昔~ハリウッドの巨匠、今~新進気鋭の映画作家 → オーストリア映画

 ◆オーストリア映画ってどんな映画?

 オーストリアといった時に思い浮かべるイメージは、一般的には、音楽関係(ウィーン・フィル、ウィーン交響楽団、モーツァルト、シューベルト等々)、美術(クリムト、シーレ、ココシュカ等)、歴史的人物や事件(マリー・アントワネット、ウィーン会議、サラエボ事件、アドルフ・ヒトラー等)、ウィンター・スポーツ(インスブルックでの冬季オリンピック、イナ・バウアー等)、あとは、『サウンド・オブ・ミュージック』、もしくはアーノルド・シュワルツェネッガーの出身地としてくらいでしょうか。

 映画に関しては、今回『隠された記憶』と『ドッグ・デイズ』が相次いで公開されたので、この2作品の印象が強くなってしまいますが、どうも「狂気」や「悪意」を感じさせる作品が多いと感じられて仕方がありません。『スペシャリスト』や『R.I.P.ジョー・コールマンの肖像』にしても、ちょっと恐いところがありますし。ミヒャエル・ハネケだけが特殊なのではないような気がしますね。強い刺激を求める国民性なんでしょうか(ハリウッド映画との差異化を試みた結果こうなったというか)。

 日本で公開されているオーストリア映画は、比較的小規模公開のものばかりですが、年に1~2本程度は紹介されているようです。

 オーストリア映画は、日本に紹介される作品が少ないばかりでなく、国内で製作される映画の本数自体もあまり多くはないのですが(劇映画は年間15本程度)、ドキュメンタリーの製作は盛んで、『スペシャリスト』や『R.I.P.ジョー・コールマンの肖像』など、目ぼしい作品を拾ってみるとドキュメンタリー作品であることが多く、『ドッグ・デイズ』のウルリヒ・ザイドルも元々はドキュメンタリー作家でした。日本でも公開待機中の『ダーウィンの夢』が今年の米国アカデミー賞ドキュメンタリー部門にノミネートされていた、というのも記憶に新しいところではないでしょうか。

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 2001年にミヒャエル・ハネケの作品がまとめて紹介されるまでは彼のことを知っている日本人はほとんどいなかったわけで、それはかろうじて1作品のみ紹介されたことのあるウルリヒ・ザイドルについてもそうで、オーストリアにはまだまだ知られざる映画作家が潜んでいそうな予感があります(そういう期待も含めて、リストには日本未公開作をいくつか加えました)。

 日本で開催された最後のオーストリア映画祭が1991年、ハネケの特集上映が2001年でしたから、そろそろ新しくオーストリア映画祭が企画されてもいいような感じがします。「今のオーストリア映画」には何か勢いというか、そんな機運も感じられますし。ハネケの日本未紹介作“Le Temps du loup”を含んだ形で上映会ができたらいいですよね。

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 ◆オーストリア映画人

 映画監督は、過去にはけっこう著名な人物をたくさん輩出していますが、残念ながらオーストリアでは仕事をしていません。映画に関してドイツやパリに学び、その後、ナチスの台頭を機にアメリカに渡った(そしてそのまま帰らなかった)、というケースが多いようです。
 エーリヒ・フォン・シュトロハイム(1885~1957)、フレッド・ジンネマン(1907~1997)、ジョゼフ・フォン・スタンバーグ(1894~1969)、オットー・プレミンジャー(1906~1986)、フリッツ・ラング(1890~76)、ビリー・ワイルダー(1906~2002)など(以上、すべてユダヤ系)。

画像 今の日本では、ミヒャエル・ハネケがオーストリアの監督として最も知名度があると思われます(1942年生まれ。出身はミュンヘン)が、国内動員記録を持っている映画監督と言えばニキ・リスト(1956年ウィーン生まれ)で、『ミュラー探偵事務所』は800万強の総人口のうち45万人が観たと言われています。ニキ・リスト監督作品は、日本では4作品が紹介されています。
 ニキ・リストに続く監督としては、ヴォルフガング・ムルンベルガー(1960年Wiener Neustadt生まれ 日本では映画祭で2作品が上映)、フロリアン・フリッカー(1965年ザルツブルグ生まれ 日本では1作品のみ上映)、ミヒャエル・グラヴォッガー(1959年Graz生まれ)らの名が挙げられます。

 俳優としては、古くは、マクシミリアン・シェル(1930年ウィーン生まれ)とマリア・シェル(1926年ウィーン生まれ)。アーノルド・シュワルツェネッガーが1947年Thal生まれ。そして……。

 ……オーストリア出身の俳優って少ないんだなあと思って、IMDbを徘徊していたら、ウィーン出身の映画人だけで1500人以上登録されてされていました。調べてみると、けっこういるもんですね~。地理的な位置関係からか、ドイツ、イタリア、フランス、そしてアメリカと、様々に活動領域を広げる俳優がいます。そんな中から有名どころをピック・アップしてみました。

 ・ピーター・ローレ(1904~1964 ウィーン生まれ) 『80日間世界一周』『毒薬と老嬢』『カサブランカ』『マルタの鷹』『暗殺者の家』『M』など。

 ・ヒルデガルド・ネフ(1925~2002) 『キリマンジャロの雪』『三文オペラ』『悲愁』『エミリーの未来』『真実のマレーネ・ディートリヒ』など。

 ・マリア・シェル(1926~2005 ウィーン生まれ) 『ナポレオン』『居酒屋』『白夜』『枯葉』『カラマーゾフの兄弟』『女の一生』『オデッサ・ファイル』『スーパーマン』『サン・スーシの女』など。

 ・マクシミリアン・シェル(1930~ ウィーン生まれ) 『ニュルンベルグ裁判』『トプカピ』『オデッサ・ファイル』『戦争のはらわた』『セント・アイブス』『遠すぎた橋』『ジュリア』『リトル・オデッサ』『ディープ・インパクト』など。

 ・ロミー・シュナイダー(1938~1982 ウィーン生まれ) 『夕なぎ セザールとロザリー』『ルードヴィヒ 神々の黄昏』『離愁』『追想』『ありふれた愛のストーリー』『華麗なる相続人』など。

 ・ヘルムート・バーガー(1944~ ザルツブルグ生まれ) 『地獄の堕ちた勇者ども』『ルードヴィヒ 神々の黄昏』『家族の肖像』など。

 ・クラウス・マリア・ブランダウアー(1944~ バート・アウスゼー出身) 『メフィスト』『ネバーセイ・ネバーアゲイン』『愛と悲しみの果て』『ハヌッセン』『ウィーンに燃えて』『ロシア・ハウス』『レンブラントへの贈り物』『微笑みに出逢う街角』など。 

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 ◆オーストリア映画の躍進
 *オーストリア映画の近年の主な国際映画祭への参加状況を書き出してみました。

 1991年 ヴォルフガング・ムルンベルガー『天国か地獄か』 東京国際映画祭ヤングシネマ1991 東京ブロンズ賞

 1997年 ミヒャエル・ハネケ『ファニーゲーム』 カンヌ国際映画祭コンペ部門出品

 1999年 ジェシカ・ハウスナー“Inter-View” カンヌ国際映画祭 Cinefoudation Award

 2000年 ミヒャエル・ハネケ『コード アンノウン』 カンヌ国際映画祭コンペ部門出品 エキュメニック賞

 2001年 ミヒャエル・ハネケ『ピアニスト』 カンヌ国際映画祭コンペ部門出品 グランプリ
       ウルリヒ・ザイデル『ドッグ・デイズ』 ベネチア国際映画祭コンペ部門出品

 2004年 フーベルト・ザウパー『ダーウィンの夢』 ベネチア国際映画祭 Label Europa Cinemas賞
       ヴォルフガング・ムルンベルガー『シレンティウム』 東京国際映画祭コンペ部門出品

 2005年 ミヒャエル・ハネケ『隠された記憶』 カンヌ国際映画祭コンペ部門出品 監督賞、国際批評家連盟賞、エキュメニック賞

 2006年 ミヒャエル・グラヴォッガー“Slumming” ベルリン国際映画祭コンペ部門出品
       フーベルト・ザウパー『ダーウィンの夢』 米国アカデミー賞ドキュメンタリー部門ンミネート

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 ◆オーストリア映画に関するリンク集

 ・キネマ旬報DBで“オーストリア”でヒットする映画

 ・Wikipedea オーストリア人の一覧

 ・オーストリア人物事典

 ・オーストリア大使館のHP 映画

 ・瀬川裕司著『映画都市ウィーンの光芒 オーストリア映画全史』(青土社刊)

 ・イナ・バウアーについての記事がある「幸玉ブログ」

 ・東京国際映画祭『シレンティウム』が上映された時のMovieWalkerでの紹介記事「平気の平左」さんのレビュー

 ・『ダーウィンの悪夢』に関する記事、綿井健陽さんのブログ「チクチクPRESS」ユニフランスのHPでの紹介記事

 ・「Berlin Bau/五感でドイツ/工事中」さんのブログに“Slumming”についてのレビューがあります。

 ・2006年1月7日~3月26日に東京国立近代美術館フィルムセンターで開催された「ドイツ・オーストリア映画名作選」のHP

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 ◆オーストリア映画に関する専門家

画像 ・田中千世子さん 映画評論家さんですが、1989年開催の「ウィーン・シネマ・ウィーク」では講演を、1991年開催の「オーストリア映画祭1991」では作品解説とマンスール・マダヴィへのインタビューをされています。

 ・スザンネ・シェアマンさん 日本でオーストリア映画史について本格的に書ける方といえばまずこの方で、「オーストリア映画祭1991」のパンフにも「ヨーロッパの十字路 オーストリア映画の歩み」という記事があります。自身の著書『ウィーン その知られざる諸相』(中央大学出版部刊)には「感情の氷河化―ミヒャエル・ハネケの世界」という章があり、「ぴあ・フィルム・フェスティバル 2001」のパンフにも抜粋されています。現・明治大学教授。

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  ←今日のランキングは?

 [恐るべし!オーストリア映画]

 [映画『隠された記憶』レビュー]

この記事へのコメント

2006年05月26日 12:11
こんにちは。
やっぱり日本で観られる純オーストリア映画って少ないんですね。
『ドッグ・デイズ』観ましたよー。
強烈でしたが、あの空気感はすばらしかったです。

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