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2007年ベネチア国際映画祭 審査員特別賞・国際批評家連盟賞・マルチェロ・マストロヤンニ賞(アフシア・エルジ)・SIGNIS Award - Honorable Mention、2007年ルイ・デリュック賞、2008年セザール賞 作品賞・監督賞・脚本賞・新人女優賞(アフシア・エルジ)、2008年リュミエール賞 監督賞・新人女優賞、と2007年度のフランス映画界で最も高い評価を受けたフランス映画『クスクス粒の秘密』。 ということのは、観た後で、調べてわかったことで、観る前は、「確かなんかの賞を獲った作品」といった程度の認識しかありませんでした。 観たのは、第21回東京国際映画祭World Cinema部門で、今回の東京国際映画祭では、初見の監督は何人かいましたが、「新しい才能との出会い」を感じさせたのは、この映画の監督アブデラティフ・ケシシュがピカイチでした。 私も以前から名前だけは知っていましたが、日本での監督作品の上映はこれが初めてだったでしょうか。 【物語】 スリマーヌは、南仏の港町セットSèteで、港湾労働者として働くマグレブ系(チュニジア出身)の60代男性。 しかし、ここにもリストラの波が押し寄せ、彼は早期退職するか、少ない労働時間・少ない収入で我慢するかどちらかを選ばなければならなくなる。 彼は、バツイチで、前妻ソアドとの間に4人の子と2人の孫がいて、今でも前妻の家に港で獲れたてのボラを届けたりしている。が、家族にはありがたがられるどころが疎まれていて、いつも役立たず扱いされていた。彼には、ホテル業を営む恋人ラティファがいたが、何から何まで彼女の世話になるこということに対しては、彼も男としてのささやかな自負心が傷つくのだった。 彼が自分の娘のようにかわいがっているラティファの娘リムの協力もあって、彼は、古い船を買い取って、そこで、船上レストランを始めることにする。 しかし、なかなか銀行の融資も受けられず、お役所の認可も下りない。お役所仕事であちこちたらい回しにされるばかり。 そこで、スリマーヌは、関係者や地元の有力者を集めて、パーティーを開き、オープニングへのデモンストレーションとしようとする。 メインの料理は、ソアドの作るクスクスで、パーティーのために、一家が総出で手伝ってくれる。 続々と招待客がやってくる中、スリマーヌの息子マジドは、招待客の中に自分の浮気相手がいるのを見て、車で姿をくらます。 しかし、車のトランクに調理したクスクス粒の鍋が乗せたままだったことから、パーティーには混乱が生じてしまう。調理し直すにも1時間以上かかってしまうのだ。 スリマーヌは、スクーターで、ソアドの住む団地に行くがソアドは不在で、別の階のマジドの部屋に行ってみると、ここにもマジドは不在。しかも、マジドの妻は夫の浮気に感づいてヒステリックに泣き喚いている。 途方にくれたスリマーヌが団地を出てくると、止めておいたはずのスクーターが見当たらない。見回すと、悪ガキが乗り回していて、困っているスリマーヌを嘲笑うかのように、つかまえられるものならつかまえてみろと挑発する。 スリマーヌの前妻に遠慮して、パーティーへの出席を遅らせていたラティファとリムもようやく船にやってくるが、そこで異変が起こっていることに気づく。なんとか酒でごまかしていた客も、メインのクスクスが出ないことに苛立ち始めている。 リムは、バンドのメンバーに耳打ちすると、ダンスの衣装に着替えて戻ってくる。 突然始まったリムのアラブ風ダンスに魅了される招待客たち。スリマーヌの娘たちもこれを好機とショーを盛り上げようとする。 船では、クスクス粒が調理されつつあり、ラティファもまた自分で調理した鍋を運ぶ。 一方、スリマーヌは、悪ガキどもに翻弄され続けて、道端に倒れこんでしまう。 船上では、リムが、時間を稼ぐため、愛するスリマーヌの成功のために、狂ったように踊り続けている……。 【コメント】 一見、ホームドラマ風の設定がなされていますが、「いろいろあったけど、最後はみんなわかり合えて、幸せになりました……」というような口当たりのよい物語にはなっていませんでした。 最後は、オープン・エンディングだけれど、ほろ苦い(夢の挫折、および、スリマーヌの死も予感させる)もので、ぷっくりしたお腹をむき出しにして踊るリムのダンスと同じように、見ていて痛々しく、フランスで暮らす移民たちの現実を反映して、苦々しいものでした。 この映画で特に凄いと思うのは、一見、何げなくも見えるおしゃべりのシーンで、(スリマーヌとラティファとリム以外の)登場人物が、自分の感情の赴くままに話す、そのおしゃべりは、あけすけで、口さがなくて、観る者をいや〜な感じを抱かせるに十分な撮り方&演出になっています。そうしたいや〜な感じ(のほとんど)は、寡黙で、人にバカにされてもほとんど黙り通しているスリマーヌ(=中高年男性の代表であり、アフリカからのフランスへの移民の代表)に向けられているわけですが、スクリーンを通して、スリマーヌのみならず、観客をも押し黙らせ、打ちのめす、という風な見せ方にもなっています。 この映画のこの部分を不快に思うか、人々のこうしたエモーションを取り出して見せた監督の手腕は凄いと思うかが、たぶんこの映画もしくは監督に対する評価の分かれ目で、結果的に見て、フランスではこれを圧倒的に素晴らしいと評価した、ということになります。 シーンとして特に印象に残るのは、ソアドの家での日曜の昼食会とそこでのおしゃべり、マジドの妻のヒステリー、スリマーヌをこれでもかこれでもかと追いかけ回させる悪ガキたち、そして、最後のリムのダンス。これらはみんな、そこまでやらなくてもいいんじゃないかというくらい、ネチネチしていて、しつこく長い。それでいて、とてもリアルで、演出されたものであることを忘れさせてしまいます。 アブデラティフ・ケシシュは、小津安二郎の影響を受けていると言われているんですが、小津も、家族劇の中に、善良な人の中にあるエゴや本音を描き出したという意味で、確かにこのアブデラティフ・ケシシュと似ています。 小津作品の持つ端正さは、一見この『クスクス粒の秘密』とは無縁に見えますが、物語の構造や、単純さ、人間のとらえ方は、まさに小津的で、日本の小津を今のフランスでやろうとすればこうなると言ってもいいかもしれません。主人公は、『東京物語』の笠智衆で、リムは原節子、なんですね。 スリマーヌを演じたアビブ・ブファールは、監督の亡き父の友人だそうで、俳優としてはアマチュア。リム役を演じたアフシア・エルジは、15kg体重を増やしてこの役に臨んだそうで(おそらく、すらっとしたモデル体型ではなく、この役柄をよりリアルに見せるために体重を増やした)、この役によりセザール賞やリュミエール賞などこの年の新人賞を総なめにしました。 本作の英語題は、邦題と同じ“The Secret of the Grain”で「(クスクス)粒の秘密」ですが、原題は“La Graine et le mullet”で「(クスクス)粒とボラ」で、おそらくボラの乗ったクスクスの一皿を意味するのだろうと思われます。ボラは、スリマーヌの象徴であり、クスクス粒は、ラティファもしくはソアドの象徴で、2つ揃わないと一皿にならない、あるいは、男女または家族は協力し合わなければならない、ということを仄めかしている、ということになるでしょうか。 日本での劇場公開の可能性は……やっぱり厳しいでしょうか。東京国際映画祭でも途中退出者が続出しましたし、いくらフランスで評価された作品だといっても、はっきりとジャンルが特定できない作品や口当たりがよくない作品は日本では受け入れられにくいですね。ビターズ・エンドやシネカノン、あるいは、元気だった時のフランス映画社だったらどうか、という気もしますが、どうでしょうか。岩波ホールあたりで上映できたら面白いし、確実な動員と好意的な評価も期待できると思うのですが……。 個人的には東京国際映画祭で観られてよかったと思いますね。観ようかどうしようか微妙なラインにあったので。 とにかく、この監督の過去の2作品が観たいし(日仏学院に期待?)、新作が楽しみになりました! −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− アブデラティフ・ケシシュAbdellatif Kechiche(Abdel Kechiche) 1960年、チュニジアのチュニス生まれ。 1966年に家族と共にフランスに渡り、ニースで育つ。 舞台俳優としてキャリアをスタートさせ、エドゥアール・マネEduardo Manetの戯曲をドラマ化したテレビ作品“Un balcon sur les Andes”(1982/監督:ジャック・オーディアール)を経て、“Le Thé à la menthe”(1984/監督:Abdelkrim Bahloul)で主役で映画デビュー。 出演作には、アンドレ・テシネの“Les Innocents”(1987)や、Nouri Bouzidの“Bezness” (1992)などがあり、“Bezness”ではベルギーのナミュール国際映画祭で主演男優賞を受賞している。2005年にはアメリカ映画“Sorry, Haters”に主演し、ロビン・ライト・ペンと共演している。 監督デビューは、2000年の“La Faute a Voltaire”で、2000年のベネチア国際映画祭で上映されて、ルイジ・ディ・ラウレンティス賞(第1回作品賞)&'CinemAvvenire' Awardを受賞。 2003年には監督第2作“L'Esquive”を発表。2005年セザール賞 作品賞・監督賞・脚本賞・新人女優賞、2005年リュミエール賞脚本賞を受賞している。 2007年に発表した第3作『クスクス粒の秘密』は、2007年ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に選ばれて、審査員特別賞・国際批評家連盟賞・マルチェロ・マストロヤンニ賞(アフシア・エルジ)・SIGNIS Award - Honorable Mentionを受賞。そのほか、2007年ルイ・デリュック賞、2008年セザール賞 作品賞・監督賞・脚本賞・新人女優賞(アフシア・エルジ)、2008年リュミエール賞 監督賞・新人女優賞を受賞し、2008年ヨーロッパ映画賞にもノミネートされている(http://umikarahajimaru.at.webry.info/200809/article_7.html)。 彼の監督作品は、派手さもなく、大きな事件も起きないが、普通に社会生活を送る人々の、ありふれた日常を描いて、生き生きとして、ダイナミズムにあふれる作品を作り出すことに成功している。 移民を主人公とし、フランスの地方や郊外が舞台となることが多い。 キャストは、アマチュアを起用することが多い。 女優から才能を引き出す手腕に優れ、出演した女優が女優賞を受賞することが多い。 小津安二郎作品に影響を受けている(IMDbより)。 ジャン・ルノアール、モーリス・ピアラ、ジャック・ドワイヨンら、フランス自然主義の流れを汲む、とみなされている。(仏版Wikipediaより) 2008年には、これまでの仕事に対して、ファティ・アキンとともに、Médaille Charlemagne pour les Médias Européens(ヨーロッパ・メディア賞)を受賞している。 【フィルモグラフィー】 ・“Un balcon sur les Andes”(1982) (TV)[出演][監督:ジャック・オーディアール] ・“Le Thé à la menthe”(1984) [出演][監督:Abdelkrim Bahloul] ・“Les Innocents(The Innocents)”(1987) [出演][監督:アンドレ・テシネ]. 出演:サンドリーヌ・ボネール、ジャン=クロード・ブリアリ、シモン・ド・ラ・ブロス *1988年セザール賞 作品賞・監督賞・楽曲賞・音響賞ノミネート ・“Bezness(Business)”(1992)[出演][監督:Nouri Bouzid] 出演:Jacques Penot、Ghalia Lacroix 物語:ローファーは、チュニジアの観光地で男娼をしている青年で、彼には、コムサというフィアンセがいて、彼は、自分は彼女には男娼をしていることは内緒にしていたが、彼女には結婚まで純潔でいて欲しいと考えていた。彼らの前にフランス人カメラマン、フレッドが現れ、三角関係が生まれる……。 *1992年ナミュール国際映画祭で主演男優賞(アブデラティフ・ケシシュ)受賞。 ・“Un vampire au parades (A Vampire in Paradise)”(1992)[出演][監督:Abdelkrim Bahloul] 出演:ブリュノ・クレメール、ブリジット・フォッセー、ロール・マルサック *1992年パリ映画祭 グランプリ&女優賞(ロール・マルサック)受賞 ・“Marteau rouge”(1996)(短篇) [出演][監督:Lucie Phan & Béatrice Plumet] ・“La Faute à Voltaire(Blame It on Voltaire)”(2000) [監督・脚本] 出演:Sami Bouajila、エロディー・ブシェーズ、Aure Atika、Virginie Darmon 物語:チュジニア出身の青年で、パリに旅行に来て、アルジェリア難民と偽って、3ヶ月間の滞在許可を得た。彼は、ビストロで働くNasseraと出会い、市民権を得るために彼女と結婚することに決める。しかし、結婚式当日になって彼女は失踪してしまい、Jallelはすっかり打ちのめされて、精神病院に収容される。彼は、そこで、繊細な心を持ったルーシー(エロディー・ブシェーズ)と出会う。 *2000年ベネチア国際映画祭 ルイジ・ディ・ラウレンティス賞(第1回作品賞)&'CinemAvvenire' Award受賞、2000年ナミュール国際映画祭 審査員特別賞&Youth Jury Emile Cantillon Award受賞、ケルン地中海映画祭 主演女優賞(エロディー・ブシェーズ)受賞。 ・“La Boîte magique(The Magic Box)”(2002)[出演][監督:Ridha Behi] 出演:Marianne Basler、Hichem Rostom *2002年アミアン国際映画祭 特別賞受賞 ・“L'Esquive(Games of Love and Chance)”(2003) [監督・脚本] 物語:主人公は、パリ郊外に住む15歳の少年アブデルクリム(愛称クリモ)。彼の父親は刑務所に服役中で、母親がスーパーに勤めて、家計を支えていて、彼は、船で世界に漕ぎ出すことを夢見ていた。 ガールフレンドと別れたクリモは、それまで恋愛対象として考えてこなかった幼なじみのリディアが気になってくる。しかし、彼女の気を引くために参加した学校のお芝居(マリヴォーの『愛と偶然の戯れ』)で大恥をかいてしまう……。 出演:Osman Elkharraz、Sara Forestier、Carole Franck、Hajar Hamlili、Meryem Serbah、Olivier Loustau、Patrick Kodjo Topou、Reinaldo Wong *2005年セザール賞 作品賞・監督賞・脚本賞・新人女優賞受賞、2005年リュミエール賞脚本賞受賞。 ・“Sorry, Haters”(2005) [出演][監督:Jeff Stanzler] 出演:ロビン・ライト・ペン、サンドラ・オー、エロディー・ブシェーズ 物語:9.11の後遺症で、アラブ人アレルギーが残るニューヨーク。Ashade(アブデラティフ・ケシシュ)は、シリア人化学者だったが、アラブ系というだけで投獄されてしまった弟が釈放されるまでの間、ニューヨークでタクシー運転手をして、彼の妻子の面倒を見ていた。ある日、彼は“Sorry, Haters”というリアリティTVのプロデューサーである女性フィービー(ロビン・ライト・ペン)をタクシーに乗せ、彼の弟のことについて話す。彼女は彼に弁護士を紹介してくれたが、お金がかかるばかりで事態は一向に解決には向かわないのだった……。 *2007年Chlotrudis Award 女優賞(ロビン・ライト・ペン)受賞、2007年インディペンデント・スピリット・アワード主演女優賞&脚本賞ノミネート ・『クスクス粒の秘密』“La Graine et le mullet(The Secret of the Grain)”(2007)[監督・脚本] 出演:アビブ・ブファール、アフシア・エルジ、ファリダ・パンケタッシュ *2007年ベネチア国際映画祭 審査員特別賞・国際批評家連盟賞・マルチェロ・マストロヤンニ賞(アフシア・エルジ)・SIGNIS Award - Honorable Mention受賞、2007年ルイ・デリュック賞受賞、2008年セザール賞 作品賞・監督賞・脚本賞・新人女優賞(アフシア・エルジ)、2008年リュミエール賞 監督賞・新人女優賞受賞 *この記事がなかなかよかった!と思ったら、人気ブログランキングにクリックをお願いします。 ↓ ↓ ↓ ↓ ![]() ↑ ↑ ↑ ↑ クリックしてね! *参考サイト ・アブデラティフ・ケシシュに関するWikipedia(仏語):http://fr.wikipedia.org/wiki/Abdellatif_Kechiche ・フランス好きのためのハヤクー Hayakoo:http://www.hayakoo.com/la_graine_et_le_mulet/ ・ブログ「eau」:http://eau-web.jugem.jp/?eid=207 |
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| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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こんばんはー。 |
かえる URL 2008/10/30 21:39 |
そうなんですよ。 |
umikarahajimaru 2008/10/31 01:20 |
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