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zoom RSS オムニバス映画の魅力 『パリ、ジュテーム』など

<<   作成日時 : 2007/03/27 19:38   >>

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 昨年の秋から今年の春にかけて、『明日へのチケット』『百年恋歌』『TOKYO LOOP』『ユメ十夜』『パリ、ジュテーム』『世界はときどき美しい』『歌謡曲だよ、人生は』『それでも生きる子供たちへ』『Genius Party』とオムニバス映画の公開が相次いでいます。
 そこでここではオムニバス映画について考えてみました。

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 まずは、いくつのパート(segment)でできているかで、オムニバス映画のタイトルをリスト・アップしてみました。
 ※プロローグ、エピローグ、つなぎのパートは原則として1話に数えていません。

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 ・2話 アモーレ(1948)、恋する惑星(1994)、ストーリーテリング(2001)、<DUEL>(2002)、初恋(1997)、笑う男(1998)

 ・3話 アシッド ハウス(1998)、明日へのチケット(2005)、about love アバウト・ラブ/関於愛(2004)、危ない話(1989)、石中先生行状記(1950)、美しい夜、残酷な朝(2004)、キシュ島の物語(1999)、恐怖と戦慄の美女(1975)、恐怖の夜(1963)、くちづけ(1955)、結婚(1993)、ゲンセンカン主人(1993)、 三人三色(2001)、三人三色(2004)、女経(1968)、新・同棲時代(1991)、THREE/臨死(2002)、 戦後猟奇犯罪史(1976)、デジタル三人三色(2005)、DEAD END RUN(2003)、デビッド・リンチのホテル・ルーム(1992)、にごりえ(1953)、ニューヨーク・ストーリー(1989)、ネクロノミカン(1993)、バカヤロー!4 YOU!お前のことだよ(1991)、百年恋歌(2005)、フィガロ・ストーリー(1991)、フラート(1995)、BLACK NIGHT(2006)、ヘアスタイル(2005)、ポーの恐怖物語(1962)、坊やの人形(1983)、ポッキー坂恋物語 かわいいひと(1998)、マゴニア(2001)、まぶしい一日(2006)、ミステリートレイン(1989)、MEMORIES(1995)、夜ごとの夢/イタリア幻想譚(1991)、世にも怪奇な物語(1968)、私が女になった日(2000)

 ・4話 愛の神、エロス(2003)、愛のめぐりあい(1995)、アサイラム 狂人病棟(1972)、イタリア的恋愛マニュアル(2005)、怪談(1965)、季節の中で(1999)、恋文日和(2004)、サザン・ウィンズ(1993)、Jam Films2(2003)、世界詐欺物語(1964)、TAMPEN 短篇(2000)、トワイライトゾーン/超次元の体験(1983)、呪われた墓(1973)、バカヤリー! 私、怒ってます(1989)、バカヤロー!2 幸せになりたい(1989)、バカヤロー!3 へんな奴ら(1990)、フォー・ルームス(1995)、ブラッド・ゾーン(1971)、ボッカチオ’70(1962)、真夜中の少女たち(2006)、夢の中の恐怖(1945)、四つの恋の物語(1947)、世にも奇妙な物語 映画の特別編(2000)、四人夜話(2004)、乱歩地獄(2005)、ロゴパグ(1963)、“ONE DAY IN EUROPE”(2005)

 ・5話 愛と怒り(1969)、カオス・シチリア物語(1984)、監督感染(2003)、KILLERS(2002)、クリープショー(1982)、怖がる人々(1994)、残酷の沼(1967)、J・MOVIE・WARS(1993)、ZOO(2005) 、人生模様(1952)、スパイシー・ラブスープ(1998)、世界はときどき美しい(2006)、第1回欽ちゃんのシネマジャック(1993)、第2回欽ちゃんのシネマジャック(1994) 、テラー博士の恐怖(1964)、天使が降りた日(2005)、トーリ(2004)、ナイト・オン・ザ・プラネット(1991)、二十歳の恋(2002)、華やかな魔女たち(1966)、パリ・ストーリー(1988)、パルコ・フィクション(2002)、female フィーメイル(2005)、メールで届いた物語(2005)、もし、あなたなら2〜五つの視線(2006)、われら女性(1953)

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 ・6話 アート・オブ・エロス 監督たちの晩餐(1993〜2000)、愛すべき女・女たち(1967)、kino(1998)、パリところどころ(1965)、マネーざんす(2001)、もし、あなたなら〜6つの視線(2005)、
 “Montreal Vu Par”(1991) *モントリオールを舞台にした、6人の監督による6つのオムニバス。参加監督は、ドゥニ・アルカン、アトム・エゴヤン、パトリシア・ロゼマら。日本未公開。

 ・7話 Jam Films(2002)、Jam Films S(2004)、新7つの大罪(1962)、それでも生きる子供たちへ(2005)、巷の恋(1953)、デカメロン(1970)、10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス(2002)、東京★ざんすっ(2001)、七つの大罪(1952)、ベッドタイム・ストーリーズ(1997)、ロスト・ストーリー 現代の奇妙な物語(2005)

 ・8話 over8(2006)、カンタベリー物語(1971)、10ミニッツ・オールダー イデアの森(2002)、フランス式十戒(1962)、夢(1990)

 ・9話 セッソ・マッソ(1973)、チューブ・テイルズ(1999)

 ・10話 ユメ十夜(2007)、夢十夜 海賊版(2007)

 ・11話 いぬのえいが(2004)、歌謡曲だよ、人生は(2007)、コーヒー&シガレッツ(2003)、11’09”01/セプテンバー11(2002)

 ・12話 刑事まつり(2003)

 ・13話 キング・オブ・アド(1991)

 ・16話 TOKYO LOOP(2006)

 ・18話 パリ、ジュテーム(2006)

 ・20話 20のアイデンティティ(2003)

 ・21話 ナイスの森(2004)

 ・24話 “Scénarios sur la drogue”(2000)
 *ドラッグをモチーフにしたフランス製オムニバス映画。参加監督は、エマニュエル・ベルコ、ディアーヌ・ベルトラン(『薬指の標本』)、ギヨーム・カネ、エンティエンヌ・シャリティーズ、ヴァンサン・ペレーズ、アルノー・セリニャック(『ラスト・ファンタジー』)、マリオン・ヴェルヌー(『ラブetc.』)ら。日本未公開。

 ・25話 “Visions of Europe”(2004)
 *EU加盟国25カ国から選出された監督が、それぞれの国の今(もしくは未来)を伝える短篇を作り、1本の映画にまとめたもの。参加している監督は、ファティ・アキン、バーバラ・アルベルティ、トニー・ガトリフ、ピーター・グリーナウェイ、アキ・カウリスマキら。日本未公開。

 ・36話〜冬の日

 ・40話〜キング・オブ・フィルム 巨匠たちの60秒(1965)

 *そのほか、アニメーション作家ビル・プリンプトンには、独立したたくさんのエピソードで構成される一連の作品があります。

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 ◆オムニバス映画のバリエーション

 ・いくつかの挿話がほぼ独立して語られる“オムニバス風”の作品(オムニバス映画というよりは、いくつかの独立したエピソードで構成される作品)
 美しい人(2005)、彼女の恋からわかること(2002)、彼女を見ればわかること(1999)、GiNGA ジンガ(2005)、tokyo.sora(2001)、レアル ザ・ムービー(2005)

 ・いくつかの(ほぼ)独立した挿話が1本の作品の中で併行して語られるもの
 サッド・ムービー(2005)、ショート・カッツ(1994)、バベル(2006)、マグノリア(1999)

 ・いくつかの独立した挿話が複雑に構成されるもの
 アモーレス・ペロス(1999)、ドッグ・デイズ(2001)、21g(2003)、パルプ・フィクション(1994)、微笑みに出逢う街角(2002)

 ・そもそも無関係の短篇を集めたもの
 水の話/プチ・シネマ・バザール(1994)、カンヌSHORT5(2001〜2003)

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 ◆オムニバス映画のテーマ・モチーフ・コンセプト・条件

 ・都市
 パリ〜パリところどころ、パリ・ストーリー、パリ,ジュテーム
 ニューヨーク〜ニューヨーク・ストーリー
 ロンドン(の地下鉄)〜チューブ・テイルズ
 東京〜東京★ざんすっ、TOKYO LOOP
 モントリオール〜“Montreal Vu Par”
 キシュ島〜キシュ島の物語
 ※メンフィス〜ミステリートレイン

 ・原作もの
 アーヴィン・ウェルシュ『アシッド ハウス』〜アシッド ハウス
 石坂洋次郎『石中先生行状記』〜石中先生行状記
 乙一『ZOO』〜ZOO
 柴門ふみ『新・同棲時代』〜新・同棲時代
 チョーサー『カンタベリー物語』〜カンタベリー物語
 夏目漱石『夢十夜』〜ユメ十夜
 樋口一葉『にごりえ』〜にごりえ
 ボッカチオ『デカメロン』〜デカメロン
 松尾芭蕉『冬の日』〜冬の日

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 ・同じ小説家の作品を原作とするもの
 アルチュール・ジャピン〜マゴニア
 石坂洋次郎〜くちづけ
 H・P・ラブクラフト〜ネクロノミカン
 エドガー・アラン・ポー〜ポーの恐怖物語
 江戸川乱歩〜乱歩地獄
 O・ヘンリー〜人生模様
 源氏鶏太〜四つの恋の物語
 小泉八雲〜怪談
 ジョージ朝倉〜恋文日和
 つげ義春〜ゲンセンカン主人
 トニーノ・グエッラ〜夜ごとの夢/イタリア幻想譚
 ナサニエル・ホーソーン〜恐怖の夜
 ホワン・チュンミン〜坊やの人形
 村松梢風〜女経
 リチャード・マシスン〜恐怖と戦慄の美女
 ルイジ・ビランデッロ〜笑う男
 ロバート・ブロック〜アサイラム 狂人病棟、残酷の沼、ブラッド・ゾーン

 ・主人公の設定に共通項があるもの
 タクシー・ドライバー〜ナイト・オン・ザ・プラネット
 現代の東京で暮らす若い女性〜tokyo.sora
 17歳の女子高生〜真夜中の少女たち
 各国の子どもたち〜それでも生きる子供たち

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 ・場所の設定
 ホテル〜フォー・ルームス、デビッド・リンチのホテル・ルーム
 ベッド・ルーム〜ベッドタイム・ストーリーズ
 列車の中〜明日へのチケット

 ・あるモチーフが出てくること
 日産フィガロ〜フィガロ・ストーリー
 メ〜ル〜メールで届いた物語

 ・状況の設定が同じ
 恋人が旅立つことへの不安から昔の恋人に会いに行くと……〜フラート
 逃げ続ける男〜DEAD END RUN
 主人公が殺し屋で極限状況から銃を使って逃げること〜KILLERS
 コーヒーとタバコがある状況〜コーヒー&シガレッツ

 ・その他のテーマ
 愛とエロス〜アート・オブ・エロス 監督たちの晩餐、愛の神,エロス
 イスラム社会で生きる女性〜私が女になった日
 犬〜いぬのえいが
 お金〜マネーざんす
 髪型〜ヘアスタイル
 歌謡曲〜歌謡曲だよ,人生は
 現実に起きた猟奇犯罪を再現〜戦後猟奇犯罪史
 死の向こう側にあるもの〜THREE/臨死
 時間〜10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス、10ミニッツ・オールダー イデアの森
 娼婦の愛の歴史〜愛すべき女・女たち
 人権〜もしあなたなら〜6つの視線、もしあなたなら〜五つの視線
 聖書の七大罪〜七つの大罪、新7つの大罪
 デジタルの可能性〜三人三色、デジタル三人三色
 天使〜天使が降りた日
 夢〜夢、ユメ十夜、夢十夜 海賊版、夜ごとの夢/イタリア幻想譚

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 ・ある種の条件・コンセプトが設けられたもの
 近未来の物語を8ミリで撮影しデジタルで仕上げること〜over8
 女性作家の小説を原作とする〜female フィーメイル
 もし映画に監督がいなかったら〜TAMPEN 短篇

 ・同じ監督の全くタイプのことなる作品を集めたもの
 浅野忠信〜トーリ
 佐藤雅彦〜kino

 ・記念映画
 同時多発テロ1周年〜11’09”01/セプテンバー11
 アセアン25周年〜サザン・ウィンズ
 韓国映画アカデミー20周年〜20のアイデンティティ

 ・撮りたいテーマを自由に
 第1回欽ちゃんのシネマジャック、第2回欽ちゃんのシネマジャック、Jam Films、Jam Films S、Jam Films2

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 ◆オムニバス映画の傾向

 ・多いのは、3話もの、4話もの、5話もの。

 ・圧倒的にホラー系の作品が多い。

 ・オムニバス映画はシリーズ化されることが多い。

 ・オムニバス・タイプの作品を好んで作る監督もいる。例えば、ピエル・パオロ・パゾリーニ、タヴィアーニ兄弟、ロバート・アルトマン、ジム・ジャームッシュ、ウォン・カーウァイ、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトウ、ロドリゴ・ガルシア、トッド・ソロンズ

 ・最も多くオムニバス作品に参加しているのは、おそらくジャン=リュック・ゴダール(フェリーニも多いけど)。『新七つの大罪』『ロゴパグ』『パリところどころ』『愛すべき女・女たち』『愛と怒り』『キング・オブ・アド』『10ミニッツ・オールダー イデアの森』。
 他の参加監督のとの兼ね合いもあるのでしょうが、ゴダールがヌーヴェルヴァーグの象徴的存在であるのと、同世代の映画作家が倒れていく中で長く現役生活を続けていること、規定の長さや企画に合わせた作品を作り出すことができること、などいくつかの要因があって、結果的に、ゴダールが頻繁にオムニバス映画に参加していることになったのだろうと思われます。

 ・オムニバス作品の中の1編が、長編化される事も稀ではない。『美しい夜、残酷な朝』→“Dumpling”、『三人三色』(2004)→『鏡心』、『デカローグ』→『殺人に関する短いフィルム』『愛に関する短いフィルム』など。

 ・実は「オムニバス映画は当たらない」というジンクツもあり、映画紹介で意図的に「オムニバス」と明示しないことも多いようです。
 *実際のところ、上にリスト・アップした中で、映画館でお客さんが私1人だけだった!という作品が1本あります。

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 ◆なぜ今 オムニバス映画?

 ・邦画でオムニバス映画が多くなってきているのは、おそらく“邦画バブル”的な状況があって、意欲的な監督が多く出てきているのと、映画監督をやってみたいという人がたくさんいて、かつ、企画と監督&出演者の顔ぶれが面白ければ、お金が集まりやすく、企画も実現しやすい状況にあるからなのだと思います。

 ・加えて、デジタル撮影によって、以前に比べて遥かに撮影が容易になり、また、DVDの普及によって、劇場公開で製作費を回収しなくてもよくなった、ということもオムニバス映画を作りやすくした一要因となっていると思われます。

 ・全世界的に見れば、やはり世界が小さくなってきているということがあると思います。映画製作に関して人的・金銭的交流が多くなり、他国の原作を映画化することも日常茶飯事になっていますから、日本映画同様、企画と監督&出演者の顔ぶれが面白ければ、話は早いですね。いろんな国の監督やスターが参加すれば、その分、各国での上映や公開の機会も増えるだろうという計算も当然なされていると思われます。

 ・プロジェクト的には、日本レベル、アジア・レベル、全世界レベルという3つのレベルがあって、全世界レベルの作品はまだそんなに多くありませんが、アジア・レベルの作品はわりとよく見かけるようになってきました。『サザン・ウィンズ』、『三人三色』、『THREE/臨死』、『美しい夜、残酷な朝』、『about love アバウト・ラブ』『BLACK NIGHT』……。こうした作品群のさきがけとなった作品に1991年の<アジアン・ビート>の連作があります。

 こうした企画には競わせて面白そうな監督群の存在が必須ですが、それらの監督を組み合わせることのできるプロデューサーも必要になってきます。オムニバス映画は、プロデューサーの腕の見せ所でもあり、映画プロデューサーとなったからには、自分の好きな監督や出演者を集めて1本の作品を作ってみたいというは、1つの夢で、その時々の自分の実力を測るバロメーターにもなる、とも思われます。
 オムニバス映画専門のプロデューサーというのはいませんが、オムニバス映画を得意とするプロデューサーや、印象的な何本かのオムニバス映画を手がけているプロデューサー、というのは何人かいるようです(オムニバス映画の範疇に収まらず、シリーズや連作になる場合もあります)。例えば、河井信哉(『Jam Films』シリーズ、<DUEL>)、一瀬隆重(『いぬのえいが』『ネクロノミカン』)、ピーター・チャン(『美しい夜、残酷な朝』)、ジャック・ペラン(『11’09”01/セプテンバー11』『リュミエールの子供たち』)、ドメニコ・プロカッチ(『明日へのチケット』『愛の神、エロス』)、ステファーヌ・チャルガディエフ(『愛の神、エロス』『愛のめぐりあい』)……。

 テレビの連続ドラマでは、各回に異なる監督・演出家を割り当てることが多く、テレビのプロデューサーは職業上そういうことに得意とならざるを得ないのですが、その延長線上ということなのか、オムニバス映画もテレビのプロデューサーが手がけることも多いようです。例えば、『ユメ十夜』『パリ、ジュテーム』(企画)など。

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 ◆理想のオムニバス映画とは?

 オムニバス映画は、@各編が短い時間で仕上げられるので、複数の監督に声をかけて企画を立ち上げれば、同時多発的に短期決戦で一気に完成に持っていける、とか、A短編であればあまり映画の素養や演出の経験がなくてもできるのでいつかは監督する側にまわりたいと思っている俳優やタレントが手を出しやすい、とか、B複数の監督・多数の出演者による作品であれば作品としてのフックも多くなり、丸ごと失敗してしまうというリスクが回避できる、とか、ということがあって、オムニバス映画というだけでちょっと安易に感じられるところもあります。

 オムニバス映画であれば、まあまあのエピソードがいくつかあり、かなりいいエピソードがあればそれで満足してしまいがちなのですが、そういう消極的な向き合い方ではなくて、「各編が全体に奉仕しつつ、それぞれも面白くある理想のオムニバス映画」というのも考えてみたくなります。

 そうなるための仕掛け(条件ではない)はいくつか考えることができて――
 @プロローグとエピローグ、つなぎのパートがあること。
 A案内役がいて、各エピソードの前に簡単なイントロダクションが行なわれるもの。
 Bそれぞれのパートがどこかでつながっていること。
 Cすべてのパートに共通の人物が出てくること。
 Dそれぞれのパートが全体のどこに当たるのかが示されているもの(あらかじめ全体像が示されているか、流れが示されているもの)。

 また、3話ものくらいならともかく、4話以上のオムニバスであるならば、全体としての流れも重要で、私の考える理想は――
 まず最初にイントロダクションとしてふさわしい作品があり(あまり刺激的ではなく、すっと映画に導いてくれるようなもの)、ラストの手前に大きなカタストロフィーがある作品があって、ラストは気持ちよく映画館を後にできるような、「この映画を観てよかった」と思えるようなホッとする作品がくること、
 でしょうか。
 1人の監督によるオムニバス映画だとこの点も考慮されている場合が多いのですが、複数の監督によるオムニバス映画だと各編の自己主張が強くなってしまうというか、全編がメインディッシュみたいな顔をしていたりもするので、ずっと観ているとげんなりさせられるというか、もっと何とかならなかったのかと思ってしまったりします。

 以上を踏まえて、理想のオムニバス映画を探すと、1つの典型的な作品として、クシシュトフ・キェシロフスキの『デカローグ』に行き着きます。あの作品は、全10話で1本の作品であって、本当はオムニバス映画ではないのですが、これほど理想を備えたオムニバス作品は他には見当たりません。各編が全体のどこに当たるのかは、タイトル(十戒)で示され、すべての物語が同じ団地を舞台として進行するので世界観も共通している。そして、登場人物が別のエピソードにも出入りし、すべてのエピソードに登場する人物も出てくる。そして、イントロダクション的な物語で始まって、劇的な物語があり、最後は気持ちよく終わる。

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 まあ、理想というか、これを基本として、いろいろバリエーションを試みるのは全然構わないのですが、こういう、オムニバス映画のあるべき姿を考えた作品というのはあまりないような気がします。

 ここまでは、以前から考えていたことなんですが、『パリ、ジュテーム』を観ると、これもまたよくできたオムニバス映画になっていて、ちょっと驚かされました。
 まず、何と言っても、各編があまり自己主張してないでさらっとしていて、各編とも粒(作品の出来、作品のトーン、出演者の知名度、等)が揃ってるのがいいですね。

 これが偶然そうなったのかと思うと、全然そんなことはなくて、劇場パンフを読むと、これはよく考えられ、練られた結果で、いろんな仕掛けがあったことがわかります。

 まず、最初に企画ありきではなくて、トム・ティクヴァの短編がこの2年も前に短編としてできていて(ベルリン国際映画祭の短編部門に出品され、ドイツ・ショート・フィルム・アワードではグランプリを受賞している) 、そこからこの作品がパイロット版となり、パリを舞台にしたロマンティックな出会いをテーマとしたオムニバス映画として、企画が進んでいったそうです。
 その上で、各パートをパリのあらゆる地区に分散させるように工夫し、出来上がった各作品もどういう風に並べたらいいか何十通りも試された(劇場パンフによると公開バージョンは81番目のもの)ということです。もちろん各編の監督には『パリところどころ』もイメージの中にあったと思います。

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 当初は、各編を交流させる計画もあったようで、それは、エンド・ロールで観られるほか――
 ヴィンチェンゾ・ナタリ編にウェス・クレイヴン(ヴァンパイアの犠牲者)が出演している
 ウェス・クレイヴン編にアレクサンダー・ペイン(オスカー・ワイルドの幽霊役)が出演している
 という形で実現しているようです。

 すべてのオムニバス映画で、これと同じことをするのは不可能ですが、ひとつのやり方として参考にできるとは思います。

 ただ、そうは言っても、やはり18編というのは多すぎで、いいと思うパートがあっても余韻を味わってる余裕がないので、前の編を味わってる間に、次の編がどんどん進んでいってしまい、余韻も何もあったもんじゃない、という事態(オムニバス映画の致命的な欠点)にぶち当たってしまうのですが。

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 ◆今後オムニバス映画として映画化を期待したい作品

 今、パッと思いつくところから、ランダムに挙げてみたいと思います。

 ・ずっと以前から映画にならないかなと思っている作品に、花輪和一の中世を舞台にした一連の作品があります。3編くらいを1本にまとめて、アニメーションか、『快盗ブラック・タイガー』のような総天然色ムービー的な実写映画になるといいなと思うのですが、どうでしょうか。

 ・『ZOO』がオムニバス映画化された乙一作品もまだまだオムニバス映画となる可能性があると思います。その手始めは、もちろん『GOTH』ですが。

 ・優れた短編の書き手である横山秀夫や岩井志麻子作品もオムニバス映画にできると思います。横山秀夫は初期短編集のいずれか、岩井志麻子は『岡山女』『邪悪な花鳥風月』あたりでしょうか(岩井志麻子は、長編映画として『楽園』や『夜啼きの森』も期待しているんですが)。

 ・坂東真砂子のエロスものもいいのですが、成人映画になってしまいそうなきらいもあります。露骨な描写を抑えることができれば映像化も不可能ではないでしょうか。作品は『13のエロチカ』あたり。

 ・もはや忘れられかけている稲見一良の作品もオムニバス向きかもしれません。映像が目に浮かぶような作品も多かったような印象があります。

 ・昨年話題になった『あなたに不利な証拠として』もオムニバス映画化向きですね。

 あと、原作もの以外では、『パリ、ジュテーム』の東京版や大阪版(『大阪、好きやねん』、阪本順治・犬堂一心・市川準・行定勲らを監督として)、バスをモチーフとしたもの、ねこのえいが、それぞれの9.11(『tomorrow/明日』または『ボビー』のようなスタイルで)、映画館にまつわるオムニバス(モギリ嬢、映写係、館主、監督、観客、映画会社スタッフ等のエピソードで1本の映画にからめる。あるいは『楽日』のようなスタイルで)、ラーメンやカレーライズなど食をテーマにした作品(あるいは『立喰師列伝』のようなスタイルで)……。

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 *参考サイト
 Hitoshi Sakagamiさんのオムニバス・ホラーの愉しみ:http://www.d1.dion.ne.jp/~hsakagam/essey2.htm

 *当ブログ関連記事
 ・映画の中の東京、または、『パリ、ジュテーム』東京版の試み

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シネマ・ワンダーランド
2008/03/02 22:50
『パリ、ジュテーム』'06・仏・独・リヒテンシュタイン・瑞
あらすじ男には、交際1年半になる客室乗務員の愛人がいる。今日、妻を愛していないことに初めて気づいたレストランで男は妻に別れ話を切り出すつもりだった・・・(バスティーユ)感想パリをテーマに、複数の監督が競作したオムニバス映画。話、短っ!1つの話が、5分ぐ... ...続きを見る
虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映...
2008/04/21 21:23
パリ、ジュテーム
18組の監督が、 20区、それぞれのパリの街を舞台にした 短編オムニバス映画です。 「ニューヨーク、アイラブユー 」を観て 興味が湧いたのでDVDで観てみました。 「ニューヨーク、アイラブユー 」以上に ビッグネームが並ぶキャスト。 私の好きなウィレム・デフォー様が出 ...続きを見る
映画、言いたい放題!
2010/05/19 00:38

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
おはようございます★
あいかわらずスゴイボリュームの充実した記事ですね!圧巻です。

パリの良さが十分に伝わる贅沢な1本でしたね、
わたしはトロント映画祭で最初にみたので
かなりちんぷんかんぷんなものもあったので、雰囲気だけ楽しんだりしていたんですが、日本語で改めてきちんと理解できて、この映画の良さ、堪能しました★

日本版もぜひ実現してほしいです!
トムティクヴァの昔の長編、『マリアの受難』が今渋谷で公開してるのでみたいんですが、レイトのみなので
なかなか時間とれず、、、、
いけたら見たいと思ってます。
mig
URL
2007/03/28 10:12
migさま
TB&コメントありがとうございました。
オムニバス映画って、普通の長編より格下に見られがち、というか、私自身も格下に見がちなんですが、こうやってリスト・アップしてみるとどの作品も何かしら印象に残っていて、まんざら悪くなかったなあ、などと思い返してみたりしました。
『マリアの受難』は私も観に行くつもりです。
umikarahajimaru
2007/03/29 01:00

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オムニバス映画の魅力 『パリ、ジュテーム』など 海から始まる!?/BIGLOBEウェブリブログ
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