『ゲーリーじいさんのチェス』 ヤン・ピンカヴァ

 『カーズ』に続く、ピクサーの最新長編は『レミーのおいしいレストラン』です(2007年全世界公開予定)。
 この作品をブラッド・バードと共同監督して、長編作品の監督デビューを果たすのが、チェコ出身のアニメーター、ヤン・ピンカヴァ。彼が監督作品を発表するのは実に10年ぶりで、10年前に発表した作品が短編『ゲーリーじいさんのチェス』(1997)ということになります。




 ピクサーは、新作ごとにCGアニメについての新しい課題を設け、そしてそれらを順番にクリアしていっているらしいということが作品を追っていくとわかるのですが、1989年の『ニック・ナック』を完成させた後の次の課題は、おそらく、①長編作品を完成させること、②キャラクターに台詞をしゃべらせること、③CGでリアルな人間を描くこと、だったと思われます。①と②は、6年(以上)もかけて1995年に『トイ・ストーリー』でクリアしたので、残された課題は③ということになります。
 で、“リアルな人間を描くこと”にチャレンジしたのが、1997年の『ゲーリーじいさんのチェス』ということになります。
 この作品は、ピクサーに2つ目のアカデミー賞短編アニメーション賞をもたらしますが、受賞の理由もこうした成果が評価されたためだったのではないでしょうか。『ニック・ナック』から8年、『トイ・ストーリー』からも2年かかっていますから、この課題がいかに大変なものであったかが窺われます。

 この後、ピクサーとしては、2003年の短編“Exploring the Reef”(未見につき詳細不詳)を除けば、2004年の『Mr.インクレディブル』まで人間を主人公とした作品はありません。これが戦略やマーケティング的な理由からなのか、技術的な理由なのかはわかりませんが、『Mr.インクレディブル』で描かれる人間は、“リアルな人間”というよりはマンガチックなキャラクターだったとも言えるので、依然として“リアルな人間”を描くこと(特に長編で)がピクサーの課題であるとも考えられます。
 今後、ピクサーは、数年後、あるいは、10数年後には、映像表現でも、実写作品と全く見劣りしない長編作品を発表して、私たちを驚かせてくれるかもしれません。

 ◆データ
 1997年/4分/台詞なし(ただし、笑ったり、うなったりして、声を上げたりはしている)
 アニメーション
 1997年度アカデミー賞短編アニメーション賞受賞、1998年アヌシー国際アニメーションフェスティバル 観客賞受賞、1998年ザグレブ国際アニメーションフェスティバル Internet Favorite受賞。
 DVD『バグズ・ライフ』に併録

 【物語】
 2人のおじいさんが公園でチェスをしている。しかし、一方が他方を圧倒的にリード。負けている方が、突然、発作を起こして、テーブルの下に倒れ込む。勝っている方はそれを見て驚くが、負けている方は、相手が驚いている間に、くるっとチェス盤の向きを180度回転。形勢を逆転させて勝利する。勝った方は、負けた方から入れ歯を獲得する。

画像

 ・ピクサーとしては、短編から長編への移行時期にあったが、新しいことを試してみるのには短編が非常に有効であるということと、若い監督たちにチャンスを与え、鍛えるためには短編はとてもいい機会になると考えて、短編制作を再開させた。

 ・『ゲーリーじいさんのチェス』では、人間のキャラクターを描くことがデーマで、特に顔の皮膚と服の生地を表現するために新しい技術が開発された。

 ・ゲーリーじいさんのルックスは、ピンカヴァの顔がモデルになっていると言われている。

画像

 ・ゲーリーじいさんの顔を表現するために、顔は300ものパーツに分けられて、アニメーション・コントロールされている。

 ・『ゲーリーじいさんのチェス』では24分の1秒の1コマを作るために5~6時間かかり、4分の作品に仕上げるために、18人のアニメーターで2年の歳月が費やされている。

 ・物語としては最初2つのアイデアがあった。採用されなかったもう1つのアイデアは、ゲーリーじいさんのランチをアヒルが食べてしまうというもの。

 ・この作品は、当初日本では「ジェリーズ・ゲーム」と呼ばれていましたが、その後『ゲーリーじいさんのチェス』が一般的となりました(DVD収録時にそう表記されたため?)。GeriはおそらくGerard(ジェラルド)の愛称ですから、本当はジェリーが正しいのですが……。

 この作品には、若干の違いがあるバージョンがあるらしく、明らかに1人2役に見える作品と、そうでない作品(おじいさんがよろよろ歩いていって反対側に座るシーンがなく、一方のおじいさんごしに他方のおじいさんが見えるシーンがあるバージョン)があるようです。

 ◆監督について
 ヤン・ピンカヴァ
 1963年 チェコ・プラハ生まれ。父親は心理学者で作家のVaclav Pinkava(Jan Křesadlo)(1926-95)。
 1969年 「プラハの春」が起きたため家族でイギリスに移住。
 70年代にアニメーターであるBob GodfreyのTV番組“Do It Yourself Film Animation Show”(テリー・ギリアムらゲスト出演)を観て、刺激を受け、スーパー8で紙や粘土やセル画を使った作品を作るようになる。この頃、好きだったアニメ作品は“Roobarb and Custard”。
 1980年 BBC2の子ども向け番組“Screen Test”の “the Young Film-Maker's Competition”に、作品“The Rainbow”で“the Year Award 1980”を受賞。
 しかし、アニメーションを作るための根気のいる作業に根を上げて、大学(ウェールズ大学)では、コンピューター・サイエンスと理論ロボット学に進む。
 博物館に就職し、子どもたちにコンピューターを教えたりしていたが、“ARE YOU THE NEXT JOHN LASSETER?”(次のジョン・ラセターは君?)というコピーに惹かれて、Degital Pictures社でフリーランスとしてCMの演出やアニメーターの仕事をするようになる(1990-1993)。
その後、ピクサーに自分の作品を送り、ピクサーで広告の仕事に就く(その中には広告の賞を受賞したリステリンのCM等がある)。
 1997年に『ゲーリーじいさんのチェス』で監督デビュー。ピクサーとしては、ジョン・ラセター以外の人物が監督を務めたのはこれが初めて。

 ・1979年 “The Rainbow”[監督]
 ・1997年 『ゲーリーじいさんのチェス』[監督]
 ・1998年 『バグズ・ライフ』[アニメーター]
 ・1999年 『トイ・ストーリー2』[ストーリー]
 ・2001年 『モンスターズ・インク』[絵コンテ]
 ・2007年 『レミーのおいしいレストラン』[ブラッド・バードと共同監督]
 物語:ネズミのレミーはパリの高級レストランに住んでいた。それは、彼が一流のシェフを目指していたからだったが、家族は彼が高級レストランに住んで人間につかまるリスクを心配していた。危険は少なくともゴミを漁るのがいいか、危険を冒して高級レストランに住むのがいいのか……。
 日本版公式サイト:http://www.disney.co.jp/movies/remy/index.html

 *参考サイト
 ・ヤン・ピンカヴァに関するWikipedea:http://en.wikipedia.org/wiki/Jan_Pinkava

 ・国際アニメーションフィルム協会(ASIFA)-サンフランシスコ 1998年3月:http://www.awn.com/asifa-sf/0398/news.html

 ・CAROLINA(STUDENTS' E-MAIL NEWS FROM CZECH REPUBLIC) 1998年3月27日:http://carolina.cuni.cz/archive-en/Carolina-E-No-282.txt

 ・BBCニュースOnline 1999年3月29日:http://news.bbc.co.uk/1/low/entertainment/305256.stm

 ピクサー公式サイト(米国):http://www.pixar.com/index.html
 ピクサー公式サイト(日本):http://www.pixar.com/jp/
 いずれのサイトでも冒頭1分余りを鑑賞することができ、iTunesからダウンロードして購入すれば、全編を観ることができます。

 *この作品を他の誰かにも教えてあげたいと思ったら、人気ブログランキングにクリックをお願いします。
 ↓ ↓ ↓ ↓
 

 *当ブログ関連記事
 ・アカデミー賞短編アニメーション賞 リスト!

 ・
ピクサーの短編作品についてまとめてみました

 ・短編アニメーション ベスト100!

 ・アヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリ リスト!

この記事へのコメント

2008年02月09日 02:12
初めまして! 南イタリア在住のMAKIです。
家族中がピクサーアニメのファンです。
娘はゲーリーじいさんの真似をして独りチェスをあのテンポでしていることがあります 笑
http://puglia-wagam2.jugem.jp/?eid=281
umikarahajimaru
2008年02月09日 09:10
MAKIさま
こちらこそ初めまして。
娘さんの、映画とのつきあい方が素敵ですね。
私のまわりにも帰国子女がたくさんいたことがあるんですが、彼女たちもこんな風に海外で生活してたのかなと思いを馳せてみたりもしました。
nanami*
2008年10月25日 09:47
はじめまして!
ゲーリーじいさん。。。
トイストーリー2で始めて見て、
後からこの作品を見て名前を知りました♪
(同じおじいさんですよね?)
うちの子供たちもゲーリーじいさんが大好きです。
umikarahajimaru
2008年10月27日 20:12
nanami*さま
『トイ・ストーリー2』の細部は覚えてないのではっきりしたことは言えないんですが、同じスタッフが関わってるので、お気に入りのキャラクターを別の作品でゲスト出演させたってことでしょうか。
クレジットを確認してみたら、確かにGeri The Cleaner (掃除屋ゲーリー)というのがありましたから、これですね!

この記事へのトラックバック