回答編 アン・リー監督への12の質問

画像 アン・リー監督来日記者会見についてのレポート記事がぼつぼつ出始めています。

 例えば――
CINEMA TOPICS ONLINE(http://www.cinematopics.com/cinema/c_report/index3.php?number=1800)

 CINEMA COMIN’ SOON(http://www.cs-tv.net/mt/000209.html#more)

 この2つだけでも、同じ記者会見から起こした記事と思えないくらい違いますね。
 後者は、記者会見をほぼ丸起こしした感じですが、前者はかなり加工が施されています。
 アン・リーの回答自体も前者はかなり端折ってある感じがしますね。

 一般的にこうした記者会見に対するマスコミ媒体の対応は以下の通りです。
 ① こういう映画があり、その映画の監督やキャストが来日して記者会見を行なったことを示すのが目的の記事で、その中に印象的な発言がいくつか引用されるもの(新聞や雑誌のニュース記事)。取材はテープ・レコーダーではなく、主にメモによって行われる。
 ② 取材はテープ・レコーダーに録音し、通訳さんの翻訳をほぼ生かしつつ、Q&A形式で、記者会見内容を起こす(制限字数以内で)。
 ③ 通訳さんの翻訳を見直し、言い回しについても手直しを加えた上で、質問や回答も取捨選択しつつ、書かれた記事。
 ④ 書き手によるレポートの度合いが強く、何を伝えたいのかを明確に意識しつつ、地の文章の中に会見内容を落とし込んで書かれた記事。
 ⑤ Q&A方式か、レポート方式かはともかく、通訳さんの翻訳ではなく、話し手の発言をもう一度正確に翻訳し直して、記事に生かしたもの。

 通訳さんの翻訳が、間違っている場合は問題外としても、すばやく翻訳しなければならないため、ちゃんとした文章になっていなかったりすることも往々にしてあります。もちろん話し手の回答自体が、ちゃんとした文章になっていないこともありますし、質問と回答が噛み合っていないこともあります。さらに通訳さんの翻訳口調という問題もありますから、それらを手直しして文章にすると、「様々な記者会見記事」ができてくることになります。

 以前、当ブログで書いた「アン・リー監督への12の質問」が、当日の記者会見でなされたかどうか、これまでにレポートされた複数の記事から「本当のアン・リー監督の回答」を想像しつつ、再構成し、その回答編を作ってみました。

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 1.『ブロ-クバック・マウンテン』が高く評価されていることについて、率直な感想を聞かせてください。また、それは何故だと思いますか?

 AL アメリカでは、こういう人間性を描いた感情移入できる映画、人生の複雑さを描いた作品に飢えていたんだと思います。世界情勢が不安定な中で、これまでのハリウッド映画とは違い、ゆっくりとしたペースで、しかもはっきりとは答えを示さない映画というのが待ち望まれていたのではないでしょうか。だから『ブロークバック・マウンテン』がここまで大勢の人に見てもらえているのだと思います。
 こんな小さな作品がここまで大きく育つとは思わなかったので、とても嬉しく思っています。人生は不思議だし、映画というものも不思議だし、こうして観客の皆さんとめぐり合えることもとても不思議だと思います。賞を獲るとか、獲らないとはとかには、関係なく、長く、より沢山の人にこの作品を見て欲しいですね。

 2-1.『ブロークバック・マウンテン』を称して「ホモのカウボーイ映画」という言われ方をされたりしていますが、そのことについてどう思いますか?

 AL 本作では確かに同性愛を描いています。でも、一般的な映画づくりのシステムから外れたところで作られる、いわゆる「ゲイ映画」ではありません。「ゲイ・カウボーイ」という呼び方もされがちですが、映画を観ていただければ、そうではないことはわかると思います。確かに同性愛であり、カウボーイでもあるのですが。アメリカでイメージされるパロディーとしての「ゲイ・ウエスタン」とも違います。ゲイのコミュニティーからは、『ブロークバック・マウンテン』はとてもゲイとは呼べないと言われています(笑)。誰もが気に入るような映画は、ゲイではなく、ストレートなんだそうです(笑)。
 私としては、この物語をラブ・ストーリーと呼ぶのが最も相応しいと思います。この映画がラブ・ストーリーであることは確かです。愛については、本当は誰も理解できていないからこそ、様々な角度からアプローチすることができるわけです。愛なんて幻想だという言い方もできるかもしれませんが、愛が謎めいているからこそ、ラブ・ストーリーも成立するわけです。

 2-2.また、そういう視点から上映禁止になっている地域もあるそうですが、そのことについて、どう思いますか?

 AL上映禁止や右翼からのクレームなど、もっと悪い事態を想像していたので、たいしたことなかったなと驚いています(笑)。実は、上映禁止になったのはユタ州の1館だけなんです。マスコミは騒動が起こるのを待っていたようなところもあったので、結果的にものすごく大きなニュースになってしまいました。
 ただ、心配なのは、アメリカの男性が、この映画をラブ・ストーリーではなく、ジョン・ウェイン やマルボロマンが出てくるような西部劇と同一視してしまうことです。それだけはやめてほしい。それから、どうしても言っておきたいのは、実生活においては私自身の主張があり発言もしますが、この映画は、自分の主張を入れたいと思って作ったわけではないということです。((注)つまり、アン・リー監督自身はゲイではないし、特にゲイにシンパシーを感じているからこの作品を作ったのではないということ)

 4-1.『ハルク』の興行的失敗の後で、それでもアメリカにとどまって、映画監督を続けようと思ったのは何故ですか?

 AL この作品の前に大作を2つ撮り、非常に疲れて、気分も沈んでいました。引退しようか、休養しようか、とさえ考えていたくらいです。その時、この映画の原作となったアニー・ブルーの短編小説を思い出し、落ち込んだ気分を抜け出すためにも、この映画を撮ろうと決めたのです。

 4-2.次の作品として『ブロークバック・マウンテン』を選んだのは何故ですか?

 AL 原作を読んで、ゲイとか、ストレートだとかに関係なく、純粋なラブ・ストーリーとして感動的で、胸が苦しくなるほどでした。ワイオミングの農場で働く男たちというのは、私のこれまでの人生とはかけ離れた世界でしたが、是非映画化したいと思ったんですね。様々な要素が入っているところにも魅力的だし、謎めいてわかりづらい部分、人間のあり方に触れている部分も新鮮に思えました。2人の主人公に何が起きたのかはっきりはわかりません。喧嘩別れした2人が、最終的に20年かけて最初の場所に戻ろうとして、ついに愛に気づく、という物語は、とても男性的なラブ・ストーリーだと思います。短いけれど壮大な物語に言葉は少なく、雄大な自然の中で2人の男性の親密な関係が描かれています。だからこそ、魅力があり、映画化するには苦労もしました。

 5.1993年の映画『ウェディング・バンケット』でもあなたは同性愛を扱っていました。監督の中では『ウェディング・バンケット』と『ブロークバック・マウンテン』はどういう位置づけにあるのでしょうか?

 AL 12年前の 『ウェディング・バンケット』 では、オープンな国であるアメリカを舞台に、台湾人であるゲイのカップルが両親にそのことを隠すという設定でしたが、現在の台湾はアメリカ以上に早いペースでオープンになってきています。
 今回の『ブロークバック・マウンテン』 は、台湾ではPGですが、アメリカではRという厳しいレイティングになっています。今では、アジアの観客の方がアメリカの観客よりもリラックスして観るんじゃないかという気がしますね。現在、『ブロ-クバック・マウンテン』を台湾で公開して5日目くらいですが、とても熱狂的に迎えられています。アジアの他の国々についてはよくわかりませんが、香港の観客にはちょっとスローテンポすぎると感じられるかもしれません。中国にはレイティング・システムがない代わりに、検閲があって、どう判断されるかわかりません。日本と韓国ではまだ公開されていませんが、日本に関してはゲイ・コミュニティーやOLの皆さんにも観ていただきたいと思っています(笑)。

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 そのほかにされた質問(私が予想した12の質問以外のもの)は――
 ・キャストに対してどんな演出方法を取ったのか
 ・主役の2人のどんなところに惹かれたのか
 ・ミシェル・ウィリアムズとアン・ハサウェイという2人の女優について
 ・ゲイがテーマの作品としてアジアの方が受け入れやすいと思うか(この質問に対する回答は上では別の形で使ってあります)
 ・アカデミー賞に有力視されているが、アカデミー賞についてどう思うか

 これらについての回答に関しては、各レポートを参照してください。

 記者会見で実際になされた質問は7つのようで、1時間の記者会見のわりには、かなり手際よい質疑応答がなされたようです。

 私が挙げて、今回の記者会見では回答が得られなかった質問に関しては、個別のインタビュー記事で回答が得られるかどうか、楽しみに待ちたいと思います。

 なお、今後、記者会見記事が出るのではないかと予想されるwebサイトは、例えば、以下のようなものがあります。

 ・MSN-Mainichi INTARACTIVE 竹芝シネコン(http://www.mainichi-msn.co.jp/entertainment/cinema/
 ・Webstyle FUN!FUN!MOVIE(http://www.webstyle.ne.jp/movie/
 ・PauseBLOG(http://cine-pause.cocolog-nifty.com/pauseblog/

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