映画のオープニングの楽しみ方

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 ファースト・シーン、ファースト・カット等、いろんな言い方があるけれど、とにかく映画がどんな映像から始まるのか、ということについて考えてみたいと思います。

 映画の物語世界は、観客にとって全く未知の世界のはずで、その物語世界と観客の日常との距離感をどうやって縮めるか、というのがその物語世界を伝える側の最初のポイントであり、それが映画のオープニングの役割となります。
 そのやり方としては、単純には2通りあります。①ゆっくりと段階を追って、その物語世界を知らしめていくか、②有無を言わさず、そこに観客を突き落とすか

 もっと細かく見ていくと、
 ①a.言葉によって、これから始まる物語がどんな物語であるとか、どういう主人公を取り巻く状況がどういうものか、説明字幕で説明してしまうもの(映像は全くない場合もあれば、説明に対応する映像が重ねられていく場合もある)。
 b.物語の場所や時代、状況設定、主な登場人物などを示す映像を物語の導入パートとして使うもの(物語の舞台の紹介)。
 c.主人公がどんな人物かをさりげなく示すようなエピソードから始めるもの(物語のキャラクターの紹介)。
 d.語り手、もしくは新参者が登場し、その人物の視点で、未知の物語世界を説明していくもの。

 ②a.いきなり衝撃的な映像(事件、エピソード、イメージ等)を示して、観客の注意を引きつけてしまうケース。
 b.謎や物語の発端となるものを示して、観客にこれから始まる物語のモチベーションを与えるもの。
 c.ある程度物語が進んだ時点の映像を見せて、どうしてそういうことになったのかと観客にそれまでに起こったことへ興味を煽るもの。

 その他のバリエーションとして、
 ③a.ヒッチコック作品や007のシリーズ、『キャッチ・ミー イフ・ユー・キャン』などのように、アニメーション等の独立したオープニング・タイトル(ソール・バスが有名)を使って、これから始まる物語の世界をさりげなく示すもの。
 b.主人公もしくは語り手のモノローグで、物語世界に導くもの。
 c.映像なしで、音だけを先行させて、まず耳から観客の注意を引きつけるもの。
 d.冒頭に、(内容に関連していると思われる)誰か有名な人の言葉を置くというケース。
 e.本編以前に、ワーナー・ブラザース映画、20世紀フォックス映画、コロンビア映画等の映画会社のロゴに、その作品に相応しいビジュアル・エフェクトが加えられるケース(その時点から既に作品が始まっている)。
 などもあります。

 もちろん、これらが必ずしも独立して使われるわけではなく、いくつか前後に組み合わせて使われることがあるのは言うまでもありません。また、音楽を効果的に使うことも物語世界への誘導をスムーズにします。
 オープニングのシーンの中に、さりげなく伏線や暗示が仕掛けてあったり、オープニングとエンディングが何らかの形でリンクしている場合もあります。その作品を、繰り返し見たり、頭の中で何度も反芻することによって、オープニングに仕掛けられているものがいろいろ見えてきたりするのは面白いですね(作品によってはオープニングに専門のデザイナーがついたりもします)。

 それぞれのケースを1つ1つ例を挙げて示してみたいのですが、長くなってしまうので、それは別の機会に譲ることにして、ここではユニークな例を示したいと思います。
 作品は、クリストファー・ノーラン監督の『インソムニア』(02)。
 『インソムニア』のオープニングは次の通りです。(上写真参照 左上から右下へ展開)
 白地(少々グレーがかっている)に黒でメイン・クレジットのいくつかがぼおっと現れては消えていく。バックには少し不安な感じのするBGMが流れる。
 (顕微鏡で見たような)生地の表面が赤く染まっていき、その上にタイトルが載る。
(後で氷河とわかることになる)薄汚れた青白い起伏の連なりの上をカメラがなめていく。
白い生地のアップが赤く染まっていく。この間もずっとクレジットは続いていく。
氷河の上を低空から空撮していく。
血が白いシャツの袖にしたたり落ちる。
血が滲んだシャツの袖を必死にこする指。
こすっている男がいる暗い部屋の中。
軽い衝撃音があって、アル・パチーノの両目を横からとらえた映像。
氷河の上を飛ぶ飛行機。ここではじめて飛行機のプロペラ音が聞こえる。
殺人事件の被害者らしい白黒の人物写真がいくつか手に持たれている。
機中でぼおっとした表情のアル・パチーノ。となりの座席にはマーティン・ドノヴァンがいて、「殺人課に内務調査」を報じる新聞を開いている。

 ちょっと不吉で不安な感じをさせるオープニングです。
主人公であるアル・パチーノが飛行機の中にいることが示され、観客は彼と一緒にこれから始まる物語世界に連れて行かれるというわけですが、それに先立つイメージ映像はとても意味深ですね(①-bから①-dへ)。「これは何?」と思って興味を引きつけるという効果(②-b)もあるし、ここでいくつかの謎とキーワードを同時に提示していたりもします。この部分を全く無視して物語に入っていくこともできますが、冒頭のイメージ映像は何だったのだろうと頭の片隅に置いておくと、あとで、なるほどそういう意味があったのかとわかって、より作品を楽しむことができますね。
 構成とその効果に対してかなり意識的なクリストファー・ノーランならではの凝ったオープニングではなかったでしょうか。
 ちなみに、この部分(MAIN TITLE SEQUENCE DESIGN)を手がけたのは、DAN PERRIという人で、『未知との遭遇』などのタイトル・デザインも手がけているベテランです。

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    Excerpt: 007中国共産党に「日本解放第二期工作要綱」外部リンク追加日本解放第二期工作要綱.wikilis{font-size:10px;color:#666666;}Wikipediaより引用- Articl.. Weblog: 映画の缶詰 racked: 2005-10-03 13:28