ヒロシです。阿部寛です。

 邦画を熱心に観ている映画ファンの中で、「阿部寛ってなかなかいいんじゃないか」と彼が映画役者としての評価を上げたのは、まず間違いなく1994年のことで、映画『凶銃ルガーP08』や『大阪極道戦争・しのいだれ』が劇場公開された頃でした。それは、それらの作品で、「誰でもいい誰かの役」をたまたま阿部寛がやっているのではなく、彼がその役にユニークな存在感を与え、しかもそれが作品全体にプラスに働いていると感じさせられたからで、作品そのものの評価を別にしても、「俳優・阿部寛」を強く印象づけるものでした。
 そういう評価が一観客である私だけのものでも、評論家筋によるものでもなく(実際にこの年、阿部寛はいろんな賞を受賞しているわけですが)、彼自身の心境(覚悟と決意)の変化と一致していたんだ、と知ったのは、彼の本『アベちゃんの悲劇』(文庫版『アベちゃんの喜劇』)に、その頃のことが赤裸々に語られていたからでした。

 1993年当時、阿部寛は、女優とのスキャンダルに巻き込まれ、CMも減り、購入したばかりのマンションのローンだけが残っていて、しかも雑誌の「あの人は今」というコーナーへの取材依頼までが来るという、ショッキングな出来事も多くて、精神的に打ちのめされている時期で、今後の人生をどうすべきか日々苦悩していた頃でした。
 そんな彼が、自分の将来というものを考えるのに、俳優としての目標を持てばいいんだということに気づいて、だとすれば、それは高倉健しかいない、高倉健の芝居を間近で見たいと考え、端役でもいいからと言って、高倉健の出演しているドラマに参加させてもらいにいった、というのはいいエピソードですね。
 その直後、親友である加藤雅也が持ってきたVシネマ『凶銃ルガーP08』に出演のチャンスを得て(作品としての出来がよかったので、劇場公開作に昇格)、役者としての新境地を開き、結果として私のような映画ファンにも好評価を得たというのが、1994年・阿部寛躍進の真相のようです。

 『アベちゃんの喜劇』は、微笑ましいエピソード満載で、へえ、阿部寛ってこんな人だったのかって思うことしきり。アベちゃん語録というか、その一部を書き出してみたいと思います。
 
 中学生の時も僕は陸上部だったが、それ以後県大会などで選手がスタートラインに並ぶと、すね毛の濃さで相手の実力を判断していた。濃いヤツは速い!

 (新聞配達のアルバイトで)いつもの3時に起きて新聞販売店に行くと、友達がタフマンを持ってきていて僕に「飲めよ」とくれた。滋養強壮剤とはこれほどまでにきくものかと驚くほど、普段2時間15分かかるところを、1時間半で配り終えてしまった。それ以来22年間、僕はタフマンを信じている。

 (ファーストフード店で真夜中のメンテナンス員のアルバイトをした時のこと)毎回、汗だく、油まみれで電車に1時間も揺られて帰る。何か得することはないか、何かいいことはないか考えた。
 そうだ、どうせたったひとりだし、地下2階で3時間に1回、警備員が見回りに来るだけだ。当時は監視カメラもない時代。厨房の中でシンクを洗っている時に思いついた。「風呂に入ろう」。
 このシンクいっぱいにお湯をためて、シンクを洗うと同時に汗も流そうと。ちょうど皿の油をとばすための強力なシャワーも都合よくついている。
 それから毎日、大きなシンクいっぱいにお湯をため、石鹸で汗や油を流し、シャンプーし、リンスもし、バスタオルで身体をふき、まるで温泉気分だ。下着を替えてすっきりとして開店を待ったものだ。あ~気持ち良かった。

 最近凝っているのは、十穀米だ。
 あるテレビ局の楽屋に、叶姉妹が読んでいた雑誌が残されていて、何気なく手にとってみると、十穀米が身体にいいというようなことが書いてあった。
 これだ!と思ったね。

 アイロン掛けも得意だ。
 モデル時代からいつも自分でやっていたからプロはだし。あれは力がいるからどちらかといえば男がやった方がピシッといく。
 Yシャツは結構時間がかかるので急ぐ時は見えるところ、襟と袖口だけ掛けて後はシワシワのままを着ていく。そしてその日はどんなに暑くても、人の家に行っても上着は脱がない。いや脱げない。

 斉藤久志監督の『フレンチドレッシング』という映画で二人の若い新人と共演した。
 ひとりは芝居の経験はないけどオーディションで抜擢されたモデルの櫻田宗久君。もうひとりは自主映画の主役を何本か演ったことのある唯野未歩子さん。その二人に監督が望んだのは「台詞は全部替わってもいいから芝居はしないでくれ」ということだった。
 最初の日、僕はリハーサルをやっているところにポッと入って行った。しばらく見てたが、こいつらすげえな……と思った。
 芝居を一切しなくて、ただ普通にいて普通に会話しているように見える。それがほんとに自然なんだ。それでいて存在感は十分ある。映画のセットという作り物を超越している。圧倒されたね。

 『HIRO』で共演した木村拓哉くん。彼と一緒に仕事ができたのも大きな収穫だった。
 終始オーラがあったし、役に対する集中力は半端じゃない。周囲への気づかいもある。
 現場はいつも活気にあふれ、これが当代随一のスターが持つパワーなのか、とすばらしい体験をさせてもらった。

 僕はこれからもマニアックな俳優でいいと思っている。自分の中で成立していればいいと思っている。
 自分が自分に対して一番厳しいから、人が「いいじゃないか」と言ってくれるよりも、自分の中で納得していればそれでいい。
 自信過剰か?むしろ逆だ!自信なんて全くといっていいほどない。

 『アベちゃんの喜劇』は、阿部寛が、これまでの人生を振り返って書いた本で、こんなことまで書いていいのっていうくらい、開けっぴろげで、ざっくばらんな感じで書かれた本です。気軽にすらすら読めて、しかも、その謙虚な姿勢や語り口、率直さには好印象を受けますね。ちょっと読んでみたくなりませんか?(集英社be文庫)

 阿部寛の今年の仕事は、
 まず、1月に博多座で蜷川幸雄演出の『近松心中物語~それは恋』に出演。
 映画では、『鉄人28号』『ハサミ男』『姑獲鳥の夏』、11月19日公開の『奇談』に出演し、来年は『北斗の拳 ラオウ伝 殉愛の章』(ケンシロウの声を担当)、『トリック劇場版2』が公開予定。
 テレビでは、大河ドラマ「義経」で平知盛役、フジテレビ・金曜エンタ「空中ブランコ」、NHKドラマ「生き残れ」、7月には24時間テレビのスペシャル・ドラマ「小さな運転手 最後の夢」があり、「ドラゴン桜」がスタート。そして今月は、13日(今日!)にテレビ朝日系で「トリック新作スペシャル」、24日にフジテレビ系で「瀬戸内寂聴物語」、28日にはTBS系月曜ミステリー劇場「父が来た道」に出演予定。
 働いてますねえ。しかも各テレビ局とのつきあい方(バランス)も非常にいい。これまでのプロフィールを見ても、今が一番ノリに乗っていて、充実している感じ!厄年でこれだから、これからもっと大きな華を咲かせるような気もしますね。

 ちなみに『奇談』での役は、異端の考古学者役で、「トリック」や『姑獲鳥の夏』の延長線上にあるものでした(主人公や観客を導き、謎を解く役)。
 『奇談』は原作が諸星大二郎で、映画の中で何度も地震が起こるんですが、ロケ地が、あの新潟中越地震で被災地になったところのすぐ目と鼻の先だったとのこと(柳ユーレイさんのサイトより)。ちょっと日本ばなれした感じのするロケーションが多く、それがとても印象的で、特異な雰囲気をうまく醸し出しているように感じられました。

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アベちゃんの喜劇

この記事へのコメント

千秋
2009年06月02日 16:36
阿部寛さいこうですハート5(矢がささっている)
今放送している白い春と再放送のアンティークみのがせません

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