は、ルサールカと少年の悲恋ということになりますが、ストーリーラインをなぞると「異民族の女性との禁じられた恋物語」を民話風にアレンジしたものと考えてもよさそうです。

画像

 ◆作品データ
 1997年/ロシア/10分8秒
 ロシア語の台詞あり(ただし、わからなくても全く問題はありません)/字幕なし
 アニメーション
 1997年ベルリン国際映画祭コンペティション短編部門ノミネート
 1998年米国アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート
 1998年オタワ国際アニメーションフェスティバル 脚本賞受賞
 1998年ザグレブ国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞
 1998年広島国際アニメーションフェスティバル ヒロシマ賞受賞
 『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと)で245位。

 *この作品は、第7回広島国際アニメーションフェスティバル(1998年)、および、2000年に東京都写真美術館で開催された<ロシア・アニメ映画祭2000>で上映されました。

 ◆監督について
 アレクサンドル・ペトロフ
 1957年ヤロスラヴリ州プリスタチャ村生まれ。

 美術専門学校で絵画を学ぶ。卒業後、モスクワのゼンソ映画大学アニメ画学部に入学し、イワン・イワノフ=ワ—ノの講座をとる。3年の時にユーリ・ノルシュテインの『話の話』を観て衝撃を受ける。81年、卒業と同時にウラルのスベルドロク(現エカテリンブルグ)の映画スタジオで、アニメーション美術を担当する。
 その後、改めて映画大学の“アニメーションの監督とシナリオライターのための特別コース”に入学し、ユーリ・ノルシュテインに教わる。

 卒業制作作品『雌牛』で広島国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞。

 ガラス板に油絵の具で絵を描くという手法(ガラス・ペインティング)を得意とし、文芸色の強い作品を発表し続けている。

 日本・カナダ・ロシアで共同製作した『老人と海』でアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞。
 『マイラブ 初恋』は、広島国際アニメーションフェスティバルで観客賞&国際審査員特別賞を受賞。タイトルを『春のめざめ』と変えて、三鷹の森ジブリ美術館の配給で2007年3月17日より、東京・渋谷シネマアンジェリカにて劇場公開(同時上映『岸辺のふたり』)。「『春のめざめ』原画展」が2007年1月27日より三鷹の森ジブリ美術館ギャラリーで開催。

 アレクサンドル・ペトロフ選出によるベスト・アニメーション(『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと))は―
 『クラック!』『木を植えた男』『話の話』『霧につつまれたハリネズミ』『あおさぎと鶴』『岸辺のふたり』『禿山の一夜』『手』『灰色のめんどり』『草上の朝食』『タンゴ』『ボニファティウスの休暇』『犬が住んでいました』『ストリート』『がちょうと結婚したふくろう』『丘の農家』『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』『作家』『柔和な女』『ストリート・オブ・クロコダイル』。

 ・1981年 “Khalif-aist”<TV>[脚本]

 ・1984年 “Poteryalsya slon”[プロダクション・デザイナー]

 ・1986年 “Dobro pozhalovat”(Welcome)[アート・ディレクター]

 ・1988年 “Marathon”[アニメーター]

 ・1989年 『雌牛』 “Korova”(Cow)[監督]

 ・1991年 “I vozvrashchaetsya veter...”(And the Wind Returneth)[プロダクション・デザイナー]

 ・1991年 “Tsareubiytsa”[セット・デザイナー]

 ・1992年 『おかしな男の夢』 “Son smeshnogo cheloveka”(Сон смешного человека、The Dream of a Ridiculous Man)[監督]

 ・1997年 『マーメイド(水の精)』 “ Rusalka”(Mermaid)[監督]

 ・1999年 『老人と海』 “The Old Man and the Sea” [監督]

 ・2003年 『冬の日』の「影法の暁寒く火を焼きて あるじは貧にたえし虚家」(杜国)を担当[アニメーション制作]

 ・2006年 『春のめざめ(マイラブ 初恋)』“My Love” [監督]
 *当ブログ関連記事 「見直してみたら、凄かった! 『春のめざめ』」

 ・2006年 ニューファンドランド・ラブラドール州 プロモーション用アニメーション “Pitch Plant” [監督]

 ・2007年? “Pacific Life” [監督]

 *関連DVD
 ・『冬の日』

 ・『老人と海/ヘミングウェイ・ポートレイト』
 *「ヘミングウェイ・ポートレイト」は『老人と海』のメイキング・フィルムです。

 *当ブログ関連記事
 ・アカデミー賞短編アニメーション賞 リスト!

 *映画『春のめざめ』関係のサイト
 ・三鷹の森ジブリ美術館:http://www.ghibli-museum.jp/mezame/
 残念ながらサイト画面の分割がうまくできておらず、せっかくの文章をちゃんと読むことができません(2007年2月現在)。
 ・ローソン特設サイト:http://www.lawson.co.jp/lawson_more/ghibli/mezame.html

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この記事へのコメント

はじめまして。
2007年02月25日 13:43
たまたま行き当たったのですが、動画に詳しい解説や
年譜付きという、親切かつ完成度の高いブログですね。
マーメイドの動画も見せて頂き、有難うございました。

もう一組の男女のくだりですが、私の解釈したところでは、
若かりし日のおじいさんと他の女性との挙式を目撃し、
それを苦にして河に身を投げたかつての恋人がルサールカとなって
復讐(?)に息子である青年を連れて行こうとしたけれど、
結局はおじいさんを連れて行き、青年は助かって
ふたりを隣同士の墓に葬り弔っている…、と
そんなところではないでしょうか。
umikrahajimaru
2007年02月25日 20:40
「はじめまして」さま
コメントありがとうございました。
もう一組の男女のくだりですが、なるほど、そういう考え方もありますね。面白い!
ついでと言ってはなんですが、ほかの方と区別する意味も込めて、できれば、コメントにはニックネームを入れていただけるとうれしいですね。
今後ともよろしく! コメントしたくなるような記事があったら、またコメントお願いしますね。
アガニョーク
2008年05月01日 11:26
ロシア人ともこの映画について話すのでが、やはりもう一組の男女はお爺さんの若いころと人間であったころのルサルカです。不達の墓標はお爺さんと人魚のもので竜巻が両者を罰したとロシア人は考えるようです。
髭ダルマLOVE
2008年07月12日 17:55
早速遊びに来ました!
短い作品ですが、この作品もまた素晴らしいですね。
近所のレンタル屋さんには見当たらなかったのでとてもありがたい動画でした。

ありがとうございます!
umikarahajimaru
2008年07月14日 20:00
髭ダルマLOVEさま
『マーメイド』や『老人と海』以外にも、当ブログではペトロフ作品をご紹介しているので、よかったらそちらのどうぞ!
まうぱぱ
2008年11月28日 15:43
ちぇぶのフェアで観ました。やはり最後の墓はおじいさんとマーメードの墓と解釈しました。復讐(最後の方でおじいさんを見る彼女の目)ものなのだと。

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