全く期待していないで、しかもなぜか勝手にイギリス映画だと思い込んでいた『灯台守の恋』。事前にあまり情報を仕入れないことも多いので、たまにこんなこともあるんですが、さすがに本編でタイトルが出た時点で気づきました。サンドリーヌ・ボネールが出ているフランス映画だったんですね。そういえば、フランス版『マディソン郡の橋』だと何かでちらっと読んだような記憶もありました。『マディソン郡の橋』は、原作も映画もどちらもピンと来なかった私ですが、『灯台守の恋』はとてもよかった。物語の展開は読めてしまっていましたが、映画の楽しみは、それだけじゃありませんから。監督は、同じくサンドリーヌ・ボネールで『マドモワゼル』を撮っているフィリップ・リオレ。今年はもう大体観るべき映画は観たような気がしてたんですが、これも今年の収穫の1本になりました。【物語】現在は自分の家族を持ってパリで暮らしている娘カミーユが、故郷であるブルターニュ地方のウエッサン島に帰ってくるところから物語は始まります。両親が他界した後、もう誰も住んでいないその実家に売却の話が出ているというので、買いたいという相手と契約書を取り交わすために、帰郷したわけです。 懐かしい我が家で最後の夜を過ごそうとしたカミーユは、1冊の書籍が小包で届いているのを見つけます。どうやらそれはこの家と因縁浅からぬ物語であるらしいと知って、カミーユはこの本を読み始めます。 時は1963年。つまりアルジェリア戦争(アルジェリアがフランスから独立)の翌年の話で、灯台組合から派遣されて、灯台守助手としてアントワーヌがこの島にやってきます。この島の青年をその仕事に就かせたいと思っていた島の者たちは、アントワーヌのことを快く思いません。しかも左手を負傷しているし、灯台守の経験があるわけでもない。 彼の世話をすることになったイヴォンも最初はアントワーヌのような青年が派遣されてきたことに怒って組合に文句を言いますが、彼と組んで仕事をするうち、彼に親しみを憶えていきます。灯台は海の中にポツンと建てられているので、そこへは船でしか行けず、一度そこに行くと2人きりになり、どうしても協力しあわなければならないわけです。 灯台での仕事は2週間交代なので、灯台勤務でない時は陸地(島)に戻ることになるのですが、アントワーヌはここでイヴォンの妻であるマベ(サンドリーヌ・ボネール)とも親しくなります。 物語はここまでで、起承転結の「承」くらいですが、まだ観ていない方のためにこれ以降は伏せておきます。フランス版『マディソン郡の橋』と言えば、大体想像はつくと思いますが。 【舞台】この映画のいいところは、まず舞台となったウエッサン島という土地柄と風景。これがとても美しい。ゴツゴツした岩と荒れた草っ原しかないような、いかにも“世界の果て”を思わせる土地で、そこに人々が寄り添い、ケルト文化を継承している。これまでもブルターニュ地方が舞台になった映画がないはずはなかったはずですが、ケルト文化っているのは、イギリス映画(とアイルランド映画)でしか観たことがなかったので、まずこれがとても新鮮でした。そうした自分たちの文化を頑なに守っているような人々だから、よそ者は受け入れがたく、アントワーヌを排除しようとすることにもなるのですが。 【キャスト】やさしいまなざしを持ち、上品で美しいサンドリーヌ・ボネールはもちろん素晴らしい(特にアントワーヌへの好意を募らせつつ、一度それに反発するように感情を破裂させてしまうところもよい)。心根はやさしいのに、不器用でうまくそれを表すことができないイヴォン役のフィリップ・トレトン(『今日から始まる』)や、監督が「カリスマ的な無頓着さを伴なう強さがある」と指摘するアントワーヌ役のグレゴリ・デランジェール(『ボン・ヴォヤージュ』)もいいですね。 でも特にいいと思ったのは、アントワーヌへの好意と好奇心を隠そうとしない若い娘ブリジットを演じたエミリー・デュケンヌ。『ロゼッタ』で主演した彼女がすっかり大人の女性に成長しているのに驚いたし、キャラクターとしても『ロゼッタ』とは全く異なっていて、華があるというか、(快活な娘の役ということもあるんですが)彼女がそこにいるだけでその場がパッと明るくなる、そんな役柄を好演しています。『ロゼッタ』が99年、『ジェヴォーダンの獣』が01年、そして本作が04年で、その間に結婚して一児の母になったらしいのですが、確かに女性としての美しさが増しました。 【隠し味】これは前作『マドモワゼル』を観た人にしかわからないことなんですが、前作でも重要なモチーフとして使われていた「灯台」が、実は本作への伏線になっていたこと。 企画とサンドリーヌ・ボネールへの出演依頼は本作の方が『マドモアゼル』より先にあったので、それでそうした仕掛けが施されたようです。詳しくは本作のプログラム(劇場パンフ)をご覧ください。さすがにちょっとそこまで前作のことを覚えている人はいないと思いますが、できれば『マドモアゼル』を観た(観直した)後で本作を観るとよいかもしれません。 【いくつかの仕掛け】(この項ネタバレあり。ご注意ください)観客をアントワーヌに感情移入させる(イヴォンやマベがアントワーヌへ好意に持つ)ことになる仕掛けが巧みであること。例えば、アントワーヌを左手が使えない負傷兵という設定にしたこと、灯台の護り神のような猫がアントワーヌにだけはすぐに懐いたこと、などなど。 アントワーヌとイヴォンが心を通わせていく過程というのが、実は、男女であれば、恋に落ちる過程そのものなんですね。 ところで、本作で、非難される部分として、感情を高ぶらせたアントワーヌとマベが体を重ねてしまうシーンがあると思います。なぜあの時、あの場所でなければならなかったのか? マベはなぜあそこで夫を裏切るような行為をしてしまったのか? マベがアントワーヌに好意を持っていったとしても、あの時点でそうなるのは早かったのではないか? 重要なシーンでありながら、ここだけはちょっとねえと思う人も多いと思います。 実は私もそこだけが残念だと思ったのですが、物語を反芻するうちに気づいたことがありました。それは、イヴォン=マベ同一人格説です。 イヴォンがアントワーヌと心を通わせていく過程は、観客がアントワーヌに感情移入していく過程でもあるんですが、イヴォンが持っているアントワーヌへの好意を、監督はそのままマベからアントワーヌへの好意にスライドさせているのではないか。なんだかおかしなレトリックですが、最初、観客がアントワーヌに抱いた好意的な感情はイヴォンがアントワーヌに抱いた感情にほぼ等しいものだったはずですが、監督は、観客が持ったその感情を利用して、マベとアントワーヌの関係を築いている、そんな気がするんですね。アントワーヌに対する好意を通じて、イヴォンとマベは一体化している。実際は、その好意は観客自身もののなんですが……。ちょっと面白い見方だと思うんですが、いかがでしょうか? 【象徴】荒波にもまれながら、海の中に力強く屹立する灯台、に性的なものを重ねることもできるかもしれません。でも、まあ……。 【陸の孤島】ブルターニュ地方自体がフランスの中で、陸の孤島のような存在で、ウエッサン島は、その中でも文字通り孤島。さらにそこからも離れた灯台は、より「孤島感」が強くなります。この映画のオープニングは、ここまでやってくるカミーユを通して、ここがそんな場所であることを見せています。 灯台の中は、まさに人里離れた孤独な閉じた空間なのですが、実は私個人が山小屋で働いていたことがあるので、必要な物以外ない、装飾性を排除した、男っぽいこうした空間に親しみを感じる、ということがあるのかもしれません。 イギリスの作家H.E.ベイツに「灯台」という短編があるのですが、それも大好きな作品です。 【思い入れ】 前作『マドモアゼル』は配給がシネマパリジャンでした。良質なフランス映画を日本で公開するのがシネマパリジャンのモットーだったわけですが、フランスで大ヒットした『マドモワゼル』も日本では期待したほどの動員は得られなかったようで、シネマパリジャン代表取締役の沖田さんは、「フランス映画らしいフランス映画をヒットさせるのは難しくなっている」と語っていました。シネマパリジャンは、その後、路線変更を余儀なくされ、ワイズポリシーとなるわけですが、本作は、キャストから言っても内容から言っても、まさにシネマパリジャンが配給するような作品でした(エレファント・ピクチャーが日本公開してくれたのでそれはそれでよかったのですが)。 それに今回もまたあまりお客さんの入りがよくないんですね。素晴らしい作品なのに。そういう意味でもこの作品に寄せる思い入れは強くなります。 【ちょっとした疑問】イヴォンが妻の不倫を村民に仄めかされる台詞として、『灯台もと暗しだな』というのがあります。この言い回しはいわゆる「灯台」ができる前からあったもので、実は「灯台」とは「灯明台」のことで、本当はここで使うのは間違っているのですが、フランス語にもこれに類した言い回しがあるのでしょうか?実際の台詞ではそこは何と言っているのでしょうか?ちょっと気になります。 ちなみに、この映画の原題は‘L’EQUIPIER’というのですが、「灯台守」という意味かと思ったら、単に「スタッフ」という意味でした。 【参考データ】この映画のプログラム(劇場パンフレット)には、永瀧達治さんによるサンドリーヌ・ボネールへのインタビューがあったり、ケルト文化が息づくブルターニュ地方についてのコラムがあったり、シナリオ採録があったりして、絶対“買い”なのですが、もっとほかにも知りたい情報があったので、ちょっと調べてみました。 @カミーユ役を演じるアン・コンサイニー(コンサイニュイ)の主なプロフィール ・Yume、yume no ato(1981) ファッション・デザイナー田中賢三の監督作。これが彼女のデビュー作らしい。 ・Le Soulier de satin 繻子の靴(1985) マノエル・デ・オリヴェイラの415分の大作。本国ポルトガルでも商業公開はされていない。 ・En jouant 'Dans la compagnie des hommes'(2003) アルノー・デプレシャン監督作品。 ・『灯台守の恋』(2004) ・36 Quai des Orfèvres(2004) 監督=Olivier Marchal ダニエル・オートゥイユやジェラール・ドパルデュー、アンドレ・デュソリエらとの共演作。 子役として活躍していた時期があるのか、1986年から2003年までの間に女優としての活動に空白期間があります。 Aエミリー・デュケンヌのプロフィール ・『ロゼッタ』(1999) ・『ジェヴォーダンの獣』(2001) ・Oui, mais...(2001) 監督=Yves Lavandier 共演=ジェラール・ジュニョー。 ・Une femme de ménage(2002) 監督=クロード・ベリ 共演=ジャン・ピエール・バクリ ・Mariées mais pas trop(2003) 監督=カトリーヌ・コルシニ(『彼女たちの時間』) 共演=ジェーン・バーキン ・Américain, L'(2004) 監督=パトリック・ティムシット他 共演=ティエリー・レルミット ・The Bridge of San Luis Rey(2004) 監督=Mary McGuckian 共演=F・マーリー・エイブラハム、キャシー・ベイツ、ガブリエル・バーン、ジェラルディン・チャプリン、ロバート・デニーロ等。日本公開はある、かな? ・『灯台守の恋』(2004) などなど。 【関連グッズ】 封切館であるシャンテ シネでは、灯台のレプリカ、オリジナル・カレンダー、輸入版ポスターなどが販売されていました。みんな結構いい値段でした! *この記事が面白かったら、人気ブログランキングにクリックをお願いします。 マドモワゼル 24時間の恋人
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| タイトル (本文) | ブログ名/日時 |
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『灯台守の恋』
2004年フランス 監督:フィリップ・リオレ 「マドモアゼル」 出演:サンドリーヌ・ボネール/フィリップ・トレトン/グレゴリ・デランジェール/エミリー・デュケンヌ 公式サイト 良かったですこれ本当に・・ 観終わってまたもう一度観たくなりました。 上のスチール写真.. ...続きを見る |
Brilliant Days 2005/11/20 11:31 |
「灯台守の恋」
「L'?quipier」...「aka The Light」2004/フランス ヒロインは「仕立て屋の恋/1989」「イースト/ウエスト 遥かなる祖国/1998」「マドモアゼル/2001」のサンドリーヌ・ボネール。ヒロインを愛する男たちにフィリップ・トレトンとグレゴリ・デランジェール(ヴォン・ヴォヤージュ/2003)。監督は「マドモアゼル」のフィリップ・リオレ。彼は「マドモアゼル」の前にこれの企画していたという。リオレよりこの作品のオファーがあった際、即座にOKしたというボネール。彼女はお気に... ...続きを見る |
ヨーロッパ映画を観よう! 2005/11/20 18:01 |
L'equipier(灯台守の恋) その6(ネタばれあります)
2回目は多分それほど泣かないのではないか、という予想を裏切って、またかなり泣いてしまったjesterです。 ミリオンダラー・ベイビーですら2回目は泣かなかったのになあ・・・・ (もう公開から大分経っているのと、もともと『ネタばれ』を警戒するような内容の映画ではな.. ...続きを見る |
JUNeK-CINEMA in th... 2005/12/19 21:47 |
灯台守の恋
映画『灯台守の恋』を観た。実在する、ブルターニュ海岸の突端の小さな島ウエッサンが舞台の大人の恋を描いたフランス映画。 ラ・ジュマンの灯台守になるためやって来たアントワーヌと、灯台守イヴォンの妻であるマベが次第に惹かれあっていくが、お互いに許されないことと知っているため「愛している」などとは決して口に出すことはしない。 静かで余計なことを一切語らない、とても切ない恋、でも心に残る一編だった。アントワーヌとマベ、そしてイヴォンの心の強さが羨ましく思う。 公式サイト ...続きを見る |
あ〜るの日記@ココログ 2005/12/25 13:50 |
「灯台守の恋」■西部劇の復活
アメリカ映画でも、イタリア映画でも消滅したジャンルの西部劇が、このような形で復活していることに注目したい。「灯台守の恋」は、西部劇である。もっと説明すると西部劇のパターンを踏襲した物語である。映画「灯台守の恋」の物語は次のように展開する。辺鄙な町へ1人... ...続きを見る |
映画と出会う・世界が変わる 2006/01/08 00:08 |
「灯台守の恋」■もうひとつの見方
映画は、そのパッケージによって観客を惑わす。「灯台守の恋」も、その日本題名と「フランス版・マディソン郡の橋」という説明文で、これは「恋愛映画」と考えて見てしまうことになる。もちろん、それはそれでいいのであるが、この映画の原題「L’EQUIPIER’」とは「スタ... ...続きを見る |
映画と出会う・世界が変わる 2006/01/10 16:28 |
FUN … 『灯台〜』&『プライマー』
『FUN the Sunnyday』 「さにぃさいど しねまぁ(?)」 ...続きを見る |
FUN×5 〜五つの楽(fun)を探して... 2006/01/29 09:45 |
灯台守の恋(03・仏)
平日にしてはいつもより映画館が混んでるなあと思ったら、今日は1日だった(誰でも1000円になる)のね。でもって、この映画を選んだ客層見るとバラバラ。老若男女様々、面白い。この日に、これを見たいと思った人。他にもいろいろやってるのに、「県庁の星」とか「美しき野獣」と ...続きを見る |
no movie no life 2006/03/01 22:01 |
世界の果ての恋 『灯台守の恋』より
世界の果ての恋 『灯台守の恋』より 左の写真の奥に写っているのが、フランスで「世界の果て」とよばれるブルターニュ地方ウェッサン島のジュマン灯台です。この灯台をめぐって灯台守の家族の40年に渡る物語が展開します。 この灯台と共に生きて来た人たちの人生には、... ...続きを見る |
またたびCINEMA 2006/03/16 02:35 |
我が世界の果て〜『灯台守の恋』
L' EQUIPIER ...続きを見る |
真紅のthinkingdays 2007/11/14 09:31 |
映画『灯台守の恋』
原題:L'Equipier これも大人の恋特集、フランスで世界の果てと呼ばれるブルターニュ地方の小さな島ウェッサン島・・田舎ゆえの仲間意識と差別に晒されながらも貫いた恋・・ ...続きを見る |
茸茶の想い ∞ 〜祇園精舎の鐘の声 諸行... 2008/03/19 01:33 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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初めまして♪ TB有難う御座いました。 |
マダムS 2005/11/20 11:50 |
trackbackありがとございました!初めましてでございます。 |
margot2005 2005/11/20 18:15 |
やっぱりフランス映画はいいなぁと感じることのできるステキな作品でした。 |
かえる URL 2005/12/01 16:33 |
はじめまして。jesterと申します。私もこの映画とっても気に入って、昨日2回目を見てきました。 |
jester URL 2005/12/19 21:40 |
TBありがとうございました。 |
purple in sato URL 2006/01/29 23:00 |
TBありがとうございました。学生時代フランス語を習っておきながら、原題は「灯台守」に違いない・・・と勝手に思い込んでいました。違うんですね〜。 |
カオリ URL 2006/03/02 23:55 |
こんにちは。いつも読ませていただいておりますがコメントはお久しぶりです。 |
真紅 URL 2007/11/14 09:35 |
真紅さま |
umikarahajimaru 2007/11/14 19:21 |
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