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help RSS 川本喜八郎の1つの頂点! 『火宅』

<<   作成日時 : 2007/09/22 23:45   >>

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 川本喜八郎の人形アニメーションの、1つの到達点と見なされ、評価も高いのがこの『火宅』です。

 前半


 後半


 【物語】
 摂津の国、生田の里を通りかかった旅の僧は、話に聞く「求塚(もとめづか)」というのを見ておこうと思うが、若菜を摘む娘たちは「噂には聞いたことがあるが、場所は知らない」と言う。今を生きることに精一杯の人々であれば、昔のことに関心がなくても仕方がないのかもしれないと僧はあきらめる。
 ところが、若菜摘みの娘が家路についた頃、1人の娘が僧の前に現れて、僧を求塚に案内してくれる。
 塚には3本の松の木が寄り添うように生えている。
 娘は、求塚の由来を僧に話し始める。
 今から500年前、信心深く美しい菟名日処女(うないおとめ)という娘がいた。彼女には小竹田男(ささだおのこ)と血沼丈夫(ちぬのますらお)という彼女を慕う2人の男がいた。2人はともに相手の存在を知り、河原で弓の勝負をする。それは、水面に浮かぶ鴛鴦を射止めるというものであったが、双方の腕は互角で勝負はつかない。
 菟名日処女は、2人のどちらをも選ぶことができず、また、こんな自分のために鴛鴦のつがいの一方が犠牲になってしまったことにも胸を痛め、生田川に入水する。
 残された2人の男は、この世に未練もなく、互いに刺し違えて死ぬ。
 死後の世界にいた菟名日処女は、赤い家の中で写経をしていたが、死してもなお小竹田男と血沼丈夫が亡霊となり、炎となって彼女を焼き尽くそうとし、また鉄(くろがね)の鴦が彼女の脳髄をついばもうとする。
 地獄の業火に焼かれ、苦しみ続けて500年。
 絶壁の上で燃え続ける火宅。
 菟名日処女は、写経を胸に海へと飛び込む。彼女は、八大地獄の中を身を焼かれながら落ちていく。
 暗闇の中で、菟名日処女が目を開ける。「御仏への思いがいくらか通じたのか、晴れ間が見えたような気がする。ありがたいことでございます」と菟名日処女。
 僧は、塚の向こうから立ち昇る朝日の光の中で立ち上がる。次なる旅へと向かいながら、僧はこう思うのであった。
 「菟名日処女の言う火宅とはこの世のことではなかった」と。

画像

 【解説】
 『鬼』(1972)、『道成寺』(1976)と、中世を舞台にし、人の執心をテーマにした3部作の最後の作品。この3部作で、川本喜八郎は、自分の進むべきテーマとモチーフを確立したと考えられ、人形の動き、立体表現でも大きな成果を得た。

 原作は能の「求塚」で、この物語を師・飯沢匡から聞いていた川本喜八郎は、前作『道成寺』で修得したテクニックを使えば、この作品を人形アニメーションで表現できると自信を得て、作品化に着手する。
 本作において、『道成寺』でモノにした火や水や風の表現はより確かなものになり、平面の中で人形を動かしていた『道成寺』に比べ、より立体的な世界で人形を動かすことにも成功した。

 本作は、川本喜八郎作品として、技術・表現・モチーフすべてにおいて、1つの頂点に達した作品であり、そうした表現力・成果を踏まえて、この作品を川本作品のベストとして推す人も多い。

 自分の気に入ったものができるまで何度もリテイクを重ね、例えば、霧の中から里娘が現れるシーンなどは7回もリテイクしたという(『川本喜八郎 アニメーション&パペット・マスター』 p70(峰岸裕和・田村実対談))。

 ナレーションは能の観世銕之丞、音楽は武満徹、のちに特殊メイクアーティスト&特技監督として知られることになる原口智生が美術に参加していることも特筆される。

 『鬼』『道成寺』『火宅』合わせて、不条理3部作と呼ばれることもある。

 欧米では、主人公の苦悩を、自ら持って生まれた美しさという原罪のせいと解釈する向きもあるそうです。

 最初から海外の映画祭に出品することを目指して作られた作品でもあり、オタワ、シカゴ、バルナ、メルボルンの各映画祭で高評価を受ける。

 【コメント】
 何とかしてしたくても、自分ではどうすることもできない自分の心、感情、執心、執着、愛。それよりさらにコントロールできない他人の心、感情、思惑、思念。そして、そうした感情や思惑のぶつかり合いやすれ違いから、狂わされていく人の運命。
 こうした運命の結果として、理不尽とも、不本意とも、不条理とも言える結末を迎える物語は、それゆえになかなかすんなりとは受け止められないものの、だからかえって観る者の心をとらえ、忘れられないインパクトを残します。理不尽でありながらも、全くあり得ないことと思えない、むしろこういうこともあるかもしれないと思えてしまうのは、肯定的なものであれ、後ろ暗いなものであれ、そうしたどうしようもない自分の心、どう頑張っても相手に伝えることのできない自分の思いというものに、誰しも身に覚えがあるからでしょうか。

 振り返ってみれば、川本監督の作品はこうした執着、執心、あるいは思惑のズレがもたらす悲劇を描いた作品ばかりで、川本監督がこうした傾向のものを好むらしいことがよくわかります。

 本作を見直してみて気づいたのは、物語の構造が『死者の書』とよく似ていることで、どちらも、死してもなお決して成就しない、報われない異性への情念がモチーフとなっています。
 他人を傷つけたくなくて自死してもなお苦しみ続ける菟名日処女が、僧に自分の苦しみを知ってもらえたことで少しだけ救われたように思う『火宅』と、死してなお消えることのない大津皇子の耳面刀自(みみものとじ)への執心を藤原南家郎女(いらつめ)が鎮めようとする『死者の書』。両作品は、姉妹編として作られたのでしょうか。
 観る者に全く理不尽な苦悩をつきつけてくる『火宅』と、恋する相手に似た女性の祈りによって成仏することなく彷徨っていた無念な心が鎮められる『死者の書』。『火宅』の約30年後に、『死者の書』を作らなければならなかった作り手の思いは何なのか? 作り手の思索はこの30年間に深められているのか? そんなことも考えてみたくなります。

 どちらが上であるとか下であるとかは言いにくいものの、一僧侶が死してもなお成仏されない魂を受け止める『火宅』に対して、『死者の書』では、死者に対する祈りが、1人の女性(聖女?)を通して、より広く開かれたものになった、ということでしょうか。『火宅』ではただ第三者的に死者の苦悩と僧の祈りを見せるだけであったのが、『死者の書』では、主人公の、死者への鎮魂の思いが、作り手の思いとも重なり、観客の心にも寄り添わせるようになっている、といおうか。
 ずっと「執心」をテーマに作品を作り続けてきて、「執心」の行き着く先を模索してきて、ようやく作り手が見出した到達点がどうやらここらへんにあるのかもしれません。

 まあ、『火宅』と『死者の書』の関係についてはひとまずおいておくとして、人形アニメーションとしては、本作は目を見張るところが多々あります。

 まず、人形の手足の動きが素晴らしいですね。CGであればモーション・キャプチャーを使ったのではないかと思えるほど人形の手足の動きがリアルなことで、人間の関節の動きが実に自然に再現されています。最初の、歩くシーンでの足の運びや、若菜摘みの娘たちが若菜を摘む時の手首をひねるしぐさなど、もう見事と言うほかありません。

 「風」の表現も素晴らしく、普通なら扇風機で送られた風がただ一定方向に流れているというのがわかるだけだと思うのですが、『火宅』では小さな空間の中での空気の流れがちゃんと意識され、そして表現されているのが見ることができます。
 例えば、河原のシーンでも、群生している葦が、すべて同時に一方向に動くのではなくて、風の流れに沿って、列ごとになびくんですね。おそらくそんなに大きくはないセットを使って撮影しているのだろうと思いますが、その中でそういうことができるよう風をコントロールする仕組みを開発したのだろうと考えられます。後年の作品、といっても人形アニメーションは後いくつもありませんが、これほど細かい芸を見せたものはなかったようにも思います。

 本作で、もう1つの見どころとして挙げられるのが、「火」の表現で、川本監督自身も苦労したところ、苦心したところとして挙げていますが、これに関しては、う〜ん、どうでしょう? 他の部分が手づくりで、細かいアイデアによって立体表現が試みられているのに、ここだけはオプティカルな合成が使われていて、しかもそれがとても平板的に見えてしまっているので、(今のCG合成に慣れてしまった目で見ると)ちょっと違和感もあり、物足りなくも感じてしまいます。これだったら、赤い布を風になびかせて、炎のように見せるというのでもいいような気がしますが、どうでしょうか。私にはここがちょっと残念でしたね。

 ◆作品データ
 1979年/日本/19分
 日本語台詞あり/英語字幕あり
 人形アニメーション

 この作品は、1979年 日本映画技術賞、1980年 ユネスコ国際青少年のための映画センター選定、オタワ国際アニメーション映画祭審査員特別賞、シカゴ国際映画祭佳作、1981年 芸術祭優秀賞、バルナ国際アニメーション映画祭グランプリ、メルボルン映画祭特別賞、を受賞しています。

 *『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと)で65位。

 *この作品はDVD『川本喜八郎作品集』に収録されています。

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 ◆監督について
 川本喜八郎
 映画監督、人形作家、アニメーター。
 1925年 東京・千駄ヶ谷の雑貨屋に生まれる。
 1937年 建築家を目指して旧制東京府立工芸学校(現・東京都立工芸高校)木材工芸科に入学(5年制)。
 1942年 旧制横浜高等工業学校(現・横浜国立大学)建築科入学
 1944年 学徒動員で満州に渡る。帰国後横浜高等工業学校卒業。
 同年 陸軍入隊。陸軍少尉として国内勤務。
 1946年 軍隊時代の上官に誘われて建築会社に入るが、工芸学校時代の同級生 村木与四郎に勧められて東宝を受験し、合格。東宝では美術助手を務める。
 1950年 東宝退社。フリーの人形美術家になる。
 1952年 イジー・トルンカ作品と出会い、人形アニメーションを一生の仕事にすることに決める。
 1953年 持永只仁氏に人形アニメーションについて教わる。
 1953〜62年 人形絵本、TVCMの人形制作やアニメーションなどを担当。
 1963〜64年 チェコスロバキアに留学。トルンカ・スタジオで『天使ガブリエルと鵞鳥夫人』の制作に加わる。
 1961年〜 NHKの子ども向け番組の人形美術やアニメーションを手がける。
 1968年 人形アニメーション『花折り』を自主制作。
 1975年 国際アニメーションフィルム協会理事。
 1981年 初長編『蓮如とその母』の監督とアニメーション、人形美術を手がける。
 1982年〜84年 NHK「人形劇 三国志」の人形美術を担当。同作品は第26回児童文化福祉奨励賞、第17回テレビ大賞特別賞を受賞。
 1985年 国際アニメーションフィルム協会賞受賞。
 1988年 中国・上海美術電影スタジオで『不射之射』を制作。
 同年 アニー賞受賞。紫綬褒章を受賞。
 同年 アニメーション作家の共同プロジェクトである「セルフポートレート」に参加。
 1989年 チェコのトルンカ・スタジオで『いばら姫または眠り姫』を制作。
 1993年〜94年 NHK「人形歴史スペクタクル 平家物語」の人形美術を担当。
 1995年 勲四等旭日小綬章受賞。
 1996年 第24回伊藤熹朔特別賞受賞。日本アニメーション協会会長に就任。
 2005年 長年の夢であった『死者の書』を完成させる。同作品でシッチェス・カタロニア映画祭で特別賞を受賞。
 2007年 飯田市に川本喜八郎人形美術館オープン。

 その他、個々の作品で国内外の受賞歴多数あり。

 *バイオグラフォー&フィルモグラフィーの詳細は、『川本喜八郎 アニメーション&パペット・マスター』(角川書店)で読むことができます。

 自主製作、つまり誰かがお金を出してくれるわけではないところから映画作りをスタートさせて(自分でお金を出して、自分の満足できる作品を作るところから始めて)、現在のようなアニメーション作家となり、ファンや同業者、後進のアニメーション作家からも深い尊敬を集めている。

 【フィルモグラフィー】

 ・1968年 『花折り』(14分/16mm)[脚本・演出・人形・アニメーション]
 人形アニメーション。台詞あり。

 ・1970年 『犬儒戯画』(8分/35mm)[脚本・演出・美術・人形・アニメーション]
 人形の動きを1コマずつモノクロで撮影し、それを紙焼きしたものを1枚ずつフィルムで撮影。台詞あり(フランス語、日本語字幕)。

 ・1972年 『鬼』(8分/35mm)[製作・演出・人形・アニメーション]
 人形アニメーション。台詞なし、字幕あり。

 ・1973年 『旅』(12分/35mm)[製作・脚本・演出・アニメーション]
 切り紙アニメーション+実写写真。冒頭と最後に蘇東坡の漢詩が字幕で入る。

 ・1974年 『詩人の生涯』(19分/35mm)[製作・演出・アニメーション]
 切り紙アニメーション。台詞なし、字幕あり。

 ・1976年 『道成寺』(19分/35mm) [脚本・演出・人形・アニメーション]
 人形アニメーション。台詞なし、説明字幕がインサートで入る。

 ・1979年 『火宅』(19分/35mm) [脚本・演出・人形・アニメーション]
 人形アニメーション。ナレーションあり。

 ・1981年 『蓮如とその母』(93分/35mm)[監督・人形・アニメーション]
 人形アニメーション。台詞あり。

 ・1982〜84年 『NHK人形劇 三国志』(各45分、全68話)[人形美術]
 人形劇。

 ・1988年 『不射之射』(25分/35mm)[脚本・演出・人形美術・アニメーション]
 人形アニメーション。ナレーションあり(北京語版・日本語字幕付バージョンと日本語版バージョンあり)。上海スタジオでの製作作品。

 ・1988年 『セルフポートレート』(1分/35mm)[演出・人形美術]
 クレイ・アニメーション。BGMのみ。

 ・1990年 『いばら姫またはねむり姫』(22分/35mm)[脚本・演出・人形美術監督]
 人形アニメーション。ナレーションあり(チェコ語バージョンもあるらしい)。チェコとの共同製作作品。

 ・1991年 『注文の多い料理店』(19分/35mm)[監修]
 セル・アニメーション。

 ・1993〜95年 『NHK人形歴史スペクタクル 平家物語』(各20分、全48話)[人形美術]
 人形劇。

 ・1996年 『オムニバス 李白』(?/?)[?]
 CM?

 ・2003年 『連句アニメーション 冬の日』(105分/35mm)[企画・監督・アニメーション]
 人形アニメーション、クレイ・アニメーション、セル・アニメーション等、様々な手法の作品あり。川本自身は人形アニメーション。朗読あり。

 ・2005年 『死者の書』(70分/35mm)[脚本・監督・人形・アニメーション]
 人形アニメーション。台詞あり。

 *関連書籍
 ・『川本喜八郎 アニメーション&パペット・マスター』(角川書店)
 ・「別冊太陽 川本喜八郎 人形―この命あるもの」(平凡社)

 *関連DVD
 ・DVD「川本喜八郎作品集」 3990円(税込)
 ・DVD「人形劇 三国志 全集」
 ・DVD「平家物語 完全版 DVD SPECIAL BOX」
 ・DVD「連句アニメーション 冬の日」 7140円(税込)
 ・DVD「死者の書」 2007年10月24日発売予定 3990円(税込) 予約価格2993円(税込)

 *当ブログ関連記事
 ・映画『死者の書』、または、リスペクト川本喜八郎
 ・川本喜八郎人形美術館に行ってきました! ・
 ・必携!「別冊太陽 川本喜八郎 人形―この命あるもの」

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