『クリムト』よりも面白く、『モディリアーニ 真実の愛』や『ポロック』などよりも真に迫っている。公開劇場が地味だし、全くと言っていいほど話題になっていませんが、実在の人物の半生を描いた映画としてここ数年でもベストの1本と言える作品であり、2006年秋映画のマイ・ベストとなったのが、この『ニキフォル 知られざる天才画家の肖像』です。 まあ、あんまり大げさに褒めるのもどうかと思うので、“拾い物の1本”という程度にとどめておいてもいいのですが、この映画が、映画評論家や映画ライターの心を打った(この映画について書きたい、紹介したいと思わせた)のは確かなようで、タイトルで検索すれば、かなりの数の好レビューがヒットすることからもそれはわかると思います。それが巷の話題にはうまく結びついていないのは、残念なことですが……。 ニキフォルは、1895年生まれのポーランドの画家(1968年没)で、画家としての正式な教育を受けていないどころか、読み書きもできなかったと言われています。観光客相手に自分の書いた絵を道端で売って生計を立てていて、地元の住民には変人、もしくは厄介者、あるいは浮浪者に近い扱いを受けていたようです。映画『ニキフォル 知られざる天才画家の肖像』は、そんな彼を、自らも画家であり、美術関係の公的職務にもついていたマリアン・ヴォシンスキ(男性)という人物の目を通して描いています。マリアンも、最初はニキフォルを厄介者扱いしていますが、次第に見捨ててはおけなくなり、彼のために昇進も棒に振って、彼を見守り、彼に尽くすようになります。(原題の“Mój Nikifol”は、“マイ・ニキフォル”の意) マリアン・ヴォシンスキという人物について、映画に描かれているようなことが実際にあったのかどうかはわかりませんし、定番的な物語の展開と言えば全くその通りなんですが、ニキフォルとマリアンを演じる俳優の演技が巧みなのと、時代性や雰囲気の再現が見事なので、素直に感動できる作品になっています。 日頃まわりからほとんど省みられない(省みられなかった)人物の聖性を描き出すという意味では、映画『ヨコハマメリー』に通じるところもあるかと思います。 そんなニキフォルも晩年には、パリの画壇にまで認められるようになり、1959年にパリで個展(人生で初の個展)が開かれたりしているようですが、本人はそうした「社会的成功」や権威には全く無頓着だった、というのも皮肉が利いていて面白かったですね。 この映画におけるニキフォルの造形は、「素朴な善人」や「知られざる聖人」ではなく、「子どもみたいに無邪気なところもありながら、頑固で、他の画家をこきおろしたりするような口の悪さもある」と言ったもので、そこにリアリティーが出ていて、かえって魅力的なキャラクターとなっていました。 画家としてニキフォルが注目されたのは、一連の“素朴派”が“発見”されていく流れの中で、当時の西洋文明や合理主義への批判や反省からというものだったようですが、この映画が今受け入れられ、賞賛されるのも、この映画の訴えるものとニキフォルという存在が、現代社会が忘れてきたものを思い出させるようなところがあるからだと思います。 ◆クリスティーナ・フェルドマン ニキフォル(男性)を演じるのが、1920年生まれのポーランドを代表するベテラン女優クリスティーナ・フェルドマンだというのが、この映画の見どころの1つ。年をとると性別不詳になりがちではありますが、やっぱり見事ですねえ。2004年 グディニャ・ポーランド映画祭最優秀女優賞受賞 2005年 カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭最優秀女優賞受賞(チェコ) 2005年 プーネ国際映画祭最優秀女優賞受賞(インド) 2005年 バリャドリード国際映画祭最優秀女優賞受賞(スペイン) 2005年 シネマニラ国際映画祭最優秀女優賞受賞(フィリピン) 2005年 ポーランド映画賞最優秀女優賞受賞 フィルモグラフィー 1954年 『セルローザ(回想の一夜)』(イェジー・カヴァレロヴィッチ) 1968年 『人形』(W・ハス) 1985年 『イエスタデイ』(ラドスラフ・ピヴォヴァルスキ) 1987年 『モンローに憧れて』(ラドスラフ・ピヴォヴァルスキ) 1999年 「ファイヤー・アンド・ソード」(イェジー・ホフマン) 2001年 『ぼくの神さま』(ユレク・ボガエヴィッチ) 2004年 『ニキフォル 知られざる天才画家の肖像』 ◆クシシュトフ・クラウゼ監督 1953年ワルシャワ生まれ。1978年にウッヂ映画大学撮影科を卒業。長編デビューが30代半ばという遅めのデビューですが、以後の活躍が目覚しく、いまやすべての監督作品が大きな賞を受賞する実力派になっています。母親は女優のクリスティーナ・カルコウスカで、『ニキフォル』には“患者”役で出演している。 1979年 “Deklinacja” クラクフ映画祭Bronze Hobby-Horse of Cracow受賞、国際批評家連盟賞 1983年 “Robactwo” 1983年 “Jest” 1988年 “Nowy Jork, czwarta rano”(初長編) グディニャ・ポーランド映画祭新人監督賞受賞 1996年 “Gry uliczne” グディニャ・ポーランド映画祭審査員特別賞 1999年 『借金』 グディニャ・ポーランド映画祭グランプリ(Golden Lion)受賞、フィラデルフィア映画祭審査員賞受賞、ポーランド映画賞最優秀監督賞受賞 *2005年の<ポーランド映画 昨日と今日>@東京国立近代美術館小ホールにて上映(http://www.momat.go.jp/FC/Polish_Film/index.html) 2000年 テレビ・シリーズ“Wielkie rzeczy” 2004年 『ニキフォル 知られざる天才画家の肖像』 シカゴ国際映画祭グランプリ(ゴールデン・ヒューゴ賞)受賞、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭グランプリ(クリスタル・グローブ)&監督賞&ドン・キホーテ賞特別賞受賞 2006年 “Plac Zbawiciela”(共同監督ヨハンナ・コス) グディニャ・ポーランド映画祭グランプリ(Golden Lion)受賞 *何故か『ニキフォル』だけポーランド映画祭でもポーランド映画賞でも賞を逃していますが、該当年ではそれぞれ“Pregi”(Magdalena Piekorz)、“Wesele”(Wojciech Smarzowski)が作品賞を受賞しています。 ◆オリジナルHP(http://www.nikifor.com.pl/nikifor.php) 日本版のHP(http://www.nikifor-movie.com/)は割と簡素な作りなので、ここではポーランド版のオリジナルHPをご紹介してみたいと思います。 コンテンツは―― ・O FILMIE:作品について STRESZCZENIE:ストーリー EKIPA:クレジット OBSADA:インタビュー PRODUCENT:製作会社 ・Mój NIKIFOR:スタッフ&キャスト ・NIKIFOR-MATEJRO:ニキフォルについて BIOGRAFIA:バイオグラフィー OBRAZY:ニキフォルの作品(28点) BIBLIOGRAFIA:ビブリオグラフィー KSIAZKA:伝記本について ・OPINIE WIDÓW:BBS ・MULTIMEDIA:マルチメディア PRESSKIT:プレスキット(閉鎖) ZDJECIA:写真 Zdjecia z planu::撮影シーン(61点) Kadry z filmu:本編シーン(65点) TAPETY:壁紙 PLAKAT:ポスター MUZYKA:本編に使用されている音楽(8曲聴くことができる) ZWIASTUM:予告編 *このサイトはポーランド語のみの表記で、英語に翻訳して表示する機能はついていませんが、メルチメディアの部分などは、ポーランド語がわからなくてもそのまま楽しむことができます。 ◆ニキフォルについて 1895年 ポーランドのクリニツァ生まれ。母親は洗濯婦。父親は不詳だが、“T”という画家だったという噂もある。生まれや育ちについては明らかでないことが多い。読み書きもできなかった。 ニキフォルが絵を描き始めたのは、1920年代以前からで、技術の向上に努力した跡が見られるという専門家の指摘もある。 1930年代にクリニツァを訪れた画家たちによって紹介され始める。 最初にニキフォルを“発見”したのは、ウクライナのリヴォフの画家ロマン・トゥリンで、クリニツァでニキフォルと出会い、約200点をコレクションする。 1932年 ウクライナの国立美術館で開催されたリヴォフとエコール・ド・パリの画家たちという展覧会に作品が展示されたのが、ニキフォルが紹介された最初。 1938年 「アルカディ」という週刊誌に紹介される。 1956年 ドキュメンタリー映画“Mistrz Nikifor”(Jan Lomnicki)(1956/ポーランド/6min)公開 1959年 パリのギャラリーで人生最初の個展 1967年 ワルシャワのザヘンタ美術館で回顧展 1968年 フォルシュのサナトリウムで没。クリニツァの墓地に埋葬される。1995年 クリニツァにニキフォル美術館(http://www.culture.pl/en/culture/artykuly/in_mu_nikifora_krynica)オープン。 絵の題材は、街の風景や建物、教会、宗教画、聖人画など。 スクラップブック、厚紙、タバコの箱、チョコレートの包み紙など、素材を選ばずに描き、生涯4万〜5万もの作品を残す。その内、約2000点がニキフォル美術館に収められている。水彩画が多く、それに油絵の具やテンペラを併用した作品もある。晩年はクレヨンも用いた。 構図的には、対象を中心に据えて、モニュメンタルに描くことが多く、その結果、垂直方向、水平方向への広がりが強く、シンメトリカルになりがち。 作品には、“画家”もしくは“クリニツァの記念品”とサインされることも多い。 *この項 http://www.culture.pl/en/culture/artykuly/os_nikifor_krynickiを参照。 ◆この映画の中のニキフォル ・語録「家を描く時は下から描かないと崩れてしまう」・語録「色を使う時は、色に聞かなくてはいけない」 ・ラジオから流れる陽気な音楽が好き。 ・香水が好き? ・筆を洗わないくせに、筆を舐める癖がある。 ◆この映画の配給会社、またはお墨付き この映画を、日本で配給しているのは、映画評論家にして映画プロデューサーでもある江戸木純さんの会社でエデンという会社です。 江戸木純さんと言えば、『ムトゥ 踊るマハラジャ』でインド映画ブームを起こし、『ロッタちゃん はじめてのおつかい』でスマッシュ・ヒットを飛ばした映画の仕掛け人ですね。 提供がパイオニア映画シネマデスクとなっているので、エデン自身がこの映画の仕掛け人なのか(パイオニア映画シネマデスクに頼んでこの映画を買ってもらったのか)、宣伝・配給を請負っただけなのかはわかりませんが、この映画が江戸木さんイチオシの映画であることはまず間違いありません。この点でもこの映画の興味深さが窺えると思います。 江戸木さんが配給を手がけているのにヒットに結びつかなかったというのは、やはり宣伝に予算がかけられなかったからでしょうか(公開劇場である東京都写真美術館ホールというのは、ほとんど宣伝予算を持たないホールであるようです)。日本版の予告編を観ても、オリジナルの予告編にところどころ日本語のインサートを入れてるだけといった、ちょっと魅力に乏しいものであるのは、作品が素晴らしいだけに残念な気がしました。 ◆ニキフォルの作品が見られるサイト ・http://www.galeria.zakopane.pl/inside.php?tekst=140&id=7 ・http://www.gseart.com/exh/exh_invt.asp?ExhID=492 ・http://www.galeriebonheur.com/polish/nikifor/nikifor.htm ・http://images.google.co.jp/images?ndsp=20&hl=ja&lr=&rls=GGLJ,GGLJ:2006-37,GGLJ:ja&q=+site:www.ot-art.nl+Nikifor+ ◆オークション・サイト ・http://web.artprice.com/ps/psdetails.aspx?idArtist=NjQ5NjE2MTk0MTM0NzMt ◆切手もありました! ・http://www.poczta-polska.pl/znaczki/en/a1998_3.php *なかなかよく調べてあると思ったら、人気ブログランキングにクリックをお願いします。 ↓ ↓ ↓ ↓
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『ニキフォル 知られざる天才画家の肖像』
※ネタバレにつながる部分もあります。 鑑賞ご予定の方は、その後で読んでいただいた方がより楽しめるかも ...続きを見る |
ラムの大通り 2006/12/05 23:15 |
「ニキフォル−知られざる天才画家の肖像」
昨日、東京都写真美術館で「パラレル・ニッポン」を観たあと、1Fの映画館で「ニキフォル−知られざる天才画家の肖像」を観てきました。 ...続きを見る |
- CHAT NOIR - 2006/12/06 00:11 |
「ニキフォル 知られざる天才画家の肖像」
今秋、東京写真美術館ホールで公開されるクシシュトフ・クラウゼ監督作品「ニキフォル 知られざる天才画家の肖像」の試写。20世紀のヨーロッパにおける絵画分野で今もっとも注目されているニキフォル。ポーランドが生んだ“アール・ブリュッド”の聖人である。そんな彼の知られざ ...続きを見る |
やまたくの音吐朗々Diary 2006/12/06 13:23 |
“美しい孤独”に生きた天才の魂… 『ニキフォル 知られざる天才画家の肖像』
“今”がどんな時代かと問われれば、 それは“心が純粋じゃ立ち行かない”時代と言えるだろう。 言ぃ換えれば、周囲と違う自分に自信が持てない、 もしくは持たせてもらえない時代ということ。 “個性を尊重”と表向きには標榜されながら、 周囲に馴染めないと今度は“異端”と扱われ、 異端を毛嫌い、多数派に按ずる人間にここぞとばかり目の敵にされる。 一度、“異端”にされた人間は、悪いことをすれば「やっぱり」と言われ、 よぃことをすれば「偽善」と言われて、 そうしてどこかの少年も、独... ...続きを見る |
瓶詰めの映画地獄 〜俄仕込みの南無阿弥陀... 2006/12/08 20:24 |
ニキフォル 知られざる天才画家の肖像
ポーランドの天才画家ニキフォルと、彼の晩年を親身に支えた一人の男性との感動の実話を描いた伝記ドラマ。 小柄な老人ニキフォルを演じるのはポーランドのベテラン女優クリスティーナ・フェルドマン。監督はポーランドの& ...続きを見る |
ショウビズ インフォメーション 2007/03/05 20:24 |
ニキフォル 知られざる天才画家の肖像
ニキフォル 知られざる天才画家の肖像(2007/11/09)クリスティーナ・フェルドマン商品詳細を見る チェコのカルロヴィ・ヴァリ映画祭でグランプリ&... ...続きを見る |
メリエンダの鑑賞ノート 2008/06/29 19:12 |
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