すご~く評判がよいようなので…… 映画『狼少女』

画像 すご~く評判がいいようなので観てきました、映画『狼少女』。

 感想はというと、よく言われているような「郷愁をそそる作品」、ではなかったですね。1970年代を忠実に再現しているというわけでもありませんし(せいぜいでゲイラ・カイトが出てくるくらい)、自分の子ども時代を思わせて懐かしい感じがするというのでもありませんでした。

 もっとていねいに作られた作品に比べると、実に「ケチのつけどころのある」映画なんですが、それでもこの映画が「よかった」と思えるのは――

 ・大人から見て、子どもならこう考えるだろうな、という視点ではなく、子どもの目の高さで子どもたちの世界が描かれていること(これって結構難しいことなんです。子どもが主人公の映画で傑作とされているものはこの部分をクリアしている作品が多いですね)。

 ・映画の中の子どもたちが、物語(時代設定)の中でちゃんと呼吸していること(過去の設定なのに、現代の空気を持ち込んでしまっている映画って割とありますよね)。

 ・男の子と女の子が恋愛感情なしに話ができるぎりぎりの年代の話であること。

 こんなところでしょうか。

 あんまり映画自体を説明してしまうつもりもないので、映画『狼少女』に近づくためのいくつかのポイントを提示してみたいと思います。この映画には劇場パンフは作られていなくて、マスコミ試写で配られるプレス・シートが売られているだけでしたから。

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 【監督】
 深川栄洋(ふかがわとよひろ)
 1976年、千葉県生まれ。東京ビジュアルアーツ卒。
 ・『全力ボンバイエ!』(97/30分) 東京ビジュアルアーツ卒業制作。1999年下北沢トリウッドにてオープニング作品として上映。第2回京都学生映画祭入選。第2回水戸短編映像祭水戸市長賞受賞
 ・『ジャイアントナキムシ』(99/55分) ニューシネマワークショップにて制作。PFFアワード入選。
 ・『自転車とハイヒール』(00/60分) PFFアワード入選。第2回TAMA NEW WAVEフィルム部門グランプリ&主演男優賞。2002年BOX東中野にてゴールデンウィークにレイトショー公開。
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 ・「OPEN TIMER’S」(第1話「ラヴイボ」)(01/12分 V)
 ・「私が幸せでいるということ」(第1話「ラストダンスが踊れない」第2話「始まりの終わり」第3話「だって、だって、だってなんだもん」)(02 TV) フジテレビショートショートグランプリ大会準グランプリ&撮影賞受賞。
 ・『紀雄の部屋』(03/57分 V) 2002年の函館港イルミナシオン映画祭・シナリオ大賞短編部門の準グランプリ受賞作品「自転少年」の映画化(脚本=一法師誠)。2004年2月下北沢トリウッドにて公開。
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 ・「自転少年」(04/23分 V) 2004年10月テアトル池袋にてレイトショー公開。
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 ・『狼少女』(05/106分)  2002年の函館港イルミナシオン映画祭・シナリオ大賞長編部門グランプリ受賞作品「狼少女」の映画化。2005年12月3日~テアトル新宿にてレイトショー公開。

 *私はこの監督の作品は『狼少女』が初めてでしたが、これまで結構観る機会があったんですね。
 どうも子ども(といってもティーン)の世界を描いた作品が多いようです。だから子どもを演出するのが得意なのでしょうか。

 【函館港イルミナシオン映画祭
 毎年12月に函館山山頂クレモナホールを会場として開催されている映画祭。
 すべてボランティアで運営されているそうで、映画祭担当ディレクターはあがた森魚。
 1995年に函館山ロープウェイ映画祭としてスタート。
 1998年、現在の名称に改称。
 1996年からシナリオを公募して、映画化への道を開く「シナリオ大賞」をスタートさせる。
 2000年 シナリオ大賞準グランプリ作品『パコダテ人』(監督・前田哲、主演・宮崎あおい)映画化。
 2001年 シナリオ大賞グランプリ作品『オー・ド・ヴィー』(監督・篠原哲雄、主演・岸谷五朗)映画化。
 2002年 シナリオ大賞短編部門受賞作「RUN‐ing」(監督・大滝純)「巡査と夏服」(監督・斉藤玲子)「自転少年」(監督・深川栄洋)映画化。長編部門グランプリ『狼少女』映画化(実は短編版と長編版があります)。

 *1995年にスタートしながら2005年で第12回を迎えたと公式サイトにありますが、1回分計算が合いません。なんででしょう?
 *2005年はシナリオ大賞該当作はなし。

 【もう1本の映画『狼少女』】
 実は同じシナリオから映画化された32分の短編版『狼少女~Day After Tomorrow~』という作品が存在します。制作が長編版と同じバサラ・ピクチャーズで、プロデューサーも同じ石原真と陶山明美(長編版は制作がバサラ・ピクチャーズとオメガ・プロジェクト)。
 監督がPENICILINのベーシストであるGISHOこと大滝純(第2回監督作品)。2004年11月4日・5日にテアトル池袋でプレミア上映され、2004年の函館港イルミナシオン映画祭でも上映されています。

 【シナリオ】
 荒俣宏さんがシナリオ大賞の審査員の1人だったらしく、荒俣さんの仕事をチェックしているサイトである「2002年11月のヒロシです」に「一九七〇年代の小道具が多く出てきて、その時代に思い入れのある人に懐かしく、若い人にショッキングな作品」と荒俣さんが審査員評を述べたことが書かれています(すいません、孫引きです)。
 サイト「日本映画トピックス」に審査結果発表の記事があります。

 【大見全】
 映画『狼少女』の元になったシナリオの原作者。長編版の方には共同脚本としても参加。東京都出身ということ以外、一切どこにも情報がありません。プロフィールなり何なりの情報がどこかに掲載されていてもいいと思うのですが。原作者に敬意を払ってないのかな?

 【昭和】
 『ALWAYS 三丁目の夕日』ほど昭和の再現に力を注いでいるという感じもしませんが、ピーター・ジャクソン版『キング・コング』が「まだ恐竜の存在が信じられた最後の時代である1933年」という時代設定にした、のと同じように、『狼少女』も「見世物小屋の見世物がまだ本物かもしれないと信じられた1970年代半ば」という設定にした、と言えるかもしれません。

 【転校生】
 都会からやってきた女の転校生と地元の男の子、時代設定、女の子のかかえる秘密、女の子がやってきてそして去るという物語の流れ、といった点で、2月4日からシャンテ シネにて公開される韓国映画『僕が9歳だったころ』によく似ています。女の子のキャラクターは全然違いますが。『僕が9歳だったころ』のキャッチ・コピーは「あのころのあなたに会いに行こう」です。『僕が9歳だったころ』の女の子のルックスが『狼少女』に出てくる‘山口さん’にちょっと似ている気がしました。

 【水街道フィルム・コミッション】
 映画『狼少女』は水街道フィルム・コミッションの協力を経て、製作されたそうです。
近年よく、この「フィルム・コミッション」という言葉を目にするのですが、水街道は、1977年の映画『野菊の墓』から盛んにロケ地に採用され、映画やテレビドラマの製作に協力してきた歴史があるそうです。最近の作品をざっと挙げてみると――
 『竜馬の妻とその夫と愛人』(02)
 『ピンポン』(02)
 「TRICK3」(02)
 『座頭市』(03)
 『HAZAN』(03)
 「武蔵」(03)
 「蝉しぐれ」(03)
 『下妻物語』(04)
 「スカイハイ」(04)
 「特捜戦隊デカレンジャー」(04~05)
 『着信アリ2』(05)
 『真夜中の弥次さん喜多さん』(05)
 「仮面ライダー響」(05)

 *必ずしもすべて水海道フィルム・コミッションが協力した作品がどうかは定かではないのですが、少なくともロケ地として採用されたことは確かで、「江戸時代から変わらない風景」を残し、いわゆる「どこにでもありそうな日本の田舎」を提供できて、しかも東京から手頃な距離にあるのが水海道である、ということは言えそうです。

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 率直な感想としては、よくも悪くも、東映児童映画のプログラムの1本として(『ズッコケ三人組』みたいな感じで)上映されるのが相応しい作品なんじゃないかというものでした。だから、いい映画だとは思いますが、そんなに誉めすぎるのも、ちょっとね……。逆に、そういう意味で、同じキャストで続編が作られてもいいんじゃないか、とも思いますが。

 というわけで、続編に向けて、苦言を少々(こういったことがあっても作品全体としては好評価しているということなんですが)。

 ・秀子の母がどういう人間なのかがわからない。貧しくて娘のかっこうにまで気がまわらないにしても、秀子の姿はあまりにもひどすぎます。鬼母であればまだしも、手塚里美であれば、秀子をあんな姿で学校に行かせるとは思えません。秀子が野生児であるとしてももっと別のやり方で表現することができたはずでしょう。

 ・2つのミス・ディレクションがうまく成功(機能)しているようには思えない。
 特に、明が両親に離婚の危機にあると信じて悩んでいるという風には、明の表情からは読み取れません。

 ・物語の舞台となった70年代後半から80年代の初めという時代において、見世物小屋で各地を移動するのに合わせて、子どもの転校を繰り返させる親がいる、そういうことが社会的に堂々とまかり通る、というのはちょっと考えられません。

 ・見世物小屋の呼び込みは、咽が嗄れている、もしくは、独特の節回しを持っているのが普通でしょう。

 ・手編みの才能が認められて、編み物教室の先生になったはずの母が編んだマフラーはどうみても機械編みで作ったものでした(まあ、機械編みも教えていたということであれば構わないのですが)。

 ・森の中に子どもの手で深い落とし穴を掘ることはまず無理。森の地面は木の根が縦横に走っているはずなので。

 等々……。

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 監督のブログはこちら→ジャンピング・ニー深川栄洋のふらいんぐ日記(http://blogs.yahoo.co.jp/junp_ni/)。「観てください」って繰り返すばかりじゃなくて、映画を楽しむためのネタやエピソード、苦労話、キャストの紹介、こぼれ話、なんかを披露すべきだと思うんですけれどもね、監督!

 フジテレビで「めざましテレビの軽部さんが誉めてた」っていうのが、この映画のヒットに大きく貢献しているようです。「男おばさん特盛!」(http://www.fujitv.co.jp/cs/oto-oba/)に軽部真一・笠井信輔両アナのコメントが掲載されています。

 満足度平均ランキング@映画生活(http://www.eigaseikatu.com/rave0.html)でもずっと上位にランク・インしています。ここでは投票者のストレートな映画評が読めます。

 テアトル新宿での上映は1月20日まで。

 [キャッチ・コピーで選ぶ2006年お正月映画]

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この記事へのコメント

2006年01月13日 20:40
TB、ありがとうございました。
こどもの目の高さで作られているところは
本当によかったと思います。
監督の実直さが画面から伝わってきました。
2006年01月13日 23:28
TBありがとうございます。
理屈ではなく涙腺がただ無条件に反応してしまった作品でした。
自分が観に行ったとき、観客の客層が幅広く、年配の方も多くいらしてたのが印象的でした。
2012年08月03日 18:16
はじめまして。古い記事にコメント、失礼します。今ごろDVDを見てこちらにたどり着いたのですが、鋭い分析に感銘を受けて、つい書き込んでしまいました。ご指摘のマフラーや落とし穴などは全く気づきませんでした。。しかし惜しい作品ですね。自分も大筋では楽しんだんですが、そういった瑕疵が目に付いてしまい佳品どまりという印象です。脚本のブラッシュアップ不足なのか演出の問題なのか。ただ、マイナス面をカバーする魅力を持った作家だと思うので深川監督には今後も期待しています。長文失礼しました。
umikarahajimaru
2012年08月03日 19:42
hogaholicさま
コメントありがとうございました。
深川栄洋監督は、今や、すっかり売れっ子で、評価の高い作品を連発している監督さんですが、今から思えば、この作品の評判のよさが、彼の背中を後押したというようなこともあるかもしれません。
『白夜行』での子供の演出の手腕は、この頃から培ってきたものだと言ってもいいでしょうか。
hogaholic
2012年08月03日 21:41
早速ありがとうございます。深川監督は「半分の月がのぼる空」が一番好きです。たしかに子供や若者の演出がいいですよね。大作になると、若さからか有名俳優に遠慮してるような笑 ではこれからも更新楽しみにしています。

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