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zoom RSS 油絵という表現手段が引き出す作品の魅力 アレクサンドル・ペトロフ 『老人と海』

<<   作成日時 : 2007/03/14 07:00   >>

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 2000年、米国アカデミー賞短編アニメーション賞受賞作品。

 『マーメイド』『春のめざめ』のアレクサンドル・ペトロフ監督による『老人と海』です。

 You Tubeにアップされている動画は、なぜか約10分ずつに2分割されています。

 台詞が英語なのと、20分という長さがあることで、観るのにちょっと億劫になってしまいますが、物語的には、海に出てしまえば、あとは老人の独り言だけなので、それほど台詞に気を取られないで鑑賞することができます。

 前篇
 
 後篇
 

 【物語】 船の上で大洋からの風を気持ちよさそうに受ける少年。小船に乗り換えて陸へ。浜からは丘とみえたそれは、アフリカゾウの群れに変わり、やがてアフリカの大地に生きるシカやライオンなどの動物が次々と姿を現す。
 これは、老人サンチアゴの夢で、彼が少年時代に船で旅した時のお気に入りの思い出だった。
 サンチアゴがハンモックで寝ていると、少年が食事を届けてくれる。少年は、不漁のために老人が食事を満足に取っていないことを知っていたのだ。もう84日も不漁が続いている。
 少年は一緒に漁に出ようというが、サンチアゴは運が向いていないからと言って彼を遠ざけ、代わりにこのごろよく夢に見るアフリカの話をして聞かせる。

 まだ暗い時間に、サンチアゴは、少年に見送られて、港に向かう。「ぼくを初めて舟に乗せてくれたのはいつだったっけ?」「おまえが5歳の時だ。覚えてないのか?」「もちろん憶えてるよ」
 小さな明かりを灯して、出航するサンチアゴ。それを見送る少年。「幸運を!」

 空を舞う海鳥が海に飛び込んで、魚を加えて、飛び去っていく。ここらはたくさんの魚がいそうだ。
 サンチアゴが垂らす3本の釣竿にも次々と魚がかかる。だが、サンチアゴが狙っているのはこういう小物ではない。釣竿で釣った小魚を使って、もっと大きな魚を釣るのだ。
 釣竿をしまい、小魚を使って、本格的な漁を始める。
 小魚に結わえた綱に引きがある。サンチアゴは、綱をつかんでふんばるが、その引きの大きさはかつて感じたことのないほどで、舟が大きく揺さぶられる。しかし、急に手ごたえがなくなり、エサだけ持っていかれたと知れる。今のはいったい何だったのだろう。

 日が暮れ、また日が昇る。
 舟の上で眠っていたサンチアゴは、海に垂らしていた綱が激しい勢いで引っ張られるのに気づいて目を覚ます。綱を掴むと、綱を引く力で舟がぐんぐん引っ張られていく。
 すると、突然、海面が盛り上がったと思うと、大きなカジキマグロが海上に飛び跳ねる。
 またもやエサは持っていかれたが、絶対にヤツをつかまえてやるという強い闘志がサンチアゴの胸の中にみなぎるのだった。

 また日が変わる。

 サンチアゴは、自分も年を取ったかなと思いながら、かつて昼夜を通して、屈強な相手とカサブランカの酒場でアーム・レスリングをした若い日のことを思い出す。
 順調に勝ち進んだサンチアゴはついに最強の相手と戦うことになる。2人は互角で、腕を組んだまま、時間だけが過ぎていく。レフリーも何人も変わり、客もいなくなって、次の朝を迎えた頃、サンチアゴがようやく相手を倒したのだ。
 サンチアゴは、あのカジキマグロを自分の同士とも思い、倒さなければならない相手とも思うのだった。

 再び、あのカジキマグロがサンチアゴの仕掛けにかかる。強い力で引っ張られるサンチアゴ。
 綱がピンと張り詰めたまま、ただ時間だけが過ぎていく。
 「助けてくれ」。サンチアゴがそう思い始めた頃、ようやく獲物を舟の近くに引き寄せることに成功し、彼はヤツ目掛けてモリを放つ。

 死闘は終わり、サンチアゴはカジキマグロを舟に横付けして、帰路につく。
 「これだけ死力を尽くして闘ったのだから、ヤツも満足しただろう。ワシもさすがに疲れた。年を取ったからな。だが、ついにやったのだ」
 その時、カジキマグロを狙って、サメが近寄ってきているのを見つける。
 モリでサメを狙うが、モリを海中に持っていかれてしまう。
 慌てて、オールの先にナイフをくくりつけて、急ごしらえのモリを作るが、その間にもカジキマグロは無残な姿になっていってしまう。
 そのオールも折れ、錨をつるすチェーンを振り回すが、サメの群れを前にしてはもはやどうすることもできない。
 「ごめんよ」
 サンチアゴは、雄雄しくともに闘ったカジキマグロをこんな目に遭わせて、ただ謝るしかなかった。

 頭だけ残したカジキマグロをゆわえたサンチアゴの舟が、港に漂着するような形で泊まっていて、人々が集まってくる。

 少年は、心配になってサンチアゴの家に向かうと、サンチアゴは疲れてベッドに横になっている。「みんな、心配して捜索もしたんだよ」と少年。「もう運に見放されちまったようだ」とサンチアゴが言うと、少年は「運ならぼくが持っていってあげるよ」と言って、老人を励ますのだった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 タイトルだけは知っていて、実は私も読んだことはなかったヘミングウェイの『老人と海』。死力を尽くして正々堂々と闘う男のダンディズム、ヒロイズム、マチズモについての話だったんですねえ。ともに闘った相手を称え、それがどんなに凄いことであっても、闘った当人同士だけにわかればいいことで、自分から他人に吹聴したりはしない。う〜ん、かっこいい。(個人的には、「死力を尽くして闘って、それでも敗れる」という結末でもよかったんですけどね。)

 最初に観た時は、この作品の眼目であるはずの、老人とカジキマグロの死闘のシーンが案外あっさりしたものだったので、拍子抜けしたんですが、繰り返し観ると、このくらいに抑制の効いたものの方がいいんじゃないか、という気もしてきました。

 既に『マーメイド』を観ているためか、油絵が動き出すことにもさほど驚きは感じなくなってきているのですが、それでもやっぱり素晴らしいですね。刻々と光を変えていく空や雲、水面の描写が、見事で、クールベあたりをお手本にしているのではないかと感じました。『マーメイド』もそうでしたが、1つ1つのシーンがそれだけで1つの絵画作品としての絵画的な完成度と味わいがありますね。

 加えて、前作以上に、カメラが自在に動きまわり、映像にダイナミズムがあります。
 サンチアゴが海鳥を見上げた後、その海鳥からのアングルにカメラが切り替わり、海鳥の視点で海面に飛び込んで水中で魚を加えて、再び空へと舞い上がるシーン、サンチアゴが夢の中で、カジキマグロと併泳し、そのまま空へと自由に空想を遊ばせるシーンなど、実は、カジキマグロの死闘のシーン以上にダイナミックと言っていいかもしれません。

 この作品の最大の魅力は、やはりこれが油絵の具によって描かれているということで、おそらく全く同じ物語をCGでクリアに表現されても、この味わいは出せなかったように思います。画面の上に散らばった絵具が、まるで意志を持ったように、自由に、イキイキと動きまわる、それがいいんですよね。油絵の具の作り出す、光と影、静と動、やさしさと力強さ、こういったことでは、CGはどうあがいても油絵の具に太刀打ちできないのではないでしょうか。
 この手法は、物語を選ぶんじゃないかとは思いますが(光の変化に乏しい作品や台詞のやりとりで進行するような物語には向かない)、もっともっと観たくなりますね。

 この作品は、ヘミングウェイ生誕100周年記念作品で、ロシアとカナダと日本の合作。この年に他にヘミングウェイ関連の映画は作られていないので、この作品が唯一生誕100周年記念作品となったようです。
 日本側のプロデューサーは、IMAGICAエンタテインメントの島村達夫で、この人は、連句アニメーション『冬の日』をプロデュースした人でもあります。
 ペトロフのこれまでの作品を観てみれば、フレデリック・バックのいるNFBがペトロフに興味を持ってもおかしくないと思ったのですが、この作品の製作に関わったカナダのベルナード・ラジョアという人はNFBの人とかではないようです。
 goo映画では、この映画の共同監督&共同脚本として和田敏克の名前が挙げられていますが、詳細は不詳です。

 この作品は、まず企画ありきで、ペトロフが監督に抜擢されたのだろうと考えられますが、それは見事に成功したように思います。ロシアの大地+若者の恋+民話的・寓話的な物語である『マーメイド』と、カリブ海+老人とカジキマグロの死闘+男のダンディズムの物語である『老人と海』では、なかなか共通点が見出せませんが、プロデューサーたちには、きっと完成した作品が見えていたということでしょう。

 ちなみに、米国アカデミー賞では、『老人と海』と『ある一日のはじまり』、ほか3作品が短編アニメーション賞を争って、本作が受賞したわけですが、カナダのアカデミー賞であるジニー賞では、『老人と海』『ある一日のはじまり』『テディ・ベアのルドヴィク 雪の贈り物』がノミネートされ、『ある一日のはじまり』が受賞しています。

 追記:小野耕世『世界のアニメーション作家たち』によると、『老人と海』はペトロフが長年やりたかった企画だそうで、必ずしもプロデューサー・サイドからの提案があって始まった企画ではないようです。
 また、本作は、制作開始から完成までに4年もかかっているそうで、最初からヘミングウェイ生誕100年に合わせた企画だったのか、偶然そうなったのか、判断がつきかねるところがあります。劇場公開時の資料がないので、ちょっとわからないんですね〜。

 ◆作品データ
 1999年/ロシア・カナダ・日/20分
 英語台詞あり/字幕なし
 アニメーション
 1999年 モントリール国際映画祭First Prize(短編部門)ノミネート
 2000年毎日映画コンクール 大藤信郎賞受賞、BAFTA最優秀短編アニメーション賞ノミネート、ジニー賞最優秀短編アニメーション賞ノミネート、米国アカデミー賞短編アニメーション賞受賞、アヌシー国際アニメーションフェスティバルグランプリ&観客賞受賞、第8回広島国際アニメーションフェスティバル(2000年) 優秀賞受賞

 日本版では、老人の声を三國連太郎、少年の声を松田洋治、ナレーションを納谷悟朗が務めています。

 *この作品は、1999年に東京アイマックス・シアターで『ヘミングウェイ・ポートレイト』とともに劇場公開されました。

 *この作品は、『老人と海/ヘミングウェイ・ポートレイト』としてDVD発売されています。

画像

 ◆監督について
 アレクサンドル・ペトロフ
 1957年ヤロスラヴリ州プリスタチャ村生まれ。

 美術専門学校で絵画を学ぶ。卒業後、モスクワのゼンソ映画大学アニメ画学部に入学し、イワン・イワノフ=ワ—ノの講座をとる。3年の時にユーリ・ノルシュテインの『話の話』を観て衝撃を受ける。81年、卒業と同時にウラルのスベルドロク(現エカテリンブルグ)の映画スタジオで、アニメーション美術を担当する。
 その後、改めて映画大学の“アニメーションの監督とシナリオライターのための特別コース”に入学し、ユーリ・ノルシュテインに教わる。

 卒業制作作品『雌牛』で広島国際アニメーションフェスティバル グランプリ受賞。

 ガラス板に油絵の具で絵を描くという手法(ガラス・ペインティング)を得意とし、文芸色の強い作品を発表し続けている。

 日本・カナダ・ロシアで共同製作した『老人と海』でアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞。
 『マイラブ 初恋』は、広島国際アニメーションフェスティバルで観客賞&国際審査員特別賞を受賞。タイトルを『春のめざめ』と変えて、三鷹の森ジブリ美術館の配給で2007年3月17日より、東京・渋谷シネマアンジェリカにて劇場公開(同時上映『岸辺のふたり』)。「『春のめざめ』原画展」が2007年1月27日より三鷹の森ジブリ美術館ギャラリーで開催。

 アレクサンドル・ペトロフ選出によるベスト・アニメーション(『世界と日本のアニメーションベスト150』(ふゅーじょんぷろだくと))は―
 『クラック!』『木を植えた男』『話の話』『霧につつまれたハリネズミ』『あおさぎと鶴』『岸辺のふたり』『禿山の一夜』『手』『灰色のめんどり』『草上の朝食』『タンゴ』『ボニファティウスの休暇』『犬が住んでいました』『ストリート』『がちょうと結婚したふくろう』『丘の農家』『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』『作家』『柔和な女』『ストリート・オブ・クロコダイル』。

 ・1981年 “Khalif-aist”<TV>[脚本]

 ・1984年 “Poteryalsya slon”[プロダクション・デザイナー]

 ・1986年 “Dobro pozhalovat”(Welcome)[アート・ディレクター]

 ・1988年 “Marathon”[アニメーター]

 ・1989年 『雌牛』 “Korova”(Cow)[監督]

 ・1991年 “I vozvrashchaetsya veter...”(And the Wind Returneth)[プロダクション・デザイナー]

 ・1991年 “Tsareubiytsa”[セット・デザイナー]

 ・1992年 『おかしな男の夢』 “Son smeshnogo cheloveka”(Сон смешного человека、The Dream of a Ridiculous Man)[監督]

 ・1997年 『マーメイド(水の精)』 “ Rusalka”(Mermaid)[監督]

 ・1999年 『老人と海』 “The Old Man and the Sea” [監督]

 ・2003年 『冬の日』の「影法の暁寒く火を焼きて あるじは貧にたえし虚家」(杜国)を担当[アニメーション制作]

 ・2006年 『春のめざめ(マイラブ 初恋)』“My Love” [監督]
 *当ブログ関連記事 「見直してみたら、凄かった! 『春のめざめ』」

 ・2006年 ニューファンドランド・ラブラドール州 プロモーション用アニメーション “Pitch Plant” [監督]

 ・2007年? “Pacific Life” [監督]

 *関連DVD
 ・『冬の日』

 ・『老人と海/ヘミングウェイ・ポートレイト』
 *「ヘミングウェイ・ポートレイト」は『老人と海』のメイキング・フィルムです。

 *当ブログ関連記事
 ・アカデミー賞短編アニメーション賞 リスト!

 ・アヌシー国際アニメーションフェスティバル グランプリ リスト!

 *映画『春のめざめ』関係のサイト
 ・三鷹の森ジブリ美術館:http://www.ghibli-museum.jp/mezame/
 残念ながらサイト画面の分割がうまくできておらず、せっかくの文章をちゃんと読むことができません(2007年3月現在)。
 ・ローソン特設サイト:http://www.lawson.co.jp/lawson_more/ghibli/mezame.html

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。
続けてこちらにも遊びに来ましたが、私のPCOSに問題があるようで観る事が出来ませんでした。…が、またいつかDVDを観る日の為に楽しみとしてとっておきます。

それでは、また。
お邪魔しました。

髭ダルマLOVE
2008/07/12 18:00
髭ダルマLOVEさま
なぜ視聴できないのかはわからないのですが……。
『老人と海』は台詞があるので、日本語字幕がついた日本版DVDで観るのが観安いかもしれないですね。
umikarahajimaru
2008/07/14 19:57

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