いずこの国も同じ 映画『ひとすじの温もり』

画像 映画『ひとすじの温もり』は、ゴダール作品を除けば、日本では上映されることが非常に稀になっているスイス映画です。
 アラン・タネールも新作を発表し続けているようなのですが、日本にはさっぱり入ってきませんし、ダニエル・シュミットも5年以上ご無沙汰です。ロカルノ国際映画祭という国際的に有名な映画祭もあるのですが……(ちなみに、2005年の東京フィルメックスでは、1920年代~40年代のスイス映画6本が上映されました)。

 『ひとすじの温もり』は、劇場パンフも制作されず、記録にも残りにくい作品のようなので(たぶんDVDとしてリリースされることもないと思われます)、なんとか当ブログで記録しておきたいと思います。

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 【物語】
 ベッドの中で目を開けているエルヴィン。どうやら悩み事があって眠れない様子。隣には妻が眠っている……。

 エルヴィンの会社。エルヴィンは社長のハンスと話をする。
 会社が合併し、エルヴィンの部署が統合され、エルヴィンはリストラされることになったらしい。
 「あんな若造の下でうまくいくはずがない。2年以内につぶれるぞ」と新社長のことをけなしてみても話にはならない。「もっと早いかもしれない」とハンス。
 「こんなことが法律で許されるはずがない」と言えば、「有給を含めれば大丈夫なんだ」とハンス。エルヴィンとハンスは長い付き合いだが、話はもうどうしようもないところまで進んでいる。

 妻のカトゥリンは、どうもメンタル的に落ち着かず、不安神経症ではないかと思うが、医者に診てもらっても、異状はないと言われる。
 オレンジ色のベストを着、横断歩道の誘導をして、家計を支えているが、その仕事もどうも落ち着かない。もう少しで車に轢かれそうになって、この仕事が恐くなり、やめたいとボスに漏らす。ボスは、落ち着いてやれば大丈夫だと励ましてくれる。ふっと、彼がキスしかけてくるが、驚いて体を遠ざける。

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 娘のリーザは、絵が得意で服飾デザインの道に進みたいと思っているが、学校も親も親身になって聞いてくれようとはしない。学校の授業をさぼって、バイト先のアイスクリーム屋に向かう。

 エルヴィンがリストラされたことを知らないカトゥリンは、家の新築計画に夢中になる。
 そろそろちゃんとした契約を結ばなければならない時点に来ているが、エルヴィンは失業中であると言えず、もう2~3日考えたいと返事をする。

 エルヴィンは、職業安定所に相談に行くが、勧められた職場はかなり遠い。もっと遠いところに通っている人もいるし、給料か通勤時間かどちらかを選ばなければならないと担当者に言われるが、納得できず、それなら自分で探すと言って、席を立つ。

 失業中であることを言えないまま、エルヴィンは新しい家の契約書にサインしてしまう。

 新聞で求人を探し、面接を受けるエルヴィン。あなたの長所は何ですか?短所は?あなたがなぜこの仕事に適任だと言えるのか?……。
 わざわざホテル(ウィークリー・マンションのようなところ?)を借りて、そこを連絡先にするが、履歴書が送り返されてくるばかり。
 バーで酒を口にしていると、中高年の男性に声をかけられる。「こんな時間にもうお仕事はお済みですか?」 エルヴィンは、「いえ、休憩中なんです」というが、相手には見抜かれていて、「失業中なんでしょう?私も何度も経験がありますよ。でも、こうしてなんとかやっていますよ」と自分の経験を話して聞かせてくれる。

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 新居の建築が進んでいて、エルヴィンは銀行とちゃんとした話をしなければならなくなる。カトゥリンが、度々修正を加えているので、支払い額が増えている。
 「昇給されると聞いていたので、ご融資したのですが、昇給されたのでしょうか?費用が嵩んでいますし、お支払い金額が増えることになりますが、大丈夫ですか?」

 リーザはバイト先の同僚に好意を持ち、家に呼んで話をする。いい雰囲気になるが、彼はリーザの母が家にいることを知り、恐くて逃げ出してしまう。リーザは彼に失望してしまう。
 リスト・カットをするリーザ。

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 エルヴィンは、父に、「いつどんなことが起きるかわからないし、父の貯金を我々夫婦が管理することにしたらいいと思うがどうだろう」と相談してみるが、「私の金を盗むつもりか」と追い返される。

 リーザのバイト先の同僚は、リーザの家から逃げてしまったことを謝るが、職場での喫煙をボスから注意されて、怒ってバイトを辞めてしまう。

 エルヴィンは、面接予定の会社に電話し、私以外にも候補がいるのかと聞いてみる。候補は自分だけだと知り、もう就職できたも同然と思い込み、バーで知り合った男性にもそう話し、祝杯を上げる。
 その日は家に帰っても機嫌がよく、いつもと同じものを食べてもいつもよりうまいと感じられる。
 翌日、面接を受けに行くと、面接官は、「私はあなたの能力を買うが、もっと若い候補もいる」と、採用が厳しいことを口にする。

 ショックを受けたエルヴィンは父に会いに行って、失業中であることを自分の中のやりきれない気持ちと怒りとともにぶちまける。予想もしていなかったことを聞かされて、父もショックを受ける。急に老け込んだようでもあり、ぼけたように、ブツブツつぶやくのみで、今後どうすればいいのかアドバイスしてくれることもない。

 リーザは、自分のデザイン画や作った服を持って教師に相談に行くが、まともに取り合ってもらえない。逆に、お父さんの会社に就職させてもらえることになっていたのではないかと言われてしまう。
 リーザは父が勤めていた会社に行き、そこでもう父が働いていないことを知る。

 カトゥリンは、不安感からか仕事先のボスと寝てしまう。

 心の中にやましさを抱えるカトゥリンは、帰ってきたリーザに小言を言う。「そんなことだと父さんの会社に入れてもらえなくなるわよ」。リーザは、怒って、何も知らないくせに、と父がリストラされたことを母に仄めかす発言をする。
 驚いたカトゥリンは、慌てて受話器を取り上げる……。

 帰ってきたエルヴィンに、今度はカトゥリンが激しい憤りをぶちまける。「私が知らないとでも思ってるの!……」。
 唐突に秘密がバレてしまったことに衝撃を隠しきれず、エルヴィンは車で家を飛び出す。

 動揺したエルヴィンは事故を起こし、病院に運ばれてしまう。
 病院にかけつけるカトゥリンとリーザ。傷だらけの夫にすがりつく母を見て、やりきれない思いにとらわれたリーザは1人、病院を後にする。

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 鑑賞中、特にメモを取ることもしなかったので、出来事が前後している箇所もあるかもしれませんが、ストーリーの流れは大体、上のような感じになると思います。

 仮面家族、もしくは家庭崩壊を描いた作品で、『アメリカン・ビューティー』や『空中庭園』『疾走』などと同じジャンルに属する作品ということになるでしょうか。いずこの国も同じ問題を抱えているということですね。
 ちなみに、『疾走』のSABU監督は1964年生まれ、『空中庭園』の豊田利晃監督は1969年生まれ、本作のベティナ・オベルリは1972年生まれ。

 ・スイスでは、就職の際、フランス語を話すのか、ドイツ語を話すのかがポイントになるらしい。
 ・横断歩道の誘導が仕事として成立しているらしい。
 ・スイスでもリストラが進んでいるらしい。そして中高年の再就職はやはり大変らしい。
 ・リスト・カットは全世界的に行なわれているらしい。
 ……

 まあ、いろいろ興味深い点もありましたが、可能であれば、もっと今のスイスを切り取ったような、現代のスイス人が抱えている諸問題を盛り込んだ作品になっていたらもっとよかったのに、というのが私の感想です。

◆監督 ベティナ・オベルリ
 
 1972年、インターラーケン生まれ。
 1995-2000年に HGKZ (Hochschule für Gestaltung und Kunst Zürich)(チューリヒ教育芸術大学?)の映画ビデオ学科で学ぶ。在学中より短編映画を制作し、『ひとすじの温もり』が長編デビュー作となる。
 2005年の第15回シュヴェリン映画芸術フェスティバルで、『ひとすじの温もり』で監督賞受賞。
 ちなみにベティナ・オベルリは女性監督です。女性だと思って思い返せば、エルヴィンのやりきれなさよりも、監督の気持ちは、カトゥリンの漠然とした不安やリーザのフラストレーションの方がリアル感を以って感じられたような気もします。

 1995年 “Zap!”<短編>
 1995年 “Oskar W. aus M.”<アニメーション>
 1995年 “Die Bombe”<短編>
 1996年 “Früh-Stück” <アニメーション>
 1997年 “ Diver”<実験映画>
 1997年 “ Die Blechtrommel”<実験映画>
 1998年 “Klara & Alfred”<ドキュメンタリー>
 1998年 “ Die Schuld”<短編>
 1999年 “Sommerbriefe”<短編>
 2000年 “Supernova”<短編>
 2002年 “Ibiza”<短編>
 2004年 ひとすじの温もり 本作
 2006年 “Die Herbstzeitlosen” 第2長編

 ◆キャスト

 ・アンドレ・ユング(エルヴィン・グラフ役)
 俳優歴20年以上となるベテラン。スイスをはじめ、ポルトガル、ルクセンブルグなど、インタナショナルな活躍をしている。ルクセンブルグのAndy Bausch監督と組むことが多い。その他の作品に、アレクサンダー・クルーゲ(『秋のドイツ』)の“Vermischte Nachrichten”など。

 ・ジュディトゥ・ホフマン(カトゥリン・グラフ役)
 1968年スイス生まれ。TVを中心に活躍している。

 ・アイコ・シュー(リーザ・シュー役)

 ・ペーター・アレンス(エルヴィンの父)
 1928年ドイツ生まれ。西ドイツ~ドイツで、TVを中心に活躍している。

 ・ジャン・ピエール・コルニュ(ハンス社長)
 ドイツ、スイス、フランスなどで活躍。TV作品も多い。

 ・コルジン・グラウデンズ(ラファエル)

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 この作品は、また、渋谷シネマ・アンジェリカで上映される、はじめての新作長編映画でもありました。

 この作品がどういう経緯でシネマ・アンジェリカで上映されることになったのか……。事前の宣伝も全くされていないようだし、気になっていたのですが、去年の大阪ヨーロッパ映画祭で上映された作品なんだそうです。な~んだ、最初から日本語字幕つきのプリントがあったので、ただ持ってくるだけで上映することができたと、そういうことなんですね。

 私が観た回は、平日の最終回でしたが、観客は私を含めてたった2人でした。
 映画は、どこで上映されようと基本的には同じはずですが、やっぱり劇場サイドの意欲が感じられないとね~。映画にとってもかわいそうじゃないですか!

 <2004年/スイス/95分> 言語はスイス系ドイツ語。日本語字幕は寺尾次郎。

 スイス映画に関する情報は、例えば、ここ(http://www.swissworld.org/jpn/swissworld.html?siteSect=605&sid=5119786&rubricId=14050)やここ「swissinfo」(http://www.swissinfo.org/sja/swissinfo.html?siteSect=2350)にあります。

 [キャッチ・コピーで選ぶヨーロッパ・その他の地域の映画 2006年1月~3月]

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この記事へのコメント

2006年03月05日 19:37
この作品、現代の日本で生活している多くの人に観てもらうべき映画、といってもいいほどなのに、本当に配給側や劇場側の熱意が感じられませんねぇ。。
アタシなんて公開開始の週末に行ったのに、10人いませんでしたね。もったいない!

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