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zoom RSS 高倉健がため息をつき、舌打ちする映画。『単騎、千里を走る。』

<<   作成日時 : 2006/03/05 19:38   >>

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 東光徳間→解散
 ドラゴンフィルム→倒産
 ムービーテレビジョン→配給事業からの撤退、および体制&社名変更

 冒頭からいきなりネガティブな話もどうかと思うんですが、中国映画を手がけてきた配給会社・映画会社の運命って、どれもこれも悲惨なことになっています。

 中国映画を手がけたことが原因でこうなったのかどうかはわかりませんが、中国人と組んでビジネスするのは大変だというのは確かなことのようで、実際そういう話をよく耳にします。

画像

 チャン・イーモウ監督の最新作『単騎、千里を走る。』は、監督自身が高倉健と組んで映画を作りたいと希望し、何年もかけて、何度もシナリオを練り上げて作られた念願の作品だということ(ということは、公式には、チャン・イーモウ主導で進められた映画だということ)です。しかし、私には、それにも拘らず、「中国人と組んで、何かするのは本当に大変だ」、という日本側の思いがそのまま表われた映画である、と思えて仕方がありませんでした。映画の内容も、映画の出来も。

 物語は、
 子どもとの心の交流を描いたという意味で『あの子を探して』の作品世界に近く、
 親と子の物語として『初恋のきた道』に通じるものがあり、
 中国の官僚制の中で右往左往する主人公という意味で『秋菊の物語』に似ていて、
 チャン・イーモウらしさが、そこここに見られる作品(まさにチャン・イーモウ印満載の映画)なんですが、「チャン・イーモウっぽい」ばかりで、細部を見ても、全体を見ても、どうにも、ギクシャク感がぬぐえません。
 日本での撮影パートは、降旗康男監督ら日本人スタッフが担当したということですが、映画のタッチが中国パートと比べて全く異質なのも作品にギクシャク感を与える理由かもしれません(舞台挨拶の写真撮影の時、チャン・イーモウ監督が真ん中ではなく、降旗康男が真ん中で、チャン・イーモウ監督は左端というのもどうも解せません。単にチャン・イーモウ監督が日本人スタッフに敬意を表しただけかもしれませんが)。

 劇場パンフでは、声だけの出演である中井貴一のプロフィールがしっかり書かれているのにも拘らず、(素人俳優であるにせよ)中国人キャストに関して、一切触れてないのも、どうなんだろうかと思ってしまいます。

 ◆フィルモグラフィー
 チャン・イーモウ監督のフィルモグラフィーを眺めると――

 第1期 1987年までの撮影監督時代

 第2期 1987年に『紅いコーリャン』で衝撃的な監督デビューをしてから、1995年に『上海ルージュ』でコン・リーとのパートナーシップを解消するまでの「コン・リー」時代(『上海ルージュ』を配給したKUZUIエンタープライズも配給事業から撤退してしまいました)。

 第3期 『あの子を探して』『初恋のきた道』『至福のとき』という新境地の開拓期(1999〜2002年。この時期からハリウッド・メジャーが配給を手がけるようになる)。

 第4期 『HERO』『LOVERS』という、壮麗なスペクタクル・アクションを手がけた時期(2002〜2004年)。

 という4つの時期の分けられると思うのですが、過渡期に、『ハイジャック/台湾海峡緊急指令』(1988年製作のB級サスペンス・ドラマ)とか『キープ・クール』(1997年製作のドタバタ喜劇)とか、その場の思いつきみたいな、チャン・イーモウらしからぬヘンなものを時々作ってしまうことがあります。『単騎、千里を走る。』もそうした位置づけの作品ということになってしまうのでしょうか。まあ、監督作が全部傑作でなくてはいけないなんてことはないし、そんな完璧な映画監督もいないんですが。

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 ◆字幕
 『単騎、千里を走る。』の字幕翻訳として、クレジットされているのは、張景生という人です。どうやらロケに高倉健の通訳として同行された方のようですが、字幕翻訳を手がけるのは恐らく初めてではないかと思われます。

 この映画では、高倉健が中国語を一切解さないという設定で、それゆえ物語上「通訳」が重要な意味を持ってきますが、映画の中で、せっかく通訳が日本語で説明しようとしているところで、「意味としては同じだけれど、全く同じではない日本語字幕」をかぶせて、観客を混乱させるようなことをしています。
 “ロスト・イン・トランスレーション”している高倉健と同じ気分を味わわせるために、日本語字幕を一切なしにするという手もあったかと思いますが、少なくとも通訳が訳しているシーンで日本語字幕は必要ないのではないかと思います。
 また、本作では、「単騎、千里を走る。」という仮面劇が大きな意味を持っていて、実は、これがメインのストーリーと重なるらしいのですが、実際に「単騎、千里を走る。」が演じられている部分の台詞には字幕がついていません。だから、事前に何も知らずに観た観客には、「単騎、千里を走る。」がどういう物語であるのかは、さっぱりわかりません。
 不要なところに字幕がつき、必要なところに字幕がつかない。
 東宝が、外国映画を手がけるのは『GODZILLA』(1998)以来で、日本語字幕に対するビジョンを持っていないとはいえ、劇場公開に至るまで、こうしたことを指摘する人が誰もいなかったということは、理解に苦しみます。

 ちなみに、『三国志』の「千里走単騎」のエピソードに関しては、例えば、Cutty Sarkさんのブログ(http://www.brainsellers.com/cuttysark/2006/02/post_251.html)が非常に参考になりますし、有料ですが、BROBAで中国中央電視台の制作したドラマ「三国志」のその部分(http://bb.goo.ne.jp/special/broba_st/contents/200601P30028/)をWeb上で観ることができます。

 張景生という人は、映画『延安の娘』に「取材」としてクレジットされている3人のうちの1人ですが、そういえば『延安の娘』と本作も似たところがあると言えば、うがちすぎでしょうか。

 ◆キャスト
 本作は、中国人と言って考えた時に思い浮かぶ典型的なタイプばかりで構成されているように思われました。

 @礼儀正しくて、人なつっこく、人情に篤いタイプ〜リー・ジャーミンや李家村の村長

 A融通が利かなくて、権力に弱い官僚タイプ(ひどく体面を気にかける一方で、情にほだされることもある)〜役人

 B何でも自信ありげにホイホイ引き受けてしまうわりには要領を得ず、言うべき時に言うべきことを言わないタイプ〜チュー・リン

 C職業訓練を受けていて、ある程度の能力や技術もあり、合理的な判断で行動するタイプ(若い世代に多い)〜ジャン・ウェン

 ヤン・ヤン少年が成長したあかつきになるのは、……@かBでしょうか?(笑)

 中国人キャストは、素人俳優ばかりらしいのですが、女性通訳を演じたジャン・ウェンさんに関してだけは情報があります。
 彼女は、北京電影学院の卒業生(チャン・イーモウの後輩)で、現在、実際も通訳として活躍中だそうです。
 2005年にチンタオで開催された映画関係のコンベンションで、原田眞人監督の通訳についたそうです。ジャンさんのこと、及び原田監督の『単騎、千里を走る。』についてのレビューは、原田さんのサイト「HARADA FREAKS」の2005年10月31日付けの“DIARY”で読むことができます(http://www.haradafilms.com/)。←相変わらず、感情に流されることなく、冷静に映画を考察していてとても素晴らしい!

 ちなみに、4月15日から劇場公開される中国映画『緑茶』のチラシには、キャストとして、「ジャン・ウェン(『鬼が来た!』『単騎、千里を走る。』)」とありますが、これは間違いです。カタカナ表記では同じになることもありますが、本作のジャン・ウェンは女性、『緑茶』のジャン・ウェン(『紅いコーリャン』の主役)は男性(一般的表記は「チアン・ウェン」)です。

 ◆その他のメモ
 ・主人公の息子が入院している病院は、新宿中央病院。

 ・本作の法律関係を担当したのは、映画館シネマヴェーラの運営もなさっている弁護士の内藤篤さん(『呪怨』や『Shall we ダンス?』のリメイク関係の契約や『キル・ビル』に出演した日本人の出演契約などを手がける)。

 ・主人公の息子が在籍していた東大東方芸術研究所というのは実在しないらしい。

 ・主人公が住んでいる漁村は男鹿半島にある(少なくともロケ地としては)。

 ・エンドロールによれば、この作品にも横浜フィルムコミッションが関わっている。主人公の郷里のシーンではないし、息子の入院している病院でもないとすれば、あとは葬儀が行なわれることになっている家しかない。あの家が横浜にあって、この映画の撮影のために提供された、ということだろうか。

 ・チャン・イーモウ監督の次回作は、“The City of Golden Armor”。チョウ・ユンファとコン・リー、ジェイ・チョウの出演が決まっていて、劇作家、曹愚の『雷雨』からインスパイアされた作品のようです。

 ちなみに、私が観た平日7時の回は、私を含めて観客が3人だけでした。公開から1ヶ月近く経っているとはいえ、あまりにも寂しい……。

  [キャッチ・コピーで選ぶアジア映画 2006年1月〜3月]

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
上記の評論を見て、習った中国語の諺を一つ思い出したーーまさに「鶏卵里挑骨頭」。直訳:探せば、卵の中からでも骨が見つかる。ただ単なるあら捜しだな。映画の評論家らしくない。
フリーター
2006/08/07 00:33
・チャン・イーモウ監督の次回作が、劇作家、曹愚の『雷雨』からインスパイアされた作品のとは楽しみです。
ちなみに「曹愚」ではなく「曹禺」ですね。
雷雨
2008/07/20 23:26
当時の中国社会を忠実に描き、個人的にはすごく良い映画だと思います。張景生さんは『単騎、千里を走る。』のあとにNHKスペーシャルドキュメンタリーの「激流中国」のプロデュサーを務めて、農民工問題について非常に良い作品を作っていました。主さんの評論は言葉遣いから内容までただの中国人に対する偏見の塊にすぎないと思います。もっと心の余裕をもって映画鑑賞をしましょうね
ジャーナリスト
2011/07/23 16:45

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