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イルカの調教師で、かつては、テレビ・ドラマ『わんぱくフリッパー』に出演もしたことがあるリチャード・オバリーは、イルカが、ストレスにより自分の腕の中で息を引き取ったのを見て(これをオバリーはイルカの自殺だという)、これまで自分のやってきたことに疑問を感じ、これからはイルカを救うことに人生を捧げようと決める。 そのために具体的に何をするのかというと、夜中に水族館などに侵入して、ショーのために飼われているイルカを勝手に逃がしたりするもので、そのために、彼は何度も逮捕されたりするが、懲りることがなく、むしろそれを自分の勲章のように思っている。 そんなオバリーが次のターゲットに定めたのは、和歌山県太地町だった……。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 私が映画『ザ・コーヴ』を観たのは、東京国際映画祭だったので、もう4ヶ月も前のことになりますが、映画賞シーズンもクライマックスを迎え、何か、ヘンな騒がれ方をしているようにも見えるので、ここで一度だけこの映画について整理しておきたいと思います。 映画『ザ・コーヴ』で語られていることは、わかりやすく言うと、主に、次の6つの事柄です。 1.和歌山県太地町は、表向きは「イルカの町」を謳っているが、実際は、年間23000頭ものイルカを捕獲し、殺している、「イルカ殺しの町」である。 2.イルカを捕獲する方法は、イルカが超音波に敏感なことを利用したもので、漁船からイルカの嫌がる超音波を出し、それでイルカを追い詰めていって、逃げられないようにしてつかまえている。 3.そのイルカを1000万円以上の高額で世界中の水族館に売って商売している。 4.そのほかのイルカは、食肉用にして売っている。 5.食肉用のイルカは、一部は「鯨の肉」と虚偽の表示をしてスーパーなどに売りに出している。 6.食物連鎖の結果として、イルカの体内には濃度の高い水銀が蓄積されているので、それを食することは人体に危険を及ぼす。 それぞれの事柄に対する主張は― 1.―イルカを愛する町を装いながら、その実、こっそりイルカを殺している、というのは許せない。 2.―とても賢い動物であるイルカをそういう風なやり方で苦しめるのは許せない。 3.―イルカ・ショー自体もイルカにストレスを与えるものであるから望ましくない。 5.―虚偽表記はいけない。 6.―人体に有害なものを食品として売るのはもちろんいけない。 というようなもので、そういう論点で和歌山県太地町を告発しているわけです。 これだけ見ると、へえ〜、そうなのか、そういう告発もののドキュメンタリー映画なのかと思われるかもしれませんが、ことはそんなに単純で白黒のはっきりしたものではありません。 というのは、上記の事柄に対し、事実の裏づけというか、証拠らしい証拠がまるで挙げられていなくて(具体的な映像で証拠を示すべきところをほとんどアニメーションやナレーションで済ましてしまっているので)、どこまでが本当でどこまでがでっちあげなのか、この映画を観ている限りではさっぱりわからないからです。 ・和歌山県太地町は大規模なイルカ漁を行なっているのか? ・それは年間23000頭というような規模なのか?(だとすると1日に63頭も捕獲しなければならなくなる) ・和歌山県太地町は1頭1000万円以上の高値で世界中の水族館に売りつけているのか? ・捕獲したイルカの肉を食用にしているのか? ・食用にしているものの一部は鯨の肉として偽って市場に出しているのか? ・そもそもイルカ漁とは食肉を得るために行なっているのか? 逆に、この映画が力を入れているのは、もっと別なことで、 「イルカがいかにかわいらしく、愛らしい動物であるかということ」をたっぷりと見せつけ、そんなイルカを苦しめたり、殺したり、ましてや食べたりすることは許せないという論調に持っていく。 また、水銀中毒がいかに恐ろしいものであるかを示すために、水俣病患者の映像をこれでもかこれでもかというように見せつけ、こういう危険性があるのに、消費者にはその事実が隠されている。それは恐ろしく、許せないことだ、というムードに持っていく。 そんな映像を使われた水俣病患者やその親族はたまったものではありませんが、(事実の裏づけが示せない代わりに?)こういう風にして観客の情緒に訴える手段を取っている、要するに、この映画は、そんな映画だということになります。 この映画の最後には、何の脈絡もなく、入り江一面がどす黒く染まっている、すなわち、「ここでイルカの虐殺が行なわれ、血が流された」とほのめかす映像が入れられていますが、それはそうほのめかされているだけで、映像の説明は一切なく、観客がそう思うように仕向けられています。そんな映像が撮れるのなら、実際にそこで虐殺している映像も撮れたのではないかと思えるし、実際にイルカの食肉処理をしているとしても、普通の人間の感覚としてそんなところで血を垂れ流したりするものだろうかと思ったりします。そもそも、あれは本当にイルカをさばいて出た血なのでしょうか。 報道されている太地町の対応は、「無許可で撮影された人の映像が使われている」「イルカの水銀汚染濃度を調査中である」「イルカ漁は太地町の伝統的な文化であり、アメリカ人が考えるものとは違う」というもので、それは私には論理がズレてるんじゃないかと思えるし、逆に、事実を認めているようにすら見えます。 それとも、太地町が怒っているのは、「近づいてきた目的を前もって教えずに、町民をだまして協力させて、非難めいたこんな映画を作って、許可も得ずに、こっそりと公開したから」であって、「事実無根の中傷を受けたから」ではないのでしょうか。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− それはともかく、私が残念だと思うのは、太地町のことでも、この映画の作り手のことでもなくて、この映画の受け手のこと、つまり、こんな論理性もなく、具体的な論拠も証拠も示せずに、観客の情緒に訴えかけることで共感を得ようとするような、ドキュメンタリー映画とも言えないような代物を、最優秀ドキュメンタリー賞に選ぶアメリカ人が非常に多いことです。 細かいことに目くじらを立てずに、ムードを楽しめばいい映画や、情緒で観てしまっていい映画も確かにあるとは思いますが、『ザ・コーヴ』はそういう映画ではないんじゃないでしょうか。ましてや、とてもじゃないけど、ベストと言えるような作品ではないと思いますね。 映画批評家協会に属するような人たち(映画批評家?)ですら、情緒に流されて、まともに筋道を立てて映画を観る、考えるということができなくなってしまう、というのは悲しいことですね。 アメリカ人は、自分が責任を負わなければならないことは、激しく抵抗したり、断固として無視したりするくせに、自分が無責任でいられることに対しては、一転して心優しきヒューマニストに変身するところがありますが、今回のこの“『ザ・コーヴ』の快進撃”には、そういう精神性がよくない方向に働いた、と言えるかもしれません。 参考として、以下に、2009年度全米映画賞のドキュメンタリー賞の結果、および、『ザ・コーヴ』にまつわる受賞結果を書き出しておきます。 私が信頼を寄せている映画賞(ゴッサム・アワードやインディペンデント・スピリット・アワード、ニューヨーク映画批評家協会賞やシカゴ映画批評家協会賞、全米映画批評家協会賞)は、『ザ・コーヴ』を選んでいなくて、ホッと胸をなで下ろします。 そもそもは、サンダンス映画祭がこの映画に賞を与えたところからすべてが始まっているわけですが、よくよく調べてみると、サンダンスが『ザ・コーヴ』に与えた賞というのは審査員たちが決めた賞ではなく、観客の投票による観客賞なのでした。だったら、まだサンダンス映画祭にも救いがあります(苦笑)。 ◆ドキュメンタリー賞 1.ゴッサム・アワード:“Food, Inc” 2.ナショナル・ボード・オブ・レビュー:『ザ・コーヴ』 3.ワシントン映画批評家協会賞:“Food, Inc” 5.女性映画ジャーナリスト同盟映画賞:『ザ・コーヴ』 6.ボストン映画批評家協会賞:『ザ・コーヴ』 7.ロサンゼルス映画批評家協会賞:『アニエスの浜辺』、『ザ・コーヴ』 8.ニューヨーク映画批評家協会賞オンライン:『ザ・コーヴ』 9. ニューヨーク映画批評家協会賞:“Of Time and the City”(英) 10.サウス・イースタン映画批評家協会賞:“Food,Inc.” 11.インディアナ映画批評家協会賞:『ザ・コーヴ』、『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』 12.サンフランシスコ映画批評家協会賞:『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち』 13.サンディエゴ映画批評家協会賞:『ザ・コーヴ』 14.オースティン映画批評家協会賞:『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』 15.トロント映画批評家協会賞:『ザ・コーヴ』 17.ダラス・フォートワース映画批評家協会賞:『ザ・コーヴ』 18.ユタ映画批評家協会賞:『ザ・コーヴ』 19.ラスベガス映画批評家協会賞:『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』 21.ヒューストン映画批評家協会賞:『ザ・コーヴ』 22.サテライト・アワード:『ブロードウェイ♪ブロードウェイ』 23.シカゴ映画批評家協会賞:『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』 24.フロリダ映画批評家協会賞:『ザ・コーヴ』 25.セントルイス映画批評家協会賞:『キャピタリズム〜マネーは踊る』 26.フェニックス映画批評家協会賞:『キャピタリズム〜マネーは踊る』 27.オクラホマ映画批評家協会賞:『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』 28.全米映画批評家協会賞:『アニエスの浜辺』 29.カンザスシティ映画批評家協会賞:『ブロードウェイ♪ブロードウェイ』 30.オンライン映画批評家協会賞:『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』 32.セントラル・オハイオ映画批評家協会賞:『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』 33.ノース・テキサス映画批評家協会賞:『ザ・コーヴ』 34.バンクーバー映画批評家協会賞:『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』 35.放送映画批評家協会賞:『ザ・コーヴ』 40.デンバー映画批評家協会賞:『ザ・コーヴ』 42.サンタバーバラ国際映画祭 デイヴィッド・アッテンボロー賞:『ザ・コーヴ』 47.インターナショナル・シネファイル・ソサイエティ賞:『アニエスの浜辺』 52.NAACPイメージ・アワード:“Good Hair” 57.インディペンデント・スピリット・アワード:『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』 ◆その他の賞 39.製作者組合賞(PGA) ドキュメンタリー部門:『ザ・コーヴ』 41.監督組合賞(DGA) ドキュメンタリー部門:『ザ・コーヴ』 46.映画編集者賞(ACE) ドキュメンタリー部門:『ザ・コーヴ』 48.脚本家組合賞(WGA) ドキュメンタリー部門:『ザ・コーヴ』 ラストの4つの団体がそれぞれドキュメンタリー部門賞に『ザ・コーヴ』を選んでしまうなんて、どれだけ映画を見る目がないんだと思ってしまいますが……。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 『ザ・コーヴ』の、日本での配給が決まったようですが、それは、リスクがありながらもこれまでドキュメンタリー映画を意欲的に紹介してきたアップリンクのようなところではなくて、全然そういう実績がないところ、のようです。 それって、スキャンダラスな映画で、ただひと山当てたいだけということなのでしょうか。 配給サイドは、太地町の人々ともよく相談して、いい形で上映できるようにもって行きたいというようなことを言っているようですが、事実にしろ、そうでないにしろ、自分のことを攻撃している映画に対して、そんなことできるわけがないじゃないですか。ねえ。 配給サイドも劇場サイドも、自分も告発する側の尻馬に乗るのだという覚悟がなければ、安易にこういう映画に乗っかってはいけないんじゃないかと思いますね。「問題提起をしてみたかった」とかなんとかいいかげんなことを言って逃げてはいけないと思います。 観客もまた、お金を払って、こういう映画を観ることで、知らないうちに、製作サイト=告発側を利することになりますから、1つの考え方としては、この上映会ではお金を取らないというやり方もあり、かもしれません。観た後で、不本意にも告発者側を儲けさせたことに対して不快に感じる人もいるでしょうし、やるなら無料でやって、カンパ金のような形で協力を募ったらいいんじゃないでしょうか。 太地町側は、『ザ・コーヴ』の上映中止に躍起になっているようですが、そういう活動は、かえって都合の悪いことを隠しているようにも見えるし、逆に、『ザ・コーヴ』を観てみたいという人を増やすことにもなるように思います。 上映してみれば、「ひどい映画だ」という噂がさあーっと広まって、案外、早々に騒ぎが沈静化するということもあるかもしれません。 いずれにしても、もう無傷ではいられないのですから。 こういうのは、疑われちゃった方が負けというところはありますね。全く羞じるところがなくても、あることないこと言われなくちゃならないし、痛くない腹を探られることにもなる。ましてや、今回、相手となるのは、自分から頭がおかしいと公言してはばからないような人ですから、そういう人に目をつけられてしまった不幸を嘆くしかないのかもしれません。 [人気ブログランキング] |
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「ザ・コーヴ/THE COVE」オスカー受賞の波紋
長編ドキュメンタリー賞「ザ・コーヴ/THE COVE」(ルーイー・サホイヨス監督) * 日本語のトレイラーが見られます ...続きを見る |
明日も晴れ 2010/03/09 18:20 |
ザコーヴ 上映
映画『ザ・コーヴ』のこと。 海から始まる!?/ウェブリブログの映画『ザ・コーヴ』のこと。に関する詳細記事。(Powered by BIGLOBEウェブリブログ) イルカの調教師で、かつては、テレビ・ドラマ『わんぱくフリッパー』に出演もしたことがあるリチャード・オバリーは、イル.. ...続きを見る |
ビジネス情報舘2番館 2010/03/10 07:39 |
ザ・コーブ
★厳選!韓国情報★から ...続きを見る |
萬歳楽の酒飲み日記 2010/03/13 12:36 |
作られたメディア情報で世論操作
グルジアのテレビ局が、緊迫したウソニュースを流して、国内が大騒動になったそうだ。 グルジア、「露軍侵攻」で国中パニック テレビ局が放映 http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/europe/368554/ 2010/03/14 グルジアの親政権テレビ局「イメディ」が13日夜(日本時間14日未明)、 ロシア軍が侵攻してサーカシビリ大統領を殺害したとする内容を約30分間にわたって放映し、国内が大騒動となった 。 ロシアのインタファクス通信によると、... ...続きを見る |
いつも気分は・・・ 2010/03/14 17:27 |
[報道][ネット][映画]おそらく『ザ・コーヴ』にドキュメンタリー映画としての問題はない
アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』に対して、まだ日本公開もされていない段階から複数の批判が行われている。しかしながら、同じ未見の立場からしても見当違いな批判が散見されるので、いくつかの論点で簡単な説明を試みたい。 もちろん報道された ...続きを見る |
法華狼の日記 2010/03/23 23:47 |
■映画『ザ・コーヴ』
2010年度のアカデミー長編ドキュメンタリー賞を獲得し、話題となった映画『ザ・コーヴ』。 ...続きを見る |
Viva La Vida! 2010/05/31 07:17 |
映画「ザ・コーヴ」まずは映画を見ないと何も語れないハズ
「ザ・コーヴ」★★★ ルイ・シホヨス、リック・オバリー出演 ルイ・シホヨス監督、91分 、2010年7月3日より全国にて順次公開、2009,アメリカ,アンプラグド (原題:THE COVE) ...続きを見る |
soramove 2010/08/18 07:10 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
|---|---|
私も今アカデミーを見て”The Cove"が受賞したのを複雑な思いで見ました。 |
ひろ 2010/03/08 15:23 |
ひろさま |
umikarahajimaru 2010/03/09 01:51 |
実際に見た人の貴重な見解を読ませていただきました。 |
snow 2010/03/09 08:54 |
snowさま |
umikarahajimaru 2010/03/09 22:50 |
興味深く読ませていただきました。 |
あさっぺ 2010/03/10 03:53 |
あさっぺさま |
umikarahajimaru 2010/03/10 08:09 |
こんばんは。 |
かえる URL 2010/03/11 01:10 |
かえるさま |
umikarahajimaru 2010/03/11 01:24 |
はじめまして。まだあまり存在しない”映画を見た方のご意見”として、非常に興味深く読ませていただきました。私もかえるさんのコメントに同感で、貴方の感情論ではなく物事を冷静に捉えようとする姿勢に好感を持ちました。 |
えこ 2010/03/22 06:06 |
この映画が訴える大きな図は、日本人だけでなく世界の人間が自然界と環境に対して行っている行為で、イルカを巡るアクティビティーに関しては、残念ながら太地町が重要なキーを握っているようです。そしてこの映画が更にほのめかすことは、それをバックアップしている(ようである)日本政府の姿勢です。 |
えこ 2010/03/22 06:06 |
太地に関しては、以前からシーシェパードの妨害などがあり、いまさらだとおもいます。長崎のイルカの間引きも批判されたことありますし。 |
ednakano 2010/03/29 14:50 |
えこさん |
ednakano 2010/04/02 10:12 |
はじめまして。 |
Gnome 2010/04/08 11:07 |
はじめまして |
あきお 2010/04/15 23:24 |
オリジナルDVDにあって、作品上で都合悪くなった部分が、映画館でカットされて上映されないんじゃ、 |
あほくさ 2010/07/06 21:26 |
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