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zoom RSS この映画がヒットしている理由 『そして、ひと粒のひかり』

<<   作成日時 : 2005/11/14 06:00   >>

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 見落としていたロードショー作品を何本か観に行ってきました。封切りからあまり日にちが経っていないのに、悲しいくらいお客さんの入りの悪い作品があったりして……。まあ、よくあることとはいえ、大丈夫なのかなあ、××××・×××(配給会社の名前は伏せておきます)。

 そんな中で、『そして、ひと粒のひかり』は、次週から1日2回のみの上映に切り替わるということもあってか、定員入替制の劇場が満席でした。

 よく知られているようにこの作品は、蚕の繭のような大きさの、ヘロインの入ったゴム玉を自分の胃の中に入れて、コロンビアからニューヨークまで運ぶ娘の物語です。
 花農園で、バラの花束を作るのが仕事の、17歳のマリアは、母と、男に逃げられた姉とその赤ん坊を、その収入で養わなければなりません。しかし、マリア自身も望まぬ妊娠をし、時を同じくして、職場でもめて仕事を辞めることになってしまう。お腹の子の父親であるボーイ・フレンドも全く頼りにならない。そうした時に、運び人の仕事を知り、思い切ってやってみる覚悟をするわけです。

 一般的に告知されているこの作品の情報というのは、このくらいだと思うのですが、これだけで劇場が満席になるの?と思って調べると、本年度アカデミー賞主演女優賞ノミネート、ベルリン国際映画祭新人監督賞&主演女優賞受賞等、数々の映画賞を受賞(もしくはノミネート)してるんですね。私自身は、以前このブログでもご紹介した『アカデミー賞を買った男』でも取り上げられていたのと、町山智浩さんのサイトでいち早く紹介されていたので、気になっていた作品だったから観に行ったんですが。

 取り上げている題材の興味深さっていうのもあるんですが、この新人監督の、観客の心理を理解した上での見せ方がうまいんですね。
 ヘロインの入ったゴム玉は1つ飲み込むだけでいいのではなくて、体格によって60個から100個も飲まなければならない。それをマリアは、大きなブドウの実を使って練習してみるわけです。初めは飲み込めず、オエッとなるのを我慢して何度もやってみる。
 本番で飲み込んだあとは、税関はもちろん他人に悟られてはいけないし、もしお腹の中でゴム玉が破裂したら死んでしまうという心配もある。それに排泄して外に出してしまうことも許されない。
 飛行機に乗ったこともなく、国外に出たこともないもないマリアは、飛行機という初めての、そして閉ざされた空間の中で、どんどん緊張感を高めていきます。
 観ているこっちの胃がキューッと痛くなる。飲み物のみ持ち込み可の劇場でしたが、とてもじゃないけど、飲み物なんか口にできる心理状況ではありません。
 『そして、ひと粒のひかり』が、(他の作品では体験できないような)極度の緊張感を持つ作品であること、そしてそれがレビューや口コミで伝わって、ヒットにつながっている。そう納得できたのは、映画を観終わって、劇場を出て、しばらく経ってからでした。

 ところで、ヘロインの運び人となる女性は4人いて、同時に同じ飛行機に乗り込みます。誰かがつかまれば、他の者はスルーしやすくなるという現実的な理由でそういう設定になっているのですが、物語を展開させる作り手の立場から考えると、たぶん理由はそれだけじゃないですね。
 4人の女性は、4つの異なる運命をたどることになりますが、マリアが他の3つのどれかの運命を選び取る可能性もあったわけです。と言うか、むしろ、この4人の女性の運命は、マリアがたどり得た4つの可能性を示しているとも考えられます。
 4人の中には、マリアの親友で、臆病だとばかり思っていたブランカも加わりますが、故郷にいた時と違って、ブランカはマリアに反発ばかりします。このブランカは、実はマリアの分身であり、マリアとブランカの衝突はマリアの内面で起こっている葛藤を具体的に形にしたものだと考えるとわかりやすいですね。
 主人公の内面で起こりうる葛藤を形にするために、もしくは、主人公がなったかもしれない他の可能性を示すために、物語に複数の登場人物を登場させる、というのは、物語&人物構成法上、よくある手口でもあります。

 一見、社会派的なテーマを持った『そして、ひと粒のひかり』は、終わってみれば、1人の少女の成長物語になっていました。麻薬や移民が取り持つ合衆国とコロンビアの関係を垣間見せて、現実社会の一面を切り取りつつ、しかし、麻薬産業や運び人たちに対して(物語上でも)正義の制裁を加えたり、解決策を探ったりもしていません(もちろん、必要悪であると嘘ぶくことも)。たぶん「現実を肯定しているんじゃないか」という非難もあったと思うんですが、1本の映画で社会が変えられるとは、監督も思っていなくて、偉そうなことは言えないし、言いたくなかったんだろうと推察されます。
 あえてこの映画にケチをつけるなら、主人公が美人過ぎることでしょうか。もっと素朴な風貌の土着的な女の子でもよかったかもしれません。この作品以後、主演した彼女(カタリーナ・サンディノ・モレノ)はニューヨークに転居し、女優としてのレッスンを積んでいるということで、次回作はリチャード・リンクレーターの新作になるんだそうです。マリアは運び人という体験を通して人生を変え、カタリーナはこの映画への出演を通して、人生を変えるチャンスをつかんだということになりますね。

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そして、ひと粒のひかり
そして、ひと粒のひかり (英知文庫)

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アロハ坊主の日がな一日
2005/11/14 20:22
『そして、ひと粒のひかり』
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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
TBありがとうございました。
この映画、良かったですよね。関西ではまだ上映されてないので、用事で関東に行った時に観たのですが、わざわざ観た価値は十分にありました。ラストの主人公の笑みはとても清々しくてよかったです。
ぴーち
2005/11/14 20:19
TBさせて頂きました。あまりにもリアルな映像、セリフ、描写に、何度も本気で驚いてしまいました。
現実はもっと酷いのかもしれないと思うと更に恐ろしくなります。
ドキュメンタリーや娯楽・商業映画の枠を越える素晴らしい作品だと思います。
bakabros
2005/11/24 04:22
はじめまして。
私も観ました「そして、ひと粒のひかり」。
確かにブランカとの決別やルーシーの死など、
マリアの運命と紙一重の登場人物がいることで、
17才の危うさがより浮彫りになったのだと思います。
ラストのマリアの表情、泣けました。。。
Ako
2005/11/25 14:16

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