解答編! 『インサイド・マン』

画像 数日前に書いた映画『インサイド・マン』についての記事に関して、多くのTBやコメントももらって、いろんな方のいろんな解釈を読み、私もあれから少なからず考え直してみました。
 「解答編」というのは大げさかもしれませんが、以下に私が一番しっくりくる解釈を提示してみたいと思います。

 まずは、疑問点から整理してみます。

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 【疑問点】
 1.銀行強盗の黒幕は誰か?

 2.また、その意図は?

 3.マンハッタン信託銀行会長のアーサー・ケイスは銀行強盗にどう関与しているのか?

 4.貸し金庫No.392に入っていた書類の内容は?

 5.その書類は何故取っておかれたのか?

 6.貸し金庫No.392に入っていた指輪にどんな意味があるのか?

 7.何故ダルトンは指輪だけ貸し金庫に残したのか?

 8.貸し金庫No.392に入っていたたくさんのダイヤモンドにどんな意味があるのか?

 9.銀行強盗の一味が貸し金庫No.392に目的のものが入っていると知りえたのは何故か?

 10.麻薬取引きの捜査の過程で失われた14万ドルの小切手の行方は?

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 【了解事項】

 a.ナチスによってユダヤ人の財産が没収されたが、その時に私腹を肥やした人物がいる。

 b.貸し金庫No.392は、アーサー・ケイスのものである。

 c.強盗一味は、徹底して、暴力沙汰や殺生を避けようとしている。

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 【解答編】

 ポイントとなるのは、「貸し金庫No.392に入っていた書類」で、これは、「ナチスによってユダヤ人の財産が没収されたが、その時に私腹を肥やした人物がいる」の証拠となるもので、おそらくは、ユダヤ人の財産を譲渡する旨を記録したナチスの書類だと思われます。

 これが公表されるとまずいことになる人物が銀行強盗の黒幕になるわけで、つまり、黒幕は「ナチスによってユダヤ人の財産が没収されたが、その時に私腹を肥やした人物」ということになります。

 この黒幕をケイスと考える人もたくさんいるようですが、そうすると自分の罪の証拠となるものをわざわざ取っておく意味がわかりません。ナチスが敗退した時に処分しようと考えるのが普通です。

 貸し金庫(書類)がケイスのものであるのは明らかなのですから、この疑問にしっくりくる答えは、ケイスは「ナチスによってユダヤ人の財産が没収されたが、その時に私腹を肥やした人物」ではなく、「ナチスによってユダヤ人の財産が没収されたが、その時に私腹を肥やした人物」に対してケイスがこの書類を使って恐喝していた、というもので、これ以外に「書類を取っておいた理由」は考えられません。

 書類以外に貸し金庫No.392に入っていたものは、恐喝の結果、ケイスが手に入れたもので(もちろん金銭もあったのでしょうが)、早急に換金する必要を感じなかったダイヤモンドと、換金しようとすると入手先を問われてまずいことになってしまう指輪、ということになります。

 ですから、銀行強盗の黒幕は、「ナチスによってユダヤ人の財産が没収されたが、その時に私腹を肥やした人物」で、同時に、「貸し金庫No.392に何が入っているか知っている人物」ということになります。貸し金庫に指輪が入っていることを知っていたのは(この映画で示されているのは)ラビであるカイムだけなので、銀行強盗の黒幕は、カイム、もしくは年齢的に計算が合わないようであれば、カイムの親族ということになります。
 ユダヤ人が、ナチスに犠牲になったユダヤ人の財産によって、私腹を肥やしたということになりますが、ユダヤ人でありながら同朋を売ったという話はないではありませんし、より罪は重くなることになります。そのことを知って、“彼”を強請った人物の罪も重いのですが、それはまた別の話。

 ダルトンが、指輪を貸し金庫に残したのは、この書類を回収することで「ナチスによってユダヤ人の財産が没収されたが、その時に私腹を肥やした人物」(とその人物を恐喝していた人物)を封印してしまっていいのかということに疑問を感じたからですね。
 おそらくダルトンは貸し金庫から中身(書類とダイヤ)を回収してくるように依頼されただけで、それがどんな意味を持つのかは告げられていなかったはずですが、中身を見て、真相に気がついたんだと思います。それで、銀行強盗のプロとして依頼内容に反しない範囲でちょっとしたいたずらをしたんじゃないかと、私は考えます。
 指輪は、ナチスの犠牲者の持ち物(で、その人物のものであったことが広く知られているもの)、もしくは、カイムかカイムの親族の持ち物で、恐喝によって、恐喝者の手に渡りますが、身元がばれるとまずいものであるならば、「ナチスの犠牲者の持ち物(で、その人物のものであったことが広く知られているもの)」と解釈した方がよさそうです。

 この説を裏付ける何気ない台詞が実は映画の中にありました。
 それは、カイムの事情聴取で、カイムが、捜査官に「婚約者にダイヤを贈りたいんだが、安く手に入らないか」と訊かれ、「自分はそういう商売はしていないが、紹介してあげることはできる」と答えている部分です。ダイヤが盗まれたことを知らないはずの捜査官が何故こんな質問をするのか? それは、このやりとりがこの映画を解読するために観客に与えられたヒントであるからです。つまり、貸し金庫に入っていたダイヤモンドとカイムの関係(戦争犯罪によって宝石業を営み財産を築いた)を、この台詞で、監督もしくは脚本家が観客にほのめかした、というわけです。

 銀行強盗の黒幕がケイスでないとすれば、黒幕はどうやって貸し金庫の中身を知りえたのか? これには内通者が関わっていたと思われます。内通者として考えられるのは支店長であるピーター・ハモンドだけです。
 映画の中で、携帯電話を隠したと見なされて、彼だけが痛めつけられますが、これはわざわざすりガラスの向こう側に連れていってなされるわけで、それ以外では一切暴力をふるっていない強盗一味にしてはポリシーに反しています(ということは物語の終りになってみなければ観客にはわかりませんが)。
 ピーター・ハモンドが内通者で、銀行強盗を手引きしたのであり、痛めつけられたのがフェイクであると考えれば、これもすっきりと解決します。

 あとは、14万ドルの小切手紛失の件だけが残りますが、これに関しては、物語上の設定として、本来有能であるフレイジャーを窓際に送り込む必要があって、そうしたのだとしか考えられません。
 ノベライズでは、14万ドルは小切手ではなく、現金ということになっていて、麻薬のディーラーが捜査官を陥れるために「取引き現場に14万ドルあったはずだ」と証言しているだけのようです。

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 以上が、映画『インサイド・マン』に関する私の解釈です。
 ひょっとすると監督や脚本家によって全然違うと言われてしまう可能性もありますが、今のところ私にはこの解釈が一番しっくりきますね。

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この記事へのコメント

2006年07月08日 13:33
名探偵ですね。素晴らしいー。
私はといえば、その犯罪過程の面白さに満足し、黒幕が誰かなんて深く考えもしませんでした。
umikarahajimaru
2006年07月08日 18:08
かえるさま
コメントありがとうございました。
まあ、全然違うよっておっしゃる方もいるとは思うんですが、いろいろ考えて、一番すっきりする答えがこれだということですね。
2006年07月08日 23:02
わざわざお知らせありがとうございました。
いやーとても説得力があります。
支店長の携帯の一件、私もなんとなくクサイなと思っていたのです。
でも、なんかミスディれクションがちりばめられてて、途中で過程を楽しむ方向に変更したのでした。
2006年07月09日 00:29
こんばんは♪
解答編へのご招待、ありがとうございました!
なんだかスッキリいたしました!
私などは謎のままで終わらせて次への映画鑑賞に走り回っているのに、こうしてちょっと歩みを止めて追求なさる姿勢ってすばらしいですね~!
2006年07月09日 14:21
こんにちは。 お知らせありがとうございました。
いつも凄い情報量に感心してます。
私もある程度解答編を作りましたが(ピ-ター・ハモンド共犯説は意見が一致しましたね)、umikarahajimaruさんの方が説得力がありますね。
いやー、お見事、敬服しました。 m(_ _)m
umikarahajimaru
2006年07月09日 19:50
starbloggerさま、ミチさま、Keiさま
わざわざおつきあいありがとうございました。
本当は私自身がすっきりしたかっただけなんですが……。
多少なりともご参考になれば幸いです。
2006年07月10日 11:11
なるほど!ネタバレレビューを拝見していても
いまひとつ納得がいかなかったのですが、
よくわかりました。
物事は筋道だてて考えていかないといけませんね。
論理的、というのは私が最も苦手とするところです。
元の記事にTBが入っていなかったようなので
こちらにTBさせていただきます。
kino
2006年07月10日 11:13
あれ?やっぱり入りませんか・・・??
すみません。
2006年07月10日 22:28
解答編ということで飛んでまいりました!

なるほど~
殴られてたけどもピーター・ハモンドもやっぱり関係者なんですかねぇ
確かに貸金庫の存在は、銀行の関係者でなければわからないですからねぇ

ノベライズの方も読んでいるようで大変参考になりました!

自分も解答編書きたくなってまいりました。
umikarahajimaru
2006年07月11日 00:30
kinoさま
コメントありがとうございます。
この映画を観て、もやもや感が残った人は多く、私もその1人だったのですが、一応これが私の論理的な帰結というところでしょうか。
umikarahajimaru
2006年07月11日 00:31
Sushibarさま
コメントありがとうございます。
「解答編」も楽しみにしていますね。
2006年07月15日 22:03
解答編へのご案内有難う御座いました!
素晴らしい御明察! ごちゃごちゃしていたものがすっきり致しました。ありがとうございます♪
2006年08月08日 11:57
初めまして。
ダルトンが語るハムレットの台詞が気になって検索して、もう1つの記事のほうにたどり着きました。
こちらの解答編も興味深く読ませていただきました。
観終わってすっきりしなかったところもあったなー、と思い出しております。
自分は楽しかったな、で終わらせてました。素晴らしいです。
こちらの記事にトラックバックさせていただきますね。
umikarahajimaru
2006年08月09日 22:07
いわいさま
コメント&TBありがとうございました。
リピーターはあまり多くはなく、検索でたどりつく人ばかりのブログですが(苦笑)、よかったら、時々、そしてところどころ覗いてみてやってください。
PORO
2006年12月26日 23:40
最初の黒幕「ナチスによってユダヤ人の財産が没収されたが、その時に私腹を肥やした人物」が無理やりですね。
テキーラ
2008年01月15日 00:44
どの解説も人質に犯人が紛れて・・お見事!
みたいな解説ばかりでしたが
強盗そのものの動機が弱いような気がして
不完全燃焼のままでした。
このサイトに来て、やっとスッキリ。
あ~、なるほどね。
ラビが絡んでいる事に気をつけて
もう一度ビデオ観ます、サンキューです。
umikarahajimaru
2008年01月15日 22:19
テキーラさま
コメントありがとうございました。
こういうタイプの作品て、なかなか2度観たり、3度観たりはしないもので、私も劇場で一度観たきりで、上の記事も論理的帰結として書いたものですが、もう1回観たらまた発見があるかもしれませんね。テキーラさんが見直してみて、何か発見がありましたら、是非教えてください。どうぞよろしくお願いします。
ぷ~
2008年02月19日 00:55
はじめまして。インサイドマンのDVDを観て、尻切れトンボのような終わりに不満を感じでネットサーフィン中にこのブログにあたりました。
なるほど!と思うところもしばしば、「事情聴取…」のダイヤの話はタダの世間話の延長上だと思いますが…。NYに住んでいますが、あの格好をしたユダヤ人はジュエリーの店を構えて、ダイアモンドをやり取りしている人たちの代表なので。「僕は扱ってないけど、甥がやってる店の番号をあげようか?」(英語では)といっていたのも、意味深なものではありません。アラブ人が空港でランダムチェックにひっかかる!と同じように暗黙の了解の中にある人種差別をテーマにした「クラッシュ」をコメディータッチで描いてるな~と思ったのが私の感想です。(取調べの会話も、アラブ人との会話も笑いを誘いましたから)
でも、ケイスがあの書類を恐喝するために使っていたというのは当たりかもしれないですね。ありがとうございました。すっきりしました。
umikarahajimaru
2008年02月19日 01:41
ぷ~さま
コメントありがとうございました。
これだけムダのない脚本なのですから(ミス・ディレクションはあるにしても)事情聴取の件は、やはりただの雑談とは思われません。少なくともユダヤ人とダイヤモンドのつながりをほのめかす「映画の作り手からの目配せ」といった意味はあるのではないでしょうか……。
Keikchan
2011年01月25日 23:06
最近ケーブルTVで初めてこの映画を観ました。 3度観ましたが、イマイチよくわからないところがありネットで検索していて貴サイトと出逢いました。
推理、とてもお見事です!!
しかし、もうひとつどうしても分からないのは
犯人たちが必死で掘っていたあの穴は何のためのものだったのでしょうか?
ダルトンが最期に隠れていた場所は銀行の書庫を少し小さめにして場所を確保したものと思われますが、それならばあの穴は必要ないはず・・・と私は思っているのですが。
Fumi
2012年01月06日 23:07
穴は隠れている間のトイレです。
ちぃち
2013年12月02日 00:02
だいぶ前にも書かれている方が居ますが、ユダヤ人の事情聴取でのくだりは、差別ジョークみたいなモノですよね。
ユダヤ人=ダイヤ商売的な事は常識というか当たり前というか。
日本で言うと何だろう、韓国の方に対して話の取っ掛かりとして「良いキムチ屋知らない?」って言うような感じだと思うんですが。

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