字幕翻訳家になるには?

画像 字幕翻訳家になるにはどうしたらいいのか。そういう質問をいただきましたので、今日は、それについてお答えしたいと思います。

 わかりやすく言うと、プロとして映像翻訳で仕事するために必要なものは2つあります(吹替版の翻訳も含むので、ここでは「字幕翻訳」ではなく、「映像翻訳」とします)。
 それは、語学力はもちろんですが、①映像翻訳に関するノウハウを身につけることと、②映像翻訳の仕事を得るためのルートを確保することです。どちらが欠けても、プロとしてはやっていけません。
 映像翻訳のノウハウに関しては、本や教材も売られているし、専門誌でコンテストをやっていたりするので、それで勉強することもできますが、そういうもので映像翻訳の知識や技術を身につけたとしても、全く実践経験がない新人に、作品の命でもある翻訳を任せてみようというクライアントはいません。決して安くはない作品の翻訳を、翻訳能力が未知の新人に翻訳させてみるというリスクは誰も負いたがらないというわけです。
 実践のチャンスを与えてもらえなくては、そもそも経験が積めないではないかと、話自体が矛盾しているように見えますが、プロとしての仕事をしたことのない人がどんなに実力があるんだと映画会社の人に訴えてみてもどうにもならないんですね。パソコンを使って、自分が翻訳して字幕を入れたビデオを作り、映画会社に持ち込むツワモノもいるそうですが、そこまでやっても、まず映像翻訳家の道は開けません。

 では、どういう方法があるのか?

 それについて答える前に、映像翻訳についての歴史をちょっとだけおさらいしておくと、多数の映像翻訳家が求められた時期は、日本ではこれまで2度ありました。
 一度目は80年代半ばのビデオ時代の勃興期で、映画館で公開される映画以外にも大量のビデオにも字幕をつけなければならなくなったため、それまでに活躍していた翻訳家だけでは、需要に供給が追いつかなくなった、というわけです。この時にデビューした翻訳家が、今、第一線で活躍している翻訳家で、映画館で上映されるような字幕翻訳を数多く手がける10人ほどの方たちです。
 二度目は90年代前半のBS・CSがスタートした時期です。この時も早急に大量の翻訳家が求められることになりました。ただし、この前後にデビューした翻訳家の中には、当初こそ多くの仕事があったものの、継続的に発注が続かなかったために、挫折してしまった人も多いと聞きます。
 この一度目の供給期から二度目の供給期、そして二度目の供給期以降に、映像翻訳家の供給は組織化されていくことになります。すなわち、映像翻訳の学校で翻訳家志望の人にノウハウを教え、そこから翻訳家をすくい上げるというシステムができあがった、というわけです。

 一番わかりやすい例が東北新社です。この、日本語版制作の老舗である東北新社が作った翻訳学校が映像テクノアカデミアで、ここで学んだ卒業生は(場合によっては在学中から)、講師などを通じて、段階を追って、仕事の紹介を受けていくことになります。
 映像テクノアカデミアに限らず、映像翻訳の学校では、現役のプロが講師であることがほとんどですから、実際の現場を知るプロ(または学校)を通じて、新人に「ノウハウ」と「ルート」がもたらされていくことになります。

 翻訳学校に通わずに映像翻訳家になる方法として、直接、字幕制作会社でノウハウを学ぶというやり方もあります。
 字幕翻訳家の菊地浩司さんが代表を務めるACクリエイトでは、そうしたやり方でこれまでに多数の翻訳家を輩出してきました。マスコミの取材やプロフィールなどで紹介されていますから、実名を出してもかまわないと思いますが、ACクリエイトの出身者には、石田泰子さんや林完治さん、税田春介さんなどたくさんの翻訳家がいます。
 こうした制作会社は、随時人材を募集していますから、そこの「トライアル」に合格すれば、スタッフとして迎えられ、そこで修行を積むことで、翻訳家への道が開かれることになります。

 映像翻訳の学校にはどんなものがあるか、制作会社にはどんなものがあるかは、アルクやバベル・プレス、イカロス出版などの刊行物にリストとして掲載されていますから、それらを参考にすればいいと思います(書店の語学雑誌のコーナー(NHKの語学テキストがあるあたり)にあるので探してみてください)。比較的新しいものとしては、去年4月に刊行された『映像翻訳完全ガイドブック』〔イカロス出版)があります。

 現在活躍中の映像翻訳家のプロフィールを見ると、翻訳学校に行く、制作会社に入る、という2つの方法以外に、映像翻訳家になるには、実はもう1つの道があることがわかります。それは、つまり現役翻訳家のうち、かつて映画会社に勤めていた人が非常に多いということです。元々映像翻訳がやりたいと思って、映画会社に就職したのかどうかはわかりませんが、作品を担当して、納品された字幕翻訳をチェックするうち、字幕翻訳のノウハウを身につけ、そのうち自ら翻訳するというチャンスに恵まれた(そしてのちに映像翻訳家のプロとして独立した)、ということなのかもしれません。
 清水馨さん、寺尾次郎さん、松岡葉子さん、齋藤敦子さんなどがこういうキャリアを経てきているようです。
 ただし、映画会社に入ること自体狭き門なので、映像翻訳家になるという目標を達成するために映画会社を志望するとすればかなり遠回りになります。映画会社に入っても、映像翻訳家になれるとも限りませんし。かつてユーロペースで宣伝を担当していた大西公子さんは、映像翻訳家になるために、いったんユーロスペースを辞めて、映画美学校に入学し、イチから映像翻訳の勉強をされたそうです。映画美学校は映画祭などとのつながりが強く、ここの出身者には、映画祭での上映作品の字幕からキャリアをスタートさせるケースが多いようです。(大西さんについての記事は例えばここ(http://www.eiken.or.jp/eikentimes/eigobito/0301.html)にあります)。

 以上、これまで書いてきたことは、実は、ほとんどの場合、英語からの翻訳についてのものです。
 プロの翻訳家になるための道が開けている(コンスタントに需要があって、それだけで食べていける)のも英語(とフランス語)くらいだからですね。他の言語の映画の場合でも、英語版台本から翻訳するケースが多いので、まずは英語から翻訳するやり方を学ぶのがよいと思われます。英語以外の翻訳もできるということになれば、翻訳家としての大きな“ウリ”にもなります。

 現在、英語やフランス語以外の言語(例えば、中国語とか韓国語とか)の翻訳者は、既成のルートをたどらずに、字幕翻訳の手ほどきを受けて、その道のプロになっていった人がほとんどです。クライアント側のやむにやまれぬ事情から、その言語に通じた人にイチから字幕翻訳のノウハウを教え、頼んで翻訳をやってもらううち、作品を通じてその人の仕事を知った他のクライアントも同じ人に翻訳の依頼をするようになった、ということですね。

 冒頭で、実践経験のない人がいくら売り込んでみても映像翻訳家にはなれないと書きましたが、もし英語やフランス語以外の言語の映像翻訳を手がけたいということであれば、そうした言語の作品を多く手がける映画会社やメーカーに売り込んでみる、というのも手かもしれません。クライアント側もそういう人を探していたりしますから。

 先に挙げた『映像翻訳完全ガイドブック』には、現在プロとして活躍している方がどのようにして、映像翻訳家になることができたのか、インタビューが掲載されていたりするので、それも参考になると思います。

 こんなところで質問に対する答えになったでしょうか。
 なお、当ブログの記事(http://umikarahajimaru.at.webry.info/200510/article_22.html)も参考になるかもしれません。

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