子は父の背中を見て育つ?! 『サンキュー・スモーキング』

 お父さん(アイバン)はゲラゲラ笑わせる感じ、息子(ジェイソン)はクスリと笑わせる感じでしょうか。

 映画を観終わったあと、『サンキュー・スモーキング』について調べてみるまで、この映画の監督ジェイソン・ライトマンがアイバン・ライトマンの息子であることは私は知りませんでした。また、事前に知る必要もなったのですが、あの父親からこうした息子が生まれるのかと思うとちょっと面白いですね。

 『サンキュー・スモーキング』を観ると、あちこちに映画ファンに対するくすぐりがあって、監督はそうした映画ファンの心理をよく知ってる人なんだなとは感じていたんですが、あのアイバン・ライトマンの息子だとは思いもしませんでした。遺伝なのか、育った環境のせいなのか、確かにこの映画には監督としての才気も感じますね。

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 物語も、映画として成立している以上、タバコを肯定するようなものでは終わらないだろうということはわかっていましたし、敵役がウィリアム・H・メイシーだとわかってしまえば、主人公が“戦い”に勝利することも見えていました。だから、ことの起こりから結末に至るまでをどう描くかというのが見どころだったわけですが、この監督はそこをうま~く切り抜けたと思います。
 
 主人公をタバコ業界の利害を代表するスポークスマンとして始めて、社会的モラルも個人のモラルもぎりぎりのところで侵さず、誠意も知恵も行動力もある理想的な父親像というところに着地させる、な~んてことは、簡単にできるようでなかなかできるものではないと思いますね。

 タバコ業界に限らず、どんな仕事に就いていても、モラルの問題で悩んだりすることはあるはずで、この映画はそういう意味で普遍的なテーマを扱っているということもできます。まず最初に原作ありき、なんですが、原作を父と息子の物語を軸にして映画化を進めたのはどうやら監督の手柄でもあるようです。

 加えて、こういうタイトル、こういう内容でありながら喫煙シーンが一切ない、とか、どぎつくならない程度の皮肉があり、ユーモアがありました。都会派コメディーとして一級品でしたね。 

 “アメリカには、社会が行き過ぎになりそうになると、必ずブレーキが作用する健全さがある”と言われますが、昨今の、喫煙に対する過剰とも言える反応に対して、この映画はそれが行き過ぎであると、やんわりと、ユーモアに包んだ形で、クールダウンを促した映画でもあるんですね。

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 私は、劇場パンフは買わなかったので、ひょっとすると劇場パンフに書かれているようなことばかりなのかもしれないんですが、気のついたところについて少々メモしておきたいと思います。

 ◆『脱出』(1945監督:ハワード・ホークス) DVD

 ローレン・バコールとハンフリー・ボガードの初めての出会いのシーンがタバコのやりとりだったという、その映画は『脱出』。
 そのシーンを紹介しているサイトはここ(http://www.filmsite.org/toha.html)。
その部分だけ書き出してみると――

 Morgan first meets young, sultry, and stranded American Marie Browning (Lauren Bacall) in the doorway of his room in the hotel/nightclub's upstairs hallway. She has appeared from her rented room across the hall from his. In her first husky, sexy lines to him as she leans in, she makes a simple, deadpan request for a match, but it sounds like an erotic challenge:
 Anybody got a match?
 He tosses her a box of matches so she can light her own cigarette. She aggressively lights the flame, looking at him with her wide expressive eyes. She flings the used match backward out the door, tosses the box of matches back at him, turns and leaves without any emotion: "Thanks." Morgan finishes his conversation with Frenchie about his lack of loyalties: "I know where you stand and what your sympathies are. It's alright for you, but I don't want any part of it. They catch me fooling around with you fellas and my goose will be cooked. Probably lose my boat too. I ain't that interested."

 ◆『ブルー・プラネット』(2001/監督:アラステア・フォザーギル) DVD

 主人公がハリウッドのエージェントに会いに行った時、ロビーで流れていた映像(シャチが子どものアザラシを弄んだあとで食べてしまう)は『ディープ・ブルー』(2003)かと思ったのですが。クレジットを見ると“The Blue Planet”とあって、アレっと思ったのですが、“The Blue Planet”を編集して作ったのが、『ディープ・ブルー』なんだそうです(だから結局は同じなのですが)。
 引用されたシーンは、もちろん象徴的な意味合いなんでしょうが、子どものアザラシの象徴するものが主人公だとすれば、シャチは何の象徴でしょうか? 彼を取り巻く社会の風潮? それともアザラシとシャチで、“ハリウッドというのはそういうところだ”と言っているのでしょうか?

 ◆『スミス都へ行く』(1939/監督:フランク・キャプラ) DVD

 主人公の台詞の中で、「ジェームズ・スチュアート」という名前が何度も出てきますが、これはもちろん『スミス都へ行く』のジェームズ・スチュアートが演じた役のことを指しています。
 希望に燃えた新人議員が女性記者にからかわれたりして一度は挫折して故郷に帰るけれど、再起して戻ってきて政治的腐敗を告発するという『スミス都へ行く』のストーリーラインは、実は『サンキュー・スモーキング』とそっくりです。意図的にやっていることなので、わざと主人公にジェームズ・スチュアートの名前を出させているのでしょう。
 ただ「ジェームズ・スチュアート」と出すだけで一般の観客にわかってもらえるかどうかっていう心配はあると思いますね~。こういうのって字幕翻訳者泣かせで、結局はただ「ジェームズ・スチュアート」と出すしかなかったみたいですが。

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 ◆『硫黄島の砂』(1949/監督:アラン・ドワン 主演:ジョン・ウェイン) DVD

 主人公が観ている映画(タバコを吸おうとした兵士が飛んできた弾丸によって死んでしまう)は『硫黄島の砂』で、イーストウッドによって再映画化された『父親たちの星条旗』のオリジナルに当たるもの。
 そのシーンの切り取り方が、“タバコを吸うヤツは死ね”もしくは“死ぬ”と言っているみたいで皮肉が効いていて面白いのですが、“硫黄島に立てられた星条旗”が、真実の出来事であったにも拘らず、のちに政府によって茶番と化したというエピソードが、この映画の「彼はウソをつかない。ただ、真実に手を加えるだけ。」というキャッチ・コピーに通じています。
 主人公がミートバイ(?)の上に立てられた旗を見て、やり直してみる決心をするのはそういう意味なんですね。

 ◆喫煙シーンを修整すること

 ビートルズの「アビーロード」のジャケット写真からタバコが消されたとか、「トムとジェリー」から喫煙シーンが削除された(http://www.smokersclubinc.com/modules.php?name=News&file=article&sid=3605)というニュースを思い出させます。映画でもこういう例があるのかは私は知りませんが、喫煙シーンのある映画をR指定にしろ(若者に悪影響を与えるから)という動きはあるようです。

 ◆父と子

 このところアメリカ映画の中では父と息子の関係、もしくは理想の父親像を描いた映画が多いようです。例えば、『ビッグ・フィッシュ』、『綴り字のシーズン』、『愛についてのキンゼイ・リポート』、『イカとクジラ』などなど。『Mr.インクレディブル』なんかもそうでしょうか。きっと今のアメリカ社会がそういうものを求めている、観たがっているという証なのでしょう。

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 ◆作品世界

 ジェイソン・ライトマン作品が既存の監督では誰に近いかということを何故かみんな言ってみたくなるようですが、私は、コーエン兄弟、スパイク・ジョーンズ、ミシェル・ゴンドリー、ウェス・アンダーソン(『ライフ・アクアティック』)、トッド・ウィリアムズ(『ドア・イン・ザ・フロア』)、マイク・ミルズ(『サムサッカー』)、ノア・バームバック(『イカとクジラ』)あたりに近いものを感じました。

 ◆タイトルバック

 タバコのパッケージに模したタイトルバックのうち、ジェイソン・ライトマンの名前の下には"Est'd 1977"と出ましたが、これはジェイソン・ライトマンの生年だそうです。

 ◆ブログ
 監督がブログ(http://thankyouforsmoking.typepad.com/my_weblog/2006/05/muslim_death_me.html)をやってました!

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 ◆監督について

 【フィルモグラフィー】

 『ツインズ』(1988)、『ゴースト・バスターズ2』(1989)、『キンダーガートン・コップ』(1990)、『ファーザーズ・デイ』など父が監督もしくはプロデュースした作品に出演。

 ・Operation (1998/20分)
 コメディー。詳細は不詳ですが、既にビル・バーチなどプロとして活躍している俳優を使っています。

 ・H@ (1999/4分)
 銀行を舞台にしたコメディーのようです。

 ・In God We Trust (2000/17分)
 アスペン、オースティン、フロリダ、LA、NY、サンタモニカ、シアトルなど、数々の映画祭の短編部門でグランプリや観客賞を受賞している作品。
 2001年と2006年のショート・ショート・フィルム・フェスティバルでも上映され(http://www.shortshorts.org/2006/ssff/jp/special/)、『サンキュー・スモーキング』が上映されたシャンテ シネでも限定で上映されたようです。
 限定上映でご覧になったrosedaleさんのブログ「MY TELLY & ICE CREAM」(http://rosedale.exblog.jp/4926827#4926827_1) にレビューがあります。

 “In God We Trust”とはアメリカの貨幣に入れること義務づけられている標語で、意味は「我ら神を信ず」。

 ネット上にこの映画の動画がありました。全編英語で字幕なしですが、上のrosedaleさんのブログも参考になりますし、映像だけでも十分に楽しむことができます。↓は、約6分のショート・バージョンです。

 


 ・Gulp (2001/7分)
 水槽の中でアップアップしている魚を見たフランシスは友達に相談するが、友達はその魚は塩水じゃないと生きられないと言い出す。そこで彼は魚を助けるために行動し始める……。

 ・Uncle Sam (2002/4分)
 コメディー。詳細不詳。

 ・Consent (2004/6分)

 You Tubeにこの映画の動画が見つかりました。

 

 ・『サンキュー・スモーキング』(2005)
 ナショナル・ボード・オブ・レビュー 新人監督賞受賞!

 ・Juno (2007)
意図せずに妊娠してしまった少女の物語。主演は『ハードキャンディ』のエレン・ペイジ。プロデューサーの1人がジョン・マルコヴィッチ。

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 ・この映画の上映前にタバコのCMが流れた映画館もあったのでしょうか? 気になりますね~。

 ・この映画の前に、例の「海賊版撲滅キャンペーン」のCMが流れました(20世紀フォックスの配給作品だから当然ですが)。ちょっと皮肉なような……。

 ・あと、主役のアーロン・エーカットの頭髪(頭皮)が前後によくひょこひょこ動くのも気になって仕方がありませんでした(笑)。

 ◆英語塾INDEC塾長のゴウ先生のブログ「英語と本と映画にあふれた英語塾」(http://blog.indec.jp/?eid=589433)は、英語という側面からこの映画にアプローチしていて、読み応えがありました。

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この記事へのコメント

rosedale
2006年12月18日 15:31
こんにちは♪
うちのブログのご紹介、ありがとうございます。たくさん映画を見てらっしゃるんですね。私のブログは適当な感想ばかりで恐縮です(^^;)。

「In God We Trust」は、シャンテでレイトのみの上映かと思ってたんですが、私が見た週末のレイト限定だったようで…見れてラッキーでした。DVDに収録されるといいですよね。息子ライトマンの笑いのセンスは割と気に入ったので、今後も期待です。

また遊びに来させて頂きますね^^
umikarahajimaru
2006年12月19日 19:37
rosedaleさま
コメントありがとうございました。
新人監督は短編からスタートしてることが多くて、それが丸々You Tube等で観られることがあるので、検索していたら、そちらのサイトにたどりつきました。「In God We Trust」は日本で何度か上映されていたんですね。この情報をブログで書かれているのはrosedaleさんだけみたいでした。
上にもアップしておいたように、「In God We Trust」はネット上でも観られなくはなかったんですが、観れるものならやっぱりスクリーンで観たかったですね~。

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