ボブ・ディラン語録、または映画『ボブ・ディラン 「ノー・ディレクション・ホーム」』

画像 昨年のうちに観ていたら、マイ・ベストの1本に入れていたと思いますね。それほどよかったんですよ、映画『ボブ・ディラン 「ノー・ディレクション・ホーム」』。

 ①まずは、ボブ・ディランのかっこよさ。10年以上前に観た『ドント・ルック・バック』の時もそう感じたんですが、やっぱりかっこいいですね~。自分の気持ちに素直で、言いたいことを言い、やりたいことをやる。マスコミにたたかれても、ファンからブーイングを浴びたり、裏切り者呼ばわりされても、自分を貫き通す。それでいて至って、自由に見えること。カリスマと言っていいですね。憧れます。

 ②でも、本当は「ボブ・ディランに関する刺激的なドキュメンタリー」であることよりも声を大にして言っておきたいことがあって、それは、この映画がとびっきりの「青春映画」であるっていうことですね。
 「ボブ・ディラン・ファンじゃないとつらいかも」とこの映画について感想を書いてあるブログもありましたが、そんなことはないですよ。だとしたら、何か大切なものを見落としてしまっているんじゃないかと思いますね。
 劇場パンフにある監督マーティン・スコセッシのインタビュー記事から引用すると――
 「この映画を見る若い人たちにとって興味深いのは、あるアーティストの成長と、彼のしてきた選択の数々が見られるところだと思う。彼が選んできたのは、自分自身であること、そしてもう少し成長した後では、自分自身からより多くをひきだせるかどうか、挑戦し続けることだった。それと、現代の若者が自分自身の道をすすんで行くための希望やインスピレーションを得るためにも、このような映画を見ることはとても重要だと思う。今、世の中で起きているあまりにもたくさんのことによって自分自身を吸い取られるなといいたいね」

 ③さらに興味深いことは、この映画がボブ・ディランを通して、ある時期のアメリカ現代史を切り取っているということです。
 それは、ボブ・ディランが、ミュージシャンでありながら、音楽や文化を超えて、社会運動や政治に積極的に関わることになってしまった(時代の寵児?、あるいは、時代と寝た男?)ということとも関係あるんですが、彼の軌跡をたどったことが、激動の現代アメリカ史(60年代)を写し取ることになり、その結果、この映画自体も『フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白』や『アトミック・カフェ』といったドキュメンタリー映画に勝るとも劣らぬ作品(=アメリカ現代史を再検証した作品)になったと言っていいと思います。
 逆に言えば、「ボブ・ディラン」をそういう切り取り方をしたので、よりプライベートな部分(例えば、家族について)はすっぱり切り落とされています(それでも3時間半ありますが)。

 ④監督マーティン・スコセッシの意図は、1つは、ボブ・ディランをアメリカ現代史の中において読み直すということにあったと思いますが、もう1つは、ボブ・ディランの実像に迫ることにもあったと思います。
 本作の軸になっているのは、ボブ・ディランへのインタビュー(それも監督マーティン・スコセッシが行なったものではなく、ディランの26年来の友人ジェフ・ローゼンが行なったもの)ですが、それをそのまま使うわけではなく、彼の知人の発言や当時のディラン本人の発言を挟み込むことで、より客観化させています。
 ボブ・ディランを賛美するだけの映画でもつまらないんですが、伝説化したボブ・ディラン像やボブ・ディラン本人のコメント(自分をどう見られたいかというような自分に対する思惑もある)と若干齟齬があったりするのも、ちょっと面白いですね(特に前半部分)。

 ⑤本作には、ボブ・ディランを映した記録映像以外にも、彼のコメントに関係した映像や音楽、当時の社会的な事件を映した映像もふんだんに使われて、それも大きな見どころになっています。ミュージシャンの演奏以外は、ほとんど映像についての解説はされないので(これも日本版のみ?)、より詳しい人が見れば、もっと意味がわかって、より楽しめたりするのかもしれませんが。

 ⑥そして、やっぱり、ボブ・ディラン本人の個々の発言が非常に魅力的です。
 以下に、本作の中から印象的な発言を書き出してみました。
 手元にオリジナル・ビデオや台詞を起こした台本があるわけでもないので、1回観ただけの記憶に頼っています。それゆえ、多少曖昧な部分もあり、いくつか重要な発言を落としてしまっている可能性もありますが、まあ、何かの参考程度にはなると思います。

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 ・“自分の家”を探したかった。

 ・時間を止めようと人はいろんなことをする。しかし、そんなことはできない。

 ・ラジオを聴くようになって、町に出たいと思うようになった。

 ・ウエストポイント陸軍士官学校に行きたかった。英雄として死にたいと思ったが、それはかなわなかった。

 ・2番目の恋人がエコー。よく彼女の部屋の窓の下から見上げた。そこから詩心が芽生えた。【1957年】

 ・映画の中のジェームス・ディーンやマーロン・ブランドを知ることで、過去と縁を切ることができた(→アメリカン・ニューシネマを知ることで、自分が住んでいるつまらない田舎町と精神的に決別するきっかけができた、ということ)。

 ・高校卒業の日、町を出た。できるだけ遠くへ行きたかった。【1959年】

 ・自分が育った町には一人だけ売れている者がいた。それは、ボビー・ヴィーだ(→ボブ・ディランは、ボビー・ヴィーになりたかったんだ、と証言者のコメントあり)。

 ・ミネアポリス大学に行ったが、バンド活動が忙しくて勉強なんかしてる暇はなかったし、授業にも出なかった。【1959年】

 ・ジョン・ケルアックの常識はずれのところがよかった。

 ・フォークは、ぼくが感じることを伝えていると思った。人々や社会や思想などを。

 ・レコードは買わず、店で試し聴きした。一度か二度聴けば覚えてしまうんだ。

 ・どうしてこの名前にしたかは憶えていない(→ディラン・トーマスから取った、などの証言あり)。

 ・ウディ・ガスリーは特別のサウンドを持っていた。歌いたいのはこれだと思った。歌は生き方を学べると感じた。【1959年】

 ・ウディ・ガスリーの自伝『ギターをとって弦をはれ』を読んで、自分と重なると思った。それはケルアック以上だった。

 ・ウディ・ガスリーの歌を覚えて、彼を知ろうとした。

 ・ウディ・ガスリーのレコードを入手することは難しかった。(音楽評論家)ポール・ネルソンは、ウディ・ガスリーのレコードをたくさん持っていた。彼の留守中にウディ・ガスリーのレコードを持ち出した。繰り返し聴く必要があったんだ。(ポール・ネルソン談→25枚のレコードがなくなっていることに気づいた。とても貴重なレコードなんだ。ボブ・ディランを探した。彼は人気者なんだなと言われた。彼を探してもう何人もやってきたと。)

 ・ウディ・ガスリーに会ってみたかった。生きているのかどうかも知らなかった。まだ生きていて、入院中だと知って、病院に会いに行った。【1961年】

 ・ジョーン・バエズには圧倒された。ぼくを揺さぶった。フォークそのものだった。テレビで彼女を見て、パートナーになる予感がした。

 ・(ニューヨークにある)B・J・セラーズの店は、誰でも歌える日があった。ぼくらはそこで本物のパフォーマーを見つけ、彼らのパフォーマンスを盗もうと思った。(→当時のグリニッジ・ヴィレッジは最も進んだ街だと思われていたといった証言の数々。)

 ・デイヴ・ヴァン・ロンクは、荒々しさと繊細さの両方を兼ね備えたパフォーマーだった。

 ・リアム・クランシーは深みのある歌手だった。俳優としても凄かったし、言動も凄かった。「ボブ、卑劣になっちゃいけない」と言われて、なるほどなと思った。

 ・クランシー・ブラザーズは三銃士のようだった。

 ・偉大なパフォーマーには、共通したものがあった。君が知らないものを私は知っているという目だ。ぼくはそういうパフォーマーになりたかった。

 ・(グリニッジ・ヴィレッジで)悪魔と取引きして、一夜にして変わったんだ。ミネアポリスに帰ると、その変わりぶりにみんな驚いていたが、闇と取引きした、ということにしておいた。

 ・ウディ・ガスリーを卒業した。だが、彼の偉大さがなくなったわけじゃない。もう病院に見舞いに行こうとは思わなくなった。大切な人への感謝の気持ちを歌にしたかった。できるかどうかわからなかった。彼について歌ったはじめての歌だ。(→「ウディ・ガスリーへの最後の想い」【1963年】)

 ・ジョン・リー・フーカーの前座をやった。チャンスが巡ってきた。売れる前は大きなのぞみはなかった。レコードを出す人はすごいと思っていた。レコード会社の人がいっぱい来たが、知っている人はいなかった。【1961年】

 ・美しい声とメロディー。それが当時のサウンドだ。(→つまり、ボブ・ディランのものとは対極にあると考えられていた。)

 ・フォークは、ハリー・ベラフォンテのような商業主義的なものと、黙って聴くようなインテリ向きのものがあった。ぼくは、その両方とは違うところから歌っていた。

 ・(プロデューサー)ジョン・ハモンドは、ブロードウェイ的な人だと思っていた。ステージ評が出たのを見て、コロンビアからレコードを出さないかと言ってきた。彼みたいな人が、と驚いた。

 ・レコーディングが始まるまで誰にも言わなかった。ぼくにはヘンな癖があるけど、捨てなかった。それがぼくの個性だから。

 ・レコーディングでは普段ステージでは歌わない曲を歌ってみたかった。
 「朝日のあたる家」は、デイヴ・ヴァン・ロンクに思い入れがあったから歌った。(デイヴ・ヴァン・ロンク談→ボブ・ディランにこのアレンジで歌うがいいかと言われて、俺も歌うつもりだったからやめてくれよと言った。ボブ・ディランをまねしたと言われることになって、これからは「朝日のあたる家」が歌えなくなるからだ。しかし、アニマルズが「朝日のあたる家」を歌うと、今度はボブ・ディランがまねしたと言われるようになった。)

 ・レコードができて、困った。選曲を間違えたと思った。自分の曲にすればよかった。

 ・地下鉄の中でもどこでも歌を作った。話しながらでも歌を書くことができた。

 ・「風に吹かれて」がいい曲かどうかわからないけれど、時代に合っていたと思う。あの歌は歌われるためにあった。【1962年】

 <キューバ危機>【1962年11月】

 ・泊まった人の家に詩集があると手当たり次第に読んだ。ランボーやヴェルレーヌを。

 ・フォークソングは、古い歌を作り変えることができる。ぼくは、それにのっとって曲作りをしているだけだ。決して画期的なことじゃない。

 ・2枚目のアルバムからみんなの見る目が変わった。【1962年】(→音楽著作権会社ウィットマーク・アンド・サンズに著作権を登録。みんないい楽曲を探していて、ピーター・ポール・アンド・マリーが「風に吹かれて」を歌って、ボブ・ディランの名を広めた。)

 [アーティ・モーグル(音楽著作権会社ウィットマーク・アンド・サンズ主宰)の証言:ボブ・ディランの詩に最初に注目したのは私だ。楽曲なんか知らなかったけど、「風に吹かれて」の出だしを聴いて、イケると思った。ジョン・ハモンドがボブ・ディランを発見したように言われているけど、ボブ・ディランを広めたのは私だ。]

 <公民権運動>

 ・ビートニクが共産主義かどうかはどうでもいい。ぼくはそんなことには興味はないし、ぼくは共産主義者じゃない。

 ・苦しむ側につく者が政治的人間とは限らない。

 [ジョーン・バエズの証言:私は、私以外の人が褒められると疑うことにしてるの。でも、ボブ・ディランについての噂はすべてその通りだった。]

 ・誰も踏み込んでいない芸術的領域に入っていきたいと思っていた。自分ではそのつもりだったが、勘違いだったかも。新しい曲をたくさん作った。

 ↓PART2

 ・(1963年ワシントン演説で)キング牧師は、ぼくたちのすぐ近くにいたんだ。今でも影響を受け続けているよ。

 <ジョン・F・ケネディ暗殺><リー・ハーヴェイ・オズワルド射殺>【1963年11月】


 ・マスコミはぼくを社会派ソングライターにしようとした。最初からそうじゃないのに。

 ・ぼくはよそ者だった。ますます疎外感を感じた。違うのに道づれにしようとするんだ。

 ・ジョニー・キャッシュは、神様のような人だ。ニューポート・フォーク・フェスティバルで隣に立った時は感激した。彼がぼくの隣で歌うなんて想像もできなかった。【1964年】

 ・目的に到達したと思ってはいけない。いつも過程にいると思うべきだ。そう思えれば大丈夫だ。

 ・最高の演奏はステージ上で生まれる。大切なのは観客に届くことだ。

 ・言葉はいろんな意味を持ち、10年後には違う意味になる。

 ・独りでやるつもりはなかった。バンドがいる方がバランスや演奏の幅が出ると思った。(1965年ニューポート・フォーク・フェスティバル。そのバンドがザ・バンドになった。)

 ・(ドキュメンタリー『ドント・ルック・バック』の撮影で)ぼくが走れば、彼らも走る。部屋の中までもついてきた。だが、そのうち撮影しても気にならなくなってきた。【1965年】

 ・(バエズが自分のステージにディランを呼ぶのに対して、ディランはバエズを呼ばなかったことについて)呼ばなかったのは愚かだったかもしれない。彼女もいつかわかってくれると思っていた。

 ・マイク・ブルームフィールドは、本物のブルースを教えてやると言ってきた。競り合うつもりはなかった。彼は最高のギタリストだった。

 ・「ライク・ア・ローリング・ストーン」のような歌は自分でも聴いたことがない。自分が今までしてきたことがあの歌になったんだ。【1965年】

 ・ぼくは、皆と同じでありたいとも、好かれたいとも思わない。

 ・それでも仲間かと言われ、どういう意味かと考えた。それは、演奏した曲に対してじゃない。

 ・ブーイングは素敵だ。逆に、やさしさが人を殺す場合がある

 ・なぜ超現実的な曲を書くのか。他のパフォーマーだって答えてはいない。だが、マスコミは質問をやめない。

 ・ある時からぼくに対して歪んだ見方をする人が出てきた。

 ・どんなレッテルを貼られてもかまわない。歌うためなら。

 ・状況が厳しくなった。休養しようかという気にもなった。攻撃されれば、誰だってうんざりする。

 ◇1966年マンチェスター公演にて
 客:Judas!
 ディラン:I don’t believe you!
 客:Liar!
 ♪LIKE A ROLLING STONEの演奏が始まる……。

 1966年7月29日 ボブ・ディラン、バイク事故を起こす。
 事故の後もボブ・ディランは曲を作り、レコーディングをした。
 しかし、ツアーは8年後まで行なわなかった。

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 ◆オリジナルHP(英語)
 http://www.pbs.org/wnet/americanmasters/dylan/index.html
 当初は、マーティン・スコセッシ監督の20分にも及ぶインタビュー映像もあったようですが、残念ながら今は観られません。

 ◆この映画について。
 この映画は、PBS製作の“American Masters”というシリーズ(数多くのアメリカの偉人を90分程度にまとめたドキュメンタリーのシリーズ)の1本(TV映画)。クリント・イーストウッドやゴア・ヴィダルなど、現役の著名人を取り上げている回もありますが、やはり故人を取り上げることが多いようです。
 実は、このシリーズは、日本でも何本か劇場公開されています。
 ・『ハーレム135丁目/ジェームズ・ボールドウィン抄』(1989年 監督=カレン・トーセン) 1992年日本公開 配給=パンドラ
 ・『プレストン・スタージェス☆アメリカン・ドリーマー』(1989年 監督=ケン・パウザー)1994年日本公開 配給=プレノンアッシュ
 ・『リチャード・アヴェドン:闇と光』(1996年 監督=ヘレン・ホイットニー) 1996年日本公開。ユーロスペースのアート・ドキュメンタリー映画祭’96で上映された1本。

 “American Masters”のリストは、こちら(http://www.pbs.org/wnet/americanmasters/database/index.html)

 ◆関連作品
 ・『ドント・ルック・バック』(1967年 監督=P・A・ペネベイカー)
 1965年のディランのイギリス・ツアーを追ったドキュメンタリー。
 「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」の歌詞が書かれたカードを曲に合わせて1枚ずつ落としていくシーンがとても印象的。ティム・ロビンスの初監督作品『ボブ・ロバーツ』(1992)は、『ドント・ルック・バック』をベースにした風刺劇と言ってもいいくらいの作品で、直接的な引用とわかるシーンも多い。『ボブ・ロバーツ』は上院議員選挙を題材にしていた作品でしたが、その1年後、本作の監督P・A・ペネベイカーが『クリントンを大統領にした男』を撮ったというのも奇妙な因縁を思わせて面白い。
 『ドント・ルック・バック』は、1992年にケイブルホーグ配給で日本初公開(@吉祥寺バウスシアター)。ROCK MOVIES SPECIALという特集上映の1本で、他の上映作品は、『ハーダー・ゼイ・カム』『ザ・グレイトフル・デッド・ムーヴィー』『フィルモア・最后のコンサート』『さらば青春の光』『ボーダー・レディオ』『モア/ピンク・フロイド』。
 『ドント・ルック・バック』は2003年11月にビデオアーツ・ミュージックからDVDとして発売。劇場版より4分長い(未公開シーンを含む)100分バージョン。現在は生産されていませんが、探せばまだ見つかるかも。

 ・『ラスト・ワルツ』(1978年 監督=マーティン・スコセッシ)
 ボブ・ディランのバック・バンドも務めたザ・バンドの解散コンサートを写したドキュメンタリー。ザ・バンドは、その後、再結成もされましたが、オリジナル・メンバーでの演奏はこれが最後。ボブ・ディランも出演していて“FOREVER YOUNG”と“BABY LET ME FOLLOW YOU DOWN”を歌っている。
 マーティン・スコセッシは、本作ではインタビュアーも務めている(『フィール・ライク・ゴーイング・ホーム』(2003)を観てもわかるけれど、スコセッシの音楽ドキュメンタリーに関する方法論(構成法)は30年近い歳月の中で変わってきたのかもしれません)。
 日本公開は1988年。配給はギャガ・コミュニケーションズ。
 当時の劇場パンフに記事を寄せているのは、ピーター・バラカン(『ノー・ディレクション・ホーム』の劇場パンフにも!)、高間賢治、山川真人、川本三郎、北中正和(最後の2人の記事は「ニューミュージック・マガジン」誌に掲載されたものの再録)。
 
 そのほか、ボブ・ディランと映画との関係については、コフィ葉月さんのサイト「Dig-Ru」(http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Stage/7045/screen-5.htm)がとても参考になります。

 ◆訳者
 誰が翻訳するかというのは映画字幕において物凄く重要だと思うんですが、せいぜいで字幕翻訳者の名前がクレジットされる程度(クレジットすらされない場合も多い)。劇場パンフでも翻訳者のプロフィールが書かれていることは稀です。
 本作の映画の字幕翻訳を担当されているのは、菅野ヘッケルという方(日本語版制作・著作はNHK)。以下に挙げる数々のボブ・ディラン本の著・訳者なのでした。

 菅野ヘッケル著『ボブ・ディランの血の轍 ロック神話』(住宅新報社, 1978.2)
 クリントン・ヘイリン著『ボブ・ディラン大百科』(CBS・ソニー出版, 1990.4)
 リチャード・ウィリアムズ著『ボブ・ディラン果てしなき旅』(大栄出版, 1993.3)
 ジョン・ボールディ著『ボブ・ディラン/指名手配』(シンコー・ミュージック, 1993.4)
 クリス・ウィリアムズ著『ボブ・ディラン イン・ヒズ・オウン・ワーズ』(キネマ旬報社, 1994.2)
 ハワード・スーンズ著『ダウン・ザ・ハイウェイ ボブ・ディランの生涯』(河出書房新社, 2002.12)
 ボブ・ディラン著『ボブ・ディラン自伝』(ソフトバンクパブリッシング, 2005.7)

 本作のボブ・ディラン訳詩は、中川五郎。

 ◆サウンドトラック
 本作のサウンドトラックは、第48回グラミー賞のCategory 80 - Best Compilation Soundtrack Album For Motion Picture, Television Or Other Visual Mediaに、『ビヨンド・ザ・シー』などと共にノミネートされていましたが、落選。受賞したのは『Ray』でした(http://www.grammy.com/GRAMMY_Awards/Annual_Show/48_nominees.aspx#22)

 Yahoo!MUSICで全27曲すべて視聴できます(http://music.yahoo.com/release/23187292?ev=25023071)。残念ながら30秒ずつなので、いいところで終わってしまうのですが……。サントラが欲しくなってしまいます。

 ◆感想を少しだけ
 ・本作は、ボブ・ディランがマスコミにもファンにもどんどんうんざりしてきてしまい、バイク事故を契機にツアー活動を停止してしまうところで終わっていますが、これは、ウディ・アレンが『僕のニューヨークライフ』でニューヨークを去り、ヴィム・ヴェンダースが『アメリカ、家族のいる風景』を最後にアメリカを離れたというのと、何か暗合を感じます。
 ディランのは1966年の心情で、アレンとヴェンダースのは現在のアメリカに対する失望(あるいは、もういいやという感情?)なので、関係はないはずですが、ひょっとすると、『ノー・ディレクション・ホーム』のディランにはスコセッシ自身のうんざり感が反映されているのかもしれません。そういえば、『アビエイター』のハワード・ヒューズと(本作の)ディランはどこか似ているところがあるという気もします。

 ・ボブ・ディランがTVでジョーン・バエズを見て、自分のパートナーとなるかもしれないと思ったっていうエピソードは、ジョニー・キャッシュが素人時代にラジオでジューン・カーターを聴き(『ウォーク・ザ・ライン』)、『ロード・オブ・ウォー』の主人公が憧れのモデルと結ばれたいと願い、最終的に自分の妻とすることができた、というのを思い出させます。憧れのスターを自分の恋人や妻にするっていうのは、夢の中の夢ですが、ごく稀にそうした人がいるんですよね~。

 ・全然音楽には疎い私なので、全く見当違いかもしれないんですが、本作で描かれるボブ・ディランには、忌野清志郎と重なるところがあるという気がしました。清志郎も自分のやりたいことをやっているだけなのに政治的、社会的なタブーに触れてしまったりすること、ザ・ゴールデン・カップス等の先行する(一見違うジャンルとも見える)ミュージシャンへのリスペクトを隠さないこと、どこかに少年性をたたえているところ、独特の声やユニークな詩の世界……。
 ちなみに清志郎の方がちょうど10歳年下です。

 ・本作には、アレン・ギンズバーグも出てきて、けっこう何度もコメントが挿入されるのですが、彼もそうであるように、ディランもまた「生き延びてしまった者」であるように感じました。あの時代のど真ん中を生きて、パッと咲いて、パッと散った人って多いですもんね。ミュージシャン、アーティスト、ビートニクの作家たち、政治家、活動家、……。
 ディランもまた生き急いでいる気がしましたし、一方で、バイク事故という形で一回死んだのかも、とも思いますね。
 「もう降りるよ。変な迷信も信じてるし。
 素晴らしい人が音楽に死んでいった。ハンク・ウィリアムズ、バディ・ホリー、オーティス・レディング、ジャニス、ジミー・ヘンドリックス、エルビス、……。そんな人生は不可能だ」(『ラスト・ワルツ』より((注)ディランの台詞ではありません)) 

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 ボブ・ディラン自伝

この記事へのコメント

2006年03月14日 00:37
はじめまして。TB頂きまして、ありがとうござました。此方からもお返ししたのですが・・・反映されてないようなのでお知らせします。
それにしても、あれだけの長い時間・数多くの人々の作中でのコメントをよくぞ覚えてらっしゃると、感服致しました。
最後に書かれている台詞は、ロビー・ロバートソンのものですね。『ラストワルツ』を締めくくる「一つの時代の終わり」を象徴する印象深い言葉です(そういう私も後追いファンですが・・・)
2006年03月15日 11:59
TBありがとうございました&こちらからもTBさせていただきます。
鋭い分析力、とても参考になりました。
また寄らせていただきますね!
2006年03月15日 15:36
TBありがとうございます。読み直してみてまた映画のことを思い出しました。今後もまた寄らせていただきます、では!
2006年04月27日 20:15
今週この映画を観まして、検索にてこちらを拝見させて頂きました。TB認証ありがとうございました。非常に参考になりました。ディラン語録本当に素晴らしいですね。DVD発売までココ観て回想させて頂きます。(笑)
umikarahajimaru
2006年04月28日 01:33
moeraeさま
コメント、ならびにTBありがとうございました。そちらの記事も読ませていただきましたが、やはりファンの方の記事は濃さが違いますね~。
『ノー・ディレクション・ホーム』のDVDの発売が決まったみたいですね。音楽ドキュメンタリーということで、6000円以上はするかと戦々恐々としていたんですが、5000円以下で入手できるみたいなので、安心しました。NHKで放映済みということも関係あるのかもしれませんが。楽しみに待ちたいと思います。
2006年04月29日 08:23
前回名前欄入れ間違い失礼しました。DVD私も楽しみです。
私の感想文などお恥ずかしい限りですが、興奮冷めなくてこちらを何度も読ませて頂いてます。涙した理由が”とびっきりの「青春映画」だった”からだったんだ!とスッキリした次第です。
では、また、トリビアも見に来ます。(笑)
2007年03月11日 22:24
umikarahajimaru様
TB有り難うございました.このblogの充実した情報に感激いたしました.
でもこの映画,出来の割に世の中では知られていないのが,残念ですね.
umikarahajimaru
2007年03月12日 20:21
ほんやら堂さま
TB&コメントありがとうございました。
>でもこの映画,出来の割に世の中では知られていないのが,残念ですね
いや~、けっこう、知られてると思いますよ~。劇場公開は、ミニシアターでしたが、わりと長いこと上映してましたし。
ただ、やっぱり、情報の広まり方が偏っていたので、ボブ・ディラン・ファンや音楽映画ファン以上の広がりは持てなかった、ということはあるかもしれませんね。
そういう映画(観てみると面白いのに、とっかかりがなくてなかなか観てもらえない映画)ってけっこうあるんですが、当ブログではわりとそういう映画を積極的に取り上げるようにしているので、よかったら探してみてください(笑)。
2008年05月08日 11:39
こんにちは、お久しぶりにお邪魔します。
『アイム・ノット・ゼア』の公開(まだ観れてませんが)で、このドキュメンタリーもまた注目されるかもしれませんね。
3時間半、DVD二枚組みというボリュームでしたが、一気に見せてしまう力のある作品でした。
確かに、当時を知らなくてもディランのファンでなくても、引き込まれるものがありました。
ディランの礼賛一辺倒でなく、記録映像やライヴ映像とのバランスがとてもよかったです。
若い頃のディランの美しさには驚きましたね。ケイトのキャスティングにも納得です。
ではでは、失礼します。
umikarahajimaru
2008年05月08日 19:34
真紅さま
こちらこそお久しぶりです。
『アイム・ノット・ゼア』は、コンセプトは面白かったのですが、それ以上ではなかったですかね。ベン・ウィショーとマーカス・カール・フランクリンのパートは面白かったのですが、あとはちょっと……でした。やっぱり本物の持つパワーには負けてしまうんですね。

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  • 【映画】ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム

    Excerpt: 『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』(2005年・監督:マーティン・スコセッシ) 『ラスト・ワルツ』『シャイン・ア・ライト』などの名作群によって、音楽ドキュメンタ Weblog: 【@らんだむレビューなう!】 Multi Culture Review Blog racked: 2011-01-20 23:03