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zoom RSS 私が棄てた男 映画『ゆれる』

<<   作成日時 : 2006/09/02 18:27   >>

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画像 真木よう子さん彼女が演じる川端智恵子は、内に欲望や願望を秘めながらも、日頃は感情の露出を抑えて、慎ましく生きようとしている、または、そうあろうとしているように見える女性。現状から抜け出したい、今より満足のできる生活をしたいとは誰しも思うものであって、それは決して分不相応というものではないし、至極自然なものです。そういう感情に確かな肉体を与えたのが、監督である西川美和さんであり、演じる真木よう子さんでした。その結果として、彼女の死は衝撃として、大いなる痛みとして観る側に迫って来て、その後の展開に観客を引き付けることにもなります。
 主演は、オダギリジョーさんと香川照之さんなんですが、そういう意味でこの映画のキーとなっているのは、(総出演時間は短いにしても)真木よう子さんだと私は考えるわけです。

 映画が終わったところからもう一度物語をたどり直してみると、猛の行動も、それを受け入れる稔も、どうかしていると思うし、自分の思い過ごしだったという方もそれで済まされる方もたまったものではありませんが、この映画の、最後まで観客を引き付ける力には並々ならぬものがあったと思いました。
 もっとも、混乱のうちに猛も稔もともに現実がそうだったと思い込んでしまったのか、猛が持ち前の傲慢さで兄を裁き、何でも諦めて受け入れる癖がついている稔がそれを黙って受け入れることにしたのか、映画本編の中でははっきりとは描かれていないのでわかりませんが……。

 物語のパターンとしては、「私が棄てた女」ならぬ「私が棄てた男」物語ということになるかと思います(ま、「私が棄てた女」でもあったんですが)。「私が棄てた女」とは、ある時、愛を誓いながらも、体裁や気の迷いからその女性を棄ててしまった男が、あとからその女性に対して罪の意識を持つ物語で、同名の映画やジュゼッペ・トルナトーレ『明日を夢見て』(1995)やタヴィアーニ兄弟『復活』(2001)など、これまで繰り返し映画や小説のモチーフとして採用されています。今回は、兄弟ではありますが、そのバリエーションとしての「私が棄てた男」なわけです。
 猛が智恵子にキスの仕方を教えるシーンがありましたが、あれは『明日を夢見て』からの引用だとも思ったのですが、単なる偶然でしょうか。

 事件の真実と、その時の心理状況を描いた作品としては、『羅生門』や『氷壁』が思い出されます。

 とっくりからこぼれた日本酒がズボンを濡らす、まな板の上の切られたトマト、置き忘れられたタバコ、その匂いを嗅ぐ智恵子、ガソリンスタンドでのたうつ水道のホース、居酒屋の鯛の目、ファミレスに置き忘れられた赤い風船……。各シーンで、登場人物たちの心情を示すかのように、さりげなく挿入された描写の数々も印象に残ります。智恵子の部屋のすぐ目が届くところに毅の写真集があるのだけはわざとらしくていただけませんが。

 残念なことは、せっかくオープン・エンディングにしておきながら(監督自身が書いたノベライズでもそうなっている)、♪うちへ帰ろう、などというBGMをエンディングに使うことで、全く台無しじゃないかと思ってしまいました。

 伊武雅刀の憔悴の仕方、新井浩文の心やさしさと許し、木村祐一の執拗さ等、他のキャストもなかなかよかったですね(田口トモロヲだけはミス・キャストだったような気がしますが)。

 西川監督にとって、『ゆれる』は第二長編であり、まだその才能は未知であるとも考えられますが、本作を観る限りでは、ミステリ・タッチの作品でも才能を発揮するように感じられました。次回作が期待される監督の1人になりましたね。

 *応援、よろしくお願いします。
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コメント(16件)

内 容 ニックネーム/日時
おー、umikarahajimaruさんは、智恵子にスポットを浴びせて観られましたか。
男兄弟で、一人の女性が介入してくる、って、なんだか一番嫌なパターンだなぁと思いましたよ・・・。
一人の人間として甲乙つけられて見られがちな兄弟間なのに、さらに一人の女性の取り合いということになっては・・・嫌ですねぇ。
友達同士でも嫌です。女同士では地獄を見ますよ、兄弟なんて、いやはや、いやはや・・・。

あのホースや、風船の意味、居酒屋の鯛の目・・・なるほど、と思って読ませていただきました。
あのエンディングですが、そうですね、おっしゃる通りです。
ですが、自分としては、希望を持たせる気持ちで、ホッとしたのも事実でしたよ。あれが無かったら、どう捉えていたか、ちょっと違ったと思います。
とらねこ
URL
2006/09/02 18:59
とらねこさま
コメント&TBありがとうございます。
「姉妹の法則」ってあるんですよ。姉妹が主人公の映画では、姉妹は必ず同じ男性を好きになるっていう。例外もありますけど、姉妹を主人公とする映画ではかなりの確率で、そういうことが物語の大きなモチーフとなるんです。女性を主人公とした場合、テーマが「愛」となることが多いので、必然的に姉妹の物語はそういう方向に進んでしまうんですね。
姉妹を主人公とする映画について、このブログのどこかに書いた気もしますが……。
umikarahajimaru
2006/09/02 19:21
TBどうもでした〜♪
実生活で弟がいるんですけど、映画観終わってから彼が僕のことどう思ってるのかとっても心配になりました・・・
はっち
URL
2006/09/02 22:01
はっちさま
コメント&TBありがとうございました。
女にもてる弟と女に縁の薄い兄、自由業の弟と実家を継いだ兄、東京で自由に暮らしている弟と山梨で慎ましく暮らしている兄……。
実はけっこうステレオタイプなんですよね、この映画。実際の田舎はもっとふてぶてしくたくましいですよ。
まあ、それはそれとして、前作も併せて考えると、監督は「兄」に対して特殊な感情を持っているみたいですね〜。
umikarahajimaru
2006/09/03 01:40
TB有難うございました。
観ているこちらも「ああでもないし、こうでもない」と結構揺れ動く作品でしたね。
「私が捨てた男」的見方も面白いですね、確かに彼女の欲望が招いた事件ともいえるし。
あのスタンドは結局 新井浩文家族が継ぐことになるんでしょうかね(笑)
マダムS
URL
2006/09/03 09:52
マダムSさま
あ〜、そうですよね。
新井浩文さんは、最初、「あれっ、こんな小さな役で出てるの?」と思ったら、後半でふくらみましたもんね。しかも、猛のことを恨むでもない。
心やさしいので、「稔さんが帰ってくるまでは自分がやらせてもらいます」なんて断った上で、実質的に彼が店を切り盛りすることになるんではないでしょうか。
umikarahajimaru
2006/09/03 13:19
>実はけっこうステレオタイプなんですよね、この映画。実際の田舎はもっとふてぶてしくたくましいですよ。
この考えもステレオタイプのような
自分の出身地は過疎化が進んでて
とても、ふてぶてしくたくましくもありません
てんてん
2006/09/04 19:41
てんてんさま
そういうことでもないですけどね。
別の例を引けば、例えば、「少年ジャンプ」の物語の典型は「努力・友情・勝利」と言われてますが、努力-怠慢、友情-確執、勝利-敗北という二項対立で見てみれば、その組み合わせにより、物語のバリエーションは限りなく考えられるということですよ。
映画『ゆれる』はそういう意味で、ステレオタイプの度合いが強く、小さな視野、小さな世界観で物語が紡がれているということです。まあ、必ずしもそれが悪いというわけではありませんが。図式的でありながら、それを超えようとしている部分がこの映画の魅力なのではないでしょうか。
私自身は、都会の人が、現実を知らずに言うような「田舎暮らしに対する幻想」は、肯定的なものであれ、否定的なものであれ、持っていないつもりですけどね。
umikarahajimaru
2006/09/04 20:32
>各シーンで、登場人物たちの心情を示すかのように、さりげなく挿入された描写の数々

とても効果的でしたね。
しかし、セックスシーンにガスのポンプが重なるのは、写真集とともに饒舌だと思いました。
マダム・クニコ
URL
2006/09/05 11:16
マダム・クニコさま
コメントありがとうございました。
そうなんですよね〜。
でも、今、絶賛の嵐の中でこの映画にケチをつけることはタブーのようになってますよね。ちょっとこわい。
マダム・クニコさんの記事も何だか凄いことになっていて(いくつか断定表現があるでしょう?そこまで言っちゃいますか?と私は思うんですが。例えば冒頭部分とか)ちょっとこわかったですね〜(笑)。
umikarahajimaru
2006/09/05 11:47
あやままさんのところからきました。
この映画を見たとき、何がなんだかわからないというのが正直な感想だったのですが、でも何かしら心には残ってて、それを上手く言葉で説明できないというもどかしい感が残ってました。

智恵子の方から観るとこうなるんだと興味深く読ませていただきました。
haiji
2006/09/09 20:31
haijiさま
わあ、凄いですねえ、あやままさんのネットワークは。
まあ、一般的には猛の方から、彼の心の動きを好意的に読み取ろうとする映画評が多いみたいですね。
コメントありがとうございました。これを機会にこれからもどうぞよろしくお願いします。
umikarahajimaru
2006/09/10 15:51
TBのお返しありがとうございました。
TBさせていただいたときに、うまく送れなかったと勘違いしてしまい、コメントを残さず申し訳ありませんでした。
智恵子の目線から書かれた文章、興味深く読ませていただきました。
hyoutan2005
URL
2007/03/03 13:46
hyoutan2005さま
コメント&TBありがとうございました。
TBは、ブログによっては相性が悪くて反映されないこともあります。その場合はコメント欄にURLを残していただければこちらからも記事を辿ることができます。
映画『ゆれる』は絶賛の嵐のわりには、智恵子=真木よう子という切り口で書かれたレビューはほとんどなかったような気がしますね。
といいながらも、真木よう子さんはこの映画で山路ふみ子賞新人賞を受賞したわけですから、評価する人はしてるという感じでしょうか。
当ブログで書いた彼女に関する記事もすごくアクセス数が多いですね。
umikarahajimaru
2007/03/03 16:21
こんにちは。この映画はほめてある批評がほとんどなので、弱点もきっちり指摘してある貴記事、興味深く読みました。たしかに、監督の「青さ」もあちこちに見え隠れする映画でしたね。でも、心理描写はやっぱりすごかったなあと思います。TBさせていただきました♪
ぴむ
URL
2007/08/03 21:46
ぴむさま
おひさしぶりです。
この作品は、かなり作りの粗い作品なんですが、世評はかなり高いですね。高すぎるくらい。
でも、真木よう子の再発見も含めて、いろいろ見どころはあったので、まあ、これはこれでよかったというところでしょうか。

ちなみに、この作品にからめて書いた真木よう子さんに関する記事は、現在当ブログのナンバーワン・アクセス記事になっています!
ほかにもいろいろ記事がある中で、なぜこの記事が!という気もしますが……。
umikarahajimaru
2007/08/03 23:10

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